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2011年09月21日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 九月中席号
九月・・・とは言えどもまだまだ暑い日が続きます!
今回は石井徹也さんによる私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の平成二十三年九月号中席号をUPいたします。この号では立川流や圓楽一門会の落語会レポも読めます。落語”道落者”・石井徹也渾身のレポートをお楽しみください!
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◆9月11日 生志のにぎわい日和(にぎわい座)
昇也『動物園』/琴柑『出世の馬揃え』/生志『寝床』//~仲入り~//夢葉/生志『ね
ずみ』
★生志師匠『寝床』
茂蔵の報告は稍たどたどしく、旦那の怒りも稍強すぎたが、番頭が旦那を宥める辺り
から出来は上昇。旦那の「“でもありましょうが”のひと言が何故言えない。お前が
言わないから私が言うけど」が実に可笑しく、集まった長屋連中が演目を聞きに行っ
て墓穴を掘る圓生師型が入るのも、旦那がトントン演目を並べるから気軽に愉しい。
「あなたは分家から来たから知らないんだ」と先代番頭の悲劇(蔵の中で髪が真っ白
になる)を長屋の衆が今の番頭に語るのも、理が通っていて理屈っぽくない。旦那の
義太夫が始まると刺身の色が真っ黒に変わるのには笑った。更に、某大臣の失言を直
ぐに取り入れた「あの長屋もやがて●の町になる」にも受けたが、「どうせ私は下手
です」が後ろにあるのでラストまでテンションが下がらない。いずれ十八番になる演
目だろう。
★生志師匠『ねずみ』
非常に会話の遣り取りに配慮の行き届いた演出。卯兵衛の話を聴いた甚五郎の「済ま
ないね。辛い事を思い出させてしまって」や、甚五郎と知った卯兵衛が慌てて「うち
などでなく生駒屋にお泊まりを」と謙って勧めるのを「あたしは卯之坊に惚れて、お
たくに泊まりたいんだから」と甚五郎が差し戻すのも、嫌みさなどサラサラなくて気
持ち良い。卯兵衛の話は前妻との馴れ初めからあり、卯之吉が十年目に生まれた一粒
種、三歳の幼子を残してかみさんは五年前に没。一周忌を終えてお紺が後添えに、と
いう細部は独特で、これも理が通っている。また、卯兵衛夫婦の惚れあいぶりと悲し
み(泣いたりはしない)、凡そ40代前半という卯兵衛の年齢も分かるのが結構(卯兵
衛は大抵、爺過ぎる)。甚五郎は徹頭徹尾職人で巨匠ぶった所など皆目なく、如何に
も職人気質溢れる苦労人。それは、最後に鼠に話しかける調子にも良く現れている。
卯之吉は序盤、笑っているのに目が泣いているのが哀れで、ふと涙がこみ上げて来
る。ねずみ屋の繁盛に、嫌々虎屋で働いていた奉公人がねずみ屋に次々と移ってき
て、正々堂々(笑)丑蔵・お紺の悪口を世間に言う、ってのも実感のある演出。飯田丹
下が最初は虎を断るが甚五郎と聞いて態度を変えるのも一興。ラスト、甚五郎が長め
に鼠に声を掛けると、ユックリ顔を上げた鼠が「お久しぶりです」と挨拶をしてか
ら、改めて甚五郎の言葉を聞き直し、サゲになるのも独特の工夫。志ん橋師みたい
に、顔を上げた途端、鼠にしか見えない(笑)個性の持ち主ではないが、可愛くて良い
鼠である。鯉昇師、志ん橋師と並ぶ『ねずみ』の佳作。
◆9月11日 扇辰日和vol.42(なかの芸能小劇場)
辰じん『ひと目上り』/駒次『鉄道戦国絵巻』/扇辰『五人廻し』//~仲入り~//馬る
こ『牛褒め改定版』/扇辰『蒟蒻問答』
★扇辰師匠『蒟蒻問答』
喉を絞った発声の、ビュッフェの人物画みたいな印象を与える択善の真面目馬鹿ぶり
が際立っておかしい。しかし、択善に限らず、択善を謀るのを「喧嘩ですねェ!」と
勇み立つ八五郎の能天気さ(袈裟輪の代わりが蚊取り線香ってのは笑った)、「おら、
勧める訳ではねェだよ」と怪しげな視線で八五郎を誘う権助、「衣で飲むな」と諭し
ながら択善から馬鹿にされたと勘違いするや「なんだァ彼奴はァ!」と絶叫する六兵
衛と、先代柳朝師や小三治師の演じていた『蒟蒻問答』に漂う自棄っぱちぶりを引き
継いだ印象がある。つまり、みんな変な人。これだけ怪人物揃いで可笑しい『蒟蒻問
答』は珍しい。
★扇辰師匠『五人廻し』
小三治師型だが、官員の横柄、田舎者の珍奇、通人の奇っ怪、それぞれのキャラク
ターが際立つ。特に田舎者はドナルドダックが高音でが喚いているみたいであり、通
人は立派なヒステリー性変態。悩んでいる喜助の一番まともなリアクションがまた良
い。最後に出てくる喜瀬川の色気があって冷淡というシニカルさが良いアクセントに
なっている。江戸っ子の啖呵がスピード重視で内容と自慢ぶりが明瞭でないのと、廊
下を回る喜助の声に夜の雰囲気が乏しいのは惜しい。
★馬るこさん『牛褒め改作版』
高級住宅地にデザイナーブランドの豪邸を建て乍ら、何故か牛も飼い始めた金持ちの
伯父さんの家を与太郎が褒めに行く。滅茶苦茶なパロディでギャグ満載だが、ここま
で破天荒だと皮田の春團治師匠的なナンセンスになり、シュールな今様ポンチ絵に
なってくる。数あるギャグの中、「畳はビンラディンの・・・」が私は一番笑った。
◆9月12日 池袋演芸場昼席「白鳥三題噺十日間」
丈二『目薬』/白鳥・丈二「お題取り」/馬石(交互出演)『安兵衛狐』/美智・美都/扇
治『割引寄席』(正式題名不詳)/喬太郎『竈幽霊』/順子/文左衛門『千早振る』//
~仲入り~//圓太郎『棒鱈』(彦いち代演)/わたる(二楽代演)/白鳥『三題噺~鰌・
上越高田・バーテンダー』
★白鳥師匠『三題噺』
題名は『マキシム・ド・どぜう』かなァ(笑)。六本木でバブリーな鰌屋をやってた男
が左前になって故郷上越高田に引っ込むが、鷹匠のアドバイスでバーみたいな鰌屋を
開いて成功する、という展開。サゲは先日の喬太郎師の『三題噺』のパクリっぽい
が、Uターン組が地元の清流鰌を知って立ち直る、という「良い話」的展開ではある
けれど、勿論、白鳥師的に馬鹿馬鹿しいが)は筋が通っており、最後は矢張り明るい
のが結構。
◆9月12日 池袋演芸場夜席
いっぽん『桃太郎』/市江(交互出演)『寄合酒』/燕路『もぐら泥』/アサダ/蔵之助
『善哉公社』/志ん橋『鮑熨斗(上)』/鏡味仙三郎社中/さん喬『天狗裁き』//~仲入
り~//玉の輔『マキシム・ド・呑兵衛』/小里ん(権太楼休演交代)『蜘蛛駕籠』/正楽
/扇遊(市馬代演)『お見立て』
★扇遊師匠『お見立て』
客席にズーッと変な声で笑ってる奇怪なオバサンがいて邪魔されたが、それを弾き返
す出来。喜瀬川から「あれが、兄貴ィ?!」と酷く嫌われているにも関わらず杢兵衛
大尽が実に良い人なんである。田舎者ぶりを強調し過ぎず、「そうだよ」というアク
セントに何とも素朴な味わいがある。「骨ェ分けて貰って」というくらい喜瀬川にベ
タ惚れしている様子が愛しい。また、喜瀬川は徹頭徹尾、薄情な花魁で冷静なのが可
笑しい(余り色気は感じない)。間に挟まれて、稍大尽に気持ちが傾き乍ら悩む喜助
が、見事に妓夫らしい軽薄さと色気の持ち主なのが良く、三人三態のバランスが取れ
た佳作。
◆9月13日 第250回小満んの会(お江戸日本橋亭)
半輔『間抜け泥』/小満ん『二十四孝』/小満ん『文様』//~仲入り~//小満ん『カラ
ンコロン』
★小満ん師匠『二十四孝』
タップリ40分近く。八五郎の、小粋ささえ感じさせる能天気さと小満ん師の端正
な見た目がアンバランスで余計に可笑しく、言葉の一つ一つが活きていて爆笑。大家
さんは四代目小さん師を見る如くでピッタリ。八五郎の孝行に呆れる友達、急な孝行
に警戒して身構える阿っ母さんと揃った佳作。
★小満ん師匠『お文様』
こういう計略を立てる旦那を小満ん師が演じると洒脱になるのが持ち味の強み。妾で
あるお文の健気さがまたしとやかで、矢鱈と悋気心の強いかみさんとの好対照も面白
い(かみさんがキィキィいうのは黒門町譲り)。定吉の利発も可愛くて、25分程に
まとめられた尺も筋物として長過ぎず、洒落た喜劇を見たような中品の印象。
★小満ん師匠『カランコロン』
「お露新三郎」から「カランコロン」まで50分。新三郎の線病質な真面目さ・野暮
さ、お露の清麗な事はそう聴けるものではない。抱き寝をする場面などないが、因縁
を感じさせる面妖な色気が柳島の場からカランコロンまで漂っている。間を取り持つ
山本志丈の圓転洒脱なキャラクターも他の追随しかねるものがある。伴蔵はまだ活躍
しないが植木職人上がりという設定は初耳。白宝堂(白翁堂ではなかった)勇斎も良い
が、良石和尚の壮健かつ賢聖が自ずと現れているのが素晴らしい。圓朝物に有りがち
な演劇的な重さがなく、瓢々たる粋譚に親しむような雰囲気に包まれた50分間であ
る。較べて、三遊派の芸系は矢張り野暮なのかな。
◆9月14日 上野鈴本演芸場昼席
喬之助(交互出演)『子褒め』/川柳川柳『ガーコン』/ニューマリオネット/藤兵衛
『江ノ島の風』/正朝『蔵前駕籠』/ホームラン/圓窓『つる』//~仲入り~//仙三郎
社中/雲助『権助魚』/歌奴『お花半七』/ペペ櫻井(小円歌代演)/喬太郎『死神』
★喬太郎師匠『死神』
咳き込んだりしたため、前半客席が乱れたのが逆に幸いして、余り煮詰まった感じは
しなかったが、雲助師などに較べると「そうはしまい」としながら芝居落語の要素が
終盤で濃くなる印象。いっそ、開き直って手を入れて、徹底的に芝居落語にした方が
良かないかなァ。
★歌奴師匠『お花半七』
伯父さんのキャラクターが立っていて、骨太でおおらかな笑いがある。半七お花の若
さにも違和感が無い。闊闥な中に硬めだが艶のある『お花半七』として魅力あり。
★圓窓師匠『つる』
もって回ってグルグル同じ展開を繰り返した。悪改作の見本。
★正朝師匠『蔵前駕籠』
この噺の馬鹿馬鹿しさと、一種のシニカルさが適っているのだと思う。最後に駕籠
の中で浪人たちを睨む江戸っ子の表情も如何にも似合っているし、浪人が茫然として
「もう済んだか」も良い。稲荷町のより面白い。
◆9月14日 月例三三独演(国立演芸場)
市楽『芝居の喧嘩』/三三『のめる』/三三『出来心』//~仲入り//三三『猫定』
★三三師匠『出来心』
冒頭の泥棒の親分と子分の遣り取りから最後までズーッと平坦。「ケツから縁が離れ
ないな」「血縁関係」ってのは笑ったが。大家さんの帳付けの辺りから足首が攣った
という。それもあろうが、八五郎の悪ノリの仕方に感情が伴わないし、大家の呆れ方
もありきたり。筋の無い遣り取りは本当に不得手・・・というか、落語の馬鹿馬鹿し
さを信じてないんだろうか。
★三三師匠『のめる』
ま、十八番である。
★三三師匠『猫定』
この夏、立て続けにこの噺を聞いたが流行りなのかな(噺としては『猫怪談』の方が
面白いと私は思う)。足首の攣りは続いていたそうだが、下手な筋物の講釈を聞いて
いるようで、ただストーリーの起伏のままに噺が進み、演者が膨らました部分を感じ
ないから味気ない。定吉と猫の遣り取りに怪異な面白さが乏しく(正確には猫に怪異
はあるが定吉のリアクションに怪異が皆無)、お滝と間男の遣り取りも圓生師をな
ぞっているみたいなまんま。定吉は博打打ちだが、人柄の良い男なので、極悪人を描
くようには人物が出て来ない。兎に角、前半は極く詰まらない。死体が棺桶から立ち
上がる怪異以降は滑稽怪談的になるが、三味の市が何も分からず死体の前にいる絵が
浮かんでこないのは、長屋の連中も含めた「普通の人々」の描き方の浅さ故か。一時
期、『長屋の花見』を立て続けに何度も聞いてもピンと来なかったが、長屋暮らしの
人々に実感を与える何かが足りないのだ。職人や労働者が実感出来る落語らしい描き
方を学ばないと。
◆9月15日 上野鈴本演芸場昼席
小太郎『やかん』(交互出演)/ダーク広和/左龍(交互出演)『六銭小僧』/カンジヤマ
マイム(ニューマリオネット代演)/川柳『ガーコン』/藤兵衛『のめる』/正朝『から
抜け』/ホームラン/伯楽(圓窓代演)『お花半七』//~仲入り~//仙三郎社中/雲助
『夏泥』/歌奴『転失気』/小円歌/喬太郎『井戸の茶碗』
★喬太郎師匠『井戸の茶碗』
「梅毒」も「瘡毒」も無いくらいで、大分刈り込んでいたが(本題は30分弱か)、闊
達で新ギャグ挿入による停滞も殆ど無く、トントントンとテンポ良く進み、久々に良
い出来の喬太郎師古典を聞いた気分。息が詰むと仕種などが非常にさん喬師と似てい
るのも分かる。高木作左衛門、屑屋、千代田卜斎、良助と人物像も悪くない(千代田
が稍作り過ぎだがテンポで気にならず)。終盤、清兵衛「娘を百五十両で売るんです
ね?」⇒卜斎「娘は屑ではな~い!」の遣り取りの後、屑屋が畏れ入って頭を下げた
息が良すぎて、団体のお客がサゲと勘違いして一斉に拍手をしてしまったが(喬太郎
師も驚いていた)、こんな場面は東横落語会の志ん朝師『子は鎹』以来である。
◆9月15日 喜多八激闘正蔵 浅草落語番外地vol.7(ことふ季亭)
はな平『鮑熨斗』/正蔵『伊予吉幽霊』/喜多八『目黒の秋刀魚』//~仲入り~//正蔵
『猫の皿』/喜多八『鰻の幇間』
★喜多八師匠『目黒のさんま』
特に品が良いという訳ではないが、屋敷帰還後、最上階から目黒の方を向いて秋刀魚
を想い涙ぐんでいる殿様の子供っぽさが可愛い。
★喜多八師匠『鰻の幇間』
割と「その場ギャグ」を入れて、遊びのある珍しい高座。とはいえ、自分から声を掛
けて来る「先のとこの男」の狡滑さや、無神経な女中の態度を見ていると、如何に自
分から脂濃く飯をねだったとはいえ、「こっちをお向きよ!」と扇子の要で床を叩き
ながら一八が怒るのも納得してしまう。部分的に最近の市馬師はこれを参考にしてい
るのかな?と思える場面もある。
★正蔵師匠『猫の皿』
馬桜師型。設定が詳細過ぎるのが正蔵師匠向きとは思わないが、茶店の主人からアク
が抜けて、如何にも謀っているという雰囲気をさせないのは良い。半面、夏の暑さが
足りないので季節不明の噺になっている。また、『伊予吉幽霊』にも言えたが、サゲ
を言いながら頭を下げてしまうので、誰に言っている言葉かが曖昧になる。サゲに
よって、誰に向かって言っているのか明確に変化をつけないと、噺が尻窄みになる。
★正蔵師匠『伊予吉幽霊』
噺全体が更に明るさをましているのと、伊予吉と友達の八五郎の遣り取りが仕込みの
段取りセリフでなく、極く普通の会話になっているのが良い。
◆9月16日 上野鈴本演芸場昼席
喬之助(交互出演)『六銭小僧』/ニューマリオネット/川柳『ガーコン』/藤兵衛『元
帳』/正朝『浮世床・講釈本』/ホームラン/圓窓『垂乳根』//仲入り//仙三郎社中/雲
助『笊屋』/歌奴『子褒め』/小円歌/喬太郎『幇間腹』
★喬太郎師匠『幇間腹』
本人が愉しそうに演っている雰囲気が客席を温める。若旦那の稍ブラックな性格付け
が強まったかな。一八はだいぶ幇間っぽくなってきた。
◆9月16日 第11回北沢落語名人会瀧川鯉昇・栁家喜多八ふたり会(北沢タウン
ホール)
しん歩『強情灸』/しん平『御挨拶』/喜多八『明烏』//仲入り//ニックス/鯉昇『船
徳』
★喜多八師匠『明烏』
「源兵衛太助に誘われて」と時次郎が報告する件をカット。時次郎は銭湯と髪結床の
帰りから登場。時次郎がグズっぽい印象を強めているのが特徴的。
★鯉昇師匠『船徳』
『湯屋番』みたいに、船宿のかみさんの愚痴から夫婦喧嘩に入って、その後、二階か
ら若旦那が降りてくる。正に『湯屋番』の若旦那に匹敵する能天気な若旦那で、後半
のしっちゃかめっちゃかさにキャラクターがちゃんと繋がる。船頭たちの失敗談は無
く、四万六千日の由来(一升桝の米粒の両)が入って客二人の登場となる。棹捌き、船
の揺れ、煙草点けと非常に細かく工夫された仕種の可笑しさは特筆物だが、鯉昇師の
語り口だと慌ただしくなく、ノンビリした雰囲気になるのがユニーク。前の『明烏』
を受けたギャグも幾つか交えたが、尖がらないで、ひたすら能天気な若旦那の我儘ぶ
りと、手酷い目に遇う客二人の悲劇が炎天もゆる下の川面で展開するマンガとして楽
しめる。
※今夜の若旦那は二人とも全く二枚目には見えない(笑)。
◆9月17日 雲助蔵出しふたたび9(浅草三業会館二階座敷)
市楽『孝行糖』雲助『黄金の大黒』雲助『目黒の秋刀魚』//~仲入り~//雲助『やん
ま久次』
★雲助師匠『黄金の大黒』
猫を食べちゃう型だが長屋の連中の羽織騒ぎ、口上騒動などから終始能天気に可笑し
い。寿司の件もわざとらしいクサ味が、先代馬生師匠譲りでサラリと軽妙に感じられ
るのが雲助落とし噺の良さ。
★雲助師匠『目黒の秋刀魚』
殿様の我儘さが愉しく、初めて秋刀魚を食べての「美味である!」の大声には大爆
笑。家来連中がひたすらマジなのが一寸物足りないかな。
★雲助師匠『やんま久次』
最後の芝居掛かりまでは如何にも説教がましい噺で雲助師匠もその線に則って侍気質
を厳めしく堅苦しく演じている。それ以外には「切腹の場」が用意される、という事
ぐらいしか聞いていて面白い箇所が少ないのは事実。最後の芝居掛かりになって「沢
庵の美味いまずいを」辺りの科白廻しは河内山の「ひじきと油揚の煮た物を有難がっ
て食っているようでは」と同じ幕末の退廃と小市民的生活への嘲笑がある。スカッと
するというより「ざまぁねェや」という面白味で、其処に雲助師匠的ピカレスクの味
わいが加わる。実は、目糞鼻糞みたいな罵りなんだけどね。
◆9月17日 上野鈴本演芸場夜席
志ん公(交互出演)『転失気』/和楽社中/馬石(交互出演)『堀ノ内』/はん治(市馬代
演)『君よモーツァルトを聞け』/紫文/菊志ん(扇辰代演)『紙入れ』/文左衛門(百栄
代演)『笠碁』//~仲入り~//遊平かほり/琴調『小政の生い立ち』/アサダ(夢葉代
演)/白酒『抜け雀』
★白酒師匠『抜け雀』
寄席サイズに簡略化されてはいるが、絵師親子が自ら墨を摺ったり、衝立を持たせて
「息を止めろ」など先代馬生師匠の細かい演出が次第に入って来ている。ラストの衝
立前における若い絵師の端正、精神的成長は過去に表現されなかったもの。
★文左衛門師匠『笠碁』
今までになくじっくりと演じてコクがある。最後に碁盤を出してからは稍受け狙いの
演出となったが、その前に待つ側の旦那が言う「行っちゃった!」「碁会所か
な?!」の気弱な可笑しさ、心情の現れはステキに愉しい。
★菊志ん師匠『紙入れ』
スピーディーで可笑しく、それでいておかみさんには色気もある。「女役」を売り
物にしているみたいな、変な下品さのないのが良い。
★馬石師匠『堀の内』
『松曳き』といい、この噺といい、白酒師匠とは全く違うコンタクトの仕方で「粗
忽者」が見事に描かれる。小ネタの可笑しさではベテランをも凌ぐ。
◆9月18日 第292回圓橘の会(深川東京モダン館)
橘也『子褒め』圓橘『夢の酒』//~仲入り~//きつつき『狸賽』/圓橘『鹿政談』
★圓橘師匠『夢の酒』
簡略化というか、枝葉を刈り取って親父の酒好き中心に構成してある。嫁の嫉妬深さ
など出さない(嫁のセリフを親旦那が引き取る)。親旦那の「こんなことをしに伺った
訳では、本日は貴女に申し上げにくい事を申し上げに参りまして」のセリフが効いて
いる。嫁が親旦那を起こした際に、奥の座敷の静かな雰囲気が出るのにも感心した。
目白の師匠的に刈り込んだ佳作。
★圓橘師匠『鹿政談』
圓生師匠風で稍硬いが、奉行の迫力、与兵衛のクサくない人間味と揃った慈味ある高
座。
★きつつきさん『狸賽』
狸を助ける件から始まるが、疑わしそうな子供が仲間にそっと告げる「仲間だな」か
ら可笑しい。熊さんが今日で博打を止める前に一度儲けたいと狸を賽子に化けさせる
演出は初めて聞いた。この狸の賽が少し毛が生えていたり、真っ直ぐに落ちて身動き
しなかったりと可笑しさは抜群。特に、噺と熊の締まらない性格に適した演出やセリ
フの可笑しさは図抜けている。白酒師・馬石師に近い、キャラクターギャグ仲間だな
のセンス溢れる高座だ。一之輔さんと二人会をさせたいなぁ。
◆9月18日 池袋演芸場夜席
燕路『やかん舐め』/アサダⅡ世/蔵之助『佃島』/志ん橋『熊の皮』/仙三郎社中/馬
の助(さん喬代演)『お見立て』・百面相//~仲入り~//玉の輔『マキシム・ド・呑兵
衛』/
小里ん『棒鱈』/正楽/市馬『鰻の幇魔』
★市馬師匠『鰻の幇間』
この芝居では『首提燈』『松曳き』『猫の災難』『笠碁』と演じていると聞いたが、
この所、私は矢鱈と『鰻の幇間』に合う。その度にアドリヴが入るのだけれど、その
アドリヴの穿ちの良さが毎回堪らない。今夜は一八が女中に「何かあったら手を叩く
から」と言って、先のとこの男への世辞に手を叩くと女中が来ちゃうので一八が手を
叩けなくなり、空振りする演出が入った。手を打てない幇間の困り方ってのが馬鹿に
可笑しい。「横を向いて笑うな」と言われても平気で、自ら洒落を言い、一八の洒落
にも突っ込んでくる女中に、一八が散々弄ばれる可笑しさは曾てどんな『鰻の幇間』
にも無かったろう。志ん朝師以降、最強の『鰻の幇間』に近づきつつあるのではない
だろうか。
※先の男を見て、「秋元さんの旦那かな、安田の大将かな?」って一八のアドリヴに
も笑った。詳しくは出番をどうぞ。
★小里ん師匠『棒鱈』
少し簡略化していたが、素晴らしい出来。田舎侍の唄に酔っ払いの江戸っ子がジレる
調子を派手にせず、「おれァ、あの唄、覚えちゃったよ」でドカンと受けるまでバラ
けさせない人物描写が巧く、仕種のキレも抜群。流石は「安田の大将」である。
◆9月19日 池袋演芸場昼席
はな平『垂乳根』/玉々丈(交互出演)『シロの恩返し』(正式題名不明)/扇治『寿限
無の稽古』(正式題名不明)/白鳥・丈二「お題取り」/菊志ん(木久蔵・馬石代演)
『御血脈(『地獄巡り』入り)』/美智美都/丈二『極道のバイト達』/白酒(喬太郎代
演)『元帳』/順子・文左衛門/文左衛門『笠碁』//~仲入り~//彦いち『キレる』/二
楽/白鳥『三題噺~敬老の日・釣竿・アルツハイマー』
★白鳥師匠『三題噺~敬老の日・釣竿・アルツハイマー』
少し手を入れれば『フィッシングの殿様』てなタイトルの噺として、寄席にも定着出
来るのではあるまいか?白鳥師だと、普通は怪談・因縁噺になるでろう題材の噺が落
語になるから妙である。※『殿様と海』という正式題名になったらしい。
※そういえば、昔実際に「虎狩りの宮様」と呼ばれた華族が日本にいたなァ。ああい
う話は落語にならないかな。瓢右衛門先生の『自転車の宮様』も懐かしく可笑しい作
品だが落語化はされていないね。
★文左衛門師匠『笠碁』
登場人物に何とも言えない可愛さがある。この噺と『猫の災難』はやはりこの世代で
は文左衛門師匠のものになりそう。
★菊志ん師匠『御血脈』
『地獄巡り』を取り入れて、善光寺由来からの中ダルミを防いだのは偉い。軽快さを
増して面白い。
◆9月19日 池袋演芸場夜席
扇『金明竹』/市楽(交互出演)『道灌』/馬石(燕路代演)『反対俥』/アサダⅡ世/志ん
馬(蔵之助代演)『のめる』/志ん橋『間抜け泥』/ストレート松浦(仙三郎社中代演)/
さん喬『蟇の油』//~仲入り~//玉の輔『宗論』/小里ん『悋気の独楽』/たかし(正
楽代演)/市馬『らくだ』
★市馬師匠『らくだ』
簡略化しながら35分で火屋のサゲまで。剃刀から先は付けたり程度の軽さである
が。前半は大分変化して、兄貴分の凄みと屑屋の軽い可笑しさが好対照を為しながら
展開する。兄貴分の凄みは何やら陰鬱な雰囲気を伴うようになって怖さを強く感じ
る。屑屋はカンカンノウを唄ってから「面白くなってきた」とセリフにある如く軽妙
で可笑しい。「死人のやり場に困っております」を芝居気取りで演じて、相手の八百
屋に「何がお前をそうさせる」と言われ、更に「こうお座敷が多くちゃ」と帰りかけ
ると今度は八百屋に「跳ねて行くなよ」と声を掛けられるのも無理はない、貧乏人の
明るい可笑しさに溢れているキャラクターが酔いと共に反転するが、家元的な精神錯
乱には至らず、剃刀を取りに出かける兄貴分を見送り乍ら、「可愛らしいとこがあ
る」と言い放つ可笑しさに戻る。「いずれ50分前後で、桂平治師と甲乙を争う『ら
くだ』になるでろう」という期待の高まる高座だった。
★さん喬師匠『蟇の油』
久しぶり。一寸間違えていたが、やはり安定感が違う。
★小里ん師匠『悋気の独楽』
これまた久しぶり。ラストの独楽廻しは故・文朝師のシニカルさに敵わないが、定吉
の可愛さ、上方の「後をちゃんと閉めとこぞ」に当たる悪戯をする洒落っ気、旦那の
主人らしい硬さ、おかみさんのきつ過ぎない嫉妬と言った具合に、以前と較べて表現
のバランスと人物像の深みを明らかに増している。
◆9月20日 池袋演芸場昼席
ありがとう『他行』/ぬう生(交互出演)『先生の渾名』(正式題名不明)/丈二『つ
る』/白鳥・丈二「お題取り」/木久蔵(交互出演)『こうもり』/美智美都/扇治『加賀
の千代』/喬太郎『牡丹燈籠~香箱の夢』/ホンキートンク(順子代演)/文左衛門『千
早振る』//~仲入り~//彦いち『掛け声指南』/二楽/白鳥『三題噺~越中褌・襲名の
争い・ドリンク剤』
★白鳥師匠『三題噺~越中褌・襲名の争い・ドリンク剤』
「越中褌の由来」みたいな内容の鸚鵡返し落語に仕立てた。細川ガラシアや細川越中
守忠興が出て来たりと、妙に歴史考証的にまともな所とハチャメチャな所の綯い混ぜ
は白鳥師ならではか、前半は仕込みになるから稍トーンダウンするが、そこは歴史で
引っ張り、最後は馬鹿馬鹿しい鸚鵡返しで馬鹿受けと、確かに落語らしい展開。
★喬太郎師匠『牡丹燈籠~香箱の夢』
25分程度かな。「新三郎の青春の彷徨」というイメージで、一寸フランス青春映画
風に巧くまとめてあるのに感心した。『マイノリ』にも言えるのだが、中年となった
現在の視点から見た「青春へのオマージュ」が似合う。
◆9月20日 池袋演芸場夜席
市也『のめる』/市楽(交互出演)『悋気の独楽』/燕路『トビの夫婦』/ダーク広和ア
サダⅡ世/蔵之助『蛇含草』/志ん橋『居酒屋』/仙三郎社中/さん喬『そば清』//~仲
入り~//志ん馬(玉の輔代演)『看板のピン』/小里ん『三方一両損』/正楽/市馬『七
段目』
★市馬師匠『七段目』
マクラが長めだったけれど、本題の芝居部分は何時もよりタップリ。お七の階段登り
は久しぶりに見た。全体に小朝師以降の華やぎのある『七段目』だが、お駆と平右衛
門の遣り取りで、セリフが時々素になるのが今夜は気になった。
★さん喬師匠『そば清』
※出来は良かったが…前に『蛇含草』がサゲまで出ていたのに『そば清』とは摩訶不
思議。前にも若手真打が『蟇の油』を開演早々に演った後、仲入りで圓丈師が『蟇の
油』を演っちゃった事がある。新宿末廣亭だと前座が楽屋から「師匠、出てます」と
声を掛けるのを何度か聞いているが,池袋の立て前座の位置からは高座が聞こえない
のかな?
★小里ん師匠『三方一両損』
珍しいなぁ、全く聞いた記憶がない演目。口慣れていないせいか、「目腐れ金」が言
い難いらしく三度ほど口が回らなかった。しかし、それ以外は無駄なく、江戸っ子が
り・粋がりのお馬鹿ぶりを愉しく描いた出来。惜しむらくは「何を言ってやがんで
い、糞ったれ家主」の啖呵が小さいが、今後もっと聞きたい噺。
★燕路師匠『トビの夫婦』
巧いんだけど雰囲気が陰気というか、噺のシニカルな面ばかりが前に出過ぎる。
石井徹也 (落語”道落”者)
投稿者 落語 : 2011年09月21日 12:29