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2011年09月01日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 八月上席号
はやいもので九月に入りました。みなさま如何お過ごしでしょうか?
今回は石井徹也さんによる私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の八月号上席号です。落語”道落者”・石井徹也渾身のレポートをお楽しみください!
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◆8月1日 「雲助月極十番」之内陸番(日本橋劇場)
松之丞『笹野権三郎・海賊退治(上)』/雲助『乳房榎~おきせの口説き』//~仲入
り~//雲助『乳房榎~重信殺し』
★雲助師匠『おきせの口説き』
重信が南蔵院に移ってから、比較的平坦だった噺の雰囲気が変わり、どんよりと生温
かいような無気味さ、気だるさが高座に漂うのは雲助師ならでは。浪江の口説きも飽
くまで野暮な恋で、圓生師や三三師系の色悪の性質ではない。おきせの心の側にもギ
リギリの所で隙が感じられ、そこにつけこまれた結果、「悪縁」に至って心変わりし
て行く雰囲気が絶妙。『椿姫』もそうだが、「子供」という小道具に対する女性の弱
さには東西を問わない納得感がある。
★雲助師匠『重信殺し』
淡く、夏の湿気がまとわりついたような世界が展開する。浪江は重信殺害の悪心を起
こして以降、前半とは稍性格が変わっている。正介を殺害に誘い込む辺りにそした人
格の変化がでる。但し、圓生師と違い「悪党」にまでは至らない。正介を誘い込む件
は噺としてちと長く(正介が余りにもまともな人過ぎる)、刈り込む必要を感じた。
「落合の蛍狩り」の場面は、蛍の描写より見ている重信の姿から無数の蛍を連想さ
せ、正介の「人魂に見える」がその不思議な絵面を補足する。先代馬生師なら重信の
死体から蛍を一匹飛ばし、最後の場面でも南蔵院の天井に光らせる所だろうが、良く
も悪くも、雲助師はそこまで気障にはしない。結果、夏の湿気の中で淡々と「普通の
人々」が織りなす「悪縁」の噺になるのは、彦六師の圓朝物に近いか。
※先日、別の会で御自身も仰っていたが、最近の雲助師は、確かに十八番にされてい
た「ピカレスク物」「小悪党物」系世話噺への興味を無くされているように感じる。
それがかつての圓朝物とは違った雰囲気を噺に与えてもいる。
◆8月2日 立川生志らくごLIVE「ひとりブタ」(内幸町ホール)
春樹『高砂や』/生志『竃幽霊』//~仲入り~//ブーとパー(生志・木久蔵)「漫
才」/生志『船徳』
★生志師匠『竃幽霊』
三木男さんから教わったというネタ卸し。それにしては、前座、マクラから本題まで
会全体が長すぎた観あり。熊さん一人で幽霊を待ち受ける件から幽霊との遣り取り
は、熊さん・幽霊二人のキャラクターも似合い、骨太な可笑しさがあって佳い。半
面、序盤・中盤はまだ段取りに追われた印象。特に、銀ちゃんのひ弱さ、最初に竈を
買う男の「道具屋」の連呼が生志師の持ち味と余り合わない。勿論、これから生志型
になって行く訳だろうが、三木助型の『竃幽霊』よりシンプルな目白型の『竃幽霊』
の方が合うのではないかと思える。ならば、前半を刈り込んで、熊さん一人からの場
面以降を膨らましても良いのでは。
★生志師匠『船徳』
先日のにぎわい座と比べて、テンションを抑え気味か。こちらの徳は好き放題で勝手
で我が侭で我慢の出来ない若旦那らしさに違和感がない。短気な客との遣り取り、徳
が直ぐにヘバる可笑しさ(志ん生型を少し取り込んでいる)は十分だが、その可笑しさ
が時々途切れ、テンションが持続しなかったため、全体の雰囲気が稍シニカルに傾い
た。直前の漫才で疲れたのかな。
◆8月3日 池袋演芸場昼席
はん治『ろくろ首』/アサダⅡ世/才賀『禁固刑』(しん平代演。正式題名不詳)/扇
遊『道灌』/和楽社中/圓蔵『不精床』//~仲入り~//左龍(交互出演)『粗忽長屋』
/権太楼『幽霊の辻』/のいるこいる/さん喬『柳田格之進』
★さん喬師匠『柳田格之進』
非常に丁寧で、物凄く気が入っている。いつもより尺が短くなったのも息の詰み方ゆ
え。萬屋の「馬鹿ァッ!」と「番頭ォッ!」の怒気の凄さ。噺の怒気で震えたのは東
横落語会に米朝師が来演された際の『鹿政談』以来だ。落語では困るが一席物人情噺
の表現としては心底に達する怒りと自責があった。柳田が萬屋との交遊を通じて明る
くなって行く様子も良く、無言の中に碁石の音だけで友情の深まる良さ(時代物の
『笠碁』という雰囲気あり)、娘・綾乃に切腹を止められる際の柳田の好人物ぶり、
様々な魅力がある。番頭・長兵衛の嫉妬を敢えて語らない良さもその一つだろう。侍
なればこそ、「主従三世」の情に柳田が負ける良さは「黙れ、黙れ、黙れ、黙まって
くれい」に現される。今年の寄席の至福の一つ。
★権太楼師匠『幽霊の辻』
矢っ張りお婆さんのキャラクターが抜群で、「お化け屋敷」のサゲは兎も角、実は何
も怒らないのに、婆さんのキャラクターと歩き出してからの男のリアクションだけで
十二分に楽しめる。その馬鹿馬鹿しさは原作に無い魅力である。枝雀師匠より私には
面白い。
★はん治師匠『ろくろ首』
「それじゃあ・・・僕」が無茶苦茶に可愛らしく可笑しかった。これだけ良い与太郎
は珍しい。地力も含めて、次世代の小燕枝師・小里ん師への道を感じさせる「柳家の
本道」の愉しさだった。
◆8月3日 『一之輔のすすめ、レレレ。』(国立演芸場)
こはる『権助魚』/一之輔『欠伸指南』(サゲを急に変えた)/一之輔『千両蜜柑』//~
仲入り~//はだか/一之輔『不動坊火焔』
★一之輔さん『千両蜜柑』
全体に間延びしている。それもあって、番頭以下、人物が何となくボヤ―ッとして輪
郭がハッキリせず、如何にもまだ底の浅い噺の印象。主殺しの処刑の仕方が一番面白
い(但し手順が少し違う)のでは困る。
★一之輔さん『不動坊火焔』
ギャグの突っ込み以外、会話にキレが無いから、昼のはん治師の「・・・僕」みたい
に、普通の言葉で受ける要素が非常に少ない。序盤の吉兵衛は与太郎。三バカトリオ
は前記したように会話がちゃんと噛み合っていないし、『千両蜜柑』にも言えるが、
終始ダラダラと会話が続き、リズムが無いから聞き辛い。更に言えば、ダラダラ会話
だとドサッぽい芸に聞こえてしまう。萬さんは与太郎で序盤の吉兵衛とかぶる。半さ
んは怒ってばかり。前座のキャラクターが一番造型は出来てるが、天窓からぶら下
がってからは与太郎になっちゃう。何でも与太郎に逃げるのは感心しない。結果、全
体がアイディアは可笑しいが出来の悪いコントみたいになっている。
◆8月4日 池袋演芸場昼席
アサダⅡ世/しん平『御血脈』/扇遊『口入屋』/和楽社中/川柳(圓蔵代演)『ガーコ
ン』//~仲入り~//喬之助(交互出演)『松竹梅』/権太楼『代書屋』/のいるこいる/
さん喬『福禄壽』
★さん喬師匠『福禄壽』
以前と違い、樋口一葉的世界を感じた(色事は無いから『十三夜』などに近いか)。明
治の家庭劇というか、アイルランド演劇みたいな肌触りがあるのは、全体の雰囲気に
人間味が増したからだろうか。前記の『十三夜』とか『にごりえ』を聞きたくなる。
◆8月4日 池袋演芸場夜
市也『金明竹』/三木男『浮世床・夢』(交互出演)/百栄『誘拐家族』/ロケット団/
白酒『代脈』/菊之丞『短命』/小菊/市馬『堪忍袋』
★市馬師匠『堪忍袋』
怒り方がややマジ過ぎるが、全体の雰囲気に柔らかみが出て来て今夜は可笑しい。
「物置野郎」の愉しさも活きる。
★白酒師匠『代脈』
久しぶりに聞いたが、銀杏の物凄い三大本能馬鹿ぶりとその可愛さに一段と磨きがか
かった。
★百栄師匠『誘拐家族』
犯人蓑田の何とも言えぬ間抜けで小心なとこが矢鱈と似合って愉しい。誘拐された娘
と父親は割とありきたりなキャラクターなのだが蓑田で持ってしまう。
◆8月5日 池袋演芸場昼席
たかし(東京ガールズ代演)/喬四郎(交互出演)『家具屋姫』(正式題名不詳)/金時
(はん代演)『夢の酒』)アサダⅡ世/しん平『不精床』/扇遊『蜘蛛駕籠』/和楽社中/
圓蔵『反対俥』//~仲入り~//左龍(交互出演)『お菊の皿』/権太楼『芝居の喧嘩』/
のいるこいる/さん喬『妾馬』
★さん喬師匠『妾馬』
凄く丁寧。御屋敷についてから、見る物・聞く物全てに驚き、戸惑い、感動している
八五郎(殆ど物は分かってないが、目にピカピカ輝く物への畏敬は分かる)の気持ちで
常に彩られた高座で、只管明るい。今回の季節感は大きな柳の木。八五郎は正に車寅
二郎的で、金を盗んだりするような卑しさはなく、妹思いで、母親に対するすまなさ
もある。赤ん坊の笑顔を見て笑う辺り、独特で稍クサいと言えばクサいが涙を誘う
なァ。それでいて、母親の愚痴を言う件を抜いて、圓生系的な「泣かせ落語」から離
れつつあり、終盤は明確に落語。「三大夫、良き友を持ったの」「朋友、For y
ou・・貴方に」など、さん喬師独特のギャグの混じり合いもバランス良く、古今亭
系、圓生系とも違う『妾馬』として、一朝師、雲助師と並ぶ現代の三幅対だろう。
★権太楼師匠『芝居の喧嘩』
ギャグ部分はいつも通りだが、白柄組と町奴のセリフは講釈的にマジで、骨太な人物
造型が感じられ非常に立派。こういう、芯の通った演出の『芝居の喧嘩』は初めて聞
いた。
★しん平師匠『不精床』
犬でなくアヒルが耳を食べたり、ボウフラの湧いた水がリアルに現されて可笑しかっ
たり(「ボウフラはみんな生きている」の歌には笑った)、物凄くギャグマンガなんだ
けど、それが素直に落語にもなってしまうのは「天才しん平師」ならでは。
★金時師匠『夢の酒』
普通に演っているようで、親父の酒好きや、夢の女から嫁に代わる辺りがちゃんと出
来ているだけでなく、フッと家族の日常が感じられる。お父さん譲りの「目立たない
巧さ」が高座に出て来たかな。
◆8月5日 柳家三三「島鵆沖白浪」六ヶ月連続口演その四(にぎわい座)
市楽『雛鍔』/三三『三宅島の再会』//~仲入り~//三三『島抜け』
★三三師匠『三宅島の再会』
幾つかの因縁が出会う場面だが、喜三郎とお寅の再会にもう少し色模様を作って聞か
せてくれないと、単に人物関係の整理説明を聞いているようで味気ない。そこは如何
に三宅島の苫屋でも、『櫻姫』の簾くらいの場面は欲しい。どうも、そういう意味で
の芝居っ気が足りないね。
★三三師匠『島抜け』
昨年同様、面白い場面。マクラが長くて心配したが、島抜けの計画から稍丁寧に運ん
だ。勝五郎と正吉が布斎院の住職を殺して金を奪う件は凶暴な感じと、玄若のとぼけ
方の照り降りが面白い。海上の船幽霊の件は面白いが昨年より空間の広い分、『船弁
慶』的な松羽目に真っ暗な帷の降りて来る怪異さは乏しい。去年のこの場は鳴り物の
入りとセリフの兼合いが真に神霊的で、「怪談師三三」の面目躍如たるものだった
が、今回はそこまで至らず。玄若の船酔いを入れすぎたせいもあろうが。
◆8月6日 池袋演芸場昼席
さん坊『六文小僧』/さん若(交互出演)『鈴ヶ森』/東京ガールズ/さん弥(交互出演)
『熊の皮』/はん治『子褒め』/アサダⅡ世/しん平『圓朝祭(前日漫談)』/扇遊『夢
の酒』/和楽社中/圓蔵『不精床』//~仲入り~//左龍(交互出演)『棒鱈』/権太楼
『短命』/わたる(のいるこいる代演)/雲助(さん喬代演)『妾馬』
★雲助師匠『妾馬』
昨日のさん喬師とは対照的に古今亭⇒金原亭の典型で如何にも落語らしい(矢張り先
代馬生師の影響が強い)。八五郎に軽犯罪くらいはしててもおかしくない野放図さが
あり、物が分かってないのは勿論だが、傍若無人な愉しさは志ん生師の一面に通じ
る。三大夫さんの困り方、殿様の面白がり方が目に浮かぶ。笑い泣きで愁嘆は入れる
が根本的に八五郎の破天荒さで噺全体は明るさを失わない。
★権太楼師匠『短命』
久しぶり。目白の小さん師型の基本的な流れが権太楼師ならではのキャラクターで膨
らんで行く可笑しさが愉しい。
★さん若さん『鈴ヶ森』
喜多八師型だが、この噺の破調が似合う。初めて面白かった。
★さん弥さん『熊の皮』
癖の強い芸ではあるが、奇妙な発声の先生のキャラクターがかなり可笑しい。
◆8月6日 池袋演芸場夜席
フラワー『道灌』/三木男(交互出演)『浮世床・夢』/百栄『生徒の作文』/にゃん子
金魚(ロケット団代演)/白酒『金明竹』/柳朝(菊之丞代演)『鹿政談』/小菊/市馬『笠
碁』
★市馬師匠『笠碁』
ジワジワと目白型の『笠碁』として、同世代では抜きん出た魅力を増しつつある。そ
の上で、隠居年齢の二人を現すには声が良過ぎるのが惜しい。また、独白であるべき
セリフ等に意外な無駄がある。待つ側の旦那がポストの陰に立つ美濃屋を発見した
際、「居たっ!」でなく、傍らの番頭に「居たよ」と言うが、目白の「居たっ!」の
両肩を竦めて驚く表情の一瞬の魅力と比べ、悦びが流れてしまう(番頭の役割は
「ヘッ、て顔をして」までで終わっており、ワンシーン出番が蛇足になる)。最後に
「一番来るか」と言い乍ら、感情の高ぶりを抑えるという見事な計算が出来る市馬師
だから「居たっ!」も独白でありたい。
★白酒師匠『金明竹』
与太郎が可愛く可笑しいし、伯母さんの困惑ぶりがまた良い。「先途、仲買の」の言
い立てが意外とカクカクするのは口角が丸く小さい肉体的弱味から、意識的に明確に
発音しようとするためだろうか。そう言えば、啖呵を切る噺って殆ど聞いた事がない
なァ。口角が丸く小さい分、丸く明瞭な音が出るから、余り意識し過ぎなくても良い
と思うが。
◆8月7日 池袋演芸場昼席
やえ馬『赤子褒め』(関西弁版。自然で面白い)/小んぶ(交互出演)『たが屋』/東京
ガールズ/さん彌(交互出演)『夏泥』/わたる(のいるこいる代演)/〆治(はん治代
演)『看板のピン』/しん平『圓朝祭(当日漫談)』/扇遊『厩火事』/和楽社中/圓蔵
『謎掛け(噺せず)』//~仲入り~//喬之助(交互出演)『お花半七』/馬の助(権太楼
代演)『権兵衛狸』/アサダⅡ世/さん喬『船徳』
★さん喬師匠『船徳』
古今亭型をベースに目白の棹を振り回すのを+した演出。若旦那が気障にシナを作る
様子や棹を矢鱈と振り回す形が良くて馬鹿に可笑しい。本当に変な若旦那で、厄介か
つシニカルなとこもあり、疲れて静かになってからが更に凄い。「人は流れのままに
身を任せて」「あんたたちなんで乗ったんだ」等、独特のギャグもあり愉しい。
◆8月7日 池袋演芸場夜
なな子『転失気』/三木男(交互出演)『猿後家』/百栄『鼻欲しい』/ホンキートンク
(ロケット団代演)/白酒『つる』/萬窓(菊之丞代演)『伽羅の下駄』/たかし(小菊代
演)/市馬『鰻の幇間』
★市馬師匠『鰻の幇間』
「圓朝祭実行委員長」は声が少し嗄れているものの連日元気。先月、湯島天神の会よ
り稍短縮気味で、序盤は刈り込みのため受けにくかったが、それを物ともせずに噺を
リズミックに運んで鰻屋へ。ここで発揮される一八の芸人らしさ、新たなくすぐりの
可笑しさが光る。「いわしておくれ」は無いかわり、「アタピンの海岸散歩する」の
洒落を鰻屋の女中が言ったのが無闇と愉しかった。
★百栄師匠『鼻欲しい』
鼻っ欠けの発声が滅茶苦茶に似合って大爆笑。実語経を教える件で侍も可笑しいが、
困っている生徒の娘の困惑した表情が抜群。しかも、鼻っ欠けだと圓生師の普通の発
声に似ているのがまた可笑しい。
★萬窓師匠『伽羅の下駄』
彦六師や圓窓師の『伽羅の下駄』より遥かに可笑しい。仙台侯の品位に無理が無い
し、豆腐屋の暢気な驚き方も結構なもの。
◆8月8日 池袋演芸場昼席
雲助(権太楼代演)『臆病源兵衛』/ホームラン/さん喬『百川』
★さん喬師匠『百川』
何時も通り、安定した受け方だが、河岸の若い衆たちの、てんでにテンションの高い
気取り方は新たな可笑し味ではあるまいか。
◆8月8日 池袋演芸場夜
フラワー『道灌』/三木男(交互出演)『浮世床・夢』/百栄『トビの夫婦』/ロケット
団/圓太郎(白酒代演)技『親子酒』
★圓太郎師匠『親子酒』
稍回りくどい感じもするが、老夫婦の会話を工夫して延ばし、大きな笑いの取れる噺
に変えている。
◆8月8日 渋谷に福来たる~落語ムーブ2011~vol.0だったはず(渋谷区文
化総合センター大和田さくらホール)
昇太・白酒「オープニングトーク」/一之輔『短命』/白鳥『ハイパー初天神』/白酒
『松曳き』//~仲入り~//彦いち『掛け声指南』/昇太『オヤジの王国』
★昇太師匠『オヤジの王国』
この噺のサゲって女性的なベクトルがある。「落語らしさ」がフッと消えて、現実的
になるのは「真面目」や「正義」が普通の男より好きなのかな。
★白鳥師匠『初天神』
会場と観客のレベルの把握が早い。
★白酒師匠『松曳き』
白鳥師を参考に十八番で手堅くすり抜けた印象。
★彦いち師匠『掛け声指南』
リアリティはあるのだが、どうも前半がかったるい。
★一之輔さん『短命』
絶叫落語になってしまったのは会場の器を把握出来なかったのか。
※この会に関して、みんなまだ探り上体で、余り大マジで演ってはいない印象。今回
に関して言えばSWA系ギャゲ落語の会だが、前後の会を見ても主旨のハッキリしな
い、録音用落語会の印象が強い。回毎の色合いもバラバラ過ぎまいか。次回の文左衛
門師と遊雀師の組合わせには入れ物がデカ過ぎて、両師に気の毒。
◆8月9日 池袋演芸場昼席
やえ馬『転失気』(関西弁)/喬の字(交互出演)『松竹梅』/東京ガールズ/喬四郎(交
互出演)『チワワ』(正式題名不詳)/はん治『背中で泣いてる唐獅子牡丹』/アサダ
Ⅱ世/しん平『御血脈』/志ん橋『熊の皮』(扇遊代演)/和楽社中/圓蔵『不精床』//~
仲入り~//左龍(交互出演)『片棒(中)』/権太楼『お化け長屋』/のいるこいる/さん
喬『線香の立切れ』
★さん喬師匠『線香の立切れ』
今回は「黒髪」(下座さんの都合か?)。マクラが短く40分前後と引き締まった出来
で、間を取りすぎたような場面が無い。若旦那はある意味、男性的でセリフもハッキ
リしている。小糸の母親も泣き過ぎず、愚痴を言い過ぎずで、凜とした女将なのが良
い。女将の言葉で語られる小糸は可憐(変に乙女チックではない)。若旦那の贈り物を
広げて「若旦那に捨てられたら生きて行けない」と泣く件が哀れ。最後に弾いた三味
線の音を「良い音色でした」と女将が言い、それを聞いた小糸が初めて笑った、とい
うのは印象的である。
※凄く酷な設定だが、若旦那が蔵入りしてから一ヶ月程で小糸に子供が出来ているの
が分かり、それが傷心が増して流れてしまい、益々体力が衰える・・・という展開は
悲劇的過ぎるか。
★権太楼師匠『お化け長屋』
キャラクター優先でなく、目白型の運びで、怪談噺を古狸の杢兵衛から聞いた長屋の
仲間が怖がってから「で、どうなんの?」と聞いたのが素晴らしく可笑しかった。権
太楼師の「目白回帰ネタ」の佳作。
◆8月9日 白酒ばなし(にぎわい座)
きょう介『垂乳根』/白酒『井戸の茶碗』//~仲入り~//駒次『泣いた赤い電車』
(紙芝居スタイル)/白酒『千両蜜柑』
★白酒師匠『井戸の茶碗』
噛みまくっていたが丁寧で、終盤、高木が絹への本心を隠してテレまくる様子と、
清兵衛の正直だけど少し鈍いとこが愉しい。
★白酒師匠『千両蜜柑』
冒頭の番頭と若旦那の遣り取りの可笑しさから、番頭が逆さ磔に怯えるパニック。神
田の水菓子問屋で蔵が開いた雰囲気はちゃんとあり、また番頭が旦那や若旦那に気
取って「一つ、千両です」という可笑しさと笑わせ所もクリアされている。半面、旦
那に「(千両は)安い」と言われてから、ラストで廊下に出て三房の蜜柑を手にしてい
る場面まで、錯覚と混乱が次第に高まって行く様子はまだまだ。「安い」と言われた
時の番頭のリアクションが錯覚と混乱を中断させている。
★駒次さん『泣いた赤い電車』
私にはどうしても「アナウンサーの発音」にしか聞こえず、「落語」を感じない駒
次さんの噺が、こうした紙芝居スタイルで、老ナレーターという「作り物」にすると
気にならなくなる。鉄道ネタ以外でも作品が作れないものか。この噺の展開は昔、伊
藤正宏氏が書いたコントの方がもっと強烈だが。
◆8月10日 池袋演芸場昼席
さん坊『六文小僧』/さん若(交互出演)『鈴ヶ森』/ホームラン(東京ガールズ代演)/
喬四郎(交互出演)『家具屋姫』(正式題名不詳)/はん治『ボヤキ酒屋』/アサダⅡ世
/しん平『お花半七』/菊丸(扇遊代演)『たが屋』/和楽社中/圓蔵『道具屋~反対俥』
//~仲入り~//喬之助(交互出演)『短命』/権太楼『金明竹(下)』/のいるこいる/
さん喬『中村仲蔵』
★さん喬師匠『中村仲蔵』
以前、上野鈴本演芸場夜の主任で聞いた時と全く印象が違う。無駄な神経質さがな
く、また所謂「人情噺」というよりは、芝居国の若者成功譚という余韻が残る。稲荷
頼みから旗本(稲葉新三郎〓)との出会いも余りドラマティックでない。旗本は最初か
ら朱鞘の大小に白献上の姿である。金井三笑との対立は一寸だけ触れる程度。かみさ
んもやたらとハッパを掛けたりしない。いわば、芸質の良い若者と運&ヒントが出会
い、応用力の発揮で定九郎が変わる展開。舞台の様子も一応丁寧だが「演り過ぎ」の
印象はない(下座が少しトチッた。定九郎が倒れると幕が閉まる演出)。突然の新定
九郎像に呆然とする観客に対する仲蔵のリアクションにも執着心が強くない。考えて
みれば、「受けない」に一々驚いてたら噺家さんはやってけないもんな。そういう舞
台人の日常感覚が噺全体に流れているのが面白い。稲荷町風に師匠・伝九郎は「お前
はオレの弟子だな」て言い、四代目市川團十郎も絶賛するが、そこで当てたと分かっ
ても仲蔵が師匠や成田屋の前で泣いたり大感謝したりしない。急いで自宅に帰ってか
らも、仲蔵はまだ呆然として「夢見心地」でいる。それが却って落語らしい。近年流
行りの演出のように、かみさんを役者貞女にせず、夫婦愛よりも役者世界の称賛を前
に出しているのも納得。男の世界の落語『仲蔵』である。
★権太楼師匠『金明竹』
「骨皮」抜きだが、上方者のいきなりドツボに嵌った大困惑ぶりや「阿呆でんな」が
無闇矢鱈と可笑しく、笑い転げてしまった。与太郎もリアクションのハイテンション
が素晴らしく、上方物の言葉で覚えているのが「あんた、阿呆やろ!」だけってのも
抜群。伯母さんが輪を掛けて何も分からず困りまくるのも含めて、『金明竹』でこん
なに笑った事はない。シアワセ!
◆8月10日 池袋演芸場夜
市也『元犬』/ひろ木(交互出演)『秘伝書』/百栄『弟子の赤飯』/ロケット団/白酒
『つる』/菊之丞『法事の茶』/たかし(小菊代演)/市馬『南瓜屋』
★市馬師匠『南瓜屋』
悪くないんだけど、ちと力が抜け過ぎで、「上を見てた」と聞いて、伯父さんが芯か
ら呆れて叱る調子が弱かった。与太郎はちょこちょこと、聞いた記憶の無いくすぐり
を入れており、サラサラしてるが(テンションは高くない)、クスクスと可笑しい。
★百栄師匠『弟子の赤飯』
弟子師匠噺のパロディ系創作としては相変わらず抜群。サゲが矢張りマニアック過
ぎて、ラストでトーンダウンするのは惜しい。
石井徹也 (落語道落者)
投稿者 落語 : 2011年09月01日 09:58