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2011年06月22日

石井徹也の「らくご聴いたまま」 六月上席号

ここのところ、大雨が降ったり、かと思えば急に暑くなったり。みなさまお変わりないでしょうか。

今回は石井徹也(放送作家)による私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の六月上席号をお送りいたします。石井さんの落語通いのセンスは独特です。ファンが集まるメジャーな会をよけて小さな勉強会を覗いたり、あえて昼席に通ってみたり。そのチョイスも含めての落語レビューです。落語”道落者”・石井徹也渾身のレポートをお楽しみください!

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◆6月1日 池袋演芸場夜席

甚語楼『犬の目』/白酒『六銭小僧』/世津子/菊之丞『幇間腹』//~仲入り~//喬之助『堪忍袋』/三三『転宅』/ホンキートンク(ロケット団代演)/文左衛門(左龍代演)『笠碁』

★文左衛門師匠『笠碁』

 部分的に粗く、商家の主が職人(言葉も仕種も)になっちゃったりするが、目白型の
友情が保たれているから、聞いてホッと出来る。ジワジワと目白畑の演目を我が物に
しつつある。安心感と期待感の募る高座。

※若手真打の落語会みたいな番組だが、寄席だから、どっか気楽になる。三三師匠は
「つまり、『達者』の典型」。白酒師匠は「お茶の子さいさい(「首相官邸に無言電
話掛けてるの」には笑った)」。甚語楼師匠は「卑下しすぎ(面白いんだから)」。
菊之丞師匠は「特色はないが達者」。中で、喬之助師匠は食付きとしては、ネタの選
び方が違うと思った。昔乍らの『堪忍袋』の構成って、こんなに夫婦の愚痴が長かっ
たっけ?最近は遊雀師匠の爆笑演出『堪忍袋』を(しかも食付きで)よく聞くので余計
にそう感じるのか。ホンキートンクが寄席では強くなったなァ。落語協会の寄席漫才
では、ホームランと並んで、安定した可笑しさになっている。

◆6月2日 新宿末廣亭昼席

丈二(正蔵代演)『七日八日・みょうばん権助・味噌豆』/笑組/鉄平(雲助代演)『代書屋』/正雀『豊竹屋』/小菊/小里ん『棒鱈』

◆6月2日 新宿末廣亭夜席

一力『子褒め』/志ん公(馬治と交互出演)『好きと怖い』/東京ガールス/錦平『不動
坊(上)』/清麿『東急の日』(正式題名不明)/ホームラン/馬好『猫の茶碗』

★馬好師匠『猫の茶碗』

唸った。先代馬の助師匠型なのか、志ん生師匠型とも少し違う。第一、茶店の主がお
婆さんである(お婆さんの方が騙りでも、図々しくても嫌味が少ないのは何故だろ
う)。モッサリしているようでコクのある、稍芝居っぽい口調で(全く当て込んでセリ
フを言わないからクサくない)、茶店周辺の雰囲気がちゃんと出る。機師はまぁ本職
みたいなものだけれど、言葉使いや雰囲気がピタリ。オチまで殆ど受けず、でもちゃ
んと聞かせているから、オチでクスクスッときた(客席は25~30人程度)。その運
びを見ても、如何にも近代的でないのだが、巧いし、面白い。声質が今は滅多にいな
い前近代の声なんだなァ。『馬の田楽』等は演られないのかしら。

◆6月3日 新宿末廣亭昼席

種平(正蔵代演)『ボヤキ酒屋』/笑組/今松(雲助代演)『近日息子』/小満ん『馬のす』/小菊/小里ん『提燈屋』

★小里ん師匠『提燈屋』

序盤から若い連中の会話や、提燈屋主人との遣り取りにメリハリがあり、一見分り難
いまんまみたいなこの噺でも、困惑や見栄、意地といった感情の裏付けが的確にあっ
て、目白の小さん師匠が作り上げた「ワイワイガヤガヤ」落語本来の可笑しさが出せ
ると、こう愉しい噺になるのか!?という見本。

★小満ん師匠『馬のす』

前に種平師の『ボヤキ酒屋』があったので、被る枝豆は軽く済ませて、床屋の噂など
で素軽く愉しく。テグスの切れる仕種の綺麗さ、力加減は流石。

◆6月3日 新宿末廣亭夜席

駒松『転失気』/志ん公(馬治と交互出演)『垂乳根』/東京ガールス/錦平『紀州』/清麿『男の顔』(正式題名不明。「男の顔は履歴書」だっけ?)/ホームラン/馬好『初天神(飴)』

★馬好師匠『初天神(飴)』

 飴屋だけだが物産飴屋で四ツ竹の唄入り。親父の「何かってェとついてきたがりや
がって」がこの噺の世界を現している。「昭和の落語」である。

★錦平師匠『紀州』

たけ平さんの『紀州』の原型かな。サラサラ演じているがギャグも分かりやすく工夫
され、大久保加賀守のキャラクターも出ているという佳作。

◆6月3日 第四回一之輔夢吉二人会「夢一夜」(日本橋社会教育会館ホール)

松之丞『和田平助鉄砲斬り』/一之輔『粗忽の釘』/夢吉『蜘蛛駕籠』//~仲入り~//夢吉『両泥』/一之輔『鰻の幇間』

★一之輔さん『鰻の幇間』

 元は喜多八師匠か。併し、大分本人の手が入っている。「明るい選挙」「引出物の
猪口」「その夫婦は別れました」などは可笑しい。一八は序盤から中盤、我慢出来
て、最後で得意の怒りキャラになる分、喜多八師より愚痴が気楽に聞ける。舌打ちす
る女中の憎らしさは倍可笑しい。「先のとこ」の男のキャラクターに特徴の無いのは
惜しい、というか、終盤の一八と鰻屋女中の決闘が中心みたいな噺になっている。

★夢吉さん『両泥』

新米泥の気弱なんだかキレてんだか分からないキャラクターが抜群。先輩空き巣がオ
タオタする様子が自然な受けになっていたのも良く、今まで聞いた『両泥』で一番可
笑しい。こんなに愉しい噺だったっけ。

★夢吉さん『蜘蛛駕籠』

序盤から新米の駕籠屋の「半女の子」っぽいカワユイキャラがまず可笑しい。茶店の
亭主にすがるのが強烈。酔っぱらいは最初、酔ったり醒めたりが気になったが途中か
ら可笑しさが増した。踊る男に合わせて、嫌がっていた新米の動きが段々愉快になる
変化が一番の出来でこれには笑った笑った。

★一之輔さん『粗忽の釘』

 これも喜多八師系かな。一之輔型夫婦物噺で、乱暴な夫婦の会話が不思議と成り立
つ。また、主人公のキレキャラや惚気話は強烈に可笑しい。半面、長屋の人と主人公
の遣り取りは「暴言と警告」の繰り返しだから少し疲れる。長屋の人が警告しなくて
も、主人公が勝手に突っ走るだけで良いのではあるまいか。

※ここの所、立て続けに一之輔さんの会を聞いていたが、中では今夜が一番、高座の
雰囲気が良かった(これまでは、他の会と被って聞けず、初めて聞いた会なのだ
が)。勿論、出来も悪くない。独演会は明らかにまだプレッシャーが大きい。無理し
て、試演会レベルの大ネタを出している印象が強い。ホール落語会や若手人気真打数
人と競演する落語会では、矢張り真打と二ツ目の違いで、地力・基礎的表現力の差が
如何にも歴然としてしまう。「どうもバランスが悪いなぁ」と感じていた。喜多八師
匠との二人会や正蔵師匠・馬石師匠との三人会同様、今夜の二人会はバランスが取れ
ており、安心して聞いていられたのである(私にとっては夢吉さんが初めて面白かっ
たのも非常に嬉しい事だ)。良い意味で、全く持ち味の違う二ツ目同士が引き立て
あっている。昔の『三人ばなし(小三治・扇橋・文朝)』や『二朝会(志ん朝・柳
朝)』、今も続く『志ん輔・扇遊』もそうだが、「出演者同士が仲良く見える」のは
落語会の大切な要素だと思う。談志家元も言った事があるように「一人じゃ出来ない
商売」なんだから。この会は、少なくとも私にはそう見えた。現在の東京の落語界で
は「白酒甚語楼ふたり会」、「Wホワイト(白鳥・白酒)の会」「白鳥三三両極端の
会」(後者二つは、二人の仲が良いかどうかは知らないけどね)に近い魅力のある会
だと感じる。

◆6月4日 第16回赤鳥寄席「第十回桂平治おさらい会」(目白庭園赤鳥庵)

翔丸『狸の札』/平治『南瓜屋』/平治『試し酒』//~仲入り~//平治『質屋蔵』

★平治師匠『南瓜屋』

先代柳好師匠系の『南瓜屋』。伯父さんが真っ当に与太郎を心配していて、与太郎の
行状に真っ当に呆れているのが愉しい。側で伯母さんが腹を抱えて笑ってるのと好対
照。与太郎は目白系と違い、いわば大きな赤ん坊。稍騒がしいのが難だけれども、路
地の男が唐茄子を売ってくれている間、上を向いて口を開いてる姿が赤塚不二夫のマ
ンガみたいで凄く可笑しい。また、二度目に与太郎が路地に来た時のセリフ、路地の
男を見つけて「あそこで格子を直してらァ」はいいねェ。

★平治師匠『試し酒』

昨年五月の池袋演芸場主任以来、久しぶりに聞く噺。酒を注いでくれるお清さんを久
蔵がおだてておいて落とす遣り取りが新たに加味された。旦那二人と久蔵・お清の左
右のバランスも悪くない。久蔵は柄がピッタリ。尤も噺の中で紹介されるほど小柄に
は見えない(笑)。「二杯目は息を継ぐ」と言っておいて最初の二杯を一気に呑み、
「酒の方から入って来る」と語る演出は酒好きらしさが出る。旦那たちの酒好きが余
り感じられないのは勿体無い。五杯目とサゲ前に携帯を鳴らした同じ客がいて、呑み
上げが邪魔され、最後の最後でテンションもちと下がったのは惜しまれる。

★平治師匠『質屋蔵』

マクラを殆ど振らず、サッと入った。権太楼師匠につけて貰った噺との事。序盤の繻
子の帯の話から、旦那のキャラクターを派手にして、受けるよう作ってあるので仕込
みの件も聞きやすいだろう。熊さんの酒、沢庵、醤油、更に味噌もらしい謝り話は
「お滝さん(女中)は良い人だァ」のセリフがフックになる派手な話ぶりが似合って実
に愉しい。番頭の臆病ぶりや、旦那の話を聞いてのリアクションも結構。繻子の帯の
件で見せる馬鹿馬鹿しさと、最後に幽霊が出てきた件で見せる立派さ、二つの旦那の
キャラクターにギャップはあるが・・上方系の旦那はどうしても米朝師匠のイメージ
が強いためもある。

◆6月5日 宝塚歌劇団星組東京公演『ノバ・ボサノバ』『めぐりあい再び』

★『ノバ・ボサノバ』が日本のエンタテインメント史上に残る傑作であり、また歌い
踊り続ける事の実に難しい作品である事は変わらない。雪・月の再演から12年を経
て、かなり若返ったキャスティングだが、組全体の体力が昔の生徒に敵わないのは残
念。『めぐりあい再び』は「とりかえばやコメディ」。太田哲則先生的作品だが小柳
奈穂子先生は衒学的でなくロマンティックに巧くまとめた。嫌なセリフがないのが結
構。特にトップ娘役夢咲ねねにピッタリの役である。

※月末からストレスによる体調不良で、神経性胃炎と課便箋大腸炎を併発して、食事
量が激減、糖尿病には良いかもしれないが、一日、昼夜、寄席や落語会を掛け持ちす
る体力・気力がなかなか沸かずに四苦八苦している。

◆6月6日 柳家三三『嶋鵆沖白浪』六ヶ月連続公演第二回(にぎわい座)

一之輔『粗忽の釘』/三三『三日月小僧三宅島送り』//~仲入り~//三三『玄若三宅島送り』

★三三師匠『三日月小僧三宅島送り』

三三師の演じる子供(といっても小柄な15歳)にしては、三日月小僧に変な奸智さ
がなく、腕で生きてきた、気負いの巾着切りなのが一半良い。佃の寄せ場から糞壺を
抜けて脱出する件には映画『ショーシャンクの空に』みたいな痛快感があるのも結
構。その後、継ぐに捕まってしまうが、そうしないと三宅島に行けないから仕方な
い。半面、佐原の喜三郎には三日月小僧と大分違う貫禄が欲しい。三日月が市村羽左
衛門時代の音羽屋なら喜三郎は彦三郎でないと。中盤、二人の会話が長い分、既に
いっぱしの侠客である喜三郎と気負いの巾着切りだけど若い小僧の差が出るべきで、
その対照が噺の人物造型の元になると思うからである。つまりは鈴ケ森の長兵衛と白
井権八の差だ。あと、三日月小僧には後々の展開を踏まえて「男色の相手」風の雰囲
気がないとまずかろう。

★三三師匠『玄若三宅島送り』

昨年来の『嶋鵆』シリーズでは今のところ、一番の出来だろうか。玄若のいけ図々し
い、天性の悪心(悪人ではない)がピタリ似合い、手塚の多吉と善念和尚を手玉に取
る弁舌、屁理屈鮮やかな遣り取りが抜群。『五貫裁き』の大家に通じる、シニカルで
落語的な展開を玄若のキャラクターだけで支えているというくらいの上出来。普通の
市生人のふりをしていながら、実は狡猾な人物造型が面白い。陰で悪事を働く善人顔
のお偉いさんの弱みに付け込むという、タチの悪い人物(河内山宗俊的なのだ)を描
くと三三師は本当にリアリティが出る。多吉の死体を善念和尚と捨てに行き、ドジっ
て捕まるまでは地で済ませたが、ここは続き物の常で、登場人物を三宅島集めるとい
う噺の展開上、玄若のキャラクターが些か間抜けに変わるのは仕方ない。また、序
盤、善念和尚がお花を寺に呼び込み、妾扱いする件にちっとばかり色気があると、終
盤に死体の片棒を担がされる善念和尚の間抜けぶりがより引き立つのでは?『敵討札
所霊験』の『怪僧善達』が一寸聞いてみたくなった。永善の無常観、ニヒリズムは似
合うだろうな。

★一之輔さん『粗忽の釘(下)』

 悪くない、十分面白い。ギャグも少し手を入れた。サゲも買えた。でも、それより
大切なのは、二度目に隣の家から帰り、「新婚当時のツーツーを喋ってきた」から後
を演じない事ではあるまいか。それが嫌なら、仏像の喉から釘がニュニュニュッと出
てた所で、箒を離れたオチょ付けるべきだろう。比べると上方の「親父を忘れるくら
いなんともない。酒を飲むと我を忘れます」の方が可笑しい。サゲを変えるより、サ
ゲの前を盛り上げて、サゲがストンと落ちるように工夫するべきだと思うよ。

◆6月7日 新宿末廣亭昼席

正蔵『悋気の独楽』/笑組/雲助『堀の内』/小満ん『お花半七』/小菊/小里ん『三人兄弟』

★小里ん師匠『三人兄弟』

 噺の味は出ているが言葉トチリ多し。吉松の廓への耽溺ぶり、櫛をまげる女郎や袖
に縋る禿も好いんだけども好演とはいい難い。

★小満ん師匠『お花半七』

 切れ場の味わいと受け方は流石。

◆6月7日 第15回ぎやまん寄席番外編「古今亭菊之丞・桃月庵白酒ふたり会」(湯島天神参集殿一階ホール)

市也『ひと目上り』/菊之丞『町内の若い衆』/白酒『幾代餅』//~仲入り~//白酒『新版三十石』/菊之丞『らくだ』

★菊之丞師匠『らくだ』

今夜は少し鼻声気味で(珍しく湯呑を出していた)体調万全とは言えなかったのかも
しれない。それは別として35分程で火屋までと先代可楽師匠並の速さには感心し
た。寄席の主任で火屋まで演れる『らくだ』もなくちゃ困るからね。勿論、刈り込ん
でいるが、屑屋が三杯目の辺りで、酔って肝の座る雰囲気・視線が明確。先代馬生師
的に死体の髪を毟り、首を折る屑屋に兄貴分が驚いて酒を煽る件や家元の
「シィーッ」と歯を鳴らす等あり~の、屑屋が小便したりと色々ある後半が面白い。
前半は登場人物みんなの口調が刺々しく余り可笑しくはないが、菊之丞師匠の強い
声、低い声には魅力がある。

★白酒師匠『幾代餅』

爆笑型『幾代餅』としては抜群だが、親方・久蔵・竹庵の遣り取りに一瞬だが「恋へ
の憧れ」を感じる瞬間があり、心惹かれた。翌年三月の幾代が段々綺麗になってきた
のも嬉しい。

★菊之丞師匠『町内の若い衆』

『浮世床・夢』『幇間腹』にも言えるが、如何にも定番の出来なんだが、何かひと工
夫欲しい。定番過ぎて、この年齢なのに聞き飽きてきた。

★白酒師匠『新版三十石』

 小沼猫蔵先生が携帯を取り出して孫と花屋敷で待ち合わせる約束をした挙句、携帯
を懐にしまいながら、「こういう事があるんで、携帯は必ず電源を切って」と言った
のには笑った。志ん生師匠、先代馬生師匠系の爆笑小ネタはどんどん「白酒十八番」
になって行くが、これだけ人物造型の輪郭線が見事だと、そりゃ敵わない。人物造型
に色が付いてきたら天下無敵になりかねない。

◆6月8日 新宿末廣亭昼席

種平(正蔵代演)『ボヤキ酒屋』/笑組/雲助『権助魚』/小満ん『間抜け泥』/小菊/小里ん『五人廻し』

★小里ん師匠『五人廻し』

 唸るほど的確に受け続けた。妓夫の「え~花魁へ、え~喜瀬川さんへ」の調子が全
く他の演者と違い、低く、夜更けの廊下を騒がせない調子になっているから、サッと
雰囲気が出る。江戸っ子の啖呵も『大工調べ』同様、意味・感情中心だから「水道尻
にしてある犬の糞」でワッと受ける面白さなど愉快愉快(冒頭、少し詰まって飛んだ
のが感情の発露として更に幸いした)。官員の泣く件、似非江戸っ子がりの変な唄、
通人の気味悪過ぎずに気障なとこ、御大尽の風格、花魁のつれなさと揃っており、近
年、これだけ優れた、啖呵だけに頼らない『五人廻し』は珍しい。

◆6月9日 国立演芸場上席

三木男『転失気』/三之助『黄金の大黒』/あした順子・やえ馬(引っ張りだされ役)/久蔵『お菊の皿』/吉窓『里帰り』//~仲入り~//文左衛門『手紙無筆(上)』/ダーク広和/馬生『柳田格之進』

★馬生師匠『柳田格之進』

 先代馬生師匠型。今の馬生師の持ち味で全体のトーンが重くなり過ぎない。萬屋金
兵衛の人柄が先代馬生師の慈愛と優しさを感じさせる物で噺のキーになっている。
「碁盤を挟んで柳田様がいらっしゃいるだけで私は心が落ち着くんだ」という科白に
萬屋と柳田の絆が窺える。徳兵衛の剽軽忠義も嫌らしくなく、男の嫉妬⇔主従の絆へ
の拘りとも取れる。柳田の剛直、清廉もその人らしく、「親子は一世、夫婦は二世、
主従三世」の世界に生きてきた武士・柳田なればこそ、金兵衛、徳兵衛の庇いあいを
見て、止めるのが自然に見える。いわば、柳田が富樫であるし、同時に「柳田、御手
取りたまい」と言いたくなる雰囲気も感じる。娘の糸は或る意味、この演出の中では
脇役なのである。併し、侍が分からないと演じられない噺だなぁ。

◆6月9日 第84回志ん輔扇遊の会(国立演芸場)

半輔『ひと目上り』/志ん輔『反魂香』/扇遊『粗忽の使者』//~仲入り~//扇遊『宗論』/東京ボーイズ/志ん輔『お見立て』/志ん輔・扇遊『御挨拶』

★志ん輔師匠『反魂香』

ウスドロでなく、三味線の下座で高尾が現れる。そればかりでなく、先代可楽師匠と
全く違う『反魂香』になっているのには感心した。前半は芝居掛かりで静謐に聞か
せ、後半は主人公が女房に会えると浮かれる具合からマジに戻る照り降りが非常にキ
レが良く、可笑しさの中に落語らしい女房への思慕があるのが結構。変えたオチ
は・・・もう一歩かな。

★扇遊師匠『粗忽の使者』

 スマートで綺麗なのだが、テンポが遅く、治部右衛門の粗忽、留っこの能天気の現
れ方にメリハリが付いてない。上なぞりっぽい出来。

★志ん輔師匠『お見立て』

 「あの女はいつもこうだ。口ばっかり。やるのはこっち!」と喜助が悔しそうにボ
ヤくのが抜群に可笑しい。喜瀬川の天才的な客あしらいの悪達者さも相変わらず愉し
い。大尽の「クフォッ」という啜り上げがまた素敵に馬鹿馬鹿しい。テンションと速
度が下がり、喧しい程の賑やかさが鎮まった代わりに、可笑しさの中に人物が愉しく
浮き上がってきた印象で、落語らしいピュアさ、清澄感がある。素材を煮立てた混濁
から、愈々コンソメが生まれつつあるのなら何より喜ばしい。「口ばっかり、やるの
はこっち!」を言わずに感じさせる方向に向かうのか、それとも・・・

★扇遊師匠『宗論』

静かな『宗論』。ほぼ小三治師匠のままだが、これも上なぞり感がありスタンダード
とは言えない。

◆6月10日 新宿末廣亭昼席

小満ん『紙屑屋』//~仲入り~//正蔵『四段目』/笑組/雲助『笊屋』/馬の助(圓蔵代演)『権兵衛狸』と百面相/小菊/小里ん『青菜』

★小里ん師匠『青菜』

良い所も多々あるが、中盤、言葉違えが多く、中ダルミした印象で残念。

◆6月3日 新宿末廣亭夜席

つる子『壽限無』/志ん公・―(馬治と交互出演)『鰻屋』/東京ガールス/錦平『町内の若い衆』/清麿『小噺』/ホームラン/馬好『小言念仏』/川柳『パフィ』/美智美都/志ん橋『熊の皮』/圓窓『ぞろぞろ』//~仲入り~//時蔵『粗忽の釘』/遊平かほり/今松『干物箱』/馬楽『寄合酒』/勝丸/南喬『南瓜屋』

★南喬師匠『南瓜屋』

先代柳好師匠系統の『南瓜屋』に先代金馬師匠の骨太な輪郭が加味された結構な高
座。与太郎、伯父さん、路地の男、みんなのキャラクターが佳い。与太郎はニマーッ
ヌボーッと可笑しさが自然。伯父さんは怒り、呆れ乍ら与太郎が心配で仕方ないのが
分る。路地の男の江戸っ子ぶりの魅力と、「あれはお前の生地か!」と気付いた時の
可笑しさ。この年代の噺家さんでは屈指の『南瓜屋』だろう。

★圓窓師匠『ぞろぞろ』

 淡彩だが、面白い。一寸高座の雰囲気が替ったかな。


                 石井徹也(放送作家)

投稿者 落語 : 2011年06月22日 23:55