2013年07月17日
石井徹也の落語きいたまま2013年6月号
続けての更新です!
おなじみ石井徹也さんによる私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の2013年6月号をお送りします。今回のレポートは落語芸術協会員でさまざまなレパートリーを披露している柳家 蝠丸さんに注目。「人形町らくだ亭」「浜松町かもめ亭」のレポートもあります。どうぞお楽しみください。
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◆6月1日 池袋演芸場昼席
おさむ(代演)/鉄平『権助魚』/正朝『家見舞』/小菊/志ん橋(志ん輔代演)『熊の皮』//~仲入り~//文左衛門『夏泥』/小さん『親子酒』/笑組「走れメロス」/一朝『三方一両損』
★志ん橋師匠『熊の皮』
声は本調子ではないけれど、噺は絶好調。甚兵衛さんの無邪気な会話に一点の曇りもない。オチの「女房が宜しく申しました」で物凄く人物の出る天真爛漫な良さは無類。
★一朝師匠『三方一両損』
十八番で「悪い訳がない」という高座。
※聞き出した鉄平師から一朝師まで終始、レベルの高い高座の連続だった。
◆春風亭昇太独演会『昇太ムードデラックス』(本多劇場)
昇太『御挨拶(マツダ・キャロルの話)』/遊雀『初天神・団子』/昇太『松山千春コ
ンサート~お菊の皿』/昇太『短命』//~仲入り~//昇太『明烏』
★昇太師匠『お菊の皿』
やたらとお菊の怪談の説明に入り込んでくる隠居が面白い。お菊は色気や凄みが足りないけれど、若い連中のワイワイガヤガヤは愉しい。
★昇太師匠『短命』
八五郎が「半纏忘れた」と家に戻るなど、池袋演芸場で聞いた時より、細部に関して明らかに整理され、進化している。
★昇太師匠『明烏』
「二宮金次郎もあの薪を売って吉原に来てたんですよ」は誰が最初なんだろう?時次郎が無闇矢鱈と可愛く、困って駄々をこねる辺りの可笑しさは昇太師ならではのマンガ。花魁に「二宮金次郎先生を勉強してくる」と言われたり、「蒲団の中に薪が積んであったり」して、源兵衛・太助が振られる所へ繋げたのは名案。敵娼(浦里とは謂わなかった)が矢鱈と可愛くて色気があるのも昇太師らしい。
◆6月2日 第六回小満ん在庫棚卸し(荒木町・橘家)
小満ん『乳房榎~おきせの口説き(上)』//~仲入り~//小満ん『乳房榎・おきせの口説き(下)~重信殺し』/小満ん『金魚の芸者』
★小満ん師匠『乳房榎』
小満ん師では初聞きの演目。前半を「おきせの口説き」の途中で切ったのは切れ場として巧い。(上~おきせの口説き途中まで)(中~おきせの口説き~正介加担)(下~重信殺し)で演れば、十分に寄席のトリネタになるサイズ。全体に、引き締めない柳派人情噺の語り口である。浪江は怖くないのが特色。若さに任せて恋に乱れる男で悪人の雰囲気は殆どない。三三師みたいに目が怖くないのが或る意味でリアル。重信は地で語った「真面目で面白味のない人」にしては蛍見物など洒脱な感じを受ける。これは小満ん師のニンか。おきせは武家の奥方にしては柔らかい感じ。「口説き」の場面に艶色は余り感じなかった。正介の卜訥さと野暮さ、特に卜訥過ぎて浪江につけ込まれる気の弱さが印象的。花家での浪江と正介の遣り取りは、『栗橋宿』の馬子とお峰の遣り取り風でもある(圓朝師のパターンなのかな)。「四条の橋」を重信が唄うがやはり噺から気分が離れる。サゲの歌い上げみたいになる件は苦手なのかな。
★小満ん師匠『金魚の芸者』
この噺をこんなに長く聞いたのは初めてではないか。特に夢の件はこんなに長かったっけな?。東家の主人に「名前は金魚にしよう」と言われた沙羅沙の丸っこのリアクション、「ドキッ!」の胸を押さえた仕科、表情、首の傾げ方の可愛さは『王子の狐』の困惑する狐に匹敵するくらい、実に洒脱で面白い。丸っこが「並木駒形」をかなり長く唄うのも初めて聞いたかも。
◆6月2日 新宿末廣亭昼席
雲助『堀の内』/勝丸/金馬『ちりとてちん』
★金馬師匠『ちりとてちん』
隠居が竹さんに寅さんを煽るように頼む演出は初めて聞いたものだと思う。寅さんが割と意地っ張りのキャラクターで「知らないんだ」と隠居に煽られて食ってかかるのだけれど、それがちっとも怖くなく、子供っぽいのは金馬師の童心の良さだなぁ。腐った豆腐を食べてからの尺が実に短く、クドさの全くないのもは本格。「分かりやすく、巧く」の典型。
◆6月2日 第6回東北福寄席チャリティ落語会「雲助・白酒親子会」(渋谷区総合文化センター大和田・伝承ホール)
扇『笊屋』/白酒『短命』/雲助『死神』//~仲入り~//雲助『よかちょろ』/白酒
『山崎屋』
★雲助師匠『死神』
死神はえらく芝居になってるんだね。
★雲助師匠『よかちょろ』
噺全体が重め。ここで山崎屋のおかみさんが出て来るのが、『山崎屋』とリレーにした場合、どうも違和感がある。
★白酒師匠『短命』
「悔み」の件カット。夫婦の馬鹿な遣り取りは面白くなってきた。
★白酒師匠『山崎屋』
リレーで前振りは全部雲助師匠がしてくれたから、本題のみで27分。頭に御礼を持って行く件は、この噺でそんなに必要なのかな?と感じた。親旦那のケチぶりを強調するってことなんだろうけれど。
※「チャリティ落語会」なのに、『短命』『死神』とは噺家さんらしい屈折・洒落
というべきか。
◆6月3日 第48回人形町らくだ亭(日本橋劇場)
緑太『道灌』/左龍『そば清』/雀々『夢八』//~仲間入り~//雲助『徳ちゃん』/一朝『宿屋の富』
★一朝師匠『宿屋の富』
志ん輔師譲りとの事。その分、矢来町型でも細部が違っている。総尺は寄席主任サイズだが、馬喰町のマクラが無いから本題は少し長めか。宿屋の旦那は入りから腰が低くて丁寧で、如何にも受け身の人物が出る。客のホラ話からリズミカルで愉しくて、一瀉千里の物凄く良い出来。なのに、客が富に当たったのを知って驚く場面、客席で携帯が鳴ったのは残念無念。とはいえ、それでリズムを崩すような一朝師ではないから、立て直して最後まで結構な出来だったのは嬉しい。宿の客に「嘘をついてる」という陰、卑しさが全くなく、「物のの弾みの出鱈目」って暢気な感じなのが如何にも落語。
★雲助師匠『徳ちゃん』
「モーターボートに勢いがついたみたい」など、聞き慣れないギャグが幾つもあり、また怪物的な花魁の可笑しさ、離れから落ちた太った客(圓十郎師が目に浮かんだ)など、今まで雲助師で聞いた『徳ちゃん』でも一番面白かった。
★雀々師匠『夢八』
ニンにある噺だけれど、13分程マクラを振っていて、本題に入ってから32分は
『夢八』としては長過ぎる。怖がりながら握り飯を頬張る件など爆笑だけれど、寄席知らずの独演会芸だなァ。首吊り死体の可笑しさは東西通じて蝠丸師に敵わず。
※東京で『夢八』を演る場合、八兵衛を与太郎に変えても良いのではあるまいか?と感じた。
★左龍師匠『そば清』
清兵衛さんのキャラクターは独特で面白いんだけれど、演出はさん喬師そのまんまだから、後半の独自性に些か乏しい。
◆6月4日 池袋演芸場昼席
正朝『そば清』/笑組「銀河鉄道の夜」/志ん輔『巌流島』//~仲入り~//一之輔『麻暖簾』/小はん(小さん代演)『親子酒』/小菊(とっちりとん)/一朝『黄金餅』
★一之輔師匠『麻のれん』
一之輔師の演目中、聞いていて一番落ち着く噺かもしれない。「按摩さんっての
も、ほら、客商売だから」という小里ん師の言葉に近い愛想が杢市にある。
★一朝師匠『黄金餅』
軽快軽快。「この噺に理屈は不要」という演じ方の典型。就中、焼き場で骨の中から見つけた金を拾い取る際に、金兵衛の見せる無邪気に嬉しそうな表情と動きの軽やかさが他の追随及ばざるところ。
◆第七回夢一夜(日本橋社会教育会館ホール)
吉好『平林』/一之輔『麻暖簾』/夢吉『身投げ屋』/~仲入り~//夢吉『てれすこ』/
一之輔『竈幽霊』
★一之輔師匠『麻暖簾』
池袋で浚ってたのね。
★一之輔師匠『竈幽霊』
元は正朝師かな?三木助型としては異様に短い24分と大分刈り込んだ。「金出してェ」と大声で叫んで銀ちゃんの前に現れる幽霊が面白い。ギャグよりも、他の演者で聞いた記憶のない、熊「なんで出てくんの?」幽霊「聞いてくれるんですか?」の遣り取りがスッと出来てるのが一番良かった。この展開だと銀ちゃんは要らないなァ。矢来町・目白型で良いよ。
★夢吉さん『身投げ屋』
サゲが違い「教わって演ってみたけど儲かるね、身投げ屋って」。つまり、同じ人に教わって始めた同士が出会ったという展開。小燕枝師、雲助師、正蔵師とは丸で違い、夢吉さんの過剰さが良い方に出て爆笑噺になった。
★夢吉さん『てれすこ』
感じとしては地噺だけれど、終盤、かみさんと赤ん坊が出てくると少しウェットになり過ぎまいか。「烏賊の干したのを鯣と呼ばせるな」は誰に向かって言っても良いセリフでは?夢吉さんは良い意味で物凄くエネルギッシュな噺家さんだけに、ウェットも過剰になるのは同じエネルギッシュタイプの歌之介師や文治師と似ているかも。
◆6月5日 池袋演芸場昼席
鉄平『代書屋』/正朝『蜘蛛駕籠(上)』/笑組「銀河鉄道の夜」/志ん輔『七段目』//~仲入り~//一之輔『短命』/小里ん(小さん代演)『夏泥』/小菊(「来るとそのまま」)/一朝『宿屋の富』
★一朝師匠『宿屋の富』
良い出来なんだけど、仲入りから入ってきたグダグダの酔っ払い二人組が最後列の補助椅子で高座に反応して変な声を出すわ、挙げ句に一人が嘔吐するわで、客席後ろは大迷惑。
※こういうケースは、女性従業員だけでは対処が出来ないなァ。
★小里ん師匠『夏泥』
客席で騒ぐ酔っ払いを煽らぬよう、小声で進める噺を選んで(酔っ払いが突っ込み難い噺でもある)、主任の邪魔にもならず、見事に客席にも受けて面白い。尺のあるヒザ前の典型。
★鉄平師匠『代書屋』
雲助師型だけれど、「阪東妻三郎」から後のフワフワした面白さは雲助師より上かもしんない。
◆6月5日 DOURAKUTEI道楽亭出張寄席「喜多八vs三三兄弟対決“冗談
言っちゃいけねェ!”」(なかのZERO小ホール)
わん丈『桃太郎』/三三『高砂や』/喜多八『寝床』/~仲入り~//喜多八『仏の遊び』/三三『締込み』
★喜多八師匠『寝床』
冒頭、旦那がすっかり浮かれてハイテンションなのに対して、繁蔵が暗いのは馬鹿に面白い。マクラから35分前後にまとまったコンパクトな中に旦那の喜怒哀楽、繁蔵の困惑(「お前は?」と訊かれた時の動転ぶりが凄く可笑しい)、店子の迷惑、頭のしどろもどろの挨拶と愉しさ一杯。「蔵の窓に旦那の顔が一杯に」も笑ったが、この流れだと蔵の件は稍蛇足に感じる。
★喜多八師匠『仏の遊び』(本田久作氏作)
生臭坊主が阿弥陀様と吉原に行くが、遊び慣れた阿弥陀様に背負い投げをくらう、という無茶苦茶な展開以上に、生臭坊主、阿弥陀の自棄っぱちみたいな自堕落さが見事に面白い。
★三三師匠『高砂や』
謡の音色が良くなった。反面、前半の大家と八五郎の遣り取りで八五郎がイマイチ、隠居に対する親近感を感じない。セリフの調子の選択が違うのでは?
★三三師匠『締込み』
物凄く変なキャラクターのかみさんと、職人気質丸出しで怒りまくる亭主の間だけに、「人として」と仲裁に入る泥棒の人の良さが際立つ、という人間関係の独自な面白さが出てきた。また、「はばかりさま」で妙に噺がウェットになる黒門町的泣かせのマイナスも減る。ま、あのかみさんと一緒なんだから亭主も変わってるんだろう。
◆6月6日 池袋演芸場昼席
扇好『欠伸指南』/のだゆき/錦平(鉄平代演)『壺算』/正朝『六尺棒』/笑組/志ん輔『風呂敷』//~仲入り~//一之輔『普段の袴』/小さん『親子酒』/ぺぺ桜井(小菊代演)/一朝『三枚起請』
★一朝師匠『三枚起請』
棟梁が小言を猪に言う感じから始まるのは割と珍しい。棟梁と清公、喜瀬川はかなりマジで、惚れた弱味と花魁の辛さと手管が入り交じって、一朝師の『三枚』では今までで一番シリアスドラマ風。
※連日、前半で正朝師匠の安定感と充実が際立つ。
◆6月6日 池袋演芸場夜席
わん丈『やかん』/志ん吉『熊の皮』/文左衛門『夏泥』/隆司/藤兵衛『渋酒』/小のぶ『寄合酒』/和楽社中/さん喬『そば清』//~仲入り~//菊志ん(代演)『芝居の喧嘩』
★さん喬師匠『そば清』
この演目では珍しく細部の演出がいつもと一寸違った。オチの前ふりの感覚も違った。
◆6月7日 池袋演芸場昼席
鉄平『寄合酒』/正朝『ぽんこん』/笑組「走れメロス」/志ん輔『紙入れ』//~仲入
り~//一之輔『加賀の千代』/小さん『のめる』/小菊(「一本刀土俵入り」)/一朝
『天災』
★一朝師匠『天災』
『天災』をこんなに愉しい噺にした一朝師の功績は長く称えられてしかるべきだろう。絶妙!
◆6月7日 池袋演芸場夜席
わん丈『転失気』/志ん吉『元犬』/文左衛門『道灌』/隆司/藤兵衛『茗荷宿』/小のぶ『長短』/和楽社中/さん喬『禁酒番屋』//~仲入り~//菊太楼『肥瓶』/小満ん『あちたりこちたり』/のいるこいる/菊之丞『付き馬』
★藤兵衛師匠『茗荷宿』
過去に先代馬生師匠、扇橋師匠、小満ん師匠と伺っているが、寄席の高座で聞いたのは多分初めての演目。「宿屋の夫婦も飛脚に出した茗荷尽くしの食事を食べてしまい、夫婦してポーッとして一時的健忘症状態」という風に工夫してあり、分かりやすくしながらも、淡々と馬鹿馬鹿しいという、愉しい噺になっている。
★さん喬師匠『禁酒番屋』
池袋の仲入りで、この演目をさん喬師から聞くとは思わなかった。独特の真面目な調子で入ったが、悪受けするお客がいるとみるや、クスグリを抜いて、侍の酔い方の変化で聞かせたのは流石。
★菊之丞師匠『付き馬』
菊之丞師の長短両面である「緩急抑揚の余り無い、太い声の早口」で、矢来町系の噺を力演されると重く感じて、力演の分かりやすさが先立ち、聞き草臥れがする。少し演出を変えていたが、もう少し刈り込めないかな。客が雷門で口にする「暇潰し」の洒落っ気をもう少し強めたらどうだろう。
※併し、この夜席は不思議な顔付けだなあ。序盤は全体にローテンション。さん喬師から小満ん師への流れと、ヒザからトリがまた変わる。急上昇、急降下の連続みたいな番組で気持ちが落ち着き難い。
◆6月9日 池袋演芸場昼席
勢朝(正朝代演)『財前五郎』/笑組「杜子春」/志ん橋(志ん輔代演)『看板のピン』//~仲入り~//一之輔『蛇含草』/小さん『のめる』/小菊(「夕立」)/一朝『抜け雀』
★一朝師匠『抜け雀』
人物をわざとらしく克明に描かない一朝師のセンスだと、全ての人物が好人物で噺全体がホコホコするのは凄いなァ。
★一之輔師匠『蛇含草』
曲食いだけが悪目立ちせず、意地の張り合いもくどくなく、オチの仕科の気取り方もそれはそれで、かなり面白かった。
◆6月9日 新宿末廣亭夜席
菊春(菊輔代演)『お花半七』しん平『夏泥』/歌之介『勘定板』//~仲入り~//喬之進(交代出演)『幇間腹』/ロケット団/はん治『子だけ褒め』/清麿『東急の日』(正式題名不詳)/和楽社中/さん喬『棒鱈』
★さん喬師匠『棒鱈』
極く普通の寄席で、久し振りにトリで伺う安定感抜群の十八番『棒鱈』。何かホッとする愉しい高座。
★しん平師匠『夏泥』
ほぼオリジナルの演出ではあるまいか。飯代から質草の受け出し料まで、次第にせびる金額が高上がりになる。最後は煙草入れを忘れた泥棒を追ってきた所を、二人揃って番小屋の番人に出会って尋問され、主人公が「今、そこでこの人に身ぐるみ剥がれました」とオチをつける。天才ぶりを遺憾なく発揮した面白さ。
★清麿師匠『東急の日』(正式題名不詳)
2年ぶりに聞いた噺だけれど、もっと凄っごい昔、実験落語の頃に聞いたような覚えがある。駒次さんの『鉄道戦国絵巻』よりも遥か以前にあったような同系統の噺。80年代、伊藤正宏君の書いたコントに「私鉄同士の合コンで世田谷線が馬鹿にされる」ってのがCXで深夜に放送されたが、割と思い付き易いネタなのかも。但し、『鉄道戦国絵巻』同様、頭で考えた可笑しさの弱味で着眼点の割には、喬太郎師の『高島町物語』のような「本当に俺は悔しい」という実感、それと同時にそう感じている自分を笑う諧虐を伴わないのが落語としては致命的な欠陥。ヒネッたストーリーだけだもん。
★歌之介師匠『国訛~勘定板』
単なる訛りの話から、「日本で一番多いのは便所の呼び名」という情報風のマクラ噺に繋いだのが活かされて(「勘定板」がある島の方言という設定も珍しい)、本題に入っても田舎の島者二人に『馬の田楽』的な長閑さが漂うのが良く、「たまはじく」までで止めたとはいえ、全く汚い感じ、尾籠な感じを受けなかった。人徳というべきもしれないけれどね。較べて悪いけれど、一昨日、汚くて閉口した菊太楼師の『肥瓶』とは落語として段違いに優れている。センスの問題かなぁ。
★はん治師匠『子だけ褒め』
終盤、どんどん受けて行ったのは流石の巧さだけれど、それ以上に、隠居さんの口調、物腰が見事に隠居さんで、ホノボノと愉しい雰囲気が続いていたからこそ、最後の鸚鵡返しで大きな笑いが来たんだと感じた。
◆6月10日 市馬落語集30周年特別公演“道頓堀の灯”(銀座ブロッサム)
市弥『牛褒め』/鶴瓶『死神』//~仲入り~//ぼん・敏江『即席漫才と唄とハモニ
カ』/市馬『唐茄子屋政談』
★市馬師匠『唐茄子屋政談』
重くないから楽に聞ける。「以前なら一緒にって誘うんだけど」は前から言ってたかな。若旦那は誓願寺店で貧しさから子供が三日食べていない事にピンと来ない辺りが或る意味で“若旦那らしい”。伯父さんは怖さより若旦那を見送る際の泣きが先に立つ感じで、伯母さんの出番が少なく、夫婦の対比がないから、江戸の男気にはちと遠い。唐茄子を売ってくれる男にも同様の事が言える。誓願寺店のおかみさんはみじめ過ぎないのが結構。大家は因業には見えないなァ。売り声の稽古は最初から上手すぎる(笑)。暑さより、静けさを感じさせる涼味の売り声。噺全体の綺麗さが目白の師匠や四代目の綺麗さでなく、黒門町的な綺麗さなので(『船徳』的な綺麗さ)、四代目・目白的な「粋も野暮も取り混ぜた江戸の町の情」には感じられない。
※「昭和の名人はデブの圓生師匠、四代目、根岸の文治師匠、三語楼師匠の四人」と言い続けた目白の師匠が、一度も「黒門町は名人だ」と言わなかった事の意味を改めて考える必要があるのではないだろうか?
★鶴瓶師匠『死神』
20時20分の羽田発で帰阪されるとかで大急ぎ(笑)。その分、以前より湿度が低く、噺全体が明るくなっていたのは怪我の功名。
----------------------以上、上席------------------
◆6月11日 お江戸広小路亭
伸治『お菊の皿』/ぴろき/笑遊『蒟蒻問答』//~仲入り~//紅『海賊退治(上)』/コントD51/米福『骨皮』/歌春『たが屋』/花/蝠丸『素人義太夫』
★笑遊師匠『蒟蒻問答』
やっとオチまで聞けた(笑)。八五郎の自棄っぱちと、和尚に化けた六兵衛の深沢七郎氏みたいに空っとぼけた表情が面白い。
★蝠丸師匠『素人義太夫』
末廣亭の時より進化して(笑)、蔵の中で義太夫があちこち跳弾して番頭さんの体に何度も当たり、着物がボロボロになる。旦那が義太夫となるとキラッと眼が光って残忍性を増すのが蝠丸師だと似合い過ぎて矢鱈と可笑しい。『サイコ』のアンソニー・パーキンスみたいである。
◆6月11日 第63回鳥越落語会(浅草橋区民会館4Fホール)
風車『位牌屋』/喜多八『三年目』//~仲入り~//白酒『首ったけ』/喜多八『寝床』
★喜多八師匠『三年目』
前半は世話好きの親戚のキャラクターが実に面白い。「おまえのかみさんは良い女だったから、化けて出たら俺が引き受ける」には笑った。松鶴師の演ってた『故郷へ錦』を喜多八師で聞きたくなる。後半は幽霊の出てくる怪談の怖さが素晴らしい。男に色気があるのに幽霊に色気が余り無いのは照れてんのかな。
★喜多八師匠『寝床』
この所、昼夜とかでネタが被るなァ(笑)。後半、長屋連中の苦しみを義太夫張りに語るのは、『ジャズ息子』的な面白い工夫だけれど、詞章・修辞が義太夫としてはまとまりが無さすぎ、川柳師の『ジャズ息子』ほどリズムに乗れないのは惜しい。思い付きらしいから、修辞の改訂に期待する。旦那が最初から浮かれ調子なのはステキに面白い。言葉のキツい倅が終盤、活躍しないのは勿体無い。
★白酒師匠『首ったけ』
工夫を増やして、紅梅と混ぜっ返しの好きな妓夫が「出来てる二人」みたいに辰っつぁんを無視して盛り上がり、辰っつぁんを怒らせる展開は可笑しさを増しているけれど、客を弄ってるだけだから、この演出の遣り取りだと「首ったけだよ」のサゲに繋がるのかなぁ?という違和感あり。違うサゲに変えたらどうだろう?
◆6月12日 お江戸広小路亭
遊喜『締込み』/伸治『ちりとてちん』/コントD51/栄馬(笑遊代演)『紺屋高尾』
//~仲入り~//紅『海賊退治』/ぴろき/米福『権助魚』/金遊(歌代演)『旅行日記』/花/蝠丸『甚五郎の首』
★金遊師匠『旅行日記』
こんなに長い『旅行日記』は初めて金遊師から聞いた。馬子や宿屋の女中との遣り取りから飄々と愉しく、スーッと運んで鶏肉と豚肉の種明かしで笑いが一気に広がる。
★蝠丸師匠『甚五郎の首』
ネタ卸しとのこと。自作かな?(後記・浪曲ネタらしい)。江戸に出た甚五郎がスリに財布を掏摸られた所を黒船町の棟梁・政五郎に拾われ、家で十日ほどブラブラした後、小塚っ原の仕置場で見た晒し首を参考に、浅草奥山の「藪探し」の腕比べに出す生首を彫って江戸を去る。『三井の大黒』と『生首の酒』を足したような展開。蝠丸師が本気で生首を描写したら凄く怖い噺だろうが、落語の範囲に止めているから飄々とした甚五郎の面白さ、政五郎の江戸気質で楽しく聞ける。底の知れない師匠だなァ。
◆6月12日 らくご街道雲助五拾三次三番宿~薩摩さ~(日本橋劇場)
雲助『真田小僧』/雲助『やんま久次』//~仲入り~//雲助『棒鱈』
★雲助師匠『やんま久次』
稲荷町の師匠のを二度くらい聞いているだけの演目だけれど(雲助師匠のは二度目だったかな)、噺そのものの弱味というか、久次の人物設定が役者ぶり本位みたいなので、「江戸末期のピカレスク」の凄みというよりは「曳かれ者の小唄」風の印象になってしまう。芝居にし過ぎる感もあるけれど、立って歩くと御本人も仰っていたように下半身が不安定ですっきりしないため、雲助師だと寧ろ蝙蝠安みたいな感じになるのである。「小團次張り」という印象ではないのね。従って、『鋳掛松』のような幕末のデカダンス、小團次的な面白味は余り感じられない。
※『九州吹きもどし』『やんま久次』など、初代・二代目志ん生師系統の演目は
残っている世評が割と部分的な感想で、噺の肝心のポイントからズレている感じがする。
★雲助師匠『真田小僧』
志ん生師をベースに、圓生師の六連銭の謂われを取り入れて雲助師が新たに組み立てたとの事ではあるけれど、「今夜でまだ二回目の口演だ」とは思えない面白さ。六連銭の謂われを聞いた金坊が「間はどうなってるの?」といった、誰にも聞いた事のないセリフは、六つの孔開き銭を自然に親父に出させる、実に巧みなセリフだと感心した。細部の演出に理があって説明にならず、親父と倅のキャラクター対比も面白く流石は雲助師という落語。『真田小僧』のお手本のように面白く、優れた高座だった。
★雲助師匠『棒鱈』
こちらも「柳噺研究会」でのネタ卸しからまだ三~四回目の口演とは思えない出来。目白型をベースにしながら、薩摩っぽの田舎侍のキャラクターが独自の味わいで、酔っ払いは十八番、兄貴分のスッキリとした味わいと雲助師の世界になっている。何となく品川近くの「間の宿」っぽい料理屋の雰囲気が漂う。酔っ払いが首ねっこを兄貴分に取られて上半身が半ば宙吊りになる形の良さと面白さには唸った。また、「十二ヶ月」にちゃんと節があるのも絶妙。
◆6月13日 お江戸広小路亭
今輔(遊喜代演)『五人男』/伸治『饅頭怖い』/コントD51/栄馬『妾馬』//~仲入
り~//紅『髪結新三~永代橋』/一矢/米福『蛇含草』/歌春『お化け長屋(上)』/うめ吉(花代演)・潮来出島/蝠丸『鴻池の犬』
★蝠丸師匠『鴻池の犬』
中盤、地噺的な部分が今日は長め。その分、湿度は少なく気楽に愉しい。オチはこないだ同様「(夫婦喧嘩は)犬も食わねェ」。
★歌春師匠『お化け長屋(上)』
杢兵衛の気弱な感じが似合うなァ。
★米福師匠『蛇含草』
曲食いが悪目立ちせず、サラッと愉しい。甚兵衛でなく普通の着物姿。
※寄席の紅先生は最近、講釈と演目の解説漫談になっちゃってる感じてある。
◆6月13日 第一回志ん輔の「マイ・ド・セレクション」(国立演芸場)
半輔『のめる』/一朝『芝居の喧嘩』/志ん輔『佃祭』//~仲入り~//志ん輔『風呂敷』/ぺぺ桜井/一朝『蒟蒻問答』
★一朝師匠『芝居の喧嘩』
冒頭から丁寧に運んだ。いつもよりテンポもユックリ目。
★一朝師匠『蒟蒻問答』
こんなに丁寧な『蒟蒻問答』は誰からも聞いた記憶がない。「安中の杉並木の終った所に」「呑むと般若のように朱い顔になるから般若湯」「前橋まで酒ェ買いに行ってこい」「御寺万才というだよ(そのあとちゃんと唄う)」「前橋で火事があった時に火掛かりをして」等々、殆ど聞いた事のないセリフの連続。六兵衛、八五郎、権助と先代柳朝師譲りの自棄っ八な半端者揃いで、鉄火な連中ばかりが繰り広げる珍騒動。択善だけが一応まともだけど如何にも学僧の若さがある。久し振りの口演なのか(過去に聞いた記憶がない)丁寧に、丁寧にと運んだ分、三田落語会の『居残り』同様、一朝師にしては稍重い運びになってはいたけれど、キャラクターが抜群なので面白さが先立つ。これで寄席主任用にこなれたら無敵になりそう。
★志ん輔師匠『佃祭』
かみさんとの遣り取りから祭見物、船頭のうちでの淡々とした会話まで、次郎兵衛さんの人柄の良さが現れて実に良い。こういう次郎兵衛さんは先代馬生師以来かも。漁師のかみさんは稍泣きが強いが、これを淡々と受ける次郎兵衛さんが良いからクドさは感じない。二人の会話を聞いていて、志ん輔師で『旅の里扶持』を聞きたくなったほど。その次郎兵衛さんだから、かみさんの焼き餅にドギマギするのがまた可笑しい。後半は悔やみの失敗を二人出して、与太郎が権太楼師的な涙の挨拶をする。流れは良いけれど、前の二人の悔みはそれぞれもう少し短くても良いのでは?早桶は寺に運んで次郎兵衛宅には和尚だけが来る。かみさんの焼き餅もクドくない。この和尚が恬淡としてまた良いので、その言葉を聞いた与太郎が身投げ探しに出るのに無理がない。こういう淡い『佃祭』も良いなァ。佳作!
★志ん輔師匠『風呂敷』
割と良い出来なのだが、池袋で物凄く良かった時ほどではない。左腕にヒビが入った状態だから仕方ないけど。
◆6月14日 お江戸広小路亭
コントD51/栄馬『井戸の茶碗』//~仲入り~//紅『マダム貞奴』/ぴろき/米福
『松山鏡』/歌春『短命』/花/蝠丸『百川』
★蝠丸師匠『百川』
二度目かな。百兵衛が情けない感じに気の弱い田舎の人で(津軽弁風)、その割に暢気なとこがあり、河岸の連中が振り回される印象。だから、田舎の人を馬鹿にしてる感じは全くしない。百兵衛さんの印象が強いので、長閑な感じに展開するという『百川』は珍しい。
★栄馬師匠『井戸の茶碗』
小音の師匠だから、この客席サイズが適うのかな。新宿の夜主任の時より遥かに良い出来だった。清兵衛の売り声に風景があるのがまず良い。喬木(醜男の設定は珍しい)、千代田、清兵衛と「良い人」になり過ぎず、キャラクターが出ており、清正公の場面も騒がしくない。ベテランらしい味わいのある『井戸の茶碗』。
◆6月14日 月例三三独演(イイノホール)
市楽『芝居の喧嘩』/三三『お花半七』/三三『佐々木政談』//~仲入り~//三三『寝床』
★三三師匠『お花半七』
『芝居の喧嘩』と切れ場がつくので急遽オチを変えたが噛んじゃって失敗。
★三三師匠『佐々木政談』
益々可愛くない、こまっしゃくれた四郎吉に閉口。奉行側にも「大人の余裕」がないので聞き所が定まらず。
★三三師匠『寝床』
「私に言わずに勝手にそんな事(長屋を宥める)をして」「奉公人の不始末は主人の私が(義太夫を語って)」という辺りのセリフは旦那の裏腹な気持ちを隠して義太夫を語る方向に導く真に巧いセリフだけれど、前提となる「義太夫が語りたくて仕方ないマニアックで歪んだパッション」がそこまでに出てないから、「巧いセリフを考えたな、頭だけで」に留まってしまうのは惜しい。冒頭、三人の小僧に金盥を持って来させるギャグも、それ以前に義太夫が語れるとウキウキしてる旦那が出てこないから無駄。小三治師の「唄いたがり」を長年端で見てきただろうに、参考にしなきゃ。後半も『船徳』の客同様、長屋の連中が酷い目に遇う噺なのに(これは『船徳』に関する小三治師の言葉の引用)、そんなに悲惨なドタバタに聞こえない。
◆6月15日 お江戸広小路亭
遊之介(伸治代演)『南瓜屋』/コントD51/栄馬『たが屋』//~仲入り~//米福『やかん』/紫(紅代演)『木津島の由来』/ぴろき/歌春『青菜』/花/蝠丸『甚五郎の首』
★蝠丸師匠『甚五郎の首』
甚五郎物は大抵長いが、この噺は本題が20分あるかないかと手軽に愉しいのが良い。勿論、初日のネタ卸しより整理されている。キャラクターに問題はないから、後は地をもう少し減らす必要があるかな。「浅草奥山の藪抜け」って興行は初めて聞いた言葉だが面白い。
★米福師匠『やかん』
先生が可笑しな威張り方で八五郎が訝しげに話を訊いて行くのが面白い。「魚問答」でタコ、イカ、サバなどまず聞かない種類の魚が入っていたのは時間繋ぎかな。
※栄馬師が30分の持ち時間なのに17分で降りてしまったから(一寸露骨)、20人そこそこの入りなのに15分も仲入りを取っていたのは無駄の骨頂。「早く仲入りを終わらせて、繋ぎに上がってやろう」なんて気概のある前座さんが今はいないのかね。
◆6月15日 第3回喬四郎短期集中高座(らくごカフェ)
喬太郎『猫久』/喬四郎『お花半七』/喬太郎『宮戸川』//~仲入り~//喬四郎『フルーチェ』(正式題名不詳)
★喬太郎師匠『猫久』
妙に力が入っていて、今夜は面白味に乏しい。かみさんが亭主の発言に対して、もっと面白がってないと。
★喬太郎師匠『宮戸川』
後半。芝居掛かりを七五調でせず、現代劇的なのが新たな変化で、より一層、喬太郎師らしくなった。正覚坊の亀の独白のリアルさと、「懺悔でござんす」のセリフ(初めて聞いた)に生まれるロマンティシズムの混合は喬太郎師独特。お花に起こされて「一目置いた」とサゲるのも従来より最後が明るくなる。
★喬四郎さん『お花半七』
噺家さん数ある中でも珍しい「女芸(おばさん芸かもしれない)」なのと、男性に関してはヘタレが似合うので、もう少しちゃんと覚えれば出来る噺。伯父さんと伯母さんの役所を換えたらどうかな?
★喬四郎さん『フルーチェ』(正式題名不詳)
芸風には遇ってる。好きな女の子と友達が出来てしまっても何も言えない主人公と変にませた女の子は似合う。旅行を中断して母親が帰宅してからが長すぎる。母親が帰ってくる前にサゲを付けられないかな?別に下宿してる大学生が主人公でも構わない噺だし。
◆6月16日 第138回大和田落語会“髪結新三を聞く会”(京成大和田・丸花亭)
市助『ひと目上り』/小里ん『髪結新三・上』//~仲入り~//小里ん『髪結新三・
下』
★小里ん師匠『髪結新三』
新三は六代目張りの低調子(六代目の音源が参考とのこと)で生世話の本格。見た目の感じは大谷吉次から六代目の感じで、時代世話にならず飽くまでも生世話。善八は雲助師とリレーで演じた時から正に適役で、『磯の鮑』の与太郎を少し普通にした感じなのが目白っぽい。如何にも腹に作りがなくて、弥太五郎宅での遣り取りは非常に面白い。忠八は稍テレがまだあるかな。新三内の遣り取りは素で行くので、ニコニコしながら性質の悪い大家との対比が面白い。新三の声音を作り過ぎないのが良く、噺が作り出したキャラクターならではの大家のとぼけぶらないとぼけ方(先代中車丈がお手本とのこと)が噺の世界らしさを生んでいる。弥太五郎源七のみ、もう少し音に高さが欲しいが、寄席の主任で一度は聞きたい出来。
◆6月16日 新宿末廣亭夜席
富丸『落語家の夢』/遊三『船徳』//~仲入り~//羽光『読書感想文』(正式題名不詳)/陽昇/圓馬『浮世床・芸~碁~将棋・講釈本』/小文治(柳橋代演)『牛褒め(上)』/正二郎/遊吉『小間物屋政談』
★圓馬師匠『浮世床・芸~碁~将棋~講釈本』
これだけ馬鹿馬鹿しく可笑しい講釈本は初めて。読み出しで詰まった時の「イスラム寺院か?」と、後半で唸った時の「獣か?」には笑った笑った。
★陽昇先生
絶好調!「加藤コミッショナー」のタイムリーさには腹を抱えた。
★遊三師匠『船徳』
メリハリがあって仕科が活き活きとして客席爆笑。失礼乍ら遊三師の『船徳』でこんなに可笑しいのは初めて。舟が出て直ぐの矢鱈と揺れる客の仕科と不安そうな表情の面白かった事と言ったら無い!スタンダードな演出の『船徳』でこの可笑しさは鍛えられた地力の凄さだなァ。
★遊吉師匠『小間物屋政談』
実は寄席の主任でこの噺を聞いたのは初めて。先代圓楽師の演出がベースか。それを25分でスイスイ筋を聞かせて行く。その間、無理に笑わせず、奉行の「死ね!」で笑いが一気に弾けた(先代圓楽師のおやかし力の凄さだね)。芸術協会ならではの演出と話術。
★羽光さん『読書感想文』
初めて聞いたが今の文枝師の作品かな。『読書の時間』と『生徒の作文』を混ぜたようで、気軽に可笑しい。
◆5月17日 上野鈴本演芸場夜席
/小菊「春雨」/圓太郎『短命』/正楽/雲助『大山詣』
★雲助師匠『大山詣』
比較的サラッとした演じ方だが、熊が坊主頭を撫でる時の驚きや、かみさん連中を騙す際、指の間から覗き見る表情など、雲助師ならではの誇張した愉しさがある。
◆6月18日 神田松鯉講談実演記録14『徳川天一坊の十三』連続収録会(東京文化財研究所無形文化遺産記室)
松之丞『寛永宮本武蔵・下関の船宿』/松鯉『徳川天一坊・網代問答』//~仲入り~//松鯉『幡随院長兵衛・上方行き』
★松鯉先生『徳川天一坊(十三)・網代問答』
大岡越前の篤実に対して、山内伊賀亮は謀略家というよりは、垣見左内的な人物に見える。一品親王の網代駕籠の謂われも解説的な地の後に山内伊賀亮が逆手を取る感じで、対決のニュアンスではない。八ッ山御殿に戻ってからも、藤井左内らが小悪党なのに対して、伊賀亮は沈着冷静な感じ。松鯉先生の持ち味か。
※40年程前かなNHKのドラマで寺田農の演じた山内伊賀亮の弁舌達者で、狷价にして執念深そうな雰囲気が今も忘れられない。
※三三師と山内伊賀亮は似合いそうだな。
★松鯉先生『幡随院長兵衛(十三)・上方行き』
長兵衛が上方行きの途中、天王寺屋の手代と出会い、鍾馗半兵衛の変名で水掛け祝の名代を勤めるまて、滑稽多数の一場だが、長兵衛の貫禄が崩れたりしないのは流石。水掛け祝の場で大阪の顔役・朝比奈藤兵衛との間に諍いを起こす後席の前振りかな。
◆6月18日 新宿末廣亭夜席
富丸『制服フェチ』(正式題名不詳)/遊三『干物箱』//~仲入り~//羽光『阿弥陀池』/陽昇/遊史郎(圓馬代演)『猿後家』/柳橋『元帳』/正二郎/遊吉『城木屋』
★遊三師匠『干物箱』
巻頭・巻軸の句の違う先代圓馬師型。「天気を訊かれるから気をつけろ」ってのは以前もあったかな?二階で洋酒と間違えてベンジンを呑むのは笑った。若旦那が二階を見上げる視線、声の加減、フッと間を取って部屋の中を感じさせる点など、簡略乍ら勘所は確か。また親父が如何にも頑固親爺の声なのは面白いなァ。
★遊吉師匠『城木屋』
これも随分久し振りに聞く噺。地噺風に、非常に澱みなくトントン進む軽快さがある。半面、丈八の醜男ぶりをもう少し強調しても良いのでは?
※『猿後家』と男女の違いはあれど醜女・醜男で些か噺が付くか。
◆6月19日 上野鈴本演芸場昼席
小猫/正蔵『松山鏡』/一朝『野晒し(上)』/ぺぺ桜井(小円歌代演)/歌武蔵『ボヤキ酒屋』
★歌武蔵師匠『ボヤキ酒屋』
「支度部屋外伝」から「十二支」ネタでハネちゃうかな?と思ったら本題へ入った。前半の「親方、堅い」の辺りは、はん治師の小味なとこに比べて引きが弱いけれど、奴にソースや、猫の風邪の辺りになると歌武蔵師の作り出す笑いの振幅の大きさが映える。圓歌一門ならではのエネルギッシュさだな。
※「ミニモニジャンケンピョン」や「スビード」になると情報が劣化している。仲宗
根美樹や『月の法善寺横丁』は劣化しないのに、近年の流行物の弱さだね。
★一朝師匠『野晒し(上)』
珍しく全体は少し重目。でも、尾形清十郎が八五郎にいう「な」の隠居さんみたいな軽さ、砕けた面白さは絶妙。
◆6月19日 噺小屋featuring扇遊&鯉昇&喜多八落語睦会XⅢ“蛇苺の
ぜんとるまん”(国立演芸場)
/小辰『金明竹』(「骨皮」抜き)/扇遊『寝床』//~仲入り~//喜多八『居残り佐平
次』/鯉昇『死ぬなら今』
★扇遊師匠『寝床』
繁蔵が良く言えば可愛らしく、ある意味で子供っぽいのは扇橋師の文七に通じるものか。旦那が次第に怒り出し、「家内の姿が」でスッと調子の下がる所はすこぶる可笑しい。
★鯉昇師匠『死ぬなら今』
噺のバロディを珍しく色々入れた独自の演出。その中で吝兵衛が地獄に初めて来て辺りを「何処だ、これゃ」という表情で見回す件の面白さは図抜けている。巧くて面白くて堪らないね。家元が来て暇な時間に寄席を始めてから、閻魔が落語に凝って小噺で部下を困らせるとか、血の池地獄の生臭さを消す除臭剤や針の山の痛みを和らげる草鞋を亡者に売り付けるバッタ屋なんてギャグにも笑った。
★喜多八師匠『居残り佐平次』
非常に最近にしては小音で、些か発音不明瞭なとこもあったけれど、半面の軽さが実に良かった。喜多八師の廓噺は割にマジな部分が強くて重めなのだけれど、今夜の佐平次の、洒落た遊び心に近い悪党ぶり(居残り商売という感じがしない)は脱「昔の小三治師感覚」の現れというか、喜多八師ならではの馬鹿馬鹿しさで愉しい。
◆6月20日 上野鈴本演芸場昼席
仙三郎社中/権太楼『強情灸』//~仲入り~//小猫/正蔵『読書の時間』/一朝『たが屋』/小円歌/歌武蔵『支度部屋外伝』
★歌武蔵師匠『支度部屋外伝』
「干支」のネタまで。これだけ長いのは初めてで初耳のエピソードもあった。攻めもあれば守りも.ある漫談だから強いね。
★権太楼師匠『強情灸』
峯の灸型。近年の権太楼師では珍しい演目。聞いたのは初めてかもしれない。最初の男から烈々たる強情同士(笑)。二人目が熱さが回ってから、些か動きが大きいかな。
◆6月20日 桂米福の会(お江戸広小路亭)
たか治『芋俵』/米福『ぽんこん』//~仲入り~//羽光『ちりとてちん』/米福『もう
半分』
★米福師匠『ぽんこん』
割とアッサリしてるが三太夫の「取り次いで参ろう」の軽い面白さ、吉兵衛が嫌らしくないとこ(殿様が鳴いても「本物か!」と悔しがらない)、オチのセリフ前後の簡潔な運びとちゃんと面白い。
※この噺、今まで感じなかったけれど、殿様に「調べてみよ」と言われた時、「偽物とバレたら命に関わる」と『火焔太鼓』みたいに吉兵衛がもっと怯える可笑しさがあっても良いのでは?
★米福師匠『もう半分』
先代今輔師系かな。但し、演じ方がクドくないから感じは随分違う。風呂敷包みを「毎日来るお客なんだから、取っといて明日渡してあげな」とかみさんの言うのが夫婦に魔が差す切っ掛けになるのは落語らしい。爺さんが「娘に“あたしの年季が明けるまで酒は止めておくれ”と言われて約束したのに」と愚痴るのも身投げする自責に繋がるのが無理ない感じ。乱杭歯の爺さんにグロテスクな感じがしないのも聞き易い。亭主、かみさん、爺さんと人物を演じ過ぎないのが真に中庸を心得た演出に感じる。赤ん坊の顔を見てかみさんが急死するのも地で処理するから重くない。乳母が夜中の出来事を予め説明しないのは怪談として正解。油の呑み方も五郎八茶碗風でイメージが伝わりやすい。「赤ん坊がクルッと振り向いて」を地で言ってから仕科でも見せたのは蛇足っぽい。「細~い腕を前に突きだして」も必要かな?「もう半分」で笑うのが重くなく怖いのは結構。虚仮脅かしの無い、かといって淡々とし過ぎない「市井の一スケッチ」として優れた出来である。「嫌な噺だ」と思わなかったくらい
だ。
★羽光さん『ちりとてちん』
東京向きにクドくない上方落語の味わいだ(南光師の演出らしい)。大橋さんが出てこないから上方の林家直系の演出ではない。旦那の誕生日に喜ィさんが偶々来て、偶々豆腐が腐る。「豆腐の腐ったのは初めてで!」「あんた食べる気かいな!」の遣り取りがフックになって旦那が竹さんに食べさせるのを思い付く。竹さんが「長崎に行ってた」と自慢するのが「ちりとてちん」の思い付きになる。竹さんは箸の先でひと舐めするだけ。等々、偶然が続き過ぎるのではあるけれど、今夜の演出の方がちゃんと「単なるある日のスケッチ」になっている。
----------------------以上、中席------------------
◆6月21日 池袋演芸場昼席
白酒『笊屋』/ロケット団/正蔵『狸の札』/さん喬『締込み』//~仲入り~//ひな太郎『幇間腹』/文左衛門(扇好・蔵之助代理演)『手紙無筆』/夢葉/歌武蔵『胴斬り』
★歌武蔵師匠『胴斬り』
圓生師や先代小圓朝師のは聞いた事が無い。松鶴師のは妙に迫力のある噺だったけど、噺自体は地味だった。だけど、歌武蔵師が「暴れる噺」に見事に変えたなァ。南なん師や枝雀師のより可笑しいし、適度に疑問を挟んで行くのが却って面白い。また、歌武蔵師独特の切れのある動きや足が蒟蒻を踏む仕科の迫力が抜群に可笑しい。誰にでも出来る噺じゃないね。
◆6月21日 落語協会特選会第55回柳家小里んの会
けい木『道具屋』/志ん吉『夢の酒』/小里ん『二十四孝』//~仲入り~//小里ん『占い八百屋』
★小里ん師匠『二十四孝』
八五郎の柄と後半の鸚鵡返しは見事に面白い。婆さんの可笑しさも出色。只管受け手に回る大家のキャラクターが意外と淡白。
★小里ん師匠『占い八百屋』
三代目三木助師型だと初めが善六の物忘れに無理がある代わり、後の嘘は止むに止まれずになる。目白型の展開だと初めが八百屋の悪戯だから、始まりに無理はない代わり、後の困り方が難しいのかと感じた。八百屋が最後に逃げちゃうキャラクターと描くには弱り方、困り方をもう少し印象強くつけて欲しく感じた。普通の人なんだけど。
★志ん吉さん『夢の酒』
嫁さんや特に夢の中のかみさんの色気が些か出し過ぎだとは思う。けれど、女自体は似合うし、志ん橋師の持ちネタより、こういう柔らかい噺の方がニンに適うのかな。親旦那の困り方は志ん橋師に似て面白い。
◆6月22日 第26回三田落語会昼席(仏教伝導会館ホール)
半輔『間抜け泥』/正蔵『四段目』/白酒『宿屋の富』//~仲入り~//白酒『首ったけ』/正蔵『景清』
★正蔵師匠『景清』
少しずつ明るさを取り入れて黒門町の泣きから、職人の思いの噺に変えている過程であろうか。
★正蔵師匠『四段目』
定吉が「判官さん」と言うのは上方じみるかな。
★白酒師匠『宿屋の富』
一文無しの驚き等に変化を付けて、二番富の男のうどん話が軸にならないように工夫されている。
★白酒師匠『首ったけ』
妓夫の「余計な解説・口出し」が緩衝剤になって、痴話喧嘩とまでは行かないが、野暮な喧嘩ではなくなって来ている。
◆6月22日 第26回三田落語会夜席(仏教伝導会館ホール)
さん坊『子だけ褒め』/新治『狼講釈』/さん喬『庖丁』//~仲入り~//さん喬『ちりとてちん』/新治『大丸屋騒動』
★さん喬師匠『庖丁』
寅に目白系の与太郎風の味わいがあり、艶笑噺ではなく、間抜けな男女三人の噺に移行する途中形かな。圓生師の『庖丁』とは人物関係の捉え方が全く違う。お安喜さんに「女の利口の間抜けさ」がもう少し可愛く出ると更に良いんじゃなかろうか。
★さん喬師匠『ちりとてちん』
以前演じていたのとかなり感じが違う。六さんの知ったかぶりを隠居が面白がって追い込んで行く辺り、さん喬師らしい、シニカルというよりは冷徹さが垣間見える。
※さん喬師が小南師から『菜刀息子』を教わっているのを知って驚く。新たな期待が生まれた。
★新治師匠『大丸屋騒動』
五郎兵衛師型を目の前で見るのは初めて。村正がもたらす宗三郎の狂気の目と体の異常な硬直は「こういう風に演るのか」と感心した。上方のノラな若旦那とその若旦那に惚れた芸者の意気地の対比も面白い。宗三郎は60代までの山城屋の雰囲気だな。松嶋屋系ではない。
★新治師匠『狼講釈』
上方講釈の東京とは違う暢気な修羅場の可笑しさと、「金が物言う世の中や。狼かて物言うわい」の馬鹿馬鹿しさの対照が面白い。
◆6月23日 扇辰日和vol.48(なかの芸能小劇場)
辰まき『道具屋』/あおい『大名花屋』/扇辰『三枚起請』//~仲入り~//織音『黒田節の由来』/扇辰『竹の水仙』
★扇辰師匠『三枚起請』
まだ長いのが何より惜しい。マクラから一時間前後もあるってのはねェ。最後、喜瀬川の嘘臭~いしらばっくれに始まり、手を合わせてブリッ子謝りする件から次第に声音が変わり、完全に居直るまでのリアルな変化は矢来町とは全く違う面白さ。マクラの「女の子と付き合うより朝寝がしたかった前座時代」から見事に繋がる喜瀬川の「朝寝がしたいんだよ」のリアルさも他にない人面白さである。棟梁、猪之、清公のキャラクターの描き分けもかなり立ってきた(猪之が稍曖昧かな)。半面、矢来町の芝居掛かりはまだ引いてしまう。芝居掛かり自体を外せば良いんじゃなかろうか?と思う。
★扇辰師匠『竹の水仙』
最後に亭主が竹の水仙大量製作を強請らないなど、品が良くて、ちゃんと面白い半面、宿の主人てェよりは江戸の職人みたいで、『徂徠豆腐』や『三井の大黒』と代わり映えがしない弱味もある。第一、これも長い。寄席の昼席主任で出来るサイズに作れないと、寄席の品物にならないなァ。
★織音先生『黒田節の由来』
綺麗な声音の講釈で魅力のある先生は意外と珍しい。多少、「サ」行に引っ掛かりは感じるけれど、軽快さだけではない面白さ、人物表現がある。母里太兵衛友信の颯爽とした感じが出ている。福島正則の豪胆だけで些か品格に欠ける感じはイマイチ。
※この噺辺りが『粗忽の使者』の源流なのかなァ?
◆6月24日 第回浜松町かもめ亭「東の柳家喜多八、西の露の新治二人会」(文化放送メディアプラスホール)
なな子『九日十日・廻り猫・味噌豆』/喜多八『仏の遊び』/新治『兵庫舟』//~仲間入り~//喜多八『青菜』/新治『鹿政談』
★喜多八師匠『仏の遊び』
この自棄糞みたいな可笑しさで『蒟蒻問答』も演られないかな?
★喜多八師匠『青菜』
かみさんも酒呑みという設定で、全体の雰囲気が頓珍漢な酒呑み噺に変わっている印象。その中で、如何にもインテリっぽい旦那の雰囲気がなかなか他にない魅力。金持ちの学者さんか医者に変えても面白いのでは?
★新治師匠『兵庫舟』
蒲鉾屋オチ。スイスイと旅ネタらしく運ぶ中、蒲鉾屋の親父が登場して、芝居掛かりになる迫力はガラリと変わって面白い。米朝師と小南師の中間の味わい。
★新治師匠『鹿政談』
五郎兵衛師の十八番を受け継いで、更にアクを抜き乍ら面白さは落とさぬ印象。松野河内守の凜とした物腰、口調は独特。塚原出雲の「親代々の鹿の守役」というセリフは初めて聞いたかな。豆腐屋六兵衛の老爺ぶりは五郎兵衛師移し。
◆6月25日 激闘!落語番外地vol.14“水無月の変”(ことぶ季亭)
はな平『壺算』/正蔵『悋気の火の玉』/喜多八『もぐら泥』//~仲間入り~//正蔵『ねずみ』/喜多八『親子酒』
★喜多八師匠『もぐら泥』
前半の室内の普通の夫婦と外の間抜けな泥棒の遣り取りから、後半の泥棒といい加減な酔っ払いの遣り取りの対照が相変わらず面白い。
★喜多八師匠『親子酒』
初演に近い口演らしい。後半、どちらもデロデロに酔った親旦那と若旦那のお互いに判別のつかない可笑しさは独特。『初天神』の親子が年をとったような似た者親子になっているし、如何にも酒に意地汚い感じの親旦那のセリフ、仕科が可笑しい。
★正蔵師匠『悋気の火の玉』
立花屋の旦那もかみさんも妾も可愛らしい、という悋気の火の玉だけに、住職の出てくる必要があるのかな(その方が理は通るけど)。出掛けに「提灯を取っておくれ」と言っちゃったのはうっかりミス。
★正蔵師匠『ねずみ』
詰めて演じた雰囲気で、25分弱と短いヴァージョン。「鼠が生まれたよ」も芝居臭くなくて良い。半面、縮めた分、甚五郎のキャラクターがちと曖昧になったか。一人旅の水戸黄門みたいである。
★はな平さん『壺算』
「十一頭の馬と三人の兄弟」の噺をマクラに振って入ったけれど、はな平さんのフンワリした持ち味と、あの小噺から入ると知略の計算が先立つ噺の構成が余りフィットしていない印象。瀬戸物屋の主人主体の構成の方が向くんじゃないかな。
◆6月26日 落語協会特選会「圓太郎商店 独演その十七」(池袋演芸場)
けい木『十徳』/圓太郎『黄金餅』//~仲間入り~//圓太郎『酢豆腐』
★圓太郎師匠『酢豆腐』
職人仲間の若い連中が能天気にワイワイガヤガヤじゃれている、パワフルだけれど間抜けな奴の可愛らしさかあるから重くない。半ちゃん調伏も同様だが、半ちゃんと若旦那にはもう少し二枚目ぶりの色気が欲しい。若旦那が嫌われる理由を加味して、「苛め」の雰囲気を薄めていたけれども、ならば江戸っ子の一番嫌う「しみったれ」を加味してはどうだろうか?
★圓太郎師匠『黄金餅』
マクラから45~50分くらいか。いつもの尺だね(笑)。エネルギッシュで必死の金兵衛なんだけれど、重苦しさや人物解説はないので、パワフルな落語になっている。道中付けの件などは力が入り過ぎで、何処か息を抜くとこが欲しい。長屋の連中、大家さんの造型(「二朱の金があるなら家賃払え!」には笑った)などは底辺のエネルギーと日常性があって面白い。
◆6月27日 目白夜会~靭草~(目白庭園赤鳥庵)
なな子『桃太郎』/小満ん『夢の酒』/さん喬『百川』//~仲入り~//小満ん『笠碁』
※自分の主催する会だから感想は無し。小満ん師匠が帰り際、にこやかに「次は『唐茄子屋』ね」と仰られた声音が全てを物語っているかな。
◆6月28日 桃の家の三人会(練馬文化センター大ホール)
花どん『間抜け泥』/喬太郎『花筏』//~仲入り~//三三『金明竹』/花緑『紺屋高尾』
★花緑師匠『紺屋高尾』
家元型だけど金高など『幾代餅』からの持ち込みもある。それでトーンが変わるせいもあって、全体が古今亭本来の『幾代餅』に比べて野暮ったく感じる。高尾の「久さん、元気?」の言い方は独特で悪くない。
★喬太郎師匠『花筏』
ちゃんと面白いんだけれど、噺の軸が見えてこない。「死ぬぞ」の勘違いをもっと強めても良いのでは?提燈屋が負ける稽古をする件で『反対俥』みたいにピョンと飛ぶのは前から演ってたっけな?
★三三師匠『金明竹』
「さかりが付いた」を最初は聞かせず、伯父さんが訊いて初めて松公に答えさせるなど細部に手を入れている。伯母さんが口上に混乱して「海老」を何度も口走るのは三度目くらいからクドさを感じる。寧ろ、松公が終始明るいのが一番良かった。「何で奥に行くんだろう?」は三三師らしい発想。一寸、この松公は三三師の『三枚起請』の亥之に似ているが、亥之ほど「第三者」の視点は感じなかった。
※松公って、名前が現す通り柳家の与太郎とはキャラクターの根本が違うんだな。
◆6月29日 気軽に志ん輔21(お江戸日本橋亭)
半輔『寄合酒』/小痴楽『磯の鮑』/志ん輔『抜け雀』//~仲入り~//志ん輔『文違い』
★志ん輔師匠『抜け雀』
宿主人の甚兵衛さんっぽさが印象的。それと絵を画く件を克明に演じず、それを見た宿の主人のリアクションのインパクトが何よりも強くなっている。それが持ち味に適って如何にも落語らしい。絵師親子では父絵師の風格というか、構えない感じが良さを増している。
★志ん輔師匠『文違い』
角蔵大尽の悠長で、意外と狡くて、でもお杉に甘い、という造形が面白い。芳次郎の気取った色悪ぶりと対照的。お杉の泣きは芳次郎に対しても飽くまでも職業的媚態の感じがする。半ちゃんとお杉が四人の中ではまともに近く見えるという構成かな。
★小痴楽さん『磯の鮑』
兼好師譲りとのこと。与太郎というより、覚えたまんまにしか喋れない粗忽者の可笑しさがある。粗忽者の雰囲気は似合うなァ。
◆6月29日 白酒・甚語楼ふたり会(お江戸日本橋亭)
けい木『狸の札』/甚語楼『本膳』/白酒『大山詣』//~仲入り~//白酒『肥瓶』/甚語楼『佃祭』
★白酒師匠『大山詣』
雲助師型で余り動かしていない。その代わり、リアクションの非常に正確な演出。寝返りで驚く長屋の連中、坊主出現に驚く宿の女中。ただ者ではないなァ。長屋連中が帰って来てから少しテンションが下がったのは不思議?
★白酒師匠『肥瓶』
先代馬生師の演出を雲助師から聞かれたそうで、汚さを廃した演出、兄貴分が豆腐や飯を食べようとすると弟分に袖を引かれる仕科の見事さ、古道具屋の「貴方ならそうでした」の繰返しの可笑しさと唸る件多数。
★甚語楼師匠『佃祭』
権太楼師の演出ほぼそのまんま。次郎兵衛さんはニンだし、長屋連中のあたふたも似合う。半面、船頭の金太郎は権太楼師の大きさにまだ丸で敵わず。船頭のかみさんが泣きすぎないのも良いけど、あれはつまり『旅の里扶持』の「おじさん到頭会えました」で良いのかも。与太郎の泣き笑いはやはり権太楼師の演出の素晴らしさを実感。サゲ前の「糊屋の婆さん、お前そろそろ時期だから」で大きな笑いを取り損ねたのは残念。
★甚語楼師匠『本膳』
村連中の頭株が直ぐに帰りたがる無駄喋りで先生が困る、という聞いた事のない型。前半の遣り取りから面白い。『松山鏡』を聞いてみたくなる素直さがある。
◆6月30日 上野鈴本演芸場特選会『第68回三三・左龍の会』
三三・左龍「御挨拶」/しあわせ『子だけ褒め』/馬治『代書屋』/三三『山崎屋』//
~仲入り~//ホンキートンク/左龍『お化け長屋(上)』
★三三師匠『山崎屋』
最後の小津安二郎的世界へ繋ぐには若旦那が帰ってきた時の親旦那の嬉しさ、子煩悩が陰気。笠智衆じゃいけないんだと思う。
★左龍師匠『お化け長屋(上)』
杢兵衛の怪談噺で声の調子を変える所は真に可笑しく、二番目の能天気な店借り人のキャラクターも抜群。二番目の店借り人が「おかみさんの懐に手を入れて」を受けて「キョワー!」と突拍子もない声で叫んだ件は無闇と可笑しい。仲間相手に丁寧に怪談を繰り返すのも面白い演出。反面、ニンにある噺だけに、「遠方、中沢圓法か?」「目の細い奴は助平だ(さん喬師を思い浮かべざるをえない。三三師かなァ。ならば「三三みたいに」と前振りが必要)」などのギャグが内輪過ぎて、今夜のお客では前方の落語マニアにしか受けずとか、杢兵衛の怪談を聞いた仲間のリアクションに同じセリフが多すぎてテンションが下がるなど、細かい「荒らさ」が却って耳につく。あと、明らかに三三師より面白くて、三三師より落語なのに、三三師と比べると噺が客席に伝わる力が弱い。場数の問題かなァ。
★馬治さん『代書屋』
雲助師型に権太楼師の「学習院」「天皇賞」をプラス。客を田舎訛のある若宮町育ちに変えてある。田舎訛の効果がまだ一辺倒だが、「不思議な人だね」なんて代書屋のセリフが先代馬生師に似てて、代書屋の気持ちの分るのが摩訶不思議。
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石井徹也 (落語道落者)
投稿者 落語 : 2013年07月17日 02:48