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2012年08月08日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 2012年7月号
暑い暑いといいながらも、立秋(8月7日)を過ぎると、たしかに夕方など涼しくなってきました。暑いかと思ったらクーラーの寒気にさらされたり、布団がどこかへ行ってあけがたなど妙に冷えたり・・・みなさま、体調はいかがでしょうか?
今回はおなじみ石井徹也さんによる、ごく私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の2012年7月号をお上網いたします。上席・中席・下席の合併特大号!稀代の落語”道落者”石井徹也さんによります、落語巡礼をどうぞお楽しみください!
また、このコーナーに関する感想、ご意見をお待ちしています。twitterの落語の蔵(@rakugonokura)か、FaceBookの「落語の蔵」ページ(http://www.facebook.com/rakugonokura)にリプライ、投稿をお願いいたします。
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◆7月1日 新宿末廣亭昼席
昇之進『無学者』/チャーリーカンパニー(Wモアモア代演)/伸治『ちりとてちん』/茶楽『紙入れ』/今丸/鯉昇(幸丸代バネ)『船徳』
★鯉昇師匠『船徳』
いつも変わらず、破茶無茶な若旦那の慌て方、客二人の周章て方はアクティヴなのに
全体の雰囲気は長閑で爽やかという鯉昇マジックを堪能。聞き飽きない師匠だなあ。
◆7月1日 池袋演芸場夜席
一矢/文月『笊屋』/平治『普段の袴』/章司(オイチッチニの薬屋あり)/遊吉『黄金の大黒』/歌春『たが屋』//~仲入り~//マジックジェミー(ひでややすこ代演)/圓馬『漫談』/金遊(蝠丸代演)『真田小僧』/うめ吉/小文治『竹の水仙』
★金遊師匠『真田小僧』
やはり巧ェや。15人の観客相手に『真田三代記』の仕込みでダレさせても、前後で
ちゃんと盛り上げる。何の掴み込みも新ギャグも無いのに平気。それでいて仕種が下
らなく愉しい。
★小文治師匠『竹の水仙』
大津宿の設定は幸枝若師匠の型だっけ。甚五郎は狂言廻しで宿主が主人公の構成だ
が、無駄なく面白い。宿帳に甚五郎が書いた仮名が「大石内蔵助」、職業が「太鼓叩
き」は洒落てて可笑しい。細川の殿様は真面目な高勢実乗みたいなだが、ちゃんと品
格はある。
★圓馬師匠『漫談』
『粗忽長屋』の群衆場面で「乞食のお産」を途中まで演ってから「仲入り前の『たが
屋』と付きますね」と止めてネタを代えたら、今度は昼間に出ていたらしい『短命』
に入りかけて楽屋から止められ、結局漫談。千倉町の調査捕鯨や木更津の浜辺に建つ
中学校の話は面白かったが、サゲ間際で「『強情灸』と付いてると今気が付いた!」
と叫んでサゲまで続けた平治師くらい度胸はあった方が良い。 別に『粗忽長屋』で
良かったのだが。
◆7月2日 国立演芸場「愛橋・芝楽 真打披露興行」
ナイツ/歌春『短命』/小遊三『幇間腹』//~仲入り~//愛橋・芝楽 真打披露口上(桃太郎・小遊三・歌春・愛橋・芝楽)/愛橋『のっぺらぼう』/桃太郎『柳昇物語』/東京ボーイズ/芝楽『お見立て』
★芝楽師匠『お見立て』
平治師譲りかと思うが、遊三師や夢太朗師のセリフも混じっている。第一に杢兵衛大
尽のキャラクターがピッタリで、間に入って四苦八苦する喜助の妙な真面目さも似合
う。喜瀬川の薄情も悪くない。惜しむらくは、冒頭の杢兵衛大尽の素晴らしい笑顔を
「死んだ」と聞かされるまでは保ちたい。杢兵衛大尽が早くマジになると噺全体のテ
ンションが下がるから。
◆7月2日 第一回一之輔の骨休み(日本橋劇場)
朝呂久『夏泥』/一之輔『浮世床・講釈本』/一之輔『南瓜屋』//~仲入り~//えり『実録シリーズ・恋は草原の彼方に』/一之輔『短命』
★一之輔師匠『南瓜屋』
与太郎が余り悪質で無くなったのは幸い。『唐茄子屋政談』に与太郎が係わるのは毎
回演らない方が良いと思う。
★一之輔師匠『短命』
或る意味、えりさんの天然系怪物的破壊力の後では普通に『短命』を演ったら敵わな
い、というの「最初から白旗掲げて敵前逃何でもありヴァージョン」。ま、骨休めだから。
※えりさんと扇辰師で「英二喜美江」が聞きたくなった。
◆7月3日 池袋演芸場昼席
~仲入り~//小天華/蝠丸(寿輔昼夜替り)『幽霊自動車』/圓遊『化物遣い』/ボンボンブラザース/圓輔『船徳』
★圓輔師匠『船徳』
黒門町型で張りがあり面白かったが、傘の件が受けなかったら、スーッとテンション
が下がってしまったのは残念。
★圓遊師匠『化物遣い』
桂庵からで杢助が髪結床へ行って親方と話す件は始めて聞いた。化物は一つ目小僧と
大入道だけだけれども、長谷川の隠居のガミガミ小言を言いつける調子と杢助の長閑
さのバランスが良く、これまで圓遊師で聞いた噺では一番面白かった。
★蝠丸師匠『幽霊自動車』
こういう簡単なサゲだったっけ?
◆7月4日 池袋演芸場昼席
圓遊『不孝者』/ボンボンブラザース/圓輔『蛇含草』
★圓輔師匠『蛇含草』
停滞なく餅を食べるマイムもタップリ見せながらサラッと。夏の昼席主任に相応しい軽さと愉しさ。
★圓遊師匠『不孝者』
芸者の名が「八重駒」ってのは稍艶消しだが、若旦那のお供をしていた清蔵の着物を
借りる辺りから流れの理は立っている。酒が燗冷ましでないのも茶屋の格が上がる。
旦那の年配にも無理がない。
◆7月4日 第二回四代目柳好トリビュート「四世柳好十八番」(国立演芸場)
吉好『秘伝書』/柳好『から抜け~牛褒め』/市馬『物真似味噌蔵』/喜多八『付き馬』//~仲入り~//トリビュート座談会/鯉昇『鰻屋』/小柳枝『粗忽長屋』
★小柳枝師匠『粗忽長屋』
いつも通り、トントン運ぶ芸術協会型『粗忽長屋』の典型だが、粗忽な二人は到って
マジで、町役人のリアクションで笑いが起きる構成なんだな。
★鯉昇師匠『鰻屋』
サゲで鰻を掴んだまま、高座から去る演出(久しぶりに観た)。先代柳好師もした事
がある演出だというが、『疝気の虫』以上にこの噺には適した演出であり、また、鯉
昇師の持ち味や仕種の可笑しさに適った面白さである。これまでに聞いた鯉昇師の
『鰻屋』の中でも一番面白い。
★市馬師匠『物真似味噌蔵』
先代柳好師の物真似で一席を演じ通したのに驚く。調子を低く、硬めにすると稲荷町
の師匠にも似た所が出てくるのも面白い。同時に、普段の市馬師より「昔乍らの落語
らしい雰囲気」が醸し出されていたのにも驚いた。「非近代」が似合うのである。
★喜多八師匠『付き馬』
スイスイトントン運んで溜飲の下がる出来。心理描写なんかしないのに「ニン」でこ
すっからく洒落た遊び人と間抜けな妓夫、片意地な早桶屋の旦那が出るのに驚いた。
面白い、可笑しい、巧い!「新しい朝が来たね。希望の朝だ」には笑った笑った
(「新しい朝が来たね。希望の朝だ」とくりゃあ、『ゼンダ城の虜』だもん、野田秀
樹ファンには堪んないね)。
★柳好師匠『から抜け~牛褒め』
『から抜け』から『牛褒め』に入る演出は初めて聞いた。面白いとこはあるんだけ
ど、単なる早口の部分過多で、与太郎気分が足りず、叔父さんがマジで与太郎を叱り過ぎる。
※其々の無高座の質は高かったが、いわば「喪主」である当代柳好師匠の出番が前
座の次であったり、当代を「縁もゆかりもないのに五代目を継いだ」という発言が座
談会でまかりとおるなど、不愉快さも残る会だった。知人と話した所、主催者サイド
に小栁枝師匠、柳好師匠への蔑視を感じたのは私だけではなかった。
◆7月5日 上野鈴本演芸場昼席
小菊/正朝『七段目』
◆7月5日 談春アナザーワールド16 三日目(成城ホール)
談春『南瓜屋』/談春『星野屋』//~仲間り~//談春『景清』
★談春師匠『景清』
中盤の定次郎の理屈と言い訳、そして泣きが如何にもクドくて野暮ったいのがらくご
としては辛いね。最後のお化け騒動は逆に落語として可笑しく。洒落っ気も感じるの
だが、中盤や終盤の改訂を足した分、不要箇な所を抜いていないので、最後だけ別の
噺になってしまう。
★談春師匠『星野屋』
無言のお婆さんは矢鱈と可笑しい。こういうとこに「噺家としてのセンス」を感じ
る。重吉が入ってきた時、お花との遣り取りに暗い空間の不気味さを感じたのも結
構。半面、重吉の怪談噺以降は噺が腰砕け。
★談春師匠『南瓜屋』
与太郎自体に魅力的な面白さがない。色々言う割には凄い馬鹿者の与太郎。
◆7月6日 宝塚歌劇団星組東京公演『ダンサ・セレナータ』『セレブリティ』初日(東京宝塚劇場)
◆7月7日 第四回神楽坂落語祭「神楽坂劇場二人会昼の部~市馬・菊之丞」(牛込箪笥区民ホール)
市也『手紙無筆(上)』/市馬『南瓜屋』/菊之丞『付き馬』//~仲入り~//菊之丞『死ぬなら今』/市馬『らくだ(上)』
★市馬師匠『南瓜屋』
この所、どうも平板な出来の続く演目。
★市馬師匠『らくだ(上)』
進化中。屑屋の明るさ、可笑しさが増し乍ら、「素っ堅気」ではない雰囲気も出て
いる。八百屋へ行く途中の「愉しくなってきた」、八百屋で芝居気取りになる辺り、
また八百屋がそれを見て「何がお前をそうさせる」も愉しい。呑み出して二杯目の途
中で息を継ぎ、手斧目の半次の目を見てヘッと頭を下げるのは『うどん屋』の巧みな
応用で初めて見た。呑み出してからは半次を陰にして余り出さないのも噺のリズムを
作る上で効果的。早くサゲまで聞きたいなァ。
★菊之丞師匠『付き馬』
矢来町型なのだが、矢来町よりも声が太く、重い分、詐欺・騙りというより喧嘩腰に
聞こえるのが難。寧ろボヤッとしたり睨んだりしてる妓夫の方が似合う。早桶屋の親
方は如何にも若すぎる。
★菊之丞師匠『死ぬなら今』
蝠丸師匠に近いが、地獄巡りはなく、また贋金使いでなく収賄で閻魔や冥界十王(閻
魔もその一人だが)が逮捕される。抵当にシニカルで地噺っぽい可笑しさもあり、売
り物になりそう。
◆7月7日 第29回この人を聞きたい「馬石・紫文二人会」(三輪田学園記念講堂)
きょう介『手紙無筆(上)』/馬石『駒長』/紫文//~仲入り~/紫文『三味線版紀州』/馬石『宮戸川』
★馬石師匠『宮戸川』
「正覚坊の亀」のキャラクターの線が太くなってきた。お花を仁三が慰んで亀は未
遂、というのは些か綺麗事に感じる。女性ファンが増えると「お局好み」になるのは
仕方ないが意気地が無いとも思える。終盤の芝居掛かりの割科白をハッキリと半七、
亀、仁三に分けたのは工夫。但し、割科白に伴う仕種の段取りがまだ明確でなく、特
に櫓を手にした仁三の形がおかしい。櫓に囚われる必要はない。また半七の目遣いが
割科白に気が行ったのか却って曖昧になった。夢から醒めて、定吉がお花と出掛ける
前に傘を取りにきた使いにして、「叔父さんの三回忌」をカットしたのは大賛成。何
も最後で、恩人の叔父さんを殺す必要など、この噺にはあるまい。
※雨模様に相応しい演目選択だが、人情噺でなく、落とし噺でハネる癖は落語会でも
付けておいた方が良いように思う。帰り道が陰気になる。
★馬石師匠『駒長』
お駒に色気があり潜在的に丈八に惹かれている雰囲気があるのは面白い。久し振りな
のか珍しく言い間違い多し。
★紫文師匠
シニカル都々逸やパロディックなさのさがこんなに可笑しいのに、普段全く演じない
のは勿体無い。
★紫文師匠『三味線版紀州』
一種の「吹き寄せ」で面白い試み。もっと、「唄繋ぎ」として曲数が欲しい。「せつ
ほん」とか使えないかな。鍛冶屋の「テン、カン、トン」は言葉は説明は一度で後は
三味線のツボで良いのではあるまいか。『こんにゃく座』の小品みたいな感じである。
◆7月8日 第19回気軽に志ん輔(お江戸日本橋亭)
半輔『垂乳根』/きらり『寛永三馬術~誉れの春駒』/志ん輔『紙屑屋』//~仲入り~//志ん輔『大工調べ』
★志ん輔師匠『大工調べ』
通し。与太郎は終始軽く明るく惚けた志ん輔師らしい面白さ。「ウン」「ハッ?」と
返事が短いのは如何にもらしくて可笑しい。棟梁はキリッとして綺麗事の良さがあ
る。源六の剣幕に一度フッと笑い、喧嘩になるのを手で制して止めようとする件が真
に良かった。源六はニコニコ、下手から棟梁を迎えて、「たかが八百両」から揚げ足
を取り、因縁をつけ出して地金を現す変化が面白い。奉行は品格に文句はないけれ
ど、演り慣れないのか、言葉に無駄が空くのが惜しい。40分強だが長さは感じなかった。
★志ん輔師匠『紙屑屋』
都々逸、長唄、清元、義太夫(『新口村』と『壺阪』)、新内ときて「紙を選り違えま
した」のサゲ。真にだらしなく、暢気で疲れやすく、飽きやすく、勤労意欲皆無とい
う若旦那の了見が言葉の端々に出ていたのが馬鹿に可笑しい。
★きらりさん『寛永三馬術~誉れの春駒』
松鯉先生門下らしく、ドスが利いて調子が良いのは阿久鯉先生と同じ。もっとも、
調子はかなり高いが、今日は少し声に荒れを感じた(多少ハスキーな暗いの方が表現
はこちらに伝わりやすい)。少しくすぐりを入れ過ぎるのは芸術協会の女流講釈のマ
イナス面で、もっとトントン格好良く運んだ方が面白さは増すと思う。特にきらりさ
んは高田聖子風の「自然な可笑し味」があるから勿体ない。また、階段降りの件を端
折らずにやった方が良いと思う。
◆7月8日 池袋演芸場夜席
歌春『歌春』//~仲入り~//ひでややすこ/圓馬『鮑熨斗』/蝠丸『幇間腹』/美由紀:踊り・かっぽれ/南なん『阿武松』
★圓馬師匠『鮑熨斗』
「鮑の剥きかけ」「鮑の紐」の仕込みを忘れたのは驚いたが、ギャグが矢鱈と面白い。
特に「長屋から脛毛が伸びてきて」には笑った笑った。
★蝠丸師匠『幇間腹』
蝠丸師では初めて聞いた演目だろう。猫の件が抜群に可笑しく、名古屋弁の猫が即死
する件の仕種は可笑しいなんてもんじゃない。サゲは一八が若旦那から時計を貰った
のを伏線にして、女将に「鍼は体の中を回るんだよ」と言われた一八が「それじゃ時
計なんかいらねえや」。「病人らしく唸れ」と言われた一八が「ウフ~ン」と唸った
ら、途端に若旦那が「扇鶴じゃあるめえし。常連しか分かんないけど」にも受けた受けた。
★南なん師匠『阿武松』
序盤の武隈と長吉の会話であやふやに聞こえたとこもあったが、長吉の哀れと可笑し
さはピッタリ。立花屋の情も入り過ぎずに良い。幕入りして、武隈との取組みで気
負ってしまい、「待った」を繰り返す長吉に向かって武隈が「大飯喰らい、怖じ気づ
いたか!」と嘲りまくり、長吉が吹っ切れて闘志に火が点く演出も面白い。
※『阿武松』は家元の絶品(家元は『鼠穴』と『阿武松』の名人)を聞いて以降、ど
の師匠のを聞いても「相撲道始まって以来、六人目の横綱を張る男が敷居越しにピタ
ッと頭を下げていた。武隈には分らなかったが」(言い廻しは師匠により少し違う)の
件を聞くと、人情噺でもないのに必ず涙が出る。「見出だされない才能の不運」「師
匠や客に恵まれないパフォーマ―の悲哀」を感じちゃうのかな。やたらとぶった『子
は鎹』とかより、この噺の方が本来の「人情落語」だと思う。
◆7月9日 池袋演芸場昼席
圓『反対夫婦』
◆7月9日 池袋演芸場夜席
竹のこ『六銭小僧』/小痴楽『道灌(上)』/味千代/とん馬『替り目』/小南治『子は
春日部(漫談)』/章司(もぐさ)/富丸『旅行日記』/歌春『鮑熨斗(上)』//~仲入り~
//ひでややすこ/圓馬『お菊の皿』/蝠丸『金魚の芸者』/美由紀(上げ汐)/南なん『景
清』
★圓馬師匠『お菊の皿』
興行になる件が出てこないシンプルな形で小南師に近いか。怖がらせる件など声の高
低、調子の緩急が不足。柄があるのだから青山鐵山をもっと見せなきゃ。
★蝠丸師匠『金魚の芸者』
サラッと洒落沢山に演じたが、もう少し金魚に口を聞かせたい。
★とん馬師匠『替り目』
うどん屋・新内流し・都々逸・かっぽれの順でサゲまで。都々逸がちと怪しかった
(三味線が前の調子から調子を変え損なっていた)以外は結構なもの。
★南なん師匠『景清』
黒門町型。まだ試演段階だが、誰が演じても半端者っぽくなる定次郎がちゃんと職人
になっているのは偉い(黒門町のは粋過ぎる)。満願の日に清水様を見上げた期待感
のある笑顔の良さは忘れ難い。旦那も実に良い人で、しかも全体に泣かせを武器にし
ていないのは頼もしい。磨き上げを待ちたい演目。
★歌春師匠『鮑熨斗(上)』
圓馬師の原型か。全体の軽さ、甚兵衛さんの可愛さ、かみさんの色気は流石。
◆7月10日 池袋演芸場昼席
笑三『呼出し電話』//~仲入り~//小天華/寿輔『龍宮』/圓遊『女天下』/ボンボンブラザース/圓『長短』
★圓師匠『長短』
『殿様団子』を演ろうとして変えたというが、マクラの最初は廓の話だった。本題は
長さんのノンビリ気分を堪能した良い出来。
★圓遊師匠『女天下』
小袁治師匠ほど軽い可笑しさはないが、先代馬楽師みたいにメソメソはしていない。
ギャグはもっと現代的にしてあるが、ややアナクロ。
◆7月10日 第22回立川生志独演会『生志のにぎわい日和』(横浜にぎわい座芸能ホール)
志のぽん『骨皮』/生志『夏泥』/生志『お菊の皿』//~仲入り~//手塚/生志『線香の立切れ』
★生志師匠『線香の立切れ』
久しぶりでかなり改訂あり。番頭が物の分かった大人で、根は真面目な若旦那を更正
させるために蔵住まいに追い込む。出がけに「賽銭」として小遣いを手渡す辺りに、
『百年目』の番唐をより柔らかくした、生志師らしい良さがある(人間に対して冷た
くないのだ)。大店の番頭故、花柳界に対して冷淡過ぎないのも良い。若旦那はうぶ
で良いが、柳橋で割と早くから泣き過ぎる。女将は若旦那が入った瞬間の暗く呆けた
感じが「喪の家」を感じさせて素晴らしい半面、小糸の話で若旦那同様、早く泣きだ
し過ぎる(茶楽師の花街の気概ある女将には今のところ誰も敵わない)。朋輩が入って
きて賑やかさを一瞬醸し出す構成は良い。「雪」の三味線が鳴り出しても曲名を言わ
ず、朋輩が驚いて、歌と台詞になるのも佳演出。また、恩田えり師匠の歌と三味線の
切れ場が素晴らしい。
★生志師匠『夏泥』
目白型でサゲを変えた。真にサラサラした遣り取りでありながら、泥棒の人の良さで
楽しめてしまうのが結構。目白型の本格。
★生志師匠『お菊の皿』
お菊がCMに出たり、マリファナを吸っている爆笑編だが、興行師を出さないので
ギャグの無駄が省かれ、お菊の可笑しさを際立たせる。半面、見物に行く若い衆のキ
ワキワした感じに乏しいのは惜しい。
-------------------以上、上席----------------------------
◆7月11日 新宿末廣亭昼席
正蔵『読書の時間』/ペー/小團治(馬楽代演)『子褒め』/圓鏡『漫談』/小菊/歌之介『人生様々』(漫談)//~仲入り~//勢朝(一之輔代演)『漫談』/笑組/圓丈『シンデレラ後日』(正式題名はこれでいいんだっけ?)/小里ん『碁泥』/和楽社中/一朝『唐茄子屋政談(上)』
★一朝師匠『唐茄子屋政談(上)』
この夏の一朝師『唐茄子屋』のお初。一寸調子が出切っていなかったが、徳に「そん
なみっともないこと」と言われて叔父さんが怒りだす気概とキレ(宥める叔母さんが
またいい)、田圃で徳が「でも、いい女だったな」とうじゃじゃけるとこの甘く柔ら
かい良さは無類。
◆7月11日 新宿末廣亭夜席
竹蔵(圓龍代演)『蛇含草』/馬生『安兵衛狐』//~仲入り~//菊輔『長短』/ホームラン/左橋(志ん彌代演)『親子酒』/南喬『富士詣』/仙三郎社中/菊之丞『船徳』
★馬生師匠『安兵衛狐』
『天神山』に近い演出を取り入れて、安兵衛の狐嚊は曲書きをして(仕種は見せない)
消えてしまい、安兵衛が追って行き掛けてサゲがつく。持ち時間の関係で前半の幽霊
嚊や狐捕りの件は簡略化されているが、志ん生師のズボラな演出のまんまの『安兵衛
狐』より面白さが行き届いている特に長屋の連中のワイワイガヤガヤの辺り)。
★菊之丞師匠『船徳』
黒門町の物真似みたいな「可笑しくなさ」は脱したが、先日の『付き馬』同様、声が
太く、口調が早いため、驚いたり呆れたりしている場面の客がみんな「怒っている調
子」になってしまうのは考え物。
★菊輔師匠『長短』
凄くクサい長さんだけれど、ここまでクサいと可笑しい。
★左端師匠『親子酒』
童顔乍ら、親旦那のクサさが似合って見えるようになったなァ。
★南喬師匠『富士詣』
安定感抜群!
◆7月12日 新宿末廣亭昼席
歌之介『MeToo』(漫談)//~仲入り~//一之輔『蛇含草』/笑組/圓丈『強情灸』/小里ん『手紙無筆(上)』/和楽社中/一朝『片棒』
★一朝師匠『片棒』
序盤は「一朝師としては普通」の出来だったが、携帯を鳴らした上、電話に出た馬鹿
客が客席に出現してから、逆に旦那のテンションが上がり、次男、三男と鰻上りに面
白くなった。こういう、先代文治師には良くあった「怒った後が倍して面白くなる」
という高座は一朝師ではこれまで観た事がない。
◆7月12日 第128回談笑月例独演会(国立演芸場)
談笑『たが屋』/談笑『疝気の虫』//~仲入り~//談笑『木乃伊取り』
★談笑師匠『木乃伊取り』
ネタ卸しとのこと。かしくにひと言も口をきかせないのは巧い演出。権助が国に帰
れば大百姓の若旦那で、実は最初から若旦那を返して居続けする心算があり、かしく
を身請けすると言い出す…という終盤の展開は面白い。半面、阿っ母さんの泣きや権
助の怒りがマジに聞こえ過ぎて中盤がダレる。
★談笑師匠『たが屋』
侍の首が飛んで、たが屋が呷った野次馬を大量虐殺する演出。こういう壊し方は新
鮮味が無くなると辛いね、志らく師の「談笑のは“作った狂気”だから」という言葉
がそぞろ滲みる高座である。
◆7月13日 宝塚歌劇団星君東京公演『ダンサ・セレナーテ』『セレブリティ』(東宝劇場)
◆7月13日 第255回小満んの会(お江戸日本橋亭)
けい木『元犬』/小満ん『有馬のおふじ』/小満ん『竈幽霊』//~仲間入り~//小満ん『唐茄子屋政談』
★小満ん師匠『有馬のおふじ』
「妻妾同居噺」としては三代目柳枝師が演っていたという『不動床』に近いような展
開だが、もっと洒落た構成になっている。かみさんに妾同居を言い出されて困りまく
る旦那も素晴らしく面白いが、妾が来た時に取り次ぐ小僧の長吉の可笑しさ、セリフ
の見事な味わいある可笑しさには唸った。こういう小品がもっと寄席に欲しい。
★小満ん師匠『竈幽霊』
志ん生師系の演出。主人公の大工が職人にしては肉体派ではないけれど、気の弱い幽
霊の洒脱な面白さは四代目小さん師を彷彿とさせる。冒頭の道具屋との遣り取りで無
理に笑いを取ろうなんてしないのが終盤になって活きている。
★小満ん師匠『唐茄子屋政談』
前回の『髪結神三』などに近い「柳派人情噺」の風で、叔父さん、叔母さんの気骨の
ある面白さには驚く。「歯を磨く?歯なんぞ磨くんじゃない、人間を磨くんだ!」な
んてセリフを嫌味なく言えるのは小満ん師ならではであり、「柳派風人情噺」ならで
は。若旦那は「人殺し!」「誰だ?」「あれとあれとあれ(唐茄子を指差す)」の件が
素敵に楽しく(今夜の小満ん師は仕種が三演目とも素晴らしかった)、誓願寺での遣り
取りも変に気張らない良さがある。唐茄子を売ってくれる男の「名前なんぞ名乗るほ
どのもんじゃないよ」と言って立ち去る良さは志ん朝師以来だろう(唐茄子を嫌がる
半ちゃんとの遣り取りで半ちゃんを敢えて性質悪く描いて大きく笑いを取ろうとしな
いのも江戸前)。徳が籠を空にしてきたのを喜ぶ叔父さんの笑顔には参った。涙が出
た。こういう嬉しさが落語の芯には欲しい。
◆7月14日 第八回プチ銀座落語祭「銀座山野亭落語会」初日第一部「春風亭一朝・一之輔親子会」
朝呂久『浮世床・講釈本』/一朝『たが屋』/一之輔『百川』//~仲入り~//一之輔『麻暖簾』/一朝『大工調べ(上)』
★一朝師匠『たが屋』
キレ味良く良い出来。
★一朝師匠『大工調べ(上)』
物凄く志ん朝師に似ていたのは棟梁の啖呵と大家の悪態にメリハリが強かったため
か。啖呵は粒立っていて見事だし、与太郎は可愛く可笑しい。
★一之輔師匠『百川』
サラリ加減で河岸の若い連中の知ったかぶりが引き立ってきた。
★一之輔師匠『麻暖簾』
陰気にならない良さの半面、味わいもまだ乏しい。旦那の小言めいた口調は今夜は聞
かれずで良かった。
◆7月14日 第八回プチ銀座落語祭「銀座山野亭落語会」初日第二部「入船亭扇遊・柳家喜多八二人会」
朝呂久『寄合酒(上)』/喜多八『お花半七』/扇遊『ねずみ』//~仲入り~//喜多八『元帳』/扇遊『片棒』
★扇遊師匠『ねずみ』
ズーッと同じトーンでエッジの立たない高座。卯兵衛が地元の隣人相手だと田舎言葉
になり掛かるが、いっそ卯兵衛は田舎言葉で通した方が物語の緩急が立つのではある
まいか。
★扇遊師匠『片棒』
一朝師型で「引き」の可笑しさはないが、高っ調子に活気があり、旦那のボヤキや怒
りとの対照が面白かった。
★喜多八師匠『お花半七』
珍しい演目で淡彩だが、半七の生真面目さと、叔父さんの遊び人感覚の対照が非常に
面白い
★喜多八師匠『元帳』
俥屋無しで夫婦の件だけ。扇遊師がトリ高座のマクラで「楽屋では“喜多八家の或る
夜の出来事”と呼んでる」といってたが、確かにそういう身近な愉しさ満載。
◆7月14日 第八回プチ銀座落語祭「銀座山野亭落語会」初日第三部「桂平治独演会」
朝呂久『のめる』/平治『擬宝珠』/正蔵『ハンカチ』//~仲入り~//平治『質屋蔵』
★平治師匠『質屋蔵』
熊さんの困惑と告白がピッタリで、圓生師型とは丸で可笑しさのベクトルが違い、
もっと愉しい噺になっている。いつも以上の大声連発だったのは会場のサイズとミス
フィット。
※先代文治師に似て、平治師はお客の勝手な言葉やオーバーリアクションを気にする
神経質なタイプなのに、明らかに平治師ファンであるにも関わらず、全ての言葉に大
きな声でリアクションするオバサン客がいるのは摩訶不思議(先日の道楽亭くらいの
箱でも同じリアクションをしていたのにも呆れた)。単に自己顕示欲が強いだけの可
哀想な人なのかもしれないが、兎に角、煩くて仕方ない。「静謐」は観客側の文化だろう。
★平治師匠『擬宝珠』
喬太郎師とは大分雰囲気は違うが、若旦那の変なフェチと熊さんの骨太な可笑しさが
活きている。『にゅう』も喬太郎師から移して貰えないかな。
★正蔵師匠『ハンカチ』
客席に一人、オーバーリアクションの女性客がいてマクラで四苦八苦。
というか、マクラを振り過ぎた。笑いの少ない噺で逃げれば良いのに。
◆7月14日 新宿末廣亭夜席
南喬『幇間腹』/仙三郎社中/菊之丞『幾代餅』
★菊之丞師匠『幾代餅』
稍簡略型。清蔵が職人でなく若旦那に見えるのも気掛かりだが、簡略化した結果、ス
トーリーだけが残って会話や表情が印象に残らない高座になっていた。弥生十五日に
駕籠から降りた幾代が石持の衣装を着た年増めいて見えたのも違和感あり。お客が
入っていたから、初心者向けになるのは仕方ないが。
◆7月15日 第八回プチ銀座落語祭「銀座山野亭落語会」二日目第一部「五街道雲助・桃月庵白酒親子会」
一力『子褒め』/志ん吉『元犬』/白酒『寝床』//~仲入り~//雲助『宮戸川』
★雲助師匠『宮戸川』
先日の馬石師同様、終盤、叔父さんの三回忌は無し(当然、雲助師匠がカットされた
のだろう)。出来はベストではなく、前半の叔父さん・叔母さんは面白いが(お花が
ニコニコしながら付いてくるってのも嬉しい)、特に後半の聞き物だった亀の迫力が
今日は弱い。「三人が一度ずつ慰んで、二度目におれが」でなく、仁三(名は出ない)
ともう一人が慰み、亀がという時にお花が正気づく演出だが、どうも「お局好み」気
分の改訂になり、幕末の末世的な世相感が失せるのは余り有り難くない。
★白酒師匠『寝床』
爆笑。白酒師の爆笑は軽いトーンだから、この温気の中でも負担にならない。
※当日、「長講一席ずつ」になったみたい。それはそれで有難いのだれども、雲助師
や白酒師の「寄席では余り演らない小ネタ」も聞きたい。
◆7月15日 池袋演芸場夜席
にゃん子金魚/吉窓『本膳』/種平(しん平代演)『干物箱』/小菊/伯楽『猫の皿』//~仲入り~//馬石(交互出演)『安兵衛狐』/小燕枝(権太楼代演)『不精床』/正楽/雲助『妾馬』
★雲助師匠『妾馬』
時々発する大声がアクセントになり、噺に起伏を与えている。終盤も泣き笑いから完
全に泣きまでは行かないのが結構。
※圓生師型の矢鱈と泣く演出の『妾馬』も最近はとんと聞かないけれど、先代ぜん馬
師から目白の小さん師へ伝わっていた『妾馬』の全体的な演出はどんなだったかな?
部分的には小満ん師の演出に残っているが。
★小燕枝師匠『不精床』
剃刀を横に引く件で、以前に感じたような痛みは感じなかったが、今回は中盤から完
全に爆笑状態の面白さ。
★馬石師匠『安兵衛狐』
序盤、何か調子が荒っぽかったが、狐狩り辺りから何時もの調子に戻った。
★種平師匠『干物箱』
終盤、蒲団を剥がれて顔を上げない善公の形やサゲの呼吸は優れているが、序盤の若
旦那と善公の遣り取りがまだ平板。
※かなり反省しているが、「正楽師匠は良くて当たり前」みたいに思ってしまい、こ
のプログ原稿でも殆ど取り上げて書いて来なかったが、矢張り桁違いの実力者である
事はちゃんと書きとめておかないといけないね。
◆7月16日 第八回プチ銀座落語祭「銀座山野亭落語会」三日目第一部「三遊亭遊雀・三遊亭兼好二人会」
辰じん『金明竹(骨皮抜き)』/兼好『だくだく』/遊雀『蛙茶番』//~仲入り~//遊雀『電話の遊び』/兼好『青菜』
★遊雀師匠『蛙茶番』
半ちゃんの思い込みの強いキャラクターと派手な仕種(褌を見せに前に出てくる形が
抜群)で非常に可笑しい。半面、定吉や番頭さんといった脇キャラに改善点あり。
★遊雀師匠『電話の遊び』
その師匠の三味線と唄で「せつほん」の可笑しさが倍加する。大旦那の馬鹿馬鹿しい
キャラクターの可笑しさ。若旦那のマジさを作り過ぎないのも良い。
★兼好師匠『青菜』
このくらいの筋物でも小ギャグの羅列に近いので後半になると次第にダレてくる。
「菜のおひたしはお好きか?」「嫌いだよ」でドンッと来ないのも、演者・観客が息
切れしているためか。昇太師みたいにネタの大半を15分くらいにまとめた方が良い
のではあるまいか。かみさんが太って暑苦しいのも、もっと活かさないと。会話の途
中で妙な間が空くのは視線や表情で何かを現しているつもりなのかな。伝わってくる
ものが無いから単なる無駄な間になっている。
★兼好師匠『だくだく』
先代歌奴師などのような、如何にも「軽落語家」という雰囲気で、ソワソワした可笑
しさはあるのだが、泥棒がいつ、寝ている男に気付いたのかが無いなど、細部の構成
が荒く、白酒師のような空間の可笑しさが出てこない。ニコニコ笑ってないと、凄く
詰まらない表情になる点も改善が必要。
◆7月16日 第八回プチ銀座落語祭「銀座山野亭落語会」三日目第二部「古今亭菊之丞・隅田川馬石二人会」
辰じん『鈴ヶ森』/馬石『強情灸』/菊之丞『不動坊火焔』//~仲入り~//菊之丞『死ぬなら今』/馬石『松曳き』
★菊之丞師匠『不動坊火焔』
銭湯を少し刈り込んだが、やはり噺の脚が速い。稍屋根の上の遣り取りが夜中にして
は騒がしいが、柄は合う。幇間みたいな前座の病雀が可笑しく、万さんのボンヤリ与
太郎掛かりの調子も可笑しい。吉が最後に一度は震えた方が効果的だとは思う。
★菊之丞師匠『死ぬなら今』
こないだと同じ印象(つまりブレたりしてない)。
★馬石師匠『強情灸』
埼玉出身同士の粗忽な自称江戸っ子二人の強情の張り合い。まだ作りにやわなとこや
性急なとこはあるが、いずれは独特の『強情灸』になりそう。
★馬石師匠『松曳き』
白酒師と馬石師によってこの噺は本来の可笑しさを取り戻した。馬石師の場合、頭の
天辺から声を出す殿様が小笠原章二郎で、三大夫さんが高勢実乗というキャラクター
の雰囲気が堪らなく可笑しいのと共に、三大夫家臣に情のあるのが何とも愉しい。
◆7月16日 池袋演芸場夜席
にゃん子金魚/吉窓『動物園』/しん平『地獄極楽』(漫談)/小菊/小満ん(伯楽代演)『看板のピン』//~仲入り~//龍玉(交互出演)『夏泥』/権太楼『黄金の大黒』/正楽/雲助『お見立て』
★雲助師匠『お見立て』
少し短めだが、喜助が脛をゴリゴリやる仕種の可笑しさ、喜瀬川のドライさ、杢兵衛
のハト泣きの可笑しさと中身は揃って結構なもの。
★権太楼師匠『黄金の大黒』
新宿が重かった話をマクラに入ったが、池袋も『動物園』から割と静かな客席状態
だったから、どちらかといえば勢いで突っ込み過ぎずに確実な受けを目指した、とい
う雰囲気の高座。
◆7月17日 上野鈴本演芸場昼席
一朝『たが屋』/夢葉/白酒『水屋の富(下)』//~仲入り~//紫文/玉の輔『宗論』/小燕枝『手紙無筆(上)』/ストレート松浦/甚語楼『鰻の幇間』
★甚語楼師匠『鰻の幇間』
進化中。岡釣をカットして男との出会いから。調伏の雰囲気は男の最初の言葉、表情
から明確で、それだけに「隣の酒屋と寄り添って建つ鰻屋」へ連れてく可笑しさが際
立つ。一八の芸人らしい派手なリアクションと芸人臭さは真に似合い、黒門町型の
「小綺麗な芸人」より性格的に「三等社員」的な愉しさが際立つのは持ち味。気取り
の無い、濃い愉しさを感じるのだ。『社長漫遊記』の落語版みたいな噺が似合いそ
う。
★白酒師匠『水屋の富(下)』
富が当たるまでカットして水屋の悩みから。落語研究会でネタ出ししてるからお浚い
か。夢を馬鹿馬鹿しくして、水屋がリアルに気の毒にならないよう、軽さを配慮して
いる。サゲでも全く泣かず、あくまでも落語に徹した構成を採っているのも古今亭系
として本道。
◆7月17日 日本橋落語会『通好み』(日本橋劇場)
たけ平『らすとそんぐ』/三三『夏泥』/雲助『臆病源兵衛』//~仲入り~//正蔵『仔猫』/市馬『鰻の幇間』
※聞き終えて、真に気持ちの良い会。演者と主催者、演者同士の信頼関係を感じる。
強いて言えば、たけ平さんのネタ選びにやや違和感。『雑俳』『寄合酒』みたいな演
目は持って無かったっけ?
★市馬師匠『鰻の幇間』
変わらぬ好調演目。野幇間的な芸人臭さは殆ど無いけれど、綺麗な芸人で、リズム良
く、気持ち良く聞けるのは何より。自ら口を切らない女中の「アタピンの海岸」「う
さぎ」などの面白さは群を抜いている。男が騙りではないけれど、調伏とも見えない
辺りの曖昧さが次の課題かな。
★雲助師匠『臆病源兵衛』
源兵衛の馬鹿馬鹿しい驚き方、八五郎が自ら死んだと思い込む可笑しさは雲助師なら
ではだなァ!
★三三師匠『夏泥』
クサさを感じさせない会話で、特に泥棒の間抜けなお人好しぶりが愉しい。三三師が
この噺をこう演れるようになるとは思わなかったので驚いた。
★正蔵師匠『仔猫』
お鍋の仕種を店の若い連中がする際の仕種の綺麗さ、不気味さを醸し出す的確さと、
お鍋の明るさの程好いミックスされた佳作。
◆7月18日 上野鈴本演芸場昼席
歌武蔵『支度部屋外伝』/遊平かほり/菊丸(喜多八代演)『たが屋』/一朝『蛙茶番』/夢葉/扇辰(白酒代演)『麻暖簾』//~仲入り~//ぺぺ桜井(紫文代演)/玉の輔『動物園』/小燕枝『強情灸』/ストレート松浦/甚語楼『小言幸兵衛』
★甚語楼師匠『小言幸兵衛』
聞いた事があったかな…と思う面白さ。長屋巡りをカットして豆腐屋の登場から。幸
兵衛の「小言の種探し」の癖は豆腐屋相手だと余り分からないが、ここは豆腐屋の直
情な情けなさが可笑しい。仕立屋はかつて誰からも聞いた記憶の無い丁寧な口調で、
それでいながら『千早』の八五郎並に幸兵衛の話に入って翻弄されてしまう受け身
キャラクターが馬鹿に可笑しく、ニコニコしていた幸兵衛が突如暴走を始める可笑し
さとのバランスが良い。幸兵衛は最初から心中とは言わず、ジワジワと話を積み上げ
て行くから「何が始まったんでございますか?」「芝居だとこうなるてんだよ!」の
食い違いが面白い。心中は花道までで、最後の鉄砲鍛治は最初から、借家借りでなく
幸兵衛をからかいにくるが「貸してやる。お前みたいな奴が越して来ると小言の種が
つきない」のサゲて背負い投げを喰らう。更に面白くなる可能性を秘めた愉しい高座。
★扇辰師匠『麻暖簾』
この静けさは扇橋師にも無い良さだなァ。
◆7月18日 第28回『白酒ひとり』(国立演芸場)
おじさん『元犬』/白酒『欠伸指南』/白酒『桃月アンサー(ウンケート読み)』/白酒『水屋の富』//~仲入り~//白酒『寝床』
★白酒師匠『欠伸指南』
後半は雲助師型。前半、茶席の欠伸、芝居小屋の欠伸など上級欠伸が足されている
が、「欠伸の稽古」というより「奥伝」をからかっている可笑しさがある。茶席の欠
伸の「どう見てもしてない欠伸」や芝居小屋欠伸の「掛け声半分の欠伸」のセンス、
巧さは凄い。また、師匠が八五郎を殆ど怒らない品位を保っているのも流石。その
分、後半と前半の折り合いまだ波がある。
★白酒師匠『水屋の富』
富に当たって金を取りに来る件から。他の富噺と被るから富の件は演らない意図かし
らん。巧く刈り込んで文学臭さ・演劇臭さを抜き、気楽な落語にしてある構成力は素
晴らしい。富の担当者が混乱する水屋を笑顔で二回ひっぱたくのには笑った。
★白酒師匠『寝床』
「断りの理由」などを細かく入れ替えているのが分かる。旦那が益々人間的に可愛い
我が儘者の度合いを増しているのも愉しい。
◆7月19日 上野鈴本演芸場昼席
喜多八『鈴ヶ森』/一朝『幇間腹』/夢葉/白酒『水屋の富』//~仲入り~//紫文/玉の輔『生徒の作文』/小燕枝『権助提燈』/ストレート松浦/甚語楼『崇徳院』
★甚語楼師匠『崇徳院』
前半、親旦那の声が湿り気が強いのと、地の言葉が重く噺のテンションが上がり難
い。若旦那は普通の出来。八っつぁんとかみさんはピッタリ。早く八五郎を帰宅させ
る演出が良いのではあるまいか。東京では余り演らないが、親旦那とかみさんに腰回
りを草鞋だらけにされる演出や、最後の床屋へ着いた時は八五郎がツルツル頭になっ
てるくらいの演出は取り入れた方が似合うと思う。
★白酒師匠『水屋の富』
三日連続拝聴。試行錯誤中かな?金を風呂敷のまま座敷の真ん中に置いておく泥棒避
けのアイディアは不要か。夢の盗人も合口と刀の区別が付かず、鉈から鎖鎌も変化が
感じにくい。吹き矢や大鉞みたいな馬鹿馬鹿しさが欲しいと感じる。出掛けに何人も
怪しむのも夢と被って噺を重苦しくする。小品落語にするから、夢か怪しむか、どち
らか片方だけで良いのではないか。
◆7月19日 第二期独演会その2『夏の正蔵』(紀尾井小ホール)
たけ平『大師の杵』/正蔵『七段目』/仙三/正蔵『巌流島』//~仲入り~//正蔵『佃祭』
★正蔵師匠『七段目』
初演。一朝師譲りで、芝居掛かりの形はちゃんと出来ているが、半面、芝居掛かりの
件の方が普通のセリフより声が小さいのは?マ-ク。
※この噺、三段目の喧嘩場でも出来ないかな?
★正蔵師匠『巌流島』
若い侍の怖さと老武士の穏やかさの対比は良く出ている。乗り合いの連中はもっとキワキワしたい。
★正蔵師匠『佃祭』
三代目金馬師の演出を取り入れて、金太郎家の場で笛を入れる。出来れば次郎兵衛さ
んの祭見物から笛は入れたいと感じた。笑いのクドい部分をかなりカットした演出な
のと、次郎兵衛さんが良い人だから、前半は人情噺っぽい。その分、船着き場で次郎
兵衛さんがかみさんの焼き餅を考えて困る様子がもっとないと前半が平板に陥る危険
あり。船頭金太郎はもっと肉体的に佃の船頭でありたい。葬式からトーンはワイワイ
ガヤガヤになる所だけれど、稍調子を上げきれなかった。葬式というハレを面白がる
落語国の連中の了見がまだ足りない。与太郎は似合い、早桶の件を抜いた分、与太郎
の身投げ探しからサゲまでの件は付け足しっぽくならず、すんなり行ったのは重畳。
◆7月20日 道楽亭出張寄席“第一回道楽亭らくごまつり2012夏 笑っていただきます!”(牛込箪笥区民ホール)
けい木『鮑熨斗(上)』/たま『憧れの人間国宝』/遊雀『寝床』//~仲入り~//馬石『締込み』/喜多八『明烏』
★喜多八師匠『明烏』
源兵衛・太助が主人公の『明烏』として絶妙の可笑しさ、粋さ、愉しさ。最後に太兵
衛が訳の分からない叫び方で喚いちゃう了見が最高に可笑しい。小満ん師・小里ん
師・喜多八師と『明烏』は柳家の芸になったかな。
※一朝師が『明烏』を演らないかなァ。
★遊雀師匠『寝床』
たまさんで破壊的な方向に行きかけた流れを見事に戻して、しかも笑いを跳ねさせて
陰気にしない腕前に驚く。旦那の機嫌が直るとこまでがメインで、旦那はひたすら我
が儘で可笑しな人。繁蔵の「ヘッ?」という無言の誤魔化し表情が抜群。可笑しさで
は白酒師と並ぶね。店子連中のワイワイガヤガヤや義太夫避難はカット。サゲを変え
たのは今回だけの趣向かな?
★馬石師匠『締込み』
抜群。泥棒が煮立った鉄瓶を火から外した配慮(以後、その事に触れたりしない)、
潜った床下で糠味噌を掻き回そうとするキャラクターの素晴らしさ。夫婦喧嘩も度を
越さず、かみさんに色気があり、亭主がかみさんに惚れてる良さときたらないね。止
めに入った泥棒のパントマイムがまた絶妙。今や、仕種は五街道四門に敵わない。サ
ゲの軽さも素晴らしい。しかも、ちゃんと全編ちゃんと受けている。トリの喜多八師
がマクラで「今夜は良い時の池袋演芸場みたいでいいですね」と言ったのは、遊雀師
⇒馬石師のおかげ。
★たま師匠『憧れの人間国宝』
「人間国宝」という称号と、それに執着する連中の馬鹿馬鹿しさをここまでおちょ
くったのは噺家さんとしては偉い。
------------------------以上、中席-------------------------
◆7月21日 新宿末廣亭昼席
夢花『壺算』/陽昇/遊雀『悋気の独楽』/圓馬(春馬代演)『反対夫婦(上)』/ボンボンブラザース/笑遊『鰻の幇間』
※絶好調・陽昇先生がいて、仲入り前にも鯉昇師匠、圓遊師匠がいて良い番組。
★笑遊師匠『鰻の幇間』
「吉男ちゃんが二階で遊んでいて、吉男ちゃんが銀賞を獲った“初日の出”の軸が掛
かっている鰻屋で“真水正宗”って酒を呑まされた一八が酷い目に遇う噺」で、リズ
ムが整ったら大爆笑落語になるくらい可笑しい。勿論、現時点でも爆笑。
★遊雀師匠『悋気の独楽』
低温の魅力が特徴の定吉が矢鱈と可笑しく、色情狂みたいな妾(こういう女性って
いるなァ)が無闇と色気を放つ爆笑展開。
★圓馬師匠『反対夫婦(上)』
代演とはいえ、何でこの出番で『反対夫婦』を出すかなァ。
◆7月21日 上野鈴本演芸場夜席
遊一(わさび・ろべえ代演)『転失気』/和楽社中/一琴『六銭小僧』/白酒『笊屋』/のいるこいる/扇遊『垂乳根(上)』/馬石『締込み』//~仲入り~//遊平かほり/はん治『鯛』/正楽/喜多八『明烏』
★喜多八師匠『明烏』
昨夜そのままに近い佳演。時次郎を叱りつける際の、源兵衛の小悪党がりがなんたって可笑しい。
★馬石師匠『締込み』
序盤、少し端折ったが、これまた昨夜同様の佳作。泥棒に酔ってからクドクド言わせ
ないのも真に結構な、裾ダレしない好演出。
◆7月23日 新宿末廣亭昼席
陽昇/昇之進(遊雀昼夜替り)『善光寺由来』/春馬『道具屋』/味千代/笑遊『青菜』
★笑遊師匠『青菜』
笑遊師では初聞きの演目だと思う。おそらくは権太楼師型。序盤、抑え加減で旦那や
奥様の品を意識している印象。旦那は養子みたいに気の弱い雰囲気なのが妙に可笑し
い。植木屋も前半は大人しい。うちに戻り、炸裂しかけたかみさんが出てきた辺りか
らテンションは上がるが、決して破壊的でなく、友達相手もひたすら嬉しそうに植木
屋が喋っているのでどっかホンワカ。まだ笑遊師的な手が加わっているとは言えない
が、それでも十分に爆笑出来るのは持ち味の強みか。権太楼師ネタを媒介とした「芸
術協会爆笑古典派増殖計画」は確かに進行している。
◆7月23日 真一文字の会(内幸町ホール)
一之輔『鰻屋』/こはる『天災』/一之輔『麻暖簾』//~仲入り~//一之輔『三枚起請』
★一之輔師匠『鰻屋』
私は初聞きの演目じゃないかな?。序盤が短いが、殆ど手を入れていない。鰻を掴む
手付きが些か動き過ぎる。
★一之輔師匠『麻暖簾』
少しずつ丁寧になっている。夜の雰囲気だけでなく、言葉の入れ換えなど。旦那が杢
市の知ったかぶりを面白がる笑顔が足りない。
※『天災』からの繋がりで曰く「むっとして 帰れば井戸の 柳影」
★一之輔師匠『三枚起請』
ネタ卸か店卸。元は一朝師だろうが、まだ模写の段階。何せ志ん生師⇒志ん朝師型し
か戦後は無いから、どうしても似ちゃうし、彫りの浅い模写だと尚更志ん朝師が透け
て見える。喜瀬川の「洒落、洒落」には笑ったが、そういう世界を目指すのなら、志
ん朝師から離れられるかも。騙され三馬鹿トリオのキャラクター造りはまだこれから。
◆7月24日 第十回射手座落語会(浅草三業会館二階座敷)
扇『金明竹』/正蔵『佃祭』/喬太郎『お~い中村くん!』(漫談)/生志『お菊の皿』
※自分の主催する会なのでコメントは無し。とはいえ『お~い、中村くん!』の一期
一会的可笑しさは一寸累を見ない。「自分が面白くないとお客様は重しくないよ」と
いう先代馬生師の言葉を思い出した。
◆7月25日 新宿末廣亭昼席
鯉昇『粗忽の釘』/北見伸・スティファニー/圓遊『反魂香』//~仲入り~//夢花『代脈』/ぴろき(陽昇代演)/遊雀『浮世床・芸』/春馬『つる』/味千子/笑遊『愛宕山』
★笑遊師匠『愛宕山』
この芝居で珍しいトリネタを賭けているのは、北村会長に「『片棒』しかトリネタを
知らないの?」とハッパを掛けられたからとか。明るくパァパァしている芸人らしい
一八が活躍。土器がそれて茶店のお婆さんに当たる辺りの馬鹿馬鹿しさは笑遊師らし
くて好きだなァ。サゲで少し間が空いたのが惜しい。
◆7月25日 半蔵門寄席スペシャル“私、ラジオの味方です”第4弾(紀伊国屋サザンシアター)
喬太郎『反対俥』/一之輔『鈴ヶ森』/喬太郎・一之輔・柴田由紀子(番組公開収録)
//~仲入り~//一之輔『欠伸指南』/喬太郎『道灌』
★喬太郎師匠『反対俥』
久し振り。流石に勢いが余り無い。
★喬太郎師匠『道灌』
サラサラ演っていたが、隠居の良さと比べると八五郎のリアクションが予定調和に
なってしまう辺りが『道灌』の厄介なとこ。何か別の方法論が必要か。
★一之輔師匠『鈴ヶ森』
フワフワ度が上がり、喜多八師の枠から少し抜けてきたかな。
◆7月26日 新宿末廣亭昼席
笑三『まちがい』/圓遊『鰻の幇間』/鯉昇『ちりとてちん』/北見伸・スティファニー/米丸『アルキメデス』(漫談)//~仲入り~//夢花『壺算』/陽昇/遊雀『分かんねェんだよ桃太郎』/春馬『強情灸』/味千子/笑遊『片棒』
★笑遊師匠『片棒』
十八番だが、いつもの慌ただしい入り方ではなく、ユッタリ入ったので序盤は普通の
落語だった。その分、長男の後半で親旦那が怒り出してからは大波の打ち寄せ、引く
ような振幅になり場内大爆笑になった。笑遊師の『片棒』でもこれだけ面白かったの
は初めて。普段は省く「我死なば焼くな埋めるな野に捨てよ」も馬鹿受け。
★遊雀師匠『分かんねェんだよ桃太郎』
前の陽昇先生の「分かんねェんだよ」を取り込んでの爆笑編。
◆7月26日 東京マンスリー古今亭菊志ん独演会vol.54「十八番を作る一年~その6」(らくごカフェ)
菊志ん『花見小僧』/三木男『たが屋』/菊志ん『刀屋』//~仲入り~//菊志ん『お化け長屋(上)』
★菊志ん師匠『花見小僧』
演出は先代馬生師系かな。定吉のキャラクターが似合い、旦那の「脚を出せ!」も口
調は先代馬生師と違うが可笑しい。旦那のキャラクターは(口調は違うが)圓菊師っぽ
く、トントン運び乍ら定吉の視点でおせつのウブ、徳三郎の二枚目気取り、婆やのお
節介ぶりをおちょくっているのが愉しい。
★菊志ん師匠『刀屋』
これも元は先代馬生師系か。徳三郎が思慮の浅い若さを見せるのは良いけれど、二枚
目に見えないのは課題(年齢設定が23歳は老けてる。文七と同じくらいの十代で良
いのでは?)。刀屋の旦那はお説教じみないのが良い半面、稍口調の強いのが惜しま
れる。先代馬生師の枯淡は誰にも出せないけどね。頭でなく、町内の熊におせつ家出
の顛末を語らせ、「銭を貸してくれ」抜きでテンポが早いのは工夫。おせつはもう少
し可愛くありたく、二人が出会ってからは人情噺の口調になり過ぎる。
★菊志ん師匠『お化け長屋(上)』
雲助師譲りで10年ぶりくらいの口演技だそうだが。古狸の杢兵衛をわざと圓菊師的
なキャラクターにして、遊んでる雰囲気の強い高座。「後家さん、いいなァ」など
「心の声」みたいなのをギャグで挟んでいたのも女性観客向けサービスかな。菊志ん
師の『お化け長屋』をこの高座で語るのは一寸止めておきましょ
◆7月27日 新宿末廣亭昼席
笑三『ぞろぞろ』/圓遊『皿屋敷』/鯉昇『南瓜屋』/北見伸・スティファニー/米丸『眠らぬ男』//~仲入り~//夢花『子褒め』/ぴろき(陽昇代演)/遊雀『桃太郎』/春馬『お玉牛』/味千代/笑遊『鰻の幇間』
★笑遊師匠『鰻の幇間』
バワフルさを増して、爆笑に次ぐ爆笑。一八の芸人らしさ、野幇間らしさが違う。十
円札がクルクルと一八側に戻ってくる件や、「お膳についた吉男ちゃんの足跡」「銀
賞を獲った吉男ちゃんの“初日の出”の軸」の可笑しさはない!笑遊師の『鰻の幇
間』は「名作落語を演じている」のではなく、「洒落た可笑しな噺を愉しく演じた結
果が名作落語になっている」のがステキである。
★笑三師匠『ぞろぞろ』
非常に短い、十分足らずだが、無駄が無く、オチは派手で面白い。
★鯉昇師匠『南瓜屋』
今現在、『南瓜屋』の与太郎は鯉昇師匠の演じているキャラクターが目白の小さん
師匠の考えていた『南瓜屋』の世界に一番近いのではないかと感じる。鯉昇師匠の
『南瓜屋』自体は先代柳好師匠の色合いを濃く感じるのだけれど、与太郎は与太郎な
りに考えてはいるのにも関わらず、「落語国の世間の常識」とは、どうも噛み合わな
い。そういう「目白的落語世界」「四代目小さん師の作った与太郎像」ならではの面
白さが、鯉昇師の場合、先代柳好師のボワッとした味わいを調味料として、最も素直
に演じられている印象を感じるのだ。対するに、特に落語協会の中堅世代以降の噺家
さんが演じる『南瓜屋』は、演技的に洗練され過ぎて、「近代的」になっており、
却って目白の師匠の世界より「現実世界に近くなっちゃった弱さ」を感じてしまうんだなァ。。
◆7月27日 新宿末廣亭夜席
たか治『道具屋』/笑松・笑好(交互出演)『善哉公社』/真理/圓『嫌い嫌いど坊主』
★圓師匠『嫌い嫌いど坊主』
おそらくは先代圓馬師が演じられていたのだと思うが、これを東京で演じる師匠がい
て、しかも30人程の小人数の客席にちゃんと受けるとは仰天!
※笑三師『ぞろぞろ』、圓師匠『嫌い嫌いど坊主』が一日の間に聞けるとは…芸術協
会恐るべし。
◆7月27日 J亭落語会桃月庵白酒独演会(JTアートホール)
駒松『道具屋』/白酒『臆病源兵衛』/白酒『水屋の富』//~仲入り~//ほたる『反対俥』/白酒『鰻の幇間』
★白酒師匠『水屋の富』
序盤、神棚に汲み立ての水を何度も捧げて祈り、神様が面倒臭くなって千両富を当て
る、という件が付くのは初めて聞いた。家元の『ぞろぞろ』めくけれど全体の展開、
演出は落語落語していて結構。。
★白酒師匠『鰻の幇間』
下駄まで持ってく志ん生型はやはり調伏の雰囲気が強い。若林さんと稲葉さんのうち
での穴釣から始まる前半の雰囲気は、最近だと甚語楼師の演出に近いが、落語協会所
属中堅の弱味で「芸人らしさ」「芸人臭さ」に乏しいため、何となく陰なのが噺の展
開として食い足りない。『幇間腹』を演ってないのもあるかな。下から視線にならな
いのである。客に逃げられたと分かってからも、妙に一八がシニカルで、市馬師・喜
多八師・甚語楼師・笑遊師の強烈な怒りの可笑しさを聞いた後では小綺麗に感じて、
調伏の洒落っ気、馬鹿馬鹿しさ、遊び感覚が消えてしまう。安藤鶴夫氏系の「幇間に
哀れを感じる上から視線の嫌らしさ」と「文学ボケして洒落の分からない野暮さ」を
感じてしまうのだ。古今亭系に野暮は似合わない。
◆7月28日 新宿末廣亭昼席
夢花『壺算』/陽昇/遊雀『堪忍袋(上)』/春馬『動物園』/味千代/笑遊『愛宕山』
★笑遊師匠『愛宕山』
前半は山遊びでノンビリ演り、五重塔や桂川の見物セリフもある。所が、お客が土日
客だから長閑さを味わえずテンションが下がり、そのまま土器投げに入ったのは計算
違い。一八の谷底落ちも舞い戻りも、一八の幇間らしい可笑しさも馬鹿馬鹿しいスペ
クタクルも、何をしているか、意味が分からなかったらしく客席に受けなかったのは
残念。『祇園祭』の客席だった訳だ。まあ、噺を固めている最中だろうから、これく
らいの浮き沈みは仕方ない。
※浅草昼席に向かい掛けて、花火と気付き新宿へ来た。箍屋にゃなりたくないもん。
◆7月28日 『三三時代会員落語会』(内幸町ホール)
三三「御挨拶」/三木男『4たが屋』/三三「アンケート回答」(お楽しみ)/三三『短命』//~仲間入り~//三三『團子坂奇談』
★三三師匠『短命』
前半の淡彩と帰宅してからのかみさんの粗っぽさのバランスが取れていない。
★三三師匠『團子坂奇談』
運びは怪談だから、ストーリーを聞かせれば良い上に、この演出だと娘の告白もない
から、心情が不要。ドライにうっちゃりを食わせてオシマイだから似合う。やはり怪
談師の資質ではないかなァ。但し、扇辰師のような「ぬけぬけとした面白さ」がラス
トの蕎麦屋の主人にない。
◆7月29日 春風亭昇太独演会オレスタイル三日目マチネ(紀伊国屋サザンシアター)
昇太「御挨拶」/遊雀『悋気の独楽』/昇太『宿屋の仇討』//~仲入り~//昇太『寝
床』/昇太『人生が二度あれば』
★昇太師匠『宿屋の仇討』
軽く、格段に面白くなった。特に「仇」と分かってからの喜助と萬事世話九郎の遣り
取りが可笑しく、喜助の「明朝」「宿外れまで行くと三浦忠大夫様が待ってます」
や、仲間二人の「胴体は江戸に持って帰ってやるよ」、喜助の「首の無い人に胴体は
持って帰れませんよ」と爆笑遣り取りの連続。三人が土間に転がされているのも可笑
しいし、絵面的に正しい。萬事世話九郎をもう少し若い侍に設定しても良いのではな
いかな。
★昇太師匠『寝床』
旦那のキャラクターが自然と可愛い上、義太夫を浚う声変わり猫のさかりみたいなの
がまた似合って可笑しい。番頭の悲劇で、庭の池に飛び込んだ番頭を追って池に義太
夫を語り込み、鯉が腹を出して浮かぶ件から、蔵の中の件に移り、蔵中の品物がポル
ターガイストみたいに浮かんで飛び回る件、さらに義太夫が始まり、長屋連中が最前
線の兵士みたいに行動する件と、立て続けに軽く可笑しいのは「軽落語の名手」っぽ
くて愉しい。小遊三師と違い、軽さが今もスイスイしてるのが心地よいのだ。
◆7月29日 浅草演芸ホール夜席
はん治『鯛』/和楽社中/一朝『看板のピン』//~仲入り~//燕路『トビの夫婦』/べぺ桜井(正楽代演)/さん福『権助魚』/志ん輔『強情灸』/のいるこいる/扇遊『口入屋』/小里ん『夏泥』
★小里ん師匠『夏泥』
世界が違うなァ。日曜の夜、50~60人の客席で、しかも噺を邪魔する客のいない
時の浅草らしい演目で、ジワリジワリと笑いが増えて行く。一見、地味に聞こえて実
は派手な遣り取りである。単なる地味に聞こえちゃいけない演目なんだね。泥坊の
「真面目に働かなきゃいけねえじゃねえか」「悪い奴だなァ」「えれェ所へ入っ
ちゃったなァ」「みすかされちゃ仕方ねェ」のひと言ひと言に、それを受ける客席の
笑い声に、落語らしさが熟成されて行く。堪能堪能。
※はん治師から誰一人として無理押しをしない流れも良かった。志ん輔師の濃さを残
しながら軽さの出ている良さ、燕路師のサラサラと軽い巧さ、扇遊師の品の悪くなら
ない良さ、さん福師の落語らしさ、色物の先生たちも快適で、外に出て出会った涼風
の心地よさに繋がる世界だった。
◆7月30日 浅草演芸ホール昼席
ダーク広和(紋之助代演)/正朝『牛褒め』/伯楽『六銭小僧』/東京ガールズ(順子代演)/白鳥(交互出演)『公園ラブストーリー』/さん喬『そば清』//~仲入り~//甚語楼『夏泥』/ゆめじうたじ/正蔵『悋気の独楽』/馬風『漫談』/仙三郎社中/喬太郎『粗忽長屋』
★喬太郎師匠『粗忽長屋』
サラッと演っていたけれど、差配人が野次馬に言う「面白いよ、面白いんだけどね」
のボヤきや、熊が行き倒れを我が目で見てのリアクションなどから、雰囲気が今まで
となんか違っていた。
★甚語楼師匠『夏泥』
泥棒が金を財布から出したのを見た裸の男の「ホヨッ?」という表情が最高。後半に
なるほど、泥棒のリアクションがボヤきにしては調子が強く(客席に聞かせすぎ)、
些かクドくなってしまうのが惜しい。
-------------------------以上、下席----------------------
石井徹也(落語”道落者”)
投稿者 落語 : 2012年08月08日 02:40