« 「大正製薬 天下たい平!落語はやおき亭」放送予定 | メイン | 石井徹也の「らくご聴いたまま」 12月上席中席 合併号 »
2011年12月05日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 11月下席号
11月には落語ファンにショックを与える”事件”が起きました。言うまでもなく、立川談志師匠の逝去です。11月21日に永眠をされ、23日に公にされました。談志師匠に関しては別途、記事をUPする予定です。
今回は石井徹也さんによる私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の十一月下席号です。石井さんも23日の夕刻まで、この事実をご存じありませんでした。23日以降の落語会に、そのニュースは微妙な影を落とします。稀代の落語”道落者”・石井徹也がリアルタイムで記録した”2011年11月下席”のレポートをお届けいたします。
------------------------------------------------------
◆11月21日 第107回関内小満んの会(関内小ホール)
ありがとう『牛褒め』/小満ん『稽古屋』/小満ん『心中時雨傘』//~仲入り~//小満
ん『鈴振り』
★小満ん師匠『稽古屋』
下座抜きなので踊りの件は抜き。主人公が隠居にもてない訳を訊いて稽古屋へ向か
う。「喜撰」を習うが駄目で「擂り鉢」の本を借り、大屋根の上で甲の声を出す稽古
をする、所謂『歌火事』。主人公と隠居の軽い遣り取り、女師匠の困り顔と素軽く愉
しい大人の味。
★小満ん師匠『心中時雨傘』
積善の家に余凶ありの展開で確かに救いの無い噺。因縁因果とも無縁で、不思議に無
常な話。しかし、時雨を背景としながら、ほの温かい印象を聞き終わって受けるのは
小満ん師の語り口故か。『除夜の雪』より救いの無い演目なのだが。
★小満ん師匠『鈴振り』
『お長兵衛芝居』『柿栗松浦松茸』『甚五郎の張型』などのバレ小噺を経て、『十八
壇林』を軽く彩りに添えて本題へ。「UnderStand?」を小噺の合間の接ぎ
穂にしたのがまた洒脱。本題では若い修行僧の袖を引いて「一寸こちらへ」と一人ず
つ別室へ呼び、男根に鈴をつける件が馬鹿に可笑しい。こういう洒落た作りは小満ん
師以外に無理だね(三十年程前、ひょうきん族メンバーが真逆の事をしたと聞いた事
がある。前座さんで同じ事をしたら…女性が増えたから無理か)。
■立川談志師匠逝去 75歳。(公表は23日)
◆11月22日 池袋演芸場昼席
いっぽん『道灌』/金兵衛(交互出演)『狸の札』/美るく『垂乳根』/正朝『宗論』/東
京ガールズ/圓太郎『強情灸』/馬生『転宅』//~仲入り~//金也(交互出演)『悋気の
独楽』/扇好『のめる』/世津子/金時『芝浜』
★圓太郎師匠『強情灸』
峯の灸を使う古今亭型のスタンダード演出。友達二人の馬鹿な意地の張り合いが烈々
と能天気で可笑しい。
★正朝師匠『宗論』
寄席で聞くにはギャグを入れすぎずにキャラクターの面白さで聞かせるタイプで適
切。
★金兵衛さん『狸の札』
今時珍しいくらいにオーソドックスで狸も八五郎も仕種、セリフが確りしているから
面白い。
★金時師匠『芝浜』
独特の演出だが、おそらく金馬師の型だろう(金馬師の『芝浜』を生で聞いたのは2
8年前に「金馬いななく会」で聞いたのが最後だから、細部を忘れた)。主人公は魚
金。冒頭のかみさんが大抵の『芝浜』のように辛気臭くはなく明るめ(このかみさん
は割と気が強い)。芝の浜の描写は日の出くらい。慌てて帰り、戸を叩く声の抑え加
減は適切。金は五十二両二分。「唐桟を買いたい」とかみさんに話して二度寝する。
「夢だ」の件は長くない。かみさんは「呑んでも良いから働いておくれ」と言うが金
自ら「いや、酒ェ止める」と言う。三年経って、子供が生まれ(かみさんが言い訳に
は使わない)、店で若い衆も使っているが「来年辺り、表通りに店を出そうか」と話
をしている段階。金の「人間は働いてねェといけねェな」を受けて、かみさんの「話
を聞いておくれでないかい」となるが、金がそれを受けてのセリフ「怖そうな話だ
な」は良い。「そんな夢を見た事がある」は無く、直ぐに殴りかかるのを止めてかみ
さんの告白になる。「夢」にしたのはかみさんの考え。それを聞いた金が「拾った金
で遊ぼうなんて…俺はそんな腐った野郎だったんだ」「お前が一人前にしてくれたん
だ、有難う」はどちらも良いセリフだなと感じた。最後、金が右に盃、左に革財布を
持って笑うのも結構。「あたしのお酌じゃ嫌かい」は蛇足だが、左手の財布を見て、
「夢になるといけねェ」は実感がある。演出的にはざっかけなくて、金馬師らしい職
人夫婦噺の良さがある。口演的には、まだ金馬師の上なぞりの気味が強く、金の雰囲
気が如何にも若過ぎるかな。
◆11月22日 みなと毎月落語会「志らく・喬太郎二人会」(赤坂区民ホール)
らく兵『間抜け泥』/志らく『疝気の虫』/喬太郎『任侠流山動物園』//~仲入り~//
喬太郎『饅頭怖い』/志らく『鼠穴』
★志らく師匠『疝気の虫』
前半は半分、毒舌漫談みたいな物だが、エイリアン系疝気の虫のキャラクターと志ら
く師のキャラクターに違和感の無い辺りは真似出来ないとこ。
★志らく師匠『鼠穴』
「粋に憧れる野暮ったさ」という志らく師の素地の或る部分が家元と似ているから、
この田舎者兄弟は適う。兄貴が冷徹だが冷酷ではないのが序盤にあるのも嬉しい。狼
のような弟の泣き声という笑いを足して、噺の終盤を陰気になり過ぎないようにした
のも悪い工夫ではない。「落語を落語として語る話芸では談春師より上かな」とも感
じる。現在の落語協会・芸術協会のメンバーから、志らく師・談春師以上の『鼠穴』
を聞いた記憶は私には無い。でも、二人の上には三十代でこの噺を磨ぎ上げ、研ぎ上
げた家元が厳然と聳えていて、その呪縛の範囲を噺が出ていないのも事実である。夢
の中の魔王みたいな兄貴の怖さ、お花が全く泣かずに私を泣かせ感動させた凄さ、そ
の家元の『鼠穴』から、家元の忘れた穴を探して突くには足し算だけでなく引き算も
必要だろう。
※この噺、民話が元というけれど、本当かなァ。志らく師の高座を聞いていて『塩原
太助一代記』の一部を裏返した本歌取り(改作)じゃないか?という感じを受けた。三
代目圓馬師以前はどんな噺だったのだろう?
★喬太郎師匠『任侠流山動物園』
動物が喋る件は抜き。この面白さが喬太郎師の「演劇系お芝居落語」にマッチしてい
て、任侠物落語としては白鳥師を上回ると思う。白鳥師の作品で白鳥師を上回れるの
は喬太郎師だけみたいだ。
◆11月23日 とん馬の会(お江戸日本橋亭)
鯉ちゃ『桃太郎』/とん馬『雑俳』/夢吉『佐野山』/とん馬『味噌蔵』//~仲入り~
//とん馬『百川』
★とん馬師匠『雑俳』
軽快。八五郎が如何にも「船底をガリガリかじる春の鮫」と言いそうなキャラクター
であるのが可笑しい。
★とん馬師匠『味噌蔵』
吝兵衛の吝嗇ぶりが稍淡白ではあるが、その分、何処か間抜けなキャラクターである
のが愉しい。奉公人・番頭の羽目の外し方も結構。『百川』にも言えるが、人物の一
寸した距離感を現すセリフの強弱、仕種・視線の的確さは遊三師譲り。ちとメリハリ
のつけ方が寄席サイズ過ぎるのが惜しいけど、好ましい
★とん馬師匠『百川』
人物表現が的確で早口のチンパンジーみたいな百兵衛、サラッとそそっかしい河岸の
若い衆初五郎の頓珍漢な遣り取りは非常に可笑しく愉しい。一寸小味なんだけど、そ
こが圓生師や小三治師の『百川』より、みんなの間抜けさが粋に感じられるとこでも
ある。
◆11月24日 池袋演芸場昼席
美るく『堀の内』/志ん馬(扇好代演)『看板のピン』/東京ガールズ/圓太郎『野晒し
(上)』/馬生『品川心中(上)』//~仲入り~//金也(交互出演)『転宅』/正朝『蜘蛛駕
籠』/世津子/金時『柳田格之進』
★圓太郎師匠『野晒し(上)』
珍しい演目。一寸重いとこもあるが、尾形清十郎が立派で八五郎のハネ方に力強さが
あり可笑しい。
★正朝師匠『蜘蛛駕籠』
「家元に褒められた噺」という思い出をマクラにして本題へ。酔っ払い抜きだが、軽
い愉しさは相変わらず。
※『野晒し』『品川心中』『蜘蛛駕籠』は落語協会時代の家元を知る世代の追悼か。
馬生師もマクラで逝去に触れたし、圓太郎師もマクラで「21日に身の回りに起きた
変事は家元の祟りだったのかも」と語った。
★金時師匠『柳田格之進』
さん喬師型かな。それでいて萬屋や徳兵衛に金馬師の雰囲気がひょいと顔を出すのが
面白い。萬屋と徳兵衛はかなりの出来だが、柳田が侍に見えない。また、柳田が若く
聞こえる。言葉使いなどもまだ無駄が多く、それが柳田の輪郭を曖昧にしている。
◆11月24日 渋谷に福来る~落語ムーブメント2011~vol.4 立川生志独
演会(澁谷総合文化センター大和田伝承ホール)
白鳥・生志『オープニングトーク』/ぴっかり『動物園』/生志『堀の内』//~仲入り
~//白鳥『豊志賀ちゃん』/生志『紺屋高尾』
★生志師匠『堀の内』
金坊が活躍するヴァージョン。今夜もマクラが長く噺の前半は運びがスムーズとは言
い難かった。
★生志師匠『紺屋高尾』
心なしか何時もより家元の原型に近い印象を受けたが、久蔵が泣きすぎず、高尾の言
葉を疑い過ぎず、高尾がまた、久蔵の告白を聞いて一瞬にして久蔵に惚れて青く染
まった手を取る。理屈に頼らず、情を信じた展開の心地好く明るい高座だった。「俺
が純情噺にしたんだ」と昨年、博多で家元が生志師に言われたそうだが、やはり『紺
屋高尾』で聞いて泣けるのは家元型のロマンティシズムに始まり、そのロマンティシ
ズムを活かして理屈に流れず、落語らしさを忘れない生志師の口演になる、といって
も過言ではあるまい。
★白鳥師匠『豊志賀ちゃん』
これが『豊志賀ちゃん』らしい(にぎわい座に行けなかったので)。『珍景累ケ真
打』の差し障りのありそうな人物名を、柳家豊志賀、柳家さくらに変えたもの。50
分以上あった噺が30分そこそこになった無駄の無さにも感心。
◆11月25日 池袋演芸場昼席
時松(交互出演)『芋俵』/美るく『大安売』/扇好『看板のピン』/東京ガールズ/圓太
郎『権助芝居』/馬生『二番煎じ』//~仲入り~//金也(交互出演)『風呂敷』/正朝
『紀州』/世津子/金時『夢金』
★圓太郎師匠『権助芝居』
権助の田舎者らしさと、芝居好きらしい気取り方のバランスが良くて面白い。やは
り、先代馬の助師に芸質が似てるのかな。
★馬生師匠『二番煎じ』
簡略型だが、町の旦那衆の雰囲気、寒夜の隠れ酒の愉しさが出ていて結構なもの。二
の組の連中が帰ってくると、戸にしんばりをかって声を潜め、いないふりをする性質
の悪さが馬生師だと愛嬌になって面白い。お茶は飲まずに直ぐに酒を燗する。五徳が
二つあってか燗と猪鍋を煮るのが一度に出来る。鍋は土鍋など細かい配慮は先代譲り
か。見廻りの侍がグイグイと五杯の酒を煽る蟒ぶりも感じがある。
★金時師匠『夢金』
熊のリアクションが鈍いため、役々はある程度演じられても、ドラマに留まって落語
の面白さにはまだなっていない。特に、熊に愛嬌がからきし無いのは弱味。
◆11月25日 第564回三越落語会(三越劇場)
吉好『十徳』/可龍『両泥』/生志『短命』/昇太『壷算』//~仲入り~//兼好『粗忽
の釘』/談春『竃幽霊』
★談春師匠『竃幽霊』
終盤近くまで、妙に熊さんが「良い人」に聞こえた、というか、セリフも態度も道具
屋に対して凄く気を使った、町中で暮らしている人間だったのが面白い。幽霊相手だ
けは自棄に強気な熊さんである。銀ちゃんは比較的ヒョロヒョロしていたが、基本的
に柄違い。全体的には馬鹿馬鹿しさが余り無いので、落語としては物足りなさが残
る。幽霊との遣り取りの雰囲気、幽霊の妙な愛嬌を見ていると目白型の『竃幽霊』の
シンプルな可笑しさの方が向いてるように感じる。
★昇太師匠『壷算』
瀬戸物屋にまけさせるには危ない男をけしかければ良いだけだから、其処に元々ある
金のトリックを重ねる「笑い」の作り方はやはり独特だなァ。その分、何割かの会話
が無駄に感じるのがオリジナル作品の場合と旧作に手を入れた場合の違い。
★生志師匠『短命』
この所、マクラの長い時の小ネタは序盤の会話がどうも滑らかにならない気味がある
なァ。
◆11月26日 第6回さりゅうのじかん(荒木町・橘家)
左龍『お花半七』/左龍『壷算』//~仲入り~//左龍『子は鎹』
★左龍師匠『子は鎹』
情味はあるのだけれど、全体が稍陰気。特に、亀と話している間の熊さんは物凄く暗
く感じた。責任を感じ過ぎてる被告みたいである。かみさんお徳は苛烈か賢女になら
ず割と優しい母親であり女であって悪くない。亀は明るく(肉饅頭みたいな笑顔が可
愛い)メソメソはしない。鰻屋で「また三人で一緒にご飯食べよう」と言っているう
ちに涙ぐむのは正蔵師の亀に似た演出で子供の悲劇が分かる。最後に突然、番頭さん
が現れてサゲに繋がるセリフを言うが、最初から同席していた方が違和感はないと思
う(「子は夫婦の鎹だねェ」を第三者に言わせる事自体は賛成)。
★左龍師匠『壷算』
割とシニカルなほどに冷静だった瀬戸物屋が、バニックに陥るに連れてキンキン声に
なる。それがニンに適って可笑しい。そこまでの留と八の遣り取りはもう少し馬鹿馬
鹿しくても良いなァ。瀬戸物屋の小僧が主人のパニックぶりを笑って見てる、という
のは笑った。
★左龍師匠『お花半七』
伯父さんと叔母さんの件が長め。叔母さんのクチャクチャと皺っぽい感じが愉しい。
お花が意図的で半七に迫るのは良くあるが、雨が振り出し雷が鳴るまでもう少し段取
りはあった方が噺に彩りが付く。いきなりお花が迫っちゃ色気がない。女って、意図
的な時はもっと用意周到だと思うよ。
◆11月26日 第四回柳家甚語楼の会(お江戸日本橋亭)
おじさん『転失気』/甚語楼『らくだ』//~仲入り~//ほたる『代書屋』/甚語楼『崇
徳院』
★甚語楼師匠『崇徳院』
近年、これだけ可笑しい『崇徳院』は珍しい。柄に無い若旦那を崩さず丁寧に演じて
恋煩いのマジぶりを出したのが良く、目を真ん丸にするとスッと落語国の住人になれ
る熊さんの可笑しさと良き対比を見せてくれる。若旦那の恋煩い話を聞く件から、熊
さんの可笑しさは素晴らしい。ズーッと張った調子だから、緩急を使う目白の小さん
師系の長屋の住人とはタイプが違うのだけれど、張りに張っても常にキャラクターが
ボケてるから派手に可笑しい。中でも「三軒長屋を貰ってもねェ…三軒分の家賃を
あっしが払うんでしょ?」には笑った笑った(権太楼師が枝雀師から学んだ「直解主
義」のギャグセンスだね)。セリフや流れは三代目三木助師とほぼ同じだが(「役人
衆がスイトンを食った」など、独特のギャグもかなり可笑しいがギャグに頼って噺を
作っていない)、二枚目系の演者が『崇徳院』で陥りやすい「気取った嫌らしさ」が
なく、目白的落語国人物像として実に優れて愉しい『崇徳院』だった。
★甚語楼師匠『らくだ』
タップリと火屋まで。ズーッと調子を張って押し続けたハイテンションの高座。屑屋
の困り顔が可笑しく、長屋の月番や八百屋が普通の長屋の住人から、らくだの死を聞
いた途端、邪な嬉しさに欣喜雀躍する小市民へと変わる様子の愉しさ。如何にも因業
で居丈高な大家が傲慢さ一杯に喜ぶ悪魔的な可笑しさは優れた演出。兄貴分の落語的
な、怖くなりすぎない荒々しさ(余り泥酔はしない)も噺の展開上適切で、後半の気弱
さにちゃんと繋がっている。酒を呑み出してからは、三杯目途中の褒め言葉が愚痴や
怒りにジワジワ変わって強者弱者の立場が逆転する。妙にドラマティックな逆転でな
いのも落語らしい。中でも立場の逆転した屑屋がらくだの髪を毟った後、「らくだに
売り付けられ狸をらくだの家の床下で捕まえて皮を剥いだ」という自慢話を兄貴分に
聞かせようとする、初めて聞く演出には笑ったなァ。菜漬けの樽を担いで焼き場へ向
かう屑屋の「弔いだ弔いだ」の甲高い調子も間抜けで可笑しく、隠亡の酔い方もマン
ガで可笑しい。既にかなりのレベルで、「カンカンノウ」を踊らせる件や骨を折って
菜漬けの樽に死体を押し込む件でもう一つ凄みが増し、可笑し味が濃縮して噺にコク
が出れば、一級品の『らくだ』になる予感を感じさせる。
◆11月28日 第35回讀賣GINZA落語会(ル・テアトル銀座)
左龍『壺算』/白酒『替り目』/文珍『池田の猪買い』//~仲入り//平治『源平盛衰
記』/市馬『大工調べ』
★市馬師匠『大工調べ』
サゲまでの通しを意識してか、割と前半がおとなしい。大家が棟梁を褒めておいて揚
げ足を取りに行く雰囲気は目白型の本道。但し、大家の悪心が似合わないから、それ
が面白いか?というとクエスチョンマークが付く。お白州は御奉行が立派かつ清廉だ
が、人情噺的な造形で可笑しみは乏しい(この噺のお白州で可笑しいのは談笑師だけ
だけれど)
★平治師匠『源平盛衰記~木曾義仲』
殆ど漫談(笑)。
★文珍師匠『池田の猪買い』
本当に久し振りの口演なのか、少し怪しいとこもあったが、六太夫のムッツリした感
じが如何にも田舎の猪打ち猟師らしくて良かった。
★白酒師匠『替り目』
マクラが長めだったので夫婦の遣り取りは短め。うどん屋から義太夫流しへ。変わら
ぬ爆笑。
★左龍師匠『壺算』
マクラの入りが何となく陰で損をしていたが、ギャグ沢山でなく、瀬戸物屋のキャラ
クターとパニックぶりで可笑しいのは気持ち良く愉しい。米朝師匠型で、水瓶の割れ
る件なども聞いてみたい。
◆11月29日 SWAファイナル“書き下ろし”二日目姫の部(本多劇場)
昇太・喬太郎・白鳥・彦いち「御挨拶」/喬太郎『再会のとき』/彦いち『泣いたちび
玉』//~仲入り~//昇太『心をこめて』/白鳥『鉄炮のお熊~撫子の由来』
★昇太師匠『心をこめて』
「うちの協会は、落語協会と違って仲が良いんです。お互い、本当の事を言わないか
ら」という柳昇師のマクラを思い出した。小市民夫婦がお互い、本音を日常でぶつけ
あってシンドくなっちゃう、という可笑しさはシニカルでなくドライ。落語協会には
殆ど無い、米朝師みたいなドライさが実に可笑しい。
★喬太郎師匠『再会のとき』
万引き犯人の女性は、店員の大学の先輩や中学の同級生で憧れの対象という設定。女
性の話を聞くうちに、実は中学時代から良識外の人生を送っていた事が次第に露にな
る。展開は『ほんとのこというと』みたいだが、女性に全く後悔の念がなく、何とな
く薄笑いしてる印象なので、その分、この噺の方が凄味を感じる。男のロマンをぶち
壊して行く展開は『幾代餅』『紺屋高尾』の対極にある分、人間の不可解さが持つリ
アリティを感じさせる。この「×5」設定の女性に万引き以外の犯罪歴があると、よ
りリアルでディープな可笑しさの私落語になると思う。
★白鳥師匠『鉄炮のお熊』
「撫子の由来」で歌舞伎役者、それも女方が絡むのは、初代芳沢あやめの「思い出の
かわら撫子今もなお、我が起き臥しを人に知られな」を思い起こさせるのは偶然だろ
うね(笑)。「鉄砲のお熊」も『鰍沢』から取ったものとも言えるし。幼馴染みが歌舞
伎の女方と女相撲の大関になって再会する、という割に切なくウジウジしないのはヒ
ロイン側には子供時代からの片思いがなく、サッパリした気質に描かれているからだ
ろう。敵役のジャイアンみたいな盗賊が子供時代に後の女方少年を見た刷り込みで男
色家になってる無茶も生々しくなく可笑しい。『一本刀土俵入り』みたいなラストも
含め、『珍景累ケ真打』から続く女性芸人へのエール落語っぽいとこもある。実際、
『プロレス少女伝説』に続いて古今亭ちよりんさんで聞きたい噺だもん。
★彦いち師匠『泣いたちび玉』
『泣いた赤鬼』に噺の展開が縛られたのか、噺の湿度が高い。大衆演劇一座のちび玉
実は62歳(白木みのるみたい、は笑う)という設定が余り活かされていない。『聖
橋』みたいに馬鹿馬鹿しくない。基本的なコンタクトが真っ当過ぎる。
※「泣いた赤尾敏」という駄洒落を思い付いてしまった。
◆11月29日 一之輔のすすめ、レレレレ(国立演芸場)
朝呂久『浮世床・講釈本』/一之輔『明烏』//~仲入り~//ぺぺ桜井/一之輔『』
★一之輔さん『明烏』
以前に聞いた時より笑わせ所は増えた。しかし、一之輔さんの一貫したあるべきリズ
ムは失われている。キャラクターでは柄にない時次郎のひ弱さが良く、また遣り手の
おばさんの怪人ぶりも目立つ。半面、源兵衛・太助はどっちがどっちだか分からない
(二人の演じ分けが明確な人は少ないけどね)。『欠伸指南』や『鈴ケ森』のような喜
多八師一本槍の噺と比べ、場面場面で複数の先輩の美味しいセリフを加味した代わ
り、場面場面で足すのに使った芸風の異なる先輩のリズムになってしまったのではあ
るまいか。以前より可笑しいのとは裏腹に、寄せ木細工の脆さがある。これを一貫し
た一之輔さんのリズムや強弱にするのが真打昇進後の課題か。
★一之輔さん『百川』
全体に声が小さかったけれど、こちらの方が全体のリズムは整っている。百兵衛のフ
ニャフニャした可笑しさが全体をリードしていて、途中から河岸の若い連中に反抗す
る工夫も可笑しく、野暮な愉しさがある。若い連中のリズムはトントンしていて跳
ねっ返りの馬鹿さ加減も出ではいるが、言葉の切れが百兵衛に近く、百川の座敷で田
舎者と与太郎が集会をしているみたいな印象を受けた。対比の可笑しさがもう少し欲
しい。思っていたより、実は田舎者(肉体労働者タイプではないが)主体の噺の方が似
合うのかもしれない。野暮な方が今のお客さんには一般受けするから、『百川』『木
乃伊取り』『棒鱈』などを真打昇進前後は売り物にした方が良いのかも。
◆11月30日 池袋演芸場昼席
美るく『初天神』踊り:深川/扇好『紙入れ』/東京ガールズ/圓太郎『壺算』/馬生
『干物箱』//~仲入り~//金也(交互出演)『悋気の独楽』/正朝『蛙茶番』/世津子/
金時『文七元結』
★圓太郎師匠『壺算』
重めの展開だが、瀬戸物屋の主人が考え考えパニック状態に嵌まって行く様子のちと
理屈ありげな可笑しさが愉しい。
★馬生師匠『干物箱』
時間省略のためか、善公とは道端で出会う。二階に上った善公は俥屋の妄想~運座の
質問~干物の質問と展開するが、善公の騒々しさに下品さの無いのが良い。若旦那が
財布を取りに戻ってから普通の演出より少し段取りが多く、親旦那がかなりマジに怒
るのがサゲの可笑しさを立てるのに感心。
★金時師匠『文七元結』
ズーッとさん喬師型だが、酒屋の酢屋満(小西じゃないのよ)から、金馬師的な人物
像へ登場人物の雰囲気がシフトする。最後の達磨横丁はみんながニコニコして、それ
までのマジなひを表情が嘘みたいだが、その笑顔の方が金時師には似合うように思え
た。
◆11月30日 蜃気楼龍玉 圓朝に挑戦!!『緑林門松竹』第13夜(道楽亭)
本田久作『解説』/龍玉『緑林門松竹~お崎藤七』//~仲入り~//龍玉『文七元結』
★龍玉師匠『お崎藤七』
藤七と按摩幸治の密談から、幸治宅でのまたかのお関との再会、お崎が店から百三十
両を盗むまで。次回のお崎藤七殺しの伏線、間の宿だから、ストーリー上の聞かせ所
は特に無い。幸治は悪辣さ不足。お関は色気不足。藤七とお崎の半端悪人ぶりは悪く
ない。
★龍玉師匠『文七元結』
途中から足が痛くて困ったのが(一時間以上もあったかな)感情過多になるのを妨げ
たのか(笑)、見た目は圓生師なんだけれど、全体の雰囲気は落語味の強い古今亭の高
座。長兵衛のかみさんも佐野槌の女将も、登場人物に一人として人を追い詰めるセリ
フを言う者のいないのはステキ。長兵衛がもうちょいと能天気なら、古今亭らしい
「落語の文七元結」になりうる。元より、佐野槌から吾妻橋まではバカマジに演じら
れやすいが、文七が近江屋へ戻ってからは笑いの要素に満ちている噺だから、後半の
トーンで前半も演れば一貫した人情落語となり、江戸っ子の能天気と粋と洒落の入り
雑じった「江戸噺」になる。龍玉師の場合、吾妻橋で金を出し入れするのも江戸っ子
気質らしくないが、「落語にする鎹」のような言葉が無い。志ん生師の文七の「阿
父っつぁん!」、先代馬生師の長兵衛の「生かしておきたくねェ」、志ん輔師の長兵
衛の「死ねーッ!」みたいな言葉が龍玉師の中からまだ生まれてこないないのが課
題。一層、落し噺を演じる事に邁進すると、その「鎹」は出てくると思うが。
石井徹也 (落語”道落”者)
投稿者 落語 : 2011年12月05日 22:48