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2012年09月11日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 2012年9月上席号
いつのまにやら、お彼岸も近くなってまいりました。みなさま如何お過ごしでしょうか。
今回はおなじみ石井徹也さんによる、ごく私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の2012年9月上席号をUPいたします。新宿末廣亭上席夜の部(主任・三遊亭遊雀)に通い詰めた石井さん。この興行のレポートを速報的にお伝えします。どうぞお楽しみに。
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◆9月1日 大手町落語会NEO(日経ホール)
扇『金明竹(骨皮抜き)』/宮治『強情灸』/きつつき『間抜け泥』/朝太『火焔太鼓』//~仲入り~//菊六『七段目』/一之輔『團子屋政談』
★一之輔師匠『團子屋政談』
「無茶ぶられ」で初演した噺だそうで、私は初聞き(上野鈴本でも主任で演じたとのこと)。
『初天神』の団子屋から無理矢理に大岡裁きに持ち込んだ際物パロディ改作
爆笑編(最後は一寸教訓臭いのが惜しい)。談笑師のパロディ改作に近い展開だけれ
ど、談笑師ほどは噺が尖らず、なしくずしみたいなオチで終わる。
※この噺でハネれば、落語会全体はいわばドローになって、比較・採点的な対象にな
らないから、先に上った新真打二人は「歴然たる差」を付けられないで済んだ。いわ
ば「一之輔の情落語」と感じた(情を掛けられた二人は「プロとしては恥ずかしい」
とも言えるけれど、ま、「情けは人のためならず」って事で)。
★朝太さん『火焔太鼓』
「~だよ」の語尾が余りにも多すぎて、感情を念押しするのにも関わらず、テンポが
遅いものだから、噺がクドくなっていけない。特に『火焔太鼓』のテンポの悪いのな
んてのは弱る。志ん橋師のように「重いのにも関わらずとぼけた味わいになる」とい
う奇跡的な個性の持ち主でなきゃ落語にならない。甚兵衛を出迎えるかみさんが完全
に目白系の長屋のかみさんであるように、志ん朝師のネタや演出は無理に受け継ぐべ
きではないと思う。甚兵衛が三百両を受けとる前後など「了見」の出る所には良い味
も散見される。『出来心』や『ろくろ首』を演る噺家さんじゃないのかなァ。
★菊六さん『七段目』
30年前に小朝師の始めた型がベースだと思う(但し、定吉がわざとお軽を恥ずかし
がる件は近年になって入った演出ではあるまいか)、明らかに間延びしている箇所が
多い。更に芝居のセリフになると強弱やリアクションが全く無くなってしまう。仕種
をちゃんと伴ったキレ味が無いのも考えものである。「ハッと答えて小僧の定
吉・・」なんて件は帯の後ろに手をやる形が鮮やかだからこそ面白味が増してくる。
そういうとこがかなりいい加減。『豊竹屋』を聞いた時も感じたけれども、芝居・音
曲の噺を好むのは構わないけれど、「面白く聞かせる気」がなきゃ、落語にはならな
い。
★きつつきさん『間抜け泥』
親分の言う「泥棒の基礎を教えなかったからなァ」には笑ったが、その「基礎」を序
盤の場面でしか使わないのは勿体無い。新米泥棒に変な可笑しさはあるのだけれど、
志ん橋師のように全面的に無邪気で可笑しくないのは、人物の捉え方の違いで仕方な
い。ならば他のコンタクトを考えないと。だから「基礎」の一度きりが惜しいなァ。
★宮治さん『強情灸』
かなり身が詰まって、五月に二日続けて聞いた時とは段違いに面白くなった。一之輔
師が宮治さんについて、「こないだまで前座だったのに、あんな図々しい落語をし
て、(噺家としてのキャラクターが私と)かぶるじゃないですか」と言ったのは「強力
ライバル出現」に対する褒め言葉である。爆笑を目指すネタに関しては宮治さんの方
がテンポは一之輔師より良いからね(変な隙間のあくとこが噺にない)。
◆9月2日 新宿末廣亭夜席「遊雀大勝負!」
茶楽『子は鎹』(熊さんが木場へ出掛ける所から聞いた)/マキ/寿輔『テレビ・アラカルト』/松鯉『扇の的』//~仲入り~//小蝠(交互出演)『松山鏡』/楽輔(交代出演)『寝床』/うめ吉・踊り「なすかぼ」/遊雀『くしゃみ講釈』
★遊雀師匠『くしゃみ講釈』
健忘症の男も可笑しいが、兄貴分や乾物屋の主が、男の行動を呆れて冷静に見ている
件で、最近の若手真打のように妙な間が空いたりせず、健忘症の男の可笑しさを倍加
するのは流石である。この世代(市馬師~三三師まで)では屈指の、「巧くて可笑しい
師匠」ながら、惜しい事に不思議なくらい小音中心の高座なので(肥を絞りすぎ
る)、講釈やのぞきからくりの口上が引き立たないのは課題。また、枝雀師型がベー
スの『くしゃみ講釈』にしては講釈師が困る場面で、枝雀師の「辺りを睥睨する仕
種」のような「心理の誇張」が無い(権太楼師が抜いたからだけど)のは笑いをワン
ランク小さくする。
★楽輔師匠『寝床』
茶楽師と小柳枝師を折衷したような演出。トントン運んで25分、結構マクラを振っ
てたから本題は20分あるかないかの尺だけれど、気楽に可笑しいのは「芸術協会の
落語」らしい。「共同便所に書いて貼ってあるだろ。“義太夫もみんなで聞けば怖く
ない”!」には笑った。
★小蝠さん『松山鏡』
2年前くらいに聞いた時同様、悪い出来ではないけれど、噺の世界がグンと出てくる
訳ではないのは成長不足。長閑さがまだ出ないんだな。
※今夜の裏テーマは「芸噺勝負」らしい。
◆9月3日 新宿末廣亭昼席
マグナム小林/歌助『牛褒め』/遊吉(とん馬代演)『紀州』/東京ボーイズ/歌春『天災』
★歌春師匠『天災』
今、柳橋先生の『天災』が演じられるのは芸術協会だけだろうが、名丸が柄違いというか、妙に軽い。
◆9月3日 新宿末廣亭夜席
和光『平の蔭』/小痴楽(交互出演)『両泥』/コントD51/可龍『町内の若い衆』/春馬『壺算』/喜楽・喜乃/小南治『胴乱の幸助』/茶楽『厩火事』/マキ/寿輔『釣の酒』/松鯉『山吹の戒め』//~仲入り~//花助(交互出演)『武助馬』/南なん(交代出演)『居残り佐平次』/うめ吉・踊り「なすかぼ」/遊雀『紺屋高尾』
★遊雀師匠『紺屋高尾』
南なん師の力押しに煽られて、廓噺対決(大袈裟だが)になった印象。こうでなきゃ
「大勝負!」の意味はない。可笑しさと久蔵の「ハイ」の純な良さが組み合わさった
「落語としての紺屋高尾」(小音で聞き取り難いのだけがやはり気にかかる)。親方が
情の面も面白さの面も、どう聞いたって権太楼師本人に感じられるのは仕方ないよ
ね。※喬太郎師にとって「同世代のライバル」と言えるのは遊雀師だけなんだな、と
いう事を強く感じた。
★松鯉先生『山吹の戒め』
道灌が後土御門帝の前で問に答える件を入れて、いつもより丁寧。雨に濡れてぬかづ
き山吹の枝を差し出す少女の哀れと健気がある。
★南なん師匠『居残り佐平次』
部分的に刈り込んでいると思うが聞き応え十分。ヘラヘラした語り口のようで、ちゃ
んと『居残り』の世界を描けるのが南なん師の強み、というか凄さ。芝居っぽくクッ
キリ描き分けるのではなく、雰囲気でキャラクターを活かすから聞き応えはあっても
重くない。騙される若い衆のヒラヒラした気弱な可笑しさもたまんなく愉しい!(三
下じみたりしないのだ)。若い衆「お勘定」佐平次「(手を広げて止める)」の遣り取
りの面白さは出色。基本的には明るい佐平次が、終盤、店を出てから隠していた陰が
ちゃんと出るのも面白い。盲の小せん師型に近いようだが(霞の客が勝太郎)、時代は
江戸。
★うめ吉師匠
「なすかぼ」の振りが普通と違い、非常に芝居として分かりやすく面白い。誰の振り付けなんだろう?
※茶楽師・マキ先生・松鯉先生(この尺と丁寧さの『山吹の戒め』は初めてきい
た)・南なん師と、芸術協会ならではの「個性的でしかもレベルの高い高座」が流れ
を引きしめてくれるので(寿輔師は咳き込んじゃったので残念)、非常に密度の高い
後半になった。7時以降、次々と客が入ってきて、最終的に80名近くなったのは芸
術協会の新宿平日夜では出色。遊雀師と割引の相乗効果か。花助さんがこの出番で
『武助馬』を出すのか、よく分らん。会話能力で較べられたら敵わないけれど、地の
多すぎる噺だと流れの中で食い足りない。
※今夜は「廓噺勝負」らしい。
◆9月4日 宝塚歌劇団月組東京公演『ロミオ&ジュリエット』
★博多で観た星組公演とはラストシーンなど細部の演出が異なり、ラストで星組版や
F・ゼフィレリ監督作品にはあった感興を受けない。特に、モンタギュー側の少年た
ちに「深層的な同性愛感覚」が殆ど無いから「どうやって伝えよう」の歌詞が活きて
いない。大人役の生徒たちがおひなべて品がないのも星組に比べて劣る点。ティポル
トの「自業自得」感覚は小池オリジナル作品と共通する。しかし、「少年少女恋物
語」としては、青春の稚拙さを描いた傑作だなァ。近松の「大人の義理合い」にはな
い、「恋」の愚かさ故の魅力がある。甲子園で高校野球する代わりに喧嘩してるよう
なからねものだ。ヴェンヴォーリオが「大人たちの(確執の)せいだ」というセリフは嘘になるが。
◆9月4日 秋、Wホワイト落語会 7(北沢タウンホール)
白鳥・白酒「御挨拶」/白鳥『牛丼晴舞台』/白酒『火焔太鼓』//~仲入り~//白酒『水屋の富』/白鳥『船徳』
★白鳥師匠『牛丼晴舞台』
偉く久し振りの演目。しかもぴっかりさん用に改作した展開だけれど、ギャグが滑り
まくって、しっちゃかめっきゃか。だけど可笑しいのが強味。
★白鳥師匠『船徳』
「浜松町かもめ亭」で馬石師の『お初徳兵衛』の後に演じた「第三の船徳ヴァージョ
ン」の改訂進化した進行形版。お初が消えてなくなり、代わりに「鰍沢の急流」で樽
に入れられて特訓を受ける件(滝から樽に入って落ちるのは何の話だっけ?『ミッ
ション』じゃないし・・・)が加わったのには笑った。お玉と権助(今回は若くない)
が訪ねてきた辺りから船頭熊に説教されて船を出すまでが長く、東電屋の源八が屋形
船で追っ掛けて来てからが短い、という笑いの薄くなってしまった終盤の展開は改訂
の余地あり。
★白酒師匠『火焔太鼓』
白鳥師のしっちゃかめっちゃかから雰囲気を変えようとしたのか、挨拶で触れた話を
引き摺った話から見世物マクラ(普通なら『一眼國』か『蟇の油』などへ繋がりそう
なマクラ)を始めたのが長くなりすぎ、そこから無理矢理『火焔太鼓』に入ったみた
いである。内容的には自分もグズグズになっちゃった印象。それでも、甚兵衛さんや
かみさんのキャラクター、噺の基本的構成が壊れたりしないのは流石だけれども、
妙に客席との距離感を感じた高座ではあった。
★白酒師匠『水屋の富』
仲入りを挟んで、『一丁入り』の出囃子で登場したから最初は「何事か?」と思った
けれど、比較的、笑いの少ない演目を選んで(アタフタする水屋の顔を富の世話人が
ひっ叩く演出は入れてた)、見事に建て直したのは頭が良い。押していたから、刈り
込んで短めだが(結果的に白鳥師は長かったけど・笑)、このくらいのサイズの方がこ
の噺は落語として活きるね。
◆9月5日 新宿末廣亭昼席
慎太郎(枝太郎代演)『壺算』/マグナム小林/歌助『都々逸親子』/とん馬『元帳』/東京ボーイズ/歌春『大工調べ(上)』
★歌春師匠『大工調べ(上)』
目白型。大家の因業はいつもの笑顔と裏腹で面白いが棟梁の意気地がやや三下っぽい。
★慎太郎師匠『壺算』
瀬戸物屋のキャラクターが他の噺家さんと全く違い、勝手に納得して余計に混乱する
辺り、爆笑問題の太田光の親戚みたいな二枚目系顔でされると物凄く可笑しい。誰の
演出だろう。もしかすると、「化けかけてる」のかもしんない。
◆9月5日 新宿末廣亭夜席
真紅『ひと目上り』/夏丸(羽光・小痴楽 交互出演昼夜替り)『釣の酒』/コントD51/可龍『持参金』/遊馬(春馬代演)『坊主の夢』/喜楽・喜乃/小南治『写真の仇討』/楽輔(茶楽代演)『風呂敷』/京太・夢子(マキ昼夜替り)/寿輔『ぜんざい公社』/松鯉『無筆の出世』//~仲入り~//花助(交互出演)『八問答』/蝠丸(交代出演)『豊志賀』/うめ吉・踊り「はすかぼ」/遊雀『不動坊火焔』
★遊雀師匠『不動坊火焔』
万さんの「腑に落ちた」、徳さんの「役立て、馬鹿!」のふた言と表情が聞けただけ
でも結構な喜び。湯屋からカットバックして「不動坊、死んだんだって」と鐵さんが
嬉しそうに語りだす三馬鹿トリオの会話冒頭部分の息もなかなか真似の出来ない面白
さである。基本的にセリフと表情の考え抜かれた巧さと可笑しさは世代のトップクラ
スだね。最後の場面でまず、吉がちゃんと怖がっているのも良い。半面、枝雀師や権
太楼師の「イーッ!や「御祝いしよう!」の能天気さなどをカットし過ぎて、屋根に
上がってから笑いが少し中だるみするのは勿体ない。鐵さんが屋根に上がってから全
く出てこないのも更にお勿体無い。正蔵師の演った「喧嘩に呆れて、他の屋根の上を
眺めてる」といった味付けが鐵さんにも欲しいな。
★松鯉先生『無筆の出世』
『怨執の彼方に』みたいな展開の、大きな波乱の無い「性は善噺」でキッチリ聞き込ませるのは流石だね。
★蝠丸師匠『豊志賀』
自分の主任席程の気合ではなく、主任の邪魔にはならない配慮の高座と見る。地を多
く、笑いを取りながらの高座。あんぽつの駕籠は出ず、座蒲団の上に血染めの櫛があ
る。白犬も抜き。寿司屋二階で「不実な人ですねェ」のセリフに連れて、肩から膝の
辺りが凄く不気味になる件はドキンとした。手一杯の高座で聞きたい!
※今夜は「女と男の嫉妬噺勝負」らしい。演目からテーマを類推させるのは洒落てる。
※『豊志賀』の後、うめ吉師が白の着付けで出てきたのも趣向のうちか。一寸怖かった。
◆9月6日 新宿末廣亭昼席
栄馬『元帳』/遊三『青菜』/ボンボンブラザース/笑三(米丸休演代り)『悋気の火の玉』//~仲入り~//枝太郎『ぶす』(正式題名不詳)/マグナム小林/歌助『やかん』/とん馬『雑俳』踊り・かっぽれ/東京ボーイズ/歌春『抜け雀』
★歌春師匠『抜け雀』
若い絵師と老絵師は品があるけれど、柄の合う宿屋亭主が慌ただし過ぎる。宿屋かみ
さんの「とっとと売払って逃げちゃおうよ」には笑った。
★枝太郎師匠『ぶす』(正式題名不詳)
狂言の『附子』の翻案。語りがもう少しヒョワヒョワしなければ、もっと面白くな
る。構成的にいうと「旦那と番唐さんが山越しの婚礼に行く」段取りは無駄。寺の設
定にすればいいのではなかろうか。
◆9月7日 新宿末廣亭昼席
遊三『不精床』/ボンボンブラザース/笑三(米丸休演代り)『漫談』//~仲入り~//枝太郎『茶の湯(上)』/マグナム小林/歌助『一分茶番』/とん馬『九官鳥・猿の運転・雑俳』/美由紀(東京ボーイズ代演)/歌春『火焔太鼓』
★歌春師匠『火焔太鼓』
甚兵衛さんが割と普通なのに可愛らしいのが特徴。侍は普通。噺がはしゃぎ過ぎない
のが良い。かみさんは時々馬鹿に調子が強くなるのがマイナス。
★枝太郎師匠『茶の湯(上)』
この「変でおかしな声」はもっと活かせると思う。
◆9月7日 談春アナザーワールド18 三日目(成城ホール)
談春『不動坊』//~仲入り~//談春『小猿七之助』
★談春師匠『不動坊』
序盤、大家の口の利き方が店子相手にしては丁寧過ぎて変だったけれども、吉の銭湯
行きから湯の中での妄想独白は物凄く馬鹿で可笑しい。私の一番好きな談春師。三馬
鹿トリオの談合は可笑しいが、屋根に場が移ってからが間延びしてしまい、幽霊が下
に降りるまではダレた。幽霊は静かなアンポンタンで可笑しい。吉が幽霊に余り怯え
てないのは?マークだけれど、幽霊騒ぎでお滝さんが出てきて口をきく演出は今まで
も演ってたっけ?お滝に言われて幽霊が困るのも納得感あり。
※上方の「幽霊役もお滝に惚れてた四人目の男」という演出を誰か東京でも演らない
かな。
★談春師匠『小猿七之助』
「お滝繋がり」なんだそうである。冒頭の地から一人船頭、一人芸者(相櫓で嫌われ
るのも徳さんで共通)の件辺りの会話は相変わらず家元の物真似みたいだったが、鹿
島の幸吉が身投げした辺りから「家元臭さ」が抜けて自然な、人情噺の会話になった
のは結構なこと。稍、センティメンタルではあるが、この方が談春師匠らしい。
◆9月8日 第八回らくご・古金亭「先代金原亭馬生没後三十年追善~雲助・馬生二人会」(湯島天神参集殿一階ホール)
駒松『道具屋』/馬生『笊屋』/雲助『抜け雀』/中尾彬・池波志乃・雲助・馬生「先代馬生師匠追慕」//~仲入り~//雲助『目黒の秋刀魚』/馬生『柳田角之進』
※自分が主催している会だから言うのは恥ずかしいけれど、客席に回って四人の皆さ
んの座談会を聞いていて、「我乍ら良い会だな」と思えちゃったのは、先代馬生師匠
の追善として、何よりも嬉しい。『抜け雀』『目黒の秋刀魚』の強烈な可笑しさ、
『柳田』の侍心は先代馬生師譲りで或る(物真似でなく、精神を継承している)。
◆9月9日 平治改め十一代目桂文治襲名披露パーティー(東京會舘9階ローズルーム)
★目出度い!21日の初日には何としても行くぞ!
◆9月9日 新宿末廣亭夜席
春馬『眼鏡泥』/喜楽・喜乃/小南治『ドクトル』/茶楽『紙入れ』/マキ/寿輔『代書屋』/松鯉『丸利の強請』//~仲入り~//花助(交互出演)『てれすこ』/遊吉(交代出演)『猫の災難』/うめ吉・踊り「なすかぼ」/遊雀『宿屋の仇討』
※今夜の裏テーマは「一寸した嘘」かな。
★遊雀師匠『宿屋の仇討』
これまで聞いた遊雀師の『宿屋の仇討』では一番尺が長かったんじゃないかな。『て
れすこ』『猫の災難』の掴み込みで遊び乍らタップリと愉しませてくれた。上の世代
とはまだ技術的な差は勿論あるけれど、ボケ声と二枚目声を使い分け、侍と伊八の遣
り取りはシリアスに、江戸っ子三人の件は能天気にと描き分けて全く飽きさせない。
江戸っ子が横に並んで寝て、相撲で帯を掴み易くしたのは良い工夫である。婆芸者を
相手の遣り取りも酷く馬鹿馬鹿しく愉しい。「二度と会えないと思うけど」には笑っ
た。源兵衛と奥方が出来ちゃった訳ではないので、正確には色事話でなく悪党話。こ
こでは源兵衛がグッと二枚目ぶるが、それが伏線になって、源兵衛の顔を見た伊八が
唖然とする表情が抜群に可笑しい。そりゃ、「鬼瓦」だもんなァ。最後のネタばらし
で侍の口調が崩れたのと、手を打つ音が小さいのは惜しい。
★茶楽師匠『紙入れ』
茶楽師の『紙入れ』が何度聞いても聞き飽きないのは、旦那がいいんだな。全く当て
込まずに新吉と会話をしていて(素で喋っている感じなのが噺の品になっている)、
老人過ぎずに貫禄がある。だから新吉やかみさんが活きてくるのか。
★遊吉師匠『猫の災難』
物凄く口調が速いんだけど、「友達を騙す」なんて嫌らしさは微塵もなく、軽快に
「酒に意地汚い男の昼下がり」を描いて面白い。明らかに目白型がベースなのだけれ
ど、「もしもし」「ヒョイッと」など仕種を伴う可笑しさの件に関してはセリフが速
すぎて、可笑しさの流れるのは惜しい。あと、あんなに酒を呑む音をさせる必要があ
るかな。しかし、如何にも芸術協会らしい、軽快で肩の凝らない、愉しい高座。
★小南治師匠『ドクトル』
「演り始めた」と聞いてはいたが初遭遇。仕種などは小南師匠とは変えてある。ドク
トル先生の前で最初の患者が仕種だけしている件が割と長い。これは笑いが薄まって
損ではあるまいか。涙の止まらなくなった女が「小南治」を「こみなみ・おさむ」と
読むってのは、小南師の「こみなみ」より姓名っぽくて可笑しい。「小西」がいるん
だから「小南」がいてもおかしくないしね。
◆9月10日 新宿末廣亭昼席
マグナム小林/遊喜(歌助代演)『熊の皮』/とん馬『元帳』/北見マキ(東京ボーイズ昼夜替り)/歌春『お化け長屋(上)』
★歌春師匠『お化け長屋(上)』
声が空調に負けてしまい、怪談の前半などで調子を締めると三分の一くらい聞こえなかった。これは困る。
★遊喜師匠『熊の皮』
遊雀師経由だと思うけれど、医者の先生などがまた違う明るい、暢気なキャラクターになっていて可笑しい。
★とん馬師匠『元帳』
外さないなァ。見事である。
◆9月10日 新宿末廣亭夜席
鯉ちゃ『寄合酒』/羽光(交互出演)『紀州』/コントD51/可龍『道灌』/春馬『つる』/喜楽・喜乃/小南治『写真の仇討』/茶楽『子は鎹』/東京ボーイズ(マキ昼夜替り)/寿輔『英会話』/松鯉『松江公玄関先』//~仲入り~//小蝠(交互出演)『旅行日記』/楽輔(交代出演)『鰻の幇間』/うめ吉・踊り「なすかぼ」/遊雀『蛙茶番』
★遊雀師匠『蛙茶番』
道で遇う相手を「笑遊師演出」の糊屋の婆さんに変えたのは初めて聞いたんじゃない
かな。演出では釜と褌の入れ換えも省いていた。半ちゃんの馬鹿なテンションの高さ
が強烈でいながら、番頭の冷静さ、湯屋主人の冷静さ、定吉の面白がり、唖然とする
芝居の客たちとのバランスが良く、噺全体が騒々しくならないのは流石である。全体
がまだ小音なのは課題だけれど、半畳の上でそっくり返る半ちゃんの姿の可笑しさは
素晴らしい。
★茶楽師匠『子は鎹』
巧い。ひたすら、そのひと言。しかも明るさがあり、色気があるんだもん。
★松鯉先生『松江公玄関先』
堪能。巧くて面白い。「聞かせてくれる愉しさ」の典型である。「山吹の茶」の件を
地にするなど25分程の高座だけれど、上総屋での世話味から、北村大膳を歯牙にも
かけない悠然たる時代な悪党ぶりを見せるという、河内山の「変わり」に講釈ならで
はの魅力と愉しさがある。更に高木小左衛門の落ち着いた対応が松江公玄関先の空間
の静けさを感じさせる。「馬鹿め!」を芝居じみて張らないのも結構なもの。やはり
講釈の第一人者である。
★可龍師匠『道灌』
悪くないんだけれど、何か締まらないのは何故だろう?
★羽光さん『紀州』
習ったばかりなのかもしれないけれど、地噺を30年前と同じギャグで演じて平気
(鶴光師なら「自分の世代の知識」として話せるからそれでも成り立つ)、という神
経がどうも分からない。小朝師が『たが屋』や『扇の的』を始めた頃の言葉選びのセンス
と比べては過酷かもしれないが、「地噺」として演じるのは普通の落語よりセンス
か゜必要なんだ、という事を理解しているのかと疑問を持った。ならば、ちゃんと人
物を描いて普通の落語にした方がよくないかね?
石井徹也(落語”道落者”)
投稿者 落語 : 2012年09月11日 17:23