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2011年08月06日
石井徹也の「らくご聴いたまま」 七月中席号
いま、全国的なお盆は八月半ばですが、東京各地では七月半ばに行う家も多くあります。これは旧暦と新暦の切り替え時に発生したズレだと言われます。(本来、お盆は七月の行事なのですが、新暦切り替え時に、律儀に日程もずらしたのですね。)同様に、七夕を八月におこなう地方もあります。みなさんのご家庭ではどちらの「お盆」をされるでしょうか?
今回は石井徹也さんによる私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の七月中席号をお送りいたします。落語”道落者”・石井徹也渾身のレポートをお楽しみください!
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◆7月11日 池袋演芸場昼席
小満ん『垂乳根』/わたる(正楽代演)/川柳『ガーコン』
★小満ん師匠『垂乳根』
お千代さんが如何にも京の御屋敷勤め経験者らしい物腰、言葉付きなのが印象的。後
に伺ったら、45年ぶりくらいの試演だったとのこと。
◆7月11日 池袋演芸場夜席
市也『牛褒め』/麟太郎(交互出演)『熊の皮』/三之助『浮世床・夢』/ホンキートン
ク/玉の輔『生徒の作文』/三三『跛馬』/仙三郎社中/志ん輔『反魂香』//~仲入り~
//菊之丞『元帳』/権太楼『肥瓶』/アサダ二世(小菊代演)/小里ん『不動坊火焔』
★小里ん師匠『不動坊火焔』
トリなので冒頭から演じたが吉公の銭湯での浮かれ加減から三馬鹿トリオの陰謀密談
までが妙に硬く、会話のリアクションに最近の小里ん師らしい味が乏しかった。目白
の小さん師の三馬鹿トリオに較べると、会話の声音が強すぎるのである。吉公の長屋
の屋根に上り、みんなが小声になってからの方が会話が可笑しくなる。但し、アンコ
ロとアルコールを取り違える辺りは万さんのボーッとしたキャラクターがまだ前に出
て来ない。幽霊役の前座が宙吊りのまま、ボヤッとして、名乗りや恨み言の中身を忘
れたりする辺りは視線と動きの的確さが活きて可笑しさが活性化する。目白のネタの
場合、序盤から少し派手(過度)に演じた方が可笑しさは活きるのかな。
★権太楼師匠『肥瓶』
瀬戸物屋から始まり、キャラクターばかりで押さず、目白の小さん師のままの丁寧な
演出に権太楼師らしいキャラクターを交え、馬鹿笑いさせずに愉しませて貰った。最
後、兄貴分が台所へ瓶を見に来る姿の大きさと、そこで台所の雰囲気が出るのは特筆
物。
★志ん輔師匠『反魂香』
志ん輔扇遊の会同様、うすどろを使わず、土手の道哲の述懐と高尾の出現は三味線に
鐘で芝居掛かり。後半まで含めて主人公の浮かれ加減が客席とイマイチ合わず、受け
は弱いが、聞かせる高座としては成立していた。
◆7月12日 第七回射手座落語会(浅草三業会館二階座敷)
宮治『狸の札』/正蔵『夢の酒』(ほぼ初演同様)/生志『マサコ』/喬太郎『マイノ
リ』(少し短縮版)
※自分が主催する落語会なので感想は無し。
◆7月13日 国立演芸場中席
大五郎『初天神』/志ん丸『欠伸指南』(途中まで)/たけし/圓十郎『禁酒番屋』/喬太
郎『錦の袈裟』//~仲入り~//ロケット団/久蔵(彦いち代演)『目薬』/ニューマリオ
ネット/志ん橋『間抜け泥』
★志ん橋師匠『間抜け泥』
勿論、時間は押していたし、出来栄え自体は結構なものだけれど、『間抜け泥』ま
ででハネるとは思わなかった(苦笑)
★喬太郎師匠『錦の袈裟』
声は少し枯れていたが、与太郎が可愛いので愉しめる。花魁が妙に色気を出し過ぎな
いのも結構。
★圓十郎師匠『禁酒番屋』
見た目にも発声もユーモラスだから、多少粗い演出でも面白い。もっと評価され、
寄席で使われて良い人ではあるまいか。
◆7月13日 第249回柳家小満んの会
木りん『やかん』/小満ん『垂乳根』/小満ん『稲荷堀』//~仲入り~//小満ん『百
川』
★小満ん師匠『垂乳根』
サラッとしているが細部が丁寧で、やはり千代さんの硬い品の良さが魅力。乞食の婆
さんも可笑しい。
★小満ん師匠『稲荷堀』
ここまでの成り行きをザッと話して、稲荷堀自体の尺は短め。お富が悪婆でなく、侠
気のあるシャダレ上りの年増で、銭湯帰りの姿、特に肩の辺りに色気がある。それと
富八坊主(坊主富とは呼ばなかった)の喉元に止めを射すお富の姿にも泥臭くない色
気のあるのが不思議な魅力。相合傘で体をぴったりとくっつけた二人が雨の中を稲荷
堀に急ぐ姿も印象的である。「びったりと」が耳に残るのだ。そのお富の「お前さん
も悪になったねェ」で客席がドッと受けるのは与三郎が如何にも初で、悪党になり過
ぎていないためだろう。『お富與三郎』で笑いが起きるのは珍しいが、ある意味、圓
朝以前の人情噺の軽さ、粋さを感じた。「殺し」が面白く見えるのである。前半の
「あらすし説明」から稲荷濠で40分くらいだから寄席主任でも出来る尺だ。
★小満ん師匠『百川』
普通の『百川』演出と違い、祭好きで知られる小満ん師らしく、河岸の若い衆に焦点
が当たっている印象。元から百兵衛は小満ん師の柄にある役ではないと思うが、それ
を巧みに噺の転がしに使い、勝手に勘違い・早合点する河岸の若い衆のすっとこどっ
こいぶりを際立たせている。だから、「ウーシャ」には余り力点を置いていない。
「歌文字」を呼びにやる件から妙にスピードアップしてサゲまで行ったのは何故だろ
う?
◆7月14日 林家正蔵一門会
つる子『転失気』/なな子『寿限無』/まめ平『六文小僧』/正蔵『トンカツ』たこ平
『仔猫』//~仲入り~//はな平『たがや』/たけ平『唐茄子屋政談』
★正蔵師匠『トンカツ』
新作ネタ卸し。正蔵師のニンに適っている噺だが、展開が『子は鎹』に似ているの
と、サゲが些か理に詰むのが惜しい。
★たけ平さん『唐茄子屋政談』
二回目の口演との事で、教えた噺家さんの料簡がモロに全面に出ていて、「演者が心
得ていれば良い事」が全てセリフになっているため(「圓生百席」的非落語になって
しまう)、たけ平さんの良さはいまだ籠の中。
★たこ平さん『仔猫』
まだ「ビデオかテープで覚えた芸」の感じだが、良い意味でドスの利く所、上方噺
らしい高音があり、「東京の上方落語」としての魅力は感じる。
◆7月15日 池袋演芸場昼席
圓丈『名古屋弁金明竹』/仙三郎社中/正蔵『ハンカチ』//~仲入り~//白酒『子褒
め』/小満ん『夏泥』
★小満ん師匠『夏泥』
ジーンワリと目白系らしい可笑しさ。特に、近年誰もが大声を出して泥棒を威嚇する
演出を採る貧乏大工が、押さずにサラサラしている辺りに、小満ん師らしい洒脱さを
感じさせられる。裸の上に風呂敷を羽織って前に蝋燭一本、という演出がまた嬉し
く、姿が目に浮かぶ。
◆7月16日 第17回気軽に志ん輔(お江戸日本橋亭)
半輔『初天神』/志ん八『七福神オーディション』/志ん輔『茶金』//~仲入り~//志
ん輔『唐茄子屋政談』
★志ん輔師匠『茶金』
マクラから些か長い。リズムに乏しく調子が如何にも硬い。落語らしい省略の不足も
感じはするが、二ツ目時代に聞いた時とは流石に段違い。茶金さんの番頭は江戸人の
鼻につく、「嫌味に近い京都人の料簡」を感じさせる。一方、茶金さんの了見は極く
上品とは言わないけれど(私のイメージする茶金さんは十三代目松島屋)、そういう嫌
味の無い、稍苦労人的な了見になっており、その違いが明確。油屋は些か感傷的乍ら
威勢の良さが魅力としてある。「縁」という言葉の使い方は志ん輔師匠らしく快い。
茶碗を褒める歌が三つ入るのは丁寧だが、矢張り一つは余計に感じた。油屋が二度泣
くのは金馬師匠の演出に似ているかな。
★志ん輔師匠『唐茄子屋政談』
こちらはリズムがあって50分を超える長さを感じさせない。泣いて怒る伯父さんが
よく、「どうしたい?聞かせろよ」と興味津々の笑顔で訊ねて唐茄子を売ってくれる
江戸っ子が真に結構。若旦那は稍柄違いなのだが、吉原田圃の場面、少し鳴き声で売
り声を稽古する様子が切なくて良い。また、若旦那が花魁の肩越しに見たと語る雪化
粧の吉原が絵として感じられる(花魁の白いうなじも感じられた)。貧乏長屋のおかみ
さんが弁当を貪る子供の姿に「なんてみっともない」と言う言葉が、伯父さんに
「みっともない」と言われた我が身を徳三郎に思わせる、ってのは面白い工夫だが、
「なんてみっともない」に言葉として違和感がある。侍上がりのおかみさんにして
は、母親としての言葉ではない印象なのである。
★志ん八さん『七福神オーディション』
無言のままの風神の仕種が抜群に可笑しい。但し、噺自体はサゲが弱い。とはい
え、ニコチン中毒患者の噺といい、新作の方が似合うみたい。
◆7月16日 第6回プチ銀座落語祭銀座山野亭落語会初日第三部“桃月庵白酒・隅
田川馬石兄弟会”(銀座山野楽器JamSpot)
ぽっぽ『ピーチボーイ』/白酒『新版三十石』/馬石『お初徳兵衛』//~仲入り~//馬
石『狸の札』/白酒『お化け長屋(上)』
★白酒師匠『新版三十石』
携帯電話の件も含めて、この噺に登場する田舎回りの浪曲師・小沼猫蔵先生の可笑
しさは無敵になりつつある。
★白酒師匠『お化け長屋(上)』
「作り話だろ」が気になる以外は、古狸の杢兵衛のキャラクターの誇張ぶりなど非常
に安定した可笑しさになっている。今夜は聞いていて、「二番目の家探し男」のキャ
ラクターが高座上の桂平治師みたいなイメージに感じられた。
★馬石師匠『お初徳兵衛』
お初が告白する件で可愛いらしく感じられるのは先代馬生師の雰囲気に近い佳さ。
「恋はいつでも初舞台」のお初である。船頭にしてはか細いとも言えるが、徳兵衛の
若旦那らしいやさ男ぶりも似合う。空間の影響か、語りは勿論巧いのだが、落語・人
情噺というより、一寸ラジオドラマっぽい密室感を感じた。
★馬石師匠『狸の札』
割と簡略化した演じ方だが、狸の視線がキョロキョロする様子、声音の不明瞭になる
可笑しさ、仕種全体の可愛さなど、如何にも愛らしい可笑しさを感じさせてくれる。
◆7月17日 第117回大和田落語会(京成大和田・丸花亭)
麟太郎『ちりとてちん』/小里ん『磯の鮑』/小里ん『明烏』//~仲入り~
★小里ん師匠『磯の鮑』
可笑しい。盲の小せん師匠型がベース。与太郎が活きていて、おひつを担いで鶴本勝
太郎(小せん師匠と友達だった四代目志ん生師匠の本名)隠居の所へ来る様子、隠居
から聞いた通りの蘊蓄を廓でペラペラ喋るのが実に剽軽で洒落ている。
★小里ん師匠『明烏』
こちらも盲の小せん師匠型がベース。源兵衛多助が黒門町の文楽師匠よりもっと軽
く、正に遊び人である上、「町内の札付き、白無垢鉄火の巾着切り」と親旦那に言わ
れるのが馬鹿に可笑しい。時次郎がまた芯から野暮天で、「何かお話を」と茶屋の座
敷で振られ、「二宮尊徳という方は幼名を金次郎と」などと収まっているのが如何に
も学問バカらしい。初午の地口行灯の話を時次郎がするのは先代馬生師匠以来、久し
ぶりに聞く演出だが、これも洒落の分からない堅物らしく、よい前振りである。これ
からは「廓噺の小里ん」の通り名を広めたくなりやす。
★麟太郎さん『ちりとてちん』
この噺で全く嫌みを感じさせないのは頼もしい。この人の噺はある意味、常に純粋
に落語である。
※仲入り後に『居残り』があったが心残して国立博物館へ。
◆7月17日 納涼東博寄席(国立博物館)
馬吉『夏泥』/馬生『しびん』/馬治・馬吉「茶番」//~仲入り~//馬治『粗忽の釘』
/馬生『品川心中』
★馬生師匠『しびん』
矢張り武士のキャラクターが明確で剛直。花を活ける姿も肥後の侍らしい。
★馬生師匠『品川心中』
通し。まず金蔵が感心するほど軽い奴なのが可笑しい。手柄の説明など丁寧だけれ
ど、お染は年増の哀感はあるものの稍色気に乏しい。金蔵の親分が立派。お染を騙す
計画を親分が予め金蔵に話す演出を採る演者が多いけれども、さすが無駄を嫌う古今
亭・金原亭の伝統で、ちゃんと省略して進める。最後に金蔵が馬鹿陽気に浮かれて戸
棚から出て来る様子を見ていると「品川心中の後半は暗い」という人の気が知れなく
なる。
※最後に抽選会があったが心残して上野鈴本演芸場へ。
◆7月17日 上野鈴本演芸場夜席
三三『青菜』(マクラの途中で入場)
★三三師匠『青菜』
可笑しさは増した。「蔵間さんから牛が出てきて、園田さんちに放火」という植木屋
の聞き間違いは白酒師じみるが。植木屋が直しや鯉の洗いを美味そうに食べるように
なって人間味は高まった。半面、植木屋のかみさをが何かつっけんどんなのは気にな
る。醒めてんだよね、最近の『青菜』のかみさんは。亭主の馬鹿に付き合う雰囲気に
乏しい。一番可笑しかったのは友達の半公のリアクション。特にかみさんが押入れか
ら出て来たのに驚くリアクションには笑った。
◆7月18日 第6回プチ銀座落語祭銀座山野亭落語会三日目第一部『白鳥・遊雀二
人会』(銀座山野楽器JamSpot)
はな平『権助魚』/遊雀『宿屋の仇討』/ /~仲入り~//白鳥『唐茄子屋政談』
※当日、長講一席ずつになったらしい。
★白鳥師匠『唐茄子屋政談』
最初の傲慢な徳には白鳥師の鬱屈を感じるが、徳の割と安易な変化に連れて、噺自体
がコンパクトになりながら、変化成長している印象。何たって、竹の皮を舐める子供
はリアルに哀しいし(白鳥師は「笹っ葉」なんて言ったりするが)、ラストでハタ坊み
たいな顔で唐茄子を売ってる若旦那が素晴らしい。今みたいな時代でも、現せる人は
飢えや寒さが描けるという証拠。
★遊雀師匠『宿屋の仇討』
前半ギャグ落語、後半萬万事世話九郎の二枚目声からシリアス落語に変わる。この
陽陰の変化は独特。ドスの利かない人には出来ない噺なんだなァ(昇太師の『宿屋の
仇討』の弱味はドスが利かない事なんだね)。
◆7月18日 第6回プチ銀座落語祭銀座山野亭落語会三日目第二部『一朝・一之輔
親子会』(銀座山野楽器JamSpot)
はな平『ぞろぞろ』/一之輔『南瓜屋』/一朝『小言幸兵衛』/ /~仲入り~//一之輔
『船徳』/一朝『青菜』
★一朝師匠『小言幸兵衛』
絶妙。小言に煽られてお茶を淹れられない幸兵衛のかみさんの可笑しかったこと。
小言の切れ味抜群。仕立屋の逆襲も愉しく、かつて聞いた『幸兵衛』の最高峰。
★一朝師匠『青菜』
かみさんが「元は華族だと思われるかも」と言われて嬉しそうにするのがポイント。
序盤は久々の口演なのか試演風だが職人物だけに基本は安定感あり。
★一之輔さん『南瓜屋』
与太郎が路地に入って行く自分を描写するセリフは愉しいが、後は与太郎が反逆児み
たいなのと、前半に落語内輪受けギャグが多すぎる。
★一之輔さん『船徳』
船頭の件カット。徳さんのひ弱な我が侭ぶり中心に再構成して、可笑し味は増した
し、長丁場の不安定さもある程度解消。客と敵対関係の可笑しさも抜群。
◆7月18日 第6回プチ銀座落語祭銀座山野亭落語会三日目第三部『馬生・喬太郎
二人会』(銀座山野楽器JamSpot)
はな平『牛褒め』/馬吉『紙入れ』/馬生『居残り』/ /~仲入り~//喬太郎『竹の水
仙』
※喬太郎師匠の開演時間間違いで色々変更があったとの事。
★馬生師匠『居残り』
序盤の遊び人ぶりが稍硬いが、独特の高っ調子が活きて佐平次の居残りぶりが明る
く、『幕末太陽伝』以降の変な陰気さや文学趣味はない。幇間みたいな調子に可笑し
さがある。青柳花魁の客・鉄さんの煽られぶりも可笑しい。
★喬太郎師匠『竹の水仙』
或る意味、非常に安定したハイテンションな可笑しさ。
◆7月18日 上野鈴本演芸場夜席
三三『萬金丹』(マクラの途中で入場)
★三三師匠『萬金丹』
食いつめ者二人の旅だけに、シニカルな持ち味と二人の自棄糞気味の人物像がマッチ
して面白い。終盤出てくる田舎の檀家連中にもっと素朴な味が欲しいが、これは年齢
的にまだ無理かな。
◆7月19日 国立演芸場中席
志ん丸『古着屋』/たかし/圓十郎『反対俥』/喬太郎『竃幽霊』//~仲入り~/ロケッ
ト団/彦いち『神々の唄』/夢葉(ニューマリオネット代演)/志ん橋『池田大助』
★志ん橋師匠『池田大助』
昔と全く変わらない、無垢な高座だなァ。特に高田屋綱五郎の無垢な職人らしさが
素晴らしい。大助は子供っぽさを意識しすぎか(元から志ん橋師自身が可愛らしいか
ら)、稍与太郎なんだけど利発に見えるのが微笑えましい。
★喬太郎師匠『竃幽霊』
銀ちゃんはアホボンで、幽霊は至って気が弱い。全体的に可笑しいのだけれど、一
つ、三代目三木助系の『竃幽霊』につきまとう「おかったるさ」が無い。無い方がよ
り愉しい筈なんだけど、何故か・・・。
★圓十郎師匠『反対俥』
勿論、圓蔵師型だが、あの体型で夏にこの噺を演るだけで可笑しい。意外と速い俥屋
が似合うのは嬉しい。何となく運びはモタモタしてるのだけれど、それが愛嬌に変わ
るのも特色。
◆7月19日 第16回ぎやまん寄席番外編『柳亭市馬・柳家喬太郎ふたり会』(湯
島天神参集殿一階ホール)
市也『金明竹(骨皮抜き)』喬太郎『初音の鼓』/市馬『鰻の幇間』//~仲入り~//市
馬『狸賽』/喬太郎『小政の生立ち』
★市馬師匠『鰻の幇間』
久々に聞く演目。先日、寄席の主任で演じた内容と同じだそうだが、以前演じていた
『鰻の幇間』とは全く仕立てが変わったし、物凄く可笑しい噺になった。また、こん
なにギャグ沢山の市馬師は聞いた事が無い。特に一八の口から語られる女中のリアク
ション(「いわしがあるか訊いてきます」や「それほどでもありません」など馬鹿受
け)の言葉や、散りばめられた地口みたいな洒落の可笑しく、各場面にピタリと嵌ま
る演出の妙は見事というしかない。一八もかなり芸人らしい軽さが増して、はばかり
の戸を叩き乍ら「トントンストトン」などとリズムに乗る明るい軽妙さは、三代目柳
好師匠を思わせて素晴らしい。終盤、怒るにしても「芸人の愛嬌としての明るさ」か
ら離れない事は落語の幇間として魅力的だ。「祝入営」と猪口に書いてあるから古今
亭系を取り入れたとは思うが、ギャグの大半が初耳。中でも、「十三年いて、どっち
が旦那でどっちが家来か分らないのか!」と一八が怒るくすぐりは、「良く言ってく
れました!」という物凄いリアリティを伴う可笑しさだった・
★市馬師匠『狸賽』
短めに演じていたが、これも細部に色々と手を入れ、優れたくすぐりが増えていて、
可笑しさが増している。
★喬太郎隠師匠『初音の鼓』
安定して馬鹿馬鹿しく愉しい演目。この噺全体のハイテンションさ、特に家臣の恥ず
かしがり方が「喬太郎師の古典」の雛型であるように感じるのは私だけかしらん。あ
る意味、権太楼師に近いのかな。
★喬太郎師匠『小政の生立ち』
講釈をちゃんと落語に直してある。駿河屋次郎兵衛を持ち上げて、餞別にまず二両を
出させる辺りは矢来町の応用を感じる(矢来町より遥かにクサいのは三木のり平芝居
とつか演劇の違いか)。そのデフォルメが効いて、ともすれば小賢しくなりそうな政
吉のキャラクターから、嫌味になりそうな部分を削っている構成力は流石だ。また、
駿河屋のリアクションに間を取らないのも落語の人物表現として真っ当。この所、声
が嗄れているのは冷房のためか?
※別の名前でも構わない役に駿河屋次郎兵衛と付けてあるのは、政吉=義経という
見立てなのかな?もう少し前後の筋に出てくる人物名を聞かないと確かめられない
が。
◆7月20日 第105回関内柳家小満んの会
木りん『初天神』/小満ん『蚊戦さ』/小満ん『臆病源兵衛』//~仲入り~//小満ん
『青菜』
★小満ん師匠『蚊戦さ』
つまり、楠運平と八五郎みたいな組み合わせなのだが、道場主の硬さに、もう少し馬
鹿馬鹿しさが欲しい。まずは本日の口慣らしの雰囲気。
★小満ん師匠『臆病源兵衛』
八五郎が稍酒好きの度が強い、という序盤がある。源兵衛の臆病は余りデフォルメし
ていないが粛々と可笑しい。但し、驚き方の間は見事に息の詰んだものなのにも関わ
らず、先代馬生師みたいに驚いた時に物凄い大声を出さないのは惜しい。
★小満ん師匠『青菜』
序盤、旦那との遣り取りは植木屋が仕事師っぽいが(四代目小さん師の感覚なのか、
かみさんも仕事師の女房っぽく威勢が良い)、帰り道で酔いが回って浮かれ出してか
らが嬉しい人格になる。かみさんとの遣り取りは浮かれ調子のままテンポよくトント
ンと運んで可笑しく、友達の建具屋相手になると完全にテンパッた高っ調子でパアバ
ア言って爆笑。この間、全然間を溜めないで進行するのが結構。動物園の見合いの件
も目白の小さん師とはまた違うマンガで愉しい(動物園の見合いの件を省く演出が最
近は多いが、あの馬鹿馬鹿しさを大真面目に話す辺りが『青菜』を落語にする上での
大きなフックだろう)。
石井徹也 (落語道落者)
投稿者 落語 : 2011年08月06日 21:57