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2013年02月10日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 2013年1月号
東京は雪が降ったりとまだまだ寒い日が続きますね。あったかい葛湯・・・いや御ちゃけでも飲んであたたまりたいものです。
今回は石井徹也さんによる私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の2013年1月号をお送りします。浅草演芸ホールのトリを勤める一朝さん、新宿末廣亭に出演した雀々さんなどなど・・・稀代の落語”道落者”石井徹也さんによります、超ドレッドノート級の寄席レビューをお楽しみください。
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◆1月2日 新春圓橘一門会(深川東京モダン館)初日
橘也『かつぎ屋』/きつつき『熊の皮』/圓橘『うどん屋』//~仲入り~/圓橘『雁風呂』
★圓橘師匠『うどん屋』
前半、酔っ払いの件が少し短めか。前半は如何にも愛想の良いうどん屋、嫌なとこの
ない酔っ払いの遣り取りが町角のスケッチとして愉しく、後半の店者が袖で口許を隠
してうどん屋を呼ぶ様子の寒夜らしさを含めて、重くなく、暗くならず、情味のある
高座になっていたのは嬉しい。
★圓橘師匠『雁風呂』
淀屋の番頭のみ少し脂濃いけれど、光國公の偉ぶらない貫禄、二代目淀屋の品、雁風
呂の逸話の情味と揃って、やはり圓橘師の佳品。
◆1月2日 上野鈴本演芸場初席第三部
夢葉(交代出演)正雀(交代出演)『紀州』・松尽し/白酒(交代出演)『猿の小噺~笊屋』/紫文(交代出演)/さん喬『時そば』//~仲入り~//壽獅子/燕路(交代出演)『堀の内』/権太楼『雪椿~禁酒中』/市馬(交代出演)『山号寺号』/正楽/小三治『金明竹』
★小三治師匠『金明竹』
序盤、雨の降りだした町角の風景が松公の目で見たスケッチになっているのが素晴ら
しい。向かいの立花屋から猫を借りに来た男の「お~い、松っちゃん!」もこんなに
良い呼び掛けは初めてきいた。その男が「うちの押入れに猫を追い込んじゃって」と
間違えて言った時はヒヤッとしたけれど、何となく曖昧にしてクリア。旦那を呼びに
きた相模屋の妙に冷静な対応も可笑しい。加賀屋の使いも松やかみさんの頓珍漢な対
応に割と動揺せず、愉しそうに口上を告げて去ってまうのが愉快。旦那が帰宅してか
ら、かみさんの言い訳になると、流れがスムーズ過ぎて、スケッチの面白さが後ろに
下がるのが残念。
★さん喬師匠『時そば』
最初の男のひと声からテンションが高く、面白さのレベルが高い。
◆1月3日 新春圓橘一門会(深川東京モダン館)二日目
橘也『つる』/きつつき『寄合酒(上)』/圓橘『夢金』//~仲入り~/圓橘『浮世風呂』
★圓橘師匠『夢金』
勿論、圓生師型。一見、硬めの口調であり乍ら、熊の強欲な正格が単に嫌な奴のそれ
でなく、ちゃんと可笑しさとして現れている所が流石で、だから落語として楽しめ
る。
★圓橘師匠『浮世風呂』
多分、圓生師で聞いて以来の演目だから、35年ぶりくらいに聞いた噺か。江戸っ子
の能天気さをベースに真に洒落て結構な面白さ。都々逸、義太夫の真っ当さ、常磐津
のわざと外すとこ、三助の厄払いもどきの口上と、先日の馬生師の『稽古屋』同様、
こういう噺はちゃんとした師匠に習って、ちゃんとお稽古をされてきた師匠方でな
きゃ面白くも何ともなくなる。
★きつつきさん『寄合酒(上)』
テンションが上がり下がりはしたけれど、「顔の利く店」の無い奴が『化物遣い』
の杢助みたいに無闇と用事を言いつけられる件は物凄く可笑しかった。「乾物屋の悲
劇」も、みんな胡散臭いからキャラクターは可笑しい。
◆1月3日 上野鈴本演芸場初席第三部
夢葉(交互出演)/藤兵衛(交替出演)『かつぎ屋』/白酒(交代出演)『モンキードライバー』/紫文(交互出演)/扇辰(交替出演)『紋三郎稲荷』//~仲入り~//壽獅子/権楼郎『代書屋』/さん喬『時そば』/扇遊(交互出演)『垂乳根』/正楽/小三治『初天神』
★小三治師匠『初天神』
団子と凧。酔っ払いも出ず、金坊が蜜の二度付けもしないシンプルな演出乍ら、親父
が凧上げに熱中する時の無邪気さは小三治落語の至高の瞬間である事に変わりはな
い。今夜は凧の柄が金太郎である事を初めて知ったし、凧の糸目を親父が丁寧に調べ
るのも嬉しい。凧屋が奥から糸を山ほど抱えて出てくるのには笑った笑った。
★さん喬師匠『時そば』
最初のそば屋がそばを拵える様子をあんなに丁寧に演じたのは初めて見た。
◆1月4日 上野鈴本演芸場初席第二部
川柳(交替出演)『バフィー』/ロケット団(交互出演)/馬風『御挨拶』/圓太郎(交替出演)『ジャパン』(漫談)/琴調(交互出演)『誉れの春駒(上)』/カンジヤママイム/百栄(交互出演)『漫談』/喜多八(交互出演)『竹の子』//~仲入り~//猫八・小猫/喬太郎(交互出演)『転失気』/二楽/正蔵『七段目』
※喬太郎師でもりあがるまでの番組のだしなさったらなかったね。これが上野鈴本
演芸場の初席といえるのかしらん。
◆1月4日 第一回ミニミニSWAN(お江戸日本橋亭)
白鳥『天王寺代官斬り』//~仲入り~//白鳥『オーストラリア旅行話』/白鳥『黄昏のライバル』
★白鳥師匠『天王寺代官斬り』
豚次シリーズ第四話。いつの間にか続き物の旅ネタになってる。仁侠物の筋立てに縛
られている割には、仁侠物としての凄味は皆目ないけれど、「弱きを助け、強きを挫
く」という豚次のキャラクターが妙に可笑しいのは強味。
★白鳥師匠『黄昏のライバル』
三題噺で初演したネタとのこと。『聖橋』などにも近い落語界物乍ら、もう少し噺
の整理が必要な印象。まだ、『富Q三三版』みたいなパンチに欠ける。
◆1月5日 劇団★新感線『五右衛門ロックⅢ』(シアターオーブ)
古田新太・蒼井優・三浦春馬・浦井健治・高橋由美子・村井国夫・高田聖子・橋本じゅんetc.
★歌ばっかりでセリフの薄いこと。前半がダレまくり。『五右衛門ロック』シリーズ
の雑化が甚だしい。麿さんが段違いに良い。当たり前かもしれんけど。村井さんはも
ちっと凄味が欲しい。蒼井優は歌えるし体が動くけれど張ると声の子供っぽさが余計
に目立つ。夜長姫は無理か。古田は出番が少なく何もする事無し。勿体無い。浦井と
高橋由美子の歌は段違いにまとも。マジもボケも出来るのは得難い。高田や粟根も勿
体無い組。三浦は動けし歌えるけど、柔弱さがまだ勝つので、向くのはマリウスくら
いかな。これで12500円は高い。
◆1月5日 上野鈴本演芸場夜席
扇遊(交互出演)『浮世床・夢』/正楽/喜多八(小三治代バネ)『藥罐舐め』
★喜多八師匠『藥罐舐め』
可内の「はっ?」が抜群に可笑しかった。おかみさんの色気はやはり無類。侍がお
かみさんを見て自然に言葉つきの変わる辺り、ベストではないが、やはり真似の出来
ない件だ。
★扇遊師匠『浮世床・夢』
年中聞いている演目だが、丁寧でこれだけ出来の良いのは珍しい。若い連中のキワ
キワした遣り取りが実に面白かった。
◆1月6日 第一回柳家小満ん在庫棚卸しの会(橘家)
小満ん『御幣屋』/小満ん『夢の瀬川』//~仲入り~//小満ん『御慶』
★小満ん師匠『御幣屋』
福徳屋の旦那の品の良い「気にしいぶり」も可笑しいけれど、それを店の者や友達が
面白がってからかっている、ちとシニカルな洒落っ気は先代圓遊師や小南師には無
かった愉しさ。
★小満ん師匠『夢の瀬川』
あくまでも若旦那の夢から生じた家内の小騒動といった趣の白さになっている。か
みさんの嫉妬に始まり、若旦那の洒脱さ、親旦那の黒門町的癇癪と、人物像の的確さ
が連鎖してコミカルである。先代馬生師の夢幻のような『雪の瀬川』とは丸で違うけ
れど、江戸前の洒落た小品になっている。
★小満ん師匠『御慶』
易者が如何にもそれらしい。というか四代目的である。八五郎はせっかちな江戸っ子
で、かみさんも釣り合いの取れた軽い愉しさ。大家の落ち着き、友達のカラリとした
江戸っ子ぶりと役者が揃っている。八五郎が八百両の包みを身体中にしまう仕種が目
白そっくりなのに驚いた。「御慶!」の声は目白系の高っ調子(とはつまり團十郎の
“睨み”の音声版、鴬の初音だな)でこそないものの、良い意味でそそっかしい八五
郎の新春らしさがある。
◆1月6日 上野鈴本演芸場初席第三部
紋之助/馬生(交替出演)『笊屋』・初出/のいるこいる/文菊(交替出演)『豊竹屋』/夢葉(交互出演)/正雀(交替出演)『曽我小噺』・松尽し/馬石(交替出演)『鰻屋』/小菊(交互出演)/一朝(さん喬代演)『唖の釣り』//~仲入り~//壽獅子/(交互出演)/扇辰(交替出演)『紋三郎稲荷』/権太楼『町内の若い衆』/扇遊(交互出演)『手紙無筆』/正楽/市馬『二番煎じ』(小三治代バネ)
★一朝師匠『唖の釣り』
序盤カットの省略型。魚の動きを変えたかな?与太郎の可愛さと七兵衛の
「フェッ?」の可笑しさは不変不動。
★市馬師匠『二番煎じ』
初席主任用というか上野主任用というか、いわゆる簡略型。葱食いの騒ぎがなく、
「さんさ時雨」から侍の出に繋ぐ。この表情を変えない強面の侍が独特で賑やかな面
白さを最後にキュッと引き締めるのが今夜最大の特徴。
★馬石師匠『鰻屋』
終盤の鰻掴みになってからの激しい動きは馬鹿に可笑しい。前半も雰囲気がナンセン
スなのが良い。
★馬生師匠『笊屋』
後半だけだけれど、飄々と軽い可笑しさが先代の摩訶不思議な可笑しさとは違う味わ
いを醸し出している。
◆1月7日 東京マンスリー古今亭菊志ん独演会vol.58「十八番作り11」(らくごカフェ)
菊志ん『風呂敷』/三木男『お見立て』/菊志ん『三味線栗毛』//~仲入り~//菊志ん
『宿屋の富』
★菊志ん師匠『三味線栗毛』
正雀師型かな。角三郎が明朗で良い。噺の展開にも無理がなく、錦木と角三郎の友情
の芽生えを序盤の短い遣り取りでちゃんと印象付ける。吉兵衛の作る煮込みうどんも
巧い小道具。長屋で錦木の病気の面倒をみた男が圓菊師みたいで軽くて優しくて愉し
いのも結構。最後の遣り取りは吉兵衛と角三郎でなく、錦木と角三郎が落とし噺ごっ
こで遊んでる方が良いと思う。
★菊志ん師匠『風呂敷』
ニンにはピッタリだし、テンポも悪くないけど、いまいち、面白くなりきらなかっ
た。入れ替えたギャグと兄貴分の知ったかぶりのおかしさ、かみさんの変に感心する
調子、その按配がまだ整合性に欠く印象。
★菊志ん師匠『宿屋の富』
宿屋の亭主が何でも受け入れちゃうおかしな奴なのが抜群に可笑しく、小粋なとこも
あるけど、カラカラと法螺を吹く客の様子との対象が面白い。二番富の男も交えて、
噺全体が軽く、リズミカルに流れて、矢来町以来、一寸重量感過剰になった部分を古
今亭本流取り戻している。
★三木男さん『お見立て』
誰のだろう?小朝師っぽさを感じた。面白いとこもあるのだけれど、杢兵衛大尽に対
する喜助の気持ちが一定してないので、噺がぶれる。「墓参りすべえ」と言われて驚
く件が一番自然で良かった。杢兵衛大尽は泣き出してからが可笑しいけれど、まだ
キャラクターに特徴がある、ってとこまでは行ってない。
◆1月8日 新宿末廣亭第三部
美由紀(交互出演)/柳橋(交替出演)『狸の札』/歌春(桃太郎代演)『九官鳥』/ザ・ニュースペーバー/小柳枝『蟇の油』/栄馬(交互出演)『かつぎ屋』//~仲入り~//遊吉(交替出演)『浮世床・講釈本』/蝙丸(交替出演)『紙屑屋』/東京ボーイズ(交互出演)/左圓馬(交替出演)『漫談』/圓(交互出演)『山火事・柿盗人・鍬盗人』/健二郎(マキ代演)/遊三『子は鎹』
★遊三師匠『子は鎹』
この四年間で三回、遊三師から初席で聞いている演目だけれど、今年の出来が一番良
い。余りマクラを振らず、(中)を軽く振ってサッと入った。張りがあって、先代圓馬
師譲りの筈だが、熊の職人らしさは目白の師匠に雰囲気が似ている。圓生師みたいに
矢鱈と泣くのでなく、却って亀の悲しみ、熊の後悔が深い。鰻屋での熊の詫びの優れ
ている事は御手本。かみさんは「熊に貰った」と聞いて長屋の阿っ母から女っぽくな
る辺りが相変わらず面白い。鰻屋での再会もくどくなく、亀であざとく笑わせもしな
い。今年最初の佳作。
◆1月9日 五街道雲助独演会(にぎわい座芸能ホール)
きょう介『手紙無筆(上)』/白酒『壽限無』/雲助『二番煎じ』//~仲間入り~//雲助『芝浜』
★雲助師匠『芝浜』
運び、細部の演出と真に優れた出来なんだけれど、芝居の『芝浜』なので、かみさん
の調子がズーッと低いのは気になる。ラストで「あたしのお酌じゃ」の調子が明るい
のは救いになる。魚勝は対照的に暢気。「よそう、また夢になるといけねえ」も明る
くて良い。あと、「したじ」と家人に命じて勝が詫びに持参した刺身を食う旦那の良
さはピカイチ。「腕を認める客がいなきゃ良い職人は出来ねェ」という感触がいい。
★雲助師匠『二番煎じ』
雲助師ならではの古風な演出による佳作。一人一人のキャラクターの描き分けが克明
でありながら、全体のまとまりが良く、老人宴会の愉しさがある。半ちゃんののろけ
も明るく、一朝師と並ぶ現代の名品。
★白酒師匠『壽限無』
正月に相応しい演目で、八の如何にも嬉しそうな表情から目出度く、しかもこれだけ
受ける『壽限無』は珍しい。
◆1月10日 新宿末廣亭第三部
ザ・ニュースペーバー/小柳枝『桃太郎』/栄馬(交互出演)『かつぎ屋』//~仲入り~//遊吉(交替出演)『浮世床・講釈本流/蝙丸(交替出演)『一眼国』/東京ボーイズ(交互出演)/富丸(交替出演)『老稚園』/圓(交互出演)『山火事・鍬盗人』/マキ)/遊三『妾馬』
★遊三師匠『妾馬』
終盤稍噺が走り気味だったが、八五郎のキャラクターが能天気な遊び人で真に良い出
来。大家さん、三太夫、殿様まそれぞれに適切で、その中をひたすら能天気な八が
突っ走る。遊三師で伺った『妾馬』では一番の出来。
※小柳枝師以降、富丸師を除いて芸術協会の腕自慢が揃い、寄席らしさを堪能。
-------------------以上、上席---------------------
◆1月11日 柳家さん喬独演会(にぎわい座芸能ホール)
さん坊『つる』/小太郎『だくだく』/さん喬『初天神』/さん喬『按摩の炬燵』//~仲間入り~//さん喬『妾馬』
★さん喬師匠『初天神』
さん喬師のこの噺を凧揚げまで聞いたのは初めてか、二ツ目の頃以来か。凧までやる
と団子の蜜の付け直しは親父しかしないのは先日初席の小三治師と同じ。凧揚げは比
較的シンプルだけれど、そこまでの細かい遣り取りが如何にも親子らしくて愉しいの
は柳家系『初天神』の良さである。
★さん喬師匠『按摩の炬燵』
以前より噺全体の雰囲気が温かくなった。奉公人や米市が体験する研ぎ澄ましたよう
な冬の寒さ主体でなく、米市の酔いを中心に、みんなが身を寄せあって寒さを凌ごう
とする様子が主体で、「活版屋の小僧」も黒門町風にメリハリでは強調されない。番
頭が優しく、米市に対しても遠慮勝ちな言葉に良き人間関係がある。
★さん喬師匠『妾馬』
寄席の主任の時より各場面でほんのちょっとト書きのような場面が加わったり、ほん
の一瞬の間が入るだけだから全く長くは感じないのに五十分。とはいえ、八五郎の能
天気さが如何にも明るく、三太夫・殿様が少し困惑しながら面白く相手をしている雰
囲気が良い。特に、この二年ほどで変化した、八五郎が赤ん坊をあやしているうちに
高まった喜びから「唄でも歌いましょうか」になる流れは、過去の『妾馬』の「一寸
湿っぽくなりましたね、唄でも歌いましょうか」とは段違いの、八五郎らしい演出で
あり、また、目白系の「職人が人物像基本」の『妾馬』に相応しい。今夜はそれを存
分に堪能した。
※古今亭系は人物像の基本が「遊び人・放蕩者」だから、『妾馬』の八五郎像などは
基本的なキャラクターが大きく異なる。
◆1月12日 池袋演芸場昼席
ロケット団/文生『本膳』(文楽代演)//~仲入り~//禽太夫『垂乳根』(交互出演)/一之輔『初天神』/さん生(花緑代バネ埋め)『蔵前駕籠』/猫八・小猫/花緑(小三治代演)『笠碁』
★花緑師匠『笠碁』
呉服屋と醤油問屋の隠居同士にしては如何にも若いけれど、四十年来の知り合いで碁
敵という人間関係の部分に細かく手を入れて面白い。「碁を打たないと人生ってのは
長いもんだ」「もう何年、碁を打たないだろう」もそして番頭の「ヘッ?」の表情が
これだけ面白いのは珍しい。
◆1月12日 池袋演芸場夜席
駒松『道具屋』/小権太『壺算』(交替出演)/柳朝(一朝代演)『転失気』/ホームラン/圓太郎『紀州(前)』/仲蔵『かつぎ屋』/白酒『新版三十石』/寿獅子・太神楽社中/菊丸『宗論』/馬生『猫の皿』/正楽/扇遊『口入屋』//~仲入り~//さん喬『徳ちゃん』/正朝『普段の袴』/我太楼『長短』/志ん橋『海老床』/ゆめじうたじ(のいるこいる代演)/権太楼『火炎太鼓』
※仲蔵師~馬生師は二階で打合せしていて聞かず。
★権太楼師匠『火炎太鼓』
パワフルで、このひたすらエネルギッシュな似た者夫婦の可笑しさが図抜けて可笑
しい。白酒師の構成の巧みさとは全く別種。赤塚不二夫より谷岡ヤスジに近いのに共
謀でない可笑しさは枝雀師よりパワフルなマンガで愉~しい!
※さん喬師『徳ちゃん』、正朝師『普段の袴』と見事に短縮版で、志ん橋師が『海老
床』という、仲入り後に主任前落語四本は幾ら二之席でもそろそろ多い。
◆1月13日 新春東博寄席(東京国立博物館平成館ホール)
壽獅子(菊春)/駒松『笊屋』/馬治『天狗裁き』/菊春『元帳』//~仲入り~//馬生・菊春「操り三番」/馬吉『甲府ぃ』/馬生『百川』
★馬生師匠『百川』
百兵衛や河岸の若い衆のキャラクターをメリハリ強く出して、分かりやすい爆笑編に
仕立てられていた。その間で、サラッと描かれた百川の旦那の洒落っ気と鴨池先生が
妙にマジなのが印象に残る。
★菊春師匠『元調』
典型的な「古今亭のフラの芸」で、寄席落語の典型みたいな面白さ。
◆1月13日 第258回小満んの会(お江戸日本橋亭)
さん坊『六銭小僧』/小満ん『ひと目上り』/小満ん『田能久』//~仲間入り~//小満ん『紺屋高尾』
★小満ん師匠『ひと目上り』
前半に入る賛や詩が通常の演出と違う。悟に地獄太夫が出てくるのは誰で聞いたん
だったかな。目白の『ひと目上り』より、八五郎は遥かに能天気で、隠居・大家・医
者インテリ度が高く洒落の分かる人で、全体の雰囲気は四代目っぽい。
★小満ん師匠『田能久』
オチのシニカルさが可笑しく、久兵衛を狸と間違える蟒が間抜けなのが愉しい。半
面、峠の小屋の前半に不気味さ・怖さが欲しい。
★小満ん師匠『紺屋高尾』
最近では珍しいくらい、圓生師匠ほぼそのまんまの演出ではあるけれど、語り口は全
く違い、余り人物像を掘り下げず、廓噺系人情落語というよりは、ハッピーエンドの
廓エッセイを聞いてるような雰囲気。廓に久蔵が行くのが二月十五日というのは初め
て聞いた(年季明けも二月十五日)。「パチンコでも行きなまし」「三菱東京UFJ銀
行の預金で一億五千万」といった圓生師の下らなくいギャグが妙に浮いてるのだけれ
ど可笑しい。
※圓生師の頃は「三菱銀行の預金で」だったかな?
◆1月14日 三三・吉弥の会(紀伊國屋サザンシアター)
雀五郎『池田の牛褒め』/吉弥『にょろにょろ』/三三『近日息子』//~仲入り~//三三『転宅』/吉弥『抜け雀』/三三・吉弥「アフタートーク」
★三三師匠『近日息子』
ネタ卸しとの事だが、演ってなかったっけ?序盤から随分と工夫を足した分、意外と
息子の出番は少なく、親父や町内の連中が翻弄されるのが可笑しい。特に矢鱈とマジ
な医者の面白さは出色。
★三三師匠『転宅』
マジボケな泥棒のキャラクターが良い形で小三治師を継承しつつある。
★吉弥師匠『抜け雀』
ネタ卸しとの事。上方では勿論、米朝師のを聞いているが、米朝師的に理詰めの展
開。それだけに宿屋夫婦、絵師親子、いずれもキャラクターの方向が定まっていない
印象なので、古今亭型を聞き慣れていると、まだ硬さを感じる。特に絵師親子。聞い
ていて眠くなった。
★吉弥師匠『にょろにょろ』
自作新作。銭湯で裸体でキャッチボールしている可笑しさと終盤、妙に「良い話」に
収束してしまう辺りがアンバランス。
◆1月14日 新宿末廣亭二之席夜席
まるこ『平林』/美智美都/はん治(交替出演)『ボヤキ酒屋』/左橋『お花半七』/扇遊『肥瓶』/猫八/燕路(喬太郎代演)『堀の内』/雲助『子だけ褒め』/権太楼『代書屋』/のいるこいる/小満ん『時そば』/金馬『権兵衛狸』//~仲入り~//壽獅子/小袁治『長短』/一朝『芝居の喧嘩』/小燕枝(さん喬代演)『権助提燈』/正楽/小三治初天神『』
★小満ん師匠『時そば』
最初の男が言う「おまえとは長く付き合いたいねェ」がドッと受けたくらい、見事に
聞き込ませた佳作。
★金馬師匠『権兵衛狸』
「ゴ~ンベイ~」の素晴らしい長閑さに酔う。彦六師匠の「ゴンベイ」より良いかも
しれない。
★小燕枝師匠『権助提燈』
権助のからかいぶりに張りがあって抜群の可笑しさ。
★小三治師匠『初天神』
先日の上野初席より少し短め(上野では珍しく前の家のおじさんへの告げ口が入った
分、序盤が長め)。団子と凧だけだが、怒ったり困ったり七面鳥みたいに表情のクル
クル変わる親父とか、親子に困らされる団子屋とか、みんな面白い。
◆1月15日 立川生志落語会「第25回生志のにぎわい日和」(にぎわい座芸能ホール)
生志『看板のピン』/生志『垂乳根』//~仲間入り~//紋之助/生志『紺屋高尾』
★生志師匠『看板のピン』
親分の感じが変わり、還暦過ぎにしては若く、割と格好良く、気っ風の良い感じに
なった。主人公が二度目の賭場で「賽が外に出てるよ」と指摘されて慌て、「分から
ねェ分からねェ」と目を瞑り、耳を塞いで誤魔化すは可笑しい。
★生志師匠『垂乳根』
初聞の演目。八五郎キャラクターや隣の婆さんの面白さに対して、嫁さんは硬さが些
か暗さを伴っているのは不思議。上方風に、夜中に「階老同穴」の件が入るのは東京
では珍しい。
★生志師匠『紺屋高尾』
マクラ無しで少し急ぎ足で噺に入ったせいだろうか、序盤が流れ気味。「紺屋の職人
では」を親方の前で薮井竹庵が(家元が竹内嵐石から変えたのは何故だろう)口にする
のはやはり乱暴。久蔵の告白が翌朝なのは一つの型だけれど、亭主ならこその初会か
らの枕の方が情は深まる。夜中に藍に染まった手を見て知る利かなくなるけど。久蔵
の告白も人情噺っぽさを増したか。高尾の優しさは相変わらずの良さ。「眉毛落とし
て歯に鉄漿染めて」も型だけれど、婚礼前にこの姿はさて?丸髷までで止めたい。
※圓生師の『紺屋高尾』はまだ落語の要素が強いけれど、家元型は基本的に笑いの入
る人情噺になっている。生志師も以前はもう少し落語寄りだったと記憶するが。『幾
代餅』が殆どの場合人情噺にならないのは、志ん生・先代馬生・志ん朝三師の気骨の
故か。最近のさん喬師の『幾代餅』の明るさもね。
◆1月16日 第31回白酒ひとり(国立演芸場)
さん坊『小町』/白酒『花筏』/白酒「アンケート読み」/白酒『喧嘩長屋~天災』//~仲入り~//白酒『妾馬』
★白酒師匠『花筏』
マクラが長過ぎたのか、主人公が誰だか曖昧な感じの高座になった。『白酒・甚語楼
の会』で演じた時の千鳥ヶ浜と親父の二人が、勝手に勘違いして行く面白さに溢れた
会話も、今夜はただの説教になっていたのが残念。
★白酒師匠『喧嘩長屋~天災』
『天災』は昨年末から四回目くらいだけれど、名丸と八五郎の会話がどうしてもダレ
る。名丸が平然と楽しんで受け答えをしてないからなァ。その代わり、鸚鵡返しに
なってからの可笑しさは素晴らしい。名丸と八五郎の遣り取りを刈込み過ぎてるのか
もしれない。因みにマクラ噺として簡潔に演じた『喧嘩長屋』はキャラクター作りの
巧さで、抜群に面白い。十五分の寄席ネタに延ばして聞きたい。
★白酒師匠『妾馬』
雲助師が志ん生師とも先代馬生師とも志ん朝師とも違う八五郎像や展開、セリフを工
夫して、今や一朝師・さん喬師と並ぶ当代の『妾馬』を作ったものを、白酒師はまだ
受け継いでいる段階だから、面白いけど上なぞりがまだ多く、本当の「本息」の高座
ではない。「図抜けた所」の無いのは仕方ない。いずれ、古今亭系の『妾馬』は白酒
師が背負うだろうけれど。
◆1月17日 月例三三独演新春公演初日(イイノホール)
一蔵『短命』/三三『五目講釈』/白鳥『豊志賀ちゃん~オリジナルヴァージョン』//~仲入り~//三三『三井の大黒』
★三三師匠『五目講釈』
ギャグの入れ換えはされているけれど、基本型が流れてきている印象。
★三三師匠『三井の大黒』
まだ、職人気質と俳人気質がごっちゃになった甚五郎で、「アイヨ」の返事の味がク
ドい。先の『ねずみ』を考えると甚五郎の作りが老け過ぎているのでは?政五郎もま
だ若さがでて、気負いと職人気質の違いが曖昧。目白の師匠の『大工調べ』の棟梁が
目標となるべきか。
※『芝浜』同様、甚五郎物にも三代目三木助師の幻影が大き過ぎるなァ。幻影に惑わ
されない、今の扇辰師の甚五郎、政五郎の面白さ、凄さを改めて感じる。
★白鳥師匠『豊志賀ちゃん~オリジナルヴァージョン』
久々の「ミミちゃんシリーズ」オリジナルヴァージョン。但し、女性噺家さんの名
前だけは初演から変えてあった(後半も若干違う)。稍、全体が手慣れてきた分、馬
鹿馬鹿しさが薄れて中ダルミするなァ。
◆1月18日 第114回関内小満んの会(関内小ホール)
駒松『子褒め』/小満ん『三助の遊び』/小満ん『探偵うどん』//~仲入り~//小満ん『阿武松』
★小満ん師匠『三助の遊び』
なるほど、志ん生師があの顔で演ったら、そりゃ三助らしくて可笑しいだろう。とい
う按配に廓の回し部屋に入ってからの一喜一憂は愉しかったけれど、古金亭の口演と
比べると序盤の路上での幇間との遣り取りが軽快でなかったのは残念。
★小満ん師匠『探偵うどん』
高橋辺りにうどん屋のいる明治の冬の情景は出ていて興味深いけれど、人物像の面で
泥棒のらしさ、胡散臭さが意外と不足。半面、最初に出てくる巡査が如何にも明治と
いうか、ポンチ絵っぽくて無闇と愉しい。
★小満ん師匠『阿武松』
珍しく調子を張りっ放しの高座だった。錣山の貫禄は見事なんだけれども、長吉の田
舎者の切なさが乏しいのは残念。錣山の家の敷居にピタッと必死で手をつく長吉の
姿、思いがイマイチ浮かばなかった。また、家元のように「一つ打ちます国の始ま
り」の言い立てがないので、噺に些か尻すぼみの感があるのは演出の問題である。
◆1月19日 柳家さん喬独演会vol.19(江戸深川資料館小劇場)
さん坊『道灌』/喬の字『幇間腹』/さん喬『大工調べ』//~仲入り~//さん喬『粗忽の釘』/さん喬『抜け雀』
★さん喬師匠『大工調べ』
通し。若手花形落語会で日替りで『大工調べ』を演る企画があったような気がするけ
れど、些か記憶が曖昧。少なくとも、その後にさん喬師の『大工調べ』を聞いた記憶
はない。近年殆ど聞かない演目。そのせいもあってか、全体に語りも硬め。大家の因
業な雰囲気はあるけれど、棟梁が落語の職人としては稍、大家相手の調子が最初から
強い。与太郎はまず普通の出来。奉行の配慮に棟梁が喜ぶ笑顔が良かった。大家の畏
れ入り方は人情噺的。もう少し続けて口演して戴き、ほぐれた所を聞きたい。
★さん喬師匠『粗忽の釘』
二ツ目から若手真打の頃は良く聞いた噺で、78年か79年頃にNHKでオンエア
した音は持っている。けれど、長井好弘氏著の「新宿末廣亭のネタ帳」のさん喬師の
項目にも登場しないから、確かにこれも久し振りの演目なんだね。かみかんの怖さが
可笑しい。主人公は前半がボワッと地味な粗忽者だが(人物像はちゃんと粗忽たが職
人っぼさは弱い)、かみさんとの惚気話で次第にテンションが上がってくると可笑し
さが前に出てくる。全体にギャグの少ない、人物像中心のシンプルな演出だけれど、
目白の雰囲気はある。「我忘れ」のオチを間違えて何だか分からない終わり方をした
のは久々口演の御愛嬌。
★さん喬師匠『抜け雀』
おそらく、一番長いヴァージョン。宿の主を甚兵衛というより、グズに近くした演出
で、若い絵師が多少闊達なくらいで、噺全体にはメリハリを殆どつけないから、古今
亭型の派手な笑いはないけれど、ジワリジワリと面白く、終景の主のセリフで「柳家
系人情落語」としてちゃんと成立する。「浜松町かもめ亭」で口演された時、脇で聞
いていた前座さんが感激していたのを思い出す(この噺で感激したのは私もさん喬師
しか経験が無い)。老絵師の柔らかな、侍より教養人を感じさせる雰囲気も独特。こ
れも笑わせるための細部より、人物像を柔軟に描く意図で為された高座だと思った。
一朝師匠、雲助師匠、さん喬師匠と、それぞれに全く持ち味の違う『抜け雀』が聞け
る時代に生きているのは幸せである。
※喬の字さんがマクラで「さん坊はまたかと皆さん想う『道灌』で」と言っていた
けれど、さん坊さんで圧倒的に多く聞いているのは『六銭小僧』、つまり『真田小
僧』の前半で、私は『小町』は聞いたことがあるけれど、『道灌』は多分、初めて聞
いた。脇でそんなに演っているのかな?寄席で前座さんが『道灌』を出すのは受けな
いから結構難しい。
◆1月月20日 上野鈴本演芸場二之席夜
さん坊『六銭小僧』/喬之進(交互出演)『ひと目上り』/ダーク広和/喬之助(交互出演)『短命』/一之輔(さん生代演)『加賀の千代』/にゃん子金魚/彦いち『睨み合い』/白酒『粗忽長屋』//~仲入り~//小菊/琴調『赤垣徳利の別れ(下)』/ホームラン/喬太郎『ハムバーグが出来るまで』
★喬太郎師匠『ハムバーグが出来るまで』
完全な、かなりの風邪声。腰にもう一本の扇子をじさんしていた辺り、『ハムバー
グ』決め打ちかな。ザッと一杯の夜席、寒さの募る中では主人公の甘さと体験するホ
ロ苦さ、その日常的な交錯が相応しく感じる。
★白酒師匠『粗忽長屋』
緻密な人物構成で面白さは今夜のダントツ。
★琴調先生『赤垣徳利の別れ(下)』
情感の深さでは紺屋のダントツ。
※白酒師から後はキリッとした高座が続いて面白かった。
--------------------以上、中席----------------
◆1月21日 浅草演芸ホール昼席
和楽社中/歌る多『金明竹(下)』/伯楽『親子酒』//~仲入り~//柳朝(勢朝代演)『権助魚』/にゃん子金魚/喜多八『竹の子』/正朝『手紙無筆(上)』/小菊/一朝『四段目』
★一朝師匠『四段目』
昨年から久し振りに棚卸しされたネタとのこと。定吉が四段目まで観てきた設定で、
旦那が仕掛けるのは三段目の道行きに猪が絡み、獅子の中には上方の成駒屋と音羽屋
という引っ掛けである、お清が蔵の前を通らず、定吉は蔵の中で旦那が豆まきに着た
裃を着けるなど、かなり演出が『蔵丁稚』系の『四段目』と違うが、圓生師系か、は
たまた先代馬の助師辺りの出自かな?(そういえば、圓彌師の『四落目』も聞いた事
がなかった)。判官切腹の手順は丁寧だけれど、力弥の芝居の合間にギャグが入った
りするのも初耳もの。久々だからか、芝居掛かりが丁寧で稍長めな分、笑いが部分的
にが下がる所もけれど、定吉の可愛さ、芝居掛かりの巧さ(「謀る謀ると思いしに」
の良さ)と、レベルの高い『四段目』である。最初の「まちかねた」が何とも良くて
「音羽屋」と声を掛けたくなった。
◆1月21日 第28回ぎやまん寄席湯島編「百栄・一之輔ふたり会」(湯島天神参集殿一階ホール)
つる子『元犬』/一之輔『初天神』/百栄『御血脈』//~仲入り~//百栄『鼻欲しい』/一之輔『味噌蔵』
★百栄師匠『鼻欲しい』
前半がことのほか馬鹿馬鹿しく可笑しい。鼻っ欠けの調子で喋ると何故か圓生師の喋
り方に似てくる。後半、鼻っ欠けの調子が段々普通に戻って来たのは惜しい。
★一之輔師匠『味噌蔵』
赤螺屋主人の特異な性格が似合って前半が可笑しい。主人が赤ん坊の祝いに出た後、
奉公人の酒盛計画があり、主人が戻って戸の節穴から中の乱痴気騒ぎを覗いた後、
酔った奉公人たちの愚痴噺が挿入され、主人の帰宅になるが、噺が行ったり来たりす
るし、帰宅した主人の怒りからサゲまでの流れに凹凸が出来る。その辺り、まだ構成
力の不足を感じる。
※前半『初天神』と『御血脈』で70分弱。仲入り後二席で50分前後。演者は二人
とも早くからはいっていたから繋ぐ必要もなかったと思うが。如何にも前後のバラン
スが悪い。18時45分開演の意味を感じない。『初天神』など、マクラ沢山にする
なら、凧まで聞きたい。『御血脈』も妙に平坦でダラダラしていた。
◆1月22日 浅草演芸ホール昼席
にゃん子金魚/喜多八『ラブレター』/正朝『町内の若い衆』/小菊/一朝『転宅』
★一朝師匠『転宅』
三田落語会で昨年かな、聞いたのが久し振りの演目。フワフワした泥棒の調子に時
折、矢来町のキレの混じるのがステキに面白い。妾もちゃんと怖がってから、舐めて
かかりだすが、口調が可愛いので嫌らしくないのも結構。煙草屋の軽さがまた良い。
◆1月22日 新宿末廣亭夜席
雀々『鳥捕り』/南なん『短命』//~仲入り~//とん馬『鮑熨斗(上)』/チャーリーカンパニー/金遊(歌春代演)『小言念仏』/小柳枝『粗忽長屋』/喜楽喜乃/茶楽『品川心中(上)』
★茶楽師匠『品川心中(上)』
相変わらず艶のある出来。徹底的に間抜けな金蔵に、お染が心中を持ち掛ける偽りの
セリフの中にチラッと本音のあるのが味わい。最後に登場した立森先生って名は誰
だ?
★雀々師匠『鳥捕り』
『鷺取り』前半の雀捕りだが、こういう明るさと枝雀師系の馬鹿馬鹿しさは芸術協会
の寄席に貴重。
◆1月23日 浅草演芸ホール昼席
伯楽『親子酒』//~仲入り~//勢朝『漫談』/にゃん子金魚/ひな太郎(喜多八代演)『代書屋』/正朝『金婚旅行(小噺)』/小菊/一朝『妾馬』
★一朝師匠『妾馬』
八五郎が誰よりも「らしく」て、殿様が一寸短気っぽいのが良くて、三太夫が情のあ
る厳めしい侍なんだから文句のあろう筈がない。
◆1月23日 春風亭一之輔独演会vol.5 一之輔のススメ、レレレレレレ。(イイノホール)
こはる『黄金の大黒』/一之輔『初天神』//~仲入り~//ナオユキ/一之輔『鼠穴)
★一之輔師匠『初天神』
珍しく凧揚げまで。凧揚げまでは「悪魔の親子関係」編で、親子の強烈なキャラク
ターをいつもよりユッタリと。団子の最後で親父が「親子だな」という辺りから雰囲
気が変わり、凧揚げは「似た者親子親睦編」。こちらは寧ろ短めなくらいだけれど、
似た者親子のキャラクターの面白さは前半と違い素直に出ている。
★一之輔師匠『鼠穴』
年末から立て続け。圓生師的なメリハリと違い、淡々と演じてもダレない口調は持っ
ているけれど、淡々を面白くして観客を引き付ける工夫がまだなかったりして、筋頼
りの展開だから噺のアラが見えてしまう。例えば、「兄貴は田舎から出て何年でこの
身代を築いたのか?」「竹次郎が十年で大店の主になれたのは何故か?」(家元はそ
こは考えてあった)etc.端的に言えば、たこ平さんの『鼠穴』のように、兄貴も
竹次郎も一之輔師ならではのキャラクターや存在感がまだ皆目見えてこない。気をつ
けないと「お局好み」になりかねない演目。夢の中の兄貴の理不尽が出ないのは、一
之輔師が理不尽でない証拠だけれど、淡々としても理不尽でないと噺としては面白く
ない。この噺は演者を物凄く選ぶねェ。
◆1月24日 浅草演芸ホール昼席
和楽社中/歌る多『熊の皮』/伯楽『お花半七』//~仲入り~//勢朝『バレ小噺』/にゃん子金魚/喜多八『小言念仏』/正朝『紀州』/小菊/一朝『野曝し(上)』
★一朝師匠『野曝し(上)』
えらく久し振りに訊いた演目。それだけに、釣り場になってからの八五郎にハネ切ら
ない時もあったかけれど、基本は矢来町で、そこに尾形清十郎や釣り人の的確なキャ
ラクター表現があり、八五郎が軽く軽く大馬鹿で、「サイサイ節」などは本格と来て
いるから、又もや凄いスタンダードが生まれそう。
★喜多八師匠『小言念仏』
妙にハイテンションな高座だった。
★正朝師匠『紀州』
喜多八師匠のハイテンションを見事に鎮めて、場内を落ち着かせたのには感心。
◆1月24日 新宿末廣亭夜席』
真理(ぴろき代演)/雀々『蟇の油』/南なん『辰巳の辻占』//~仲入り~//とん馬『猿の小噺~他行』踊り・かっぽれ/チャーリーカンパニー/歌春『鍋草履』/小圓右(小柳枝代演)『湯屋番』/喜楽喜乃/茶楽『寝床』
★茶楽師匠『寝床』
前半を軽めに運んで、機嫌直りは「あたしが伊達大夫に似ている?」が愉しく、終盤
に「どうせあたしは下手です」を回して、テンポ良く面白い。
★雀々師匠『蟇の油』
物凄く枝雀師的馬鹿馬鹿しさ溢れて爆笑。但し、次の南なん師匠は大連日変だね。
◆1月25日 浅草演芸ホール昼席
歌る多『片棒(上)』(娘版)/伯楽『お花半七』//~仲入り~//勢朝『漫談』/にゃん子金魚/喜多八『旅行日記』/正朝『から抜け』/小菊/一朝『壷算』
★一朝師匠『壷算』
一朝師の『壺算』でも、これだけ出来の良いのは珍しい。瀬戸物屋の主人がごくまと
もに喋っているのだけれど、明らかにとぼけている。そのセリフの按配が絶妙に面白
い。買い物に来た二人が喧嘩を始める辺りも可笑しいが、兎に角、瀬戸物の主が普通
の話し方をしているうちに、どんどん混乱の度を増して行くのが愉しく、騙しに掛か
るのが中心になる『壷算』と全く印象が違うのに驚く。瀬戸物屋のキャラクター造形
力が違うのだ。
★歌る多師匠『片棒(上)』
娘版。長女次女。長女の「第一章」も面白いし、次女のセンター街のネエちゃん系
祭り好きも可笑しい。『魔法使いサリー』のよっちゃんやサザエさんみたいなマンガ
チックな面白さはやはり傑出している。次女の最後を弔辞から客席合体の三本締めで
切る辺りは、「芸人だなァ」という頼もしさすら感じちゃう。
★正朝師匠『から抜け』
こないだの「金婚旅行」の小噺といい、ちゃ~んと受けて、でも受けさせ過ぎず小
菊師匠に繋ぐという、ヒザ前の御手本みたいな高座である。一寸前までの一朝師の
「寄席のユーティリティープレーヤー」ぶりを完全に継承している師匠だね。
◆1月25日 新春落語教育委員会(伝承ホール)
コント「殉職」/一蔵『猫と金魚』/喜多八『薬罐舐め』//~仲入り~//喬太郎『小政の生立ち』/歌武蔵『胴斬り』
★喜多八師匠『薬罐舐め』
今夜は、このネタとして物凄く良い出来とは言わないけれど人物造形が盤石。
★喬太郎師匠『小政の生立ち』
今日もまだ凄い風邪声。その風邪声とは関係なく、ストーリーとしては十分面白いの
だけれども、喜多八師と歌武蔵師の間に挟まっていると、ストーリーテリングから先
の面白さが希薄に感じる。特に、政吉の人物が類型的に私は感じた。次郎長は独特の
暗さが一寸あるのが面白いのだけれど…喬太郎師に限らず、筋を離れてキャラクター
が立ち難いのは圓朝物や、聞き心地を重視する講釈ネタの弱味なのかな。五代目の貞
丈先生の講釈に近い「巧いけど物足りない」を私は感じる。
★歌武蔵師匠『胴斬り』
長めのトリ用サイズ。十八番とはいえ、胴斬りにあう竹も脚も又兵衛もキャラクター
が如何にも落語で明るく暢気で、リアクションがおおらかで、仕科が抜群に可笑しく
て愉しいナンセンス快作。上と下が奉公に出てから『犬の目』をマジに取られた話を
挟んだけれど、時間繋ぎかなァ。『胴斬り』自体が受けてない雰囲気ではなかった
し。
★一蔵さん『猫と金魚』
番唐と主人の遣り取りのおかしさはステキである。初代権楼頭師の可笑しさを、奇
矯でなく、静かなマジボケに転回しているのがいい。いわば、「間抜けなコメディに
なっている小津安二郎作品」みたいである。その半面、頭が登場してから、特に湯殿
に頭が入ってから、面白さが尻窄みになるのは惜しい。
◆1月26日 柳の家に春風が「市馬・三三・一之輔三人会」(大田区民ホール・アプリコ)
市助『ひと目上り』/三三『妾馬』//~仲入り~//一之輔『雛鍔』/市馬『二番煎じ』
★市馬師匠『二番煎じ』
一朝師や雲助師と比べちゃいかんけれど、旦那個々の人物像が些か曖昧なのと、最初
から馬鹿に仲良しなのが味わいとして弱い。個々の違いが良いの中で溶け合う流れが
欲しい。全体の聞き心地は十二分なのだが。侍は相変わらず立派。
★三三師匠『妾馬』
井戸替えのお鶴捜しから八五郎の酔態まで45分弱か。雲助師型を部分的に取り入れ
て全体が明るくなったのは目出度い。無駄な感情表現がなく、八五郎の酔態になって
も湿度を増さない。「オフクロが泣いてやがる」でなく「オフクロがブツブツ言って
やがる」など言葉の選択も良く、殿様もマジボケで愉しい。無理に都々逸へ行かず、
「母親もいずれ呼び寄せるであろう」から御老女をからかう件に繋げるのも良い工夫
である。雰囲気は「品川の圓蔵師匠の『妾馬』」か。
★一之輔師匠『雛鍔』
金坊が半ば与太郎みたいな調子で親父をからかっている演出は初めて聞いた。親父は
なかなか職人風が似合うになってきたのは芸系か。隠居と親父の遣り取りになると陰
気にならないのは良いがまだ会話としてまだもたず聞きダレする。
◆1月26日 新宿末廣亭夜席
ぴろき/雀々『動物園』/南なん『道具屋』//~仲入り~//文月(とん馬代演)『眼鏡泥』/チャーリーカンパニー/歌春『大人褒め』/伸治(小柳枝代演)『初天神』/喜楽喜乃/茶楽『芝浜』
★茶楽師匠『芝浜』
持ちネタにあるのは知っていたけれど、漸く聞けた。それも末廣亭で聞けたのは嬉し
い。家元型と三木助師型の折衷か。とはいいながら、少なくとも家元より良い人情落
語の『芝浜』である。一朝師ともひと味違う面白さを感じる。かみさんに最も特徴が
あり、どちらかと言えばかみさんが主人公に聞こえる所がある。第一、『芝浜』でこ
れだけ色気のあるかみさんは一寸いない。財布を拾ってきた亭主に、かみさんが残っ
た酒を勧める件から、色気の中に智恵を感じさせる。利口なんじゃなく、貧乏人の智
恵を感じさせてくれるのが良い。亭主は至って普通の落語国の職人で、芝の浜で夜明
けの描写などもあるが、妙に文藝的に言葉が落語から浮くようなことはない。大晦
日、「働かなきゃいけねェ」なんて教訓臭いセリフもなく、無事に年を越せる喜びを
亭主が語る。「酒なんてのは癖のもんだ。呑まなきゃ呑まないでいられる」のセリフ
がキーワードになるのは後になって分かった。「もう見せなきゃ」と思っていたかみ
さんが財布を出す。ドラマティック過ぎないままかみさんの告白は終始して、亭主が
赦した後ね「ぶたれるかと思ってた」程度のセリフで勘定表現に芝居掛かる大仰さは
ない。亭主もすんなりと赦す。ドラマティックないのだけれども、遣り取りを聞いて
いてジンワリと涙が出るのは茶楽師でいえば『子は鎹』と雰囲気が似ている。「機嫌
を直して貰おうと思って」と酒をかみさんかせ出すが、亭主はあくまでも落語国の職
人で、「あたしのお酌じゃ」なんて嫌なセリフはなく、「よそう、また夢になるとい
けねェ」が落語らしい洒落たセリフに聞こえるのは流石である。一朝師、権太楼師と
並ぶレベルの『芝浜』だ。
※浅草昼席の一朝師、新宿夜の茶楽師と聞いてて結構で仕方のない半面、下の世代
の噺が物足りなくもなる。
◆1月27日 第43回特撰落語会菊之丞・白酒ふたり会(江戸深川資料館小劇場)
つる子『元犬』/菊之丞『死ぬなら今』/白酒『笠碁』//~仲間入り~//白酒『喧嘩長屋~粗忽長屋』/菊之丞『芝浜』
★菊之丞師匠『死ぬなら今』
鬼が「(賄賂が入ったし)節分のアルバイト、止めようと思う」とボヤく等、適度に
入れ換えて面白さをキープ出来るネタになってきたのは喜ばしい。
★菊之丞師匠『芝浜』
菊之丞師の『芝浜』は初耳かな。雲助師型がベースか。雲助師の演出自体が演劇っぽ
い世話噺で、菊之丞師の場合、更にアクセントのつけ方が強いから、クドさを感じ
る。芝の浜で財布を拾う話を現実・魚勝の話・二度目に目覚めてからと三度繰り返す
のは無駄に感じるし、かみさんが一々科を作って喋るのもまだ鬱陶しい。杉村春子が
新派に客演したみたいである。科を作っても良いけれど、それがまだこなれていな
い。かみさんの「あん時ゃ苦しかったねェ」など、似合うセリフもあるけれど、菊之
丞師の世界というにはまだ借り物めく。
※この冬、何度目の『芝浜』か。この噺は「野暮な夫婦の噺」だと私は思うが、野暮
を承知で世話狂言から逆輸入した人情噺にするのか(人情噺にする方が些か楽だと思
うが、落ち着き所は難しい)、野暮を洗い上げて洒落たオチに相応しい落語にする
か、そのどちらかなのではあるまいか。「良い人情噺」だと思われて演じられるのが
一番私にはかなわない。
★白酒師匠『笠碁』
先代馬生師型をベースに、少しずつ自分の噺に変えてきている。旦那らしさは兎も
角、「人間の可笑しさと可愛さ」を描く意味では先代馬生師の了見をちゃんと受け継
いでいるなァ。
★白酒師匠『喧嘩長屋~粗忽長屋』
『喧嘩長屋』に通りすがりの宣教師が登場したのは笑った。『粗忽長屋』も細部が変
化しながらの爆笑編で何より「変な二人」なのが相変わらず愉しい。
◆1月28日 柳家三三独演会「春」(なかのZERO小ホール)
三木男『だくだく』/三三『しの字嫌い』/三三『三人無筆』//~仲入り~//三三『三味線栗毛』
★三三師匠『しの字嫌い』
安定している。旦那が性質は余り良くないけれど、意地悪でないのが良い。やはり
十八番。
★三三師匠『三人無筆』
熊が現れてからに工夫が増えて、サゲ際がトーンダウンしなくなったのは嬉しきこ
と。字を書いてくれるのが易者の先生なんで、それがサゲに絡むかと思っていたが。
「あたしたちも此処に来なかった事にします」のサゲはまだ曖昧。「よくそう嘘を並
べられるね」「筆は立たないけど口は立ちます」とかは駄目かな。
★三三師匠『三味線栗毛』
何度も聞いている演目だけれど、今回初めて、大きく人物像を変えて非常に良く
なったのに驚いた。序盤、角三郎の境遇紹介に無駄な説明がなく、町人に「酒井の馬
鹿様」と言われても柳に風と受け流す辺りがまず結構。錦木に「御身内、それとも御
家中で?」と問われた際も口ごもったりせず、常よりマジな表情で「家中だ」と答え
たセリフによって角三郎の哀しみを言外に現したのには仰天した。「角三郎様が大名
になれますよう、朝晩、神棚にお祈りを申しましょう」のセリフで錦木の人柄も出
る。角三郎の出世を知らず、小雪のちらつく中、病み上がりの錦木が角三郎のいた屋
敷を訪ねてはみたものの、門が閉ざされ、返事もない有り様に、「浮世に見放された
ように思い、うちに戻ってから枕も上がらなくなります」の件で、時間経過を上手く
描き、同時にちらつく雪を巧く使って情趣を出したのも結構。長屋の隣人から角三郎
の出世を聞いた錦木が「検校、検校」とだけ呟いて大手の屋敷を訪ねるのは、やはり
前に角三郎の出世を喜ぶ件が欲しいと思うものの、広間の真ん中に病み衰えた体でポ
ツンと座った錦木が、角三郎から「あの折の約束、覚えておるか?」と問われ、「忘
れました」と呟く。角三郎が「儂は覚えておるぞ」、この簡潔な遣り取りには思わず
グッと来た。三三師がこういう風に人情を描けるとなると千人力だなァ。終盤、検校
となった錦木と角三郎の「三味線栗毛」を巡る遣り取りも、大名と検校でなく、あく
までも大塚傾城ヶ窪時代の「友達」らしさそのままの洒落た遣り取りになっているの
が素敵で、錦が『妾馬』の八五郎の丁寧版みたいな口調になると、三郎がそれを見て
「まだ(屋敷)言葉になれておらぬの」と微笑するという件も、「こういう風に噺を捉
えられるんだ!」と嬉しくなる。寒夜の中、「来て良かった」としみじみ思えた一
席。
◆1月29日 浅草演芸ホール昼席
和楽社中/歌る多『金明竹』(骨皮抜き)/伯楽『お花半七』//~仲入り~//勢朝『漫談』/笑組(にゃん子金魚代演)/喜多八『代書屋』/正朝『普段の袴』/小菊/一朝『黄金餅』
★一朝師匠『黄金餅』
矢来町型を稍簡略化してあるが軽快に。西念の死に方から最後の骨上げまで、終始軽
妙なスラップスティック。しかも、軽妙を前面に出さないのがキザでなく良い。
◆1月29日 新春市馬落語集(北とぴあ・つつじホール)
市助『子褒め』/市馬『茶の湯』//~仲入り~//市楽『お菊の皿』/市馬『うどん屋』
★市馬師匠『茶の湯』
今まで市馬師から聞いた『茶の湯』で一番丁寧かもしれない。序盤、腹を下した隠居
と定吉が彦六師みたいな声で遣り取りする件が矢鱈と可笑しい。悠長で根岸の隠居所
らしさも強まる。定吉は序盤しか顔を出さないけれど結構な、典型的な小僧で良いも
の。隠居はこの噺の展開では稍性格が素直すぎるかな。素直なので「抹茶」を知らな
いなど、噺の作りのアラを感じてしまう。長屋の三人では手習いの師匠が一番それら
しく、心得のなさを誤魔化そうとするセリフの辺りも面白い(長屋の三人は職種が違
うので全部良い演者は珍しい)。青黄粉に椋の皮を呑んでも、隠居以下の全員が大騒
ぎしないのは却って「見栄の可笑しさ」を言外に感じさせる。長屋の三人から利休饅
頭、最後の客まではトントン運び、利休饅頭で客が減ったのも抜き。これくらいの方
がほどが良い。オチの百姓の表情は南喬師とかにまだ遥か及ばず。「シニカルで馬鹿
馬鹿しい」という面白さへ至るまでには、妙に自然食過ぎるように感じた。
★市馬師匠『うどん屋』
真に全うに目白型の力演(力演に見せるほど野暮な師匠ではない)。「なんたら愚痴
だえ」などは声の良さで三代目的な良さだろう。但し、冒頭の「鍋焼きうど~ん」は
そば屋風に粋で、割れ鐘みたいな野暮の愉しさには乏しい(声が良すぎる)。うどん屋
は普通の夜商人。酔っ払いは鬱積や孤独感が人間の魅力や面白さに転じる良さはまだ
出ないから「情」の感覚は弱いけれど、一寸怖もてな顔の「良き人」で、嫌なとこや
人物像の虚ろなとこはない。酔っ払いが去った後、「鍋焼きうど~ん」の売り声で、
スッと夜の仕事の続く感じが出たのは流石。うどんを食う男はうどん屋をチラッと見
て笑うとこが可笑しい。ただ、まだ演技的でもある。「うどん屋さ~ん」と呼ばれて
振り返る辺りは、「有難うございました」からの一寸した時間経過、ガッカリから喜
びへの瞬間的な変化の妙がまだ出ず。と、注文は色々つけても、これだけ真っ当な
『うどん屋』をこの世代で演じられる人は得難い。昨年後半から、どうも歯応えに乏
しい高座が続いていた市馬師だか、今夜の二席には歯応えがちゃんとあった。
※喜多八・市馬・喬太郎・扇辰・三三・左龍・甚語楼・生志と続く、目白第三世代の
地力にはやはり感心せざるを得ない。大師匠も師匠も偉いから、優れた孫弟子が続く
のだ。金原亭・稲荷町の第三世代にも言えるけれど。
◆1月30日 浅草演芸ホール昼席
和楽社中/歌る多『悋気の火の玉』/伯楽『お花半七』//~仲入り~//勢朝『漫談』/ホンキートンク(にゃん子金魚代演)/喜多八『時そば』/正朝『蔵前駕籠』/小菊/一朝『三方一両損』
★一朝師匠『三方一両損』
細部まで言葉や配慮の行き届いた逸品。江戸っ子の啖呵を切らせたら一朝師に敵わ
ないけれど、それ以上に金太郎も吉五郎も二人の大家も「喧嘩好きであぶく銭が嫌い
で、立身出世を恥と思う能天気ぶりに一本筋が通ってる落語国の人物像」が素晴らし
い。志ん朝師以降、最高の江戸っ子噺。又、大岡様が偉そうになり過ぎないのが良
い。気持ちが良くて堪んないね。
★喜多八師匠『時そば』
珍しい演目。聞いた記憶が無い。「うちじゃ洗いません」と鯉昇師のセリフが入った
りしてるし、不味いそばの手繰り方も独特の面白さがある。
◆1月30日 新宿末廣亭夜席
文治『木曾義仲』/章司(ぴろき代演)/雀々『さくらんぼう』/南なん『探偵饂飩』//~仲入り~//柳之助(竹丸代演)『寄合酒』/チャーリーカンパニー/とん馬『棒鱈』/金遊(歌春代演)『小言念仏』/喜楽喜乃/茶楽『明烏』
★茶楽師匠『明烏』
初午前の楽日に相応しい演目。少しいつもより短めかな?っという講座だけれど、如
何にも艶があって明るいのはいつもと変わらず。茶楽師の艶は先代圓遊師に似てる
な。
★金遊師匠『小言念仏』
ヒザ前で「ざまあみろ」まで。この五年程で「ざまあみろ」までは初めてかな。最初
は全然受けさせないで、途中からジワリジワリと客席が受け出し、「鰌屋ァ!」で
ドッと来て、という終盤盛り上り。「ゴトゴト(鍋の音)、キュウ(鰌の鳴き声)」には
笑った。動じない凄さで、これを聞くと爆笑を狙う『小言念仏』は子供っぽく思え
る。
◆1月31日 浅草演芸ホール昼席
伯楽『お花半七』//~仲入り~//勢朝『漫談』/笑組(にゃん子金魚代演)/喜多八『短命』/正朝『悋気の火の玉』/順子/一朝『三方一両損』
★一朝師匠『三方一両損』
本日は、安定させながら、言葉の強弱などを試している感じかな?今日は特に啖呵
の強さが印象的。
◆1月31日 第81回萬金寄席(新富区民会館)
ろべえ『グツグツ』/喜多八『浮世床・夢』//~仲入り~//喜多八『唖の釣』/喜多八『藥罐舐め』
★喜多八師匠『浮世床・夢』
喜多八師では初耳の演目。半ちゃんや女に色気があって、しかも馬鹿馬鹿しい。こう
いう演目をもっと聞きたい。
★喜多八師匠『唖の釣』
これも喜多八師からは初耳の演目。一朝師譲りだというが、与太郎のセリフは見事に
柳家の与太郎。吉兵衛の唖の口利き、仕科がまた独特で(鯉の仕科は殆どしない)、一
朝師とはまた違う面白さになっている。
★喜多八師匠『藥罐舐め』
本日は「馬鹿馬鹿しい噺」特集になった印象(笑)。どれもレベルが高いけれど、この
噺の侍とかみさんの面白さは最早、不動のものだな。
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石井徹也 (落語”道落者”)
投稿者 落語 : 2013年02月10日 15:14