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2011年06月25日

「石井徹也の落語きいたまま」六月中席号!

みなさま。先日の夏至の日は本当にアツカッタですね。旧暦と新暦で「暦」はずれているはずなのに夏至は暑い。不思議なものです。体調など崩されないようにお気をつけ下さい。

今回は石井徹也(放送作家)による私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の六月中席号をお送りいたします。石井さん、今席は芸術協会の定席、圓橘独演会(五代目圓楽一門)、浅草演芸ホールと縦横に聴きまくっています。落語”道落者”・石井徹也渾身のレポートをお楽しみください!

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◆6月11日 第七回大手町落語会(日経ホール)

おじさん『子褒め』/一之輔『粗忽の釘』/白酒『化物遣い』/権太楼『青菜』//~仲入り~//一朝『大工調べ(上)』

◆6月11日 第28回特撰落語会『入船亭扇辰・古今亭菊之丞二人会』(深川江戸
東京資料館ホール)

辰じん『道灌』/扇辰『野晒し』/菊之丞『火焔太鼓』//~仲入り~//菊之丞『棒鱈』/扇辰『線香の立切れ』

★扇辰師匠『野晒し』

相変わらず「変な女」が可笑しい『野晒し』である。

★扇辰師匠『線香の立切れ』

扇橋師匠演出の見事な継承。扇橋師より色気があり、若旦那に初な硬さと甘さがある。番頭も冒頭は結構。二度目の出は稍貫禄が下がる。若旦那の仏壇前の一挙手一投足に品があるのは良い。小ひさの母は少し泣きが入るが、これも色街の女らしい色気が身や言葉にあるので涙が邪魔にならない。「こんな逆さま見ようとは思いませんでしたよ」は流石に扇橋師の老巧なる母の思いに届かずとはいえ、言葉は扇橋師そのまま乍ら、凜とした哀れあり。

★菊之丞師匠『火焔太鼓』

まだ試演段階かな。演出はオーソドックスだが所々に圓菊師匠の香りがある。いきなり甚兵衛さんの頭をカミサンが叩く件から入ったのは驚いたが、夫婦関係は志ん朝師匠に近く、カミサンが怖く、甚兵衛さんはボヤッとしてる。

★菊之丞師匠『棒鱈』

馬鹿に可笑しかった。何度となく聞いている噺だが、芸者のリアクション、田舎侍の頓狂さ、酔っぱらいの軽い明るさと相俟って、予ての鬱陶しさが無かった。田舎侍の唄う「琉球」のみメロディが少し変。

◆6月12日 池袋演芸場夜席

桃太郎『唄入り金満家族』//~仲入り~//宮田陽・昇/遊春『初天神・団子』/歌春『たが屋』/正二郎/金太郎『死神』

 ★桃太郎師匠『唄入り金満家族』

  ついに『金満家族』にも唄が!益々、「色物落語志向」が高まっている印象。

 ★遊雀師匠『初天神・団子』

  子供のリアルなスネ方、その可笑しさは東大随一かもね。

 ★宮田陽・昇

  手がつけられないくらい陽のキレ方が可笑しくなってきた。

◆6月13日 月刊談笑六月号「名人伝説」(北沢タウンホール)

 吉笑『道灌』/談笑『抜け雀』//~仲入り~//談笑『濱野矩隨』

★談笑師匠『濱野矩隨』

騙り口は落語にしてはドラマの演技過ぎるし、泣きの間が長いけれど、人情噺だと思えば、さのみ違和感はない。演出に関しては現代でベストの『濱野』だろう。手塚治虫の『鉄腕アトム』『ブラックルックスの巻』における「世界で一番、温かい場所。それはお母さんの膝の上」をつい思い出してしまう。

★談笑師匠『抜け雀』

こちらは何をどうしたいんだか、良く分らない改作。親子喧嘩の噺だから、「名人伝説」として『濱野』の「母倅」に対して「父倅」を対比させたかったのかな。「父倅はライバル」ってのはあるけど、もっと気楽に訊きたい。

◆6月14日

 一日中仕事で飛び回り何も見られず悔しい。

◆6月15日 宝塚歌劇団星組公演『ノバ・ボサノバ』『めぐりあい再び』

◆6月15日 談春アナザーワールドⅩ(成城ホール)

春樹『りん廻し』/談春『竃幽霊』//~仲入り~//談春『人情八百屋』

★談春師匠『竃幽霊』

幽霊も熊さんも軽くなり、剽逸な雰囲気が増した。新たに加わった幽霊のボヤキのセリフも夫々に愉しい。熊さんの口の利き方がまだ向こうぶち気取りではあるが。その代わり、銀ちゃんは以前より多少品が良くなった。

★談春師匠『人情八百屋』

談志家元より良いのではないだろうか。ロマンティシズム、センティメンタリズムが家元より素直に出て、平助の慚愧の涙も、泣きすぎかもしれないが泣かせ過ぎはせず、頭の江戸っ子ぶりも良い。平助と頭、二人の遣り取りに、フッと温かいものを感じて共感出来る。子供二人も健気で哀れである。変にドラマにしてないし、増して、今の時期だから余計分かる所もある「人生のスケッチ」なのが良い。談春師匠の芸自体も意気がりの力が抜けて落語らしい軽さが出てきた印象がある。

◆6月16日 池袋演芸場昼席

遊三『小言幸兵衛』/今丸/夢太朗『死神』

★夢太朗『死神』

色々と工夫があって悪くないのだが、「主任となるとまた『死神』」という印象が強く、軽い噺ではないから、こう毎度だと気持ちが萎える。

◆6月16日 池袋演芸場夜席

くま八『元犬』/小蝠『松山鏡』/伸&スティファニー/昇吉『安さが自慢』(正式題名不明)

★昇吉さん『安さが自慢』(正式題名不明)

分かりやすいナンセンスで、話術は兎も角、実に可笑しい。この人は売れる芸だな。

◆6月16日 『梅雨、Wホワイト落語会みたび』(北沢タウンホール)

白鳥・白酒『御挨拶』/白鳥『オオサンショウウオの恩返し』/白酒『幾代餅』//~仲
入り~//白酒『お化け長屋(上)』/白鳥『砂漠のバー止まり木』

★白酒師匠『幾代餅』

今夜はマクラの「女性前座たちへの恨み節」からのキレ方で「恋」の感触は抜きになっちゃった。

★白酒師匠『お化け長屋(上)』

ギャグで爆笑は取ったが、噺自体は上滑りしている。「これ、作り話だろ」から後、杢兵衛と二人目の男の間でコミュニケーション(否定的突っ込みでも)が取れなくなっているため、段々「杢兵衛苛めの噺」になってきた雰囲気。

★白鳥師匠『オオサンショウウオの』

紙芝居落語の方がこのネタは可笑しい。

★白鳥師匠『砂漠のバー止まり木』

真に面白く、白酒師匠の『お化け長屋』が吹っ飛んだ。観客側からも、山程突っ込み所のある噺なのに、それを全部白鳥師匠が観客に受け入れさせてしまうから、観客側は「作り話だろ」と冷淡になれない。ある意味で先代三平師匠みたいなコミュニケーションを観客と取れる噺家さんなんだなァ。

◆6月17日 池袋演芸場昼席

Wモアモア/蝠丸(松鯉昼夜替り)『紙屑屋』/楽輔(小柳枝代演)『天狗裁き』//~仲入
り~/健二郎/竹丸『石田三成』/遊三『青菜』/今丸/夢太朗『巌流島』

★遊三師匠『青菜』

調子よくメリハリあり、カミサンのセリフ、植木屋が「青菜は嫌いだ」と言われて落ち込みまくる様子と文句なし。目白型とは奥様の位置が違う辺り、夢楽師匠譲りのネタという事だったから、目白の小さん師だけでなく、八代目の可楽師匠の『青菜』も混じっているのかな。

★夢太朗師匠『巌流島』

マクラを聞いて『佐野山』へ入るかと思ったら急に方向転換。若い侍の雰囲気が粗すぎず、老侍も落ち着きあり、屑屋の人物も出て、流れはトントン運んで結構なもの。オチのセリフが稍流れたのは惜しい。

◆6月17日 池袋演芸場夜席

翔丸『雑俳』/小蝠『よかちょろ』/伸&スティファニー/昇吉『安さが自慢』

◆6月17日 浅草演芸ホール夜席

志ん橋『から抜け』/文生『桃太郎』/遊平かほり/圓窓『夕立屋』//~仲入り~//扇辰『手紙無筆(上)』/小菊/さん八『元帳』/南喬『大安売』/ゆめじうたじ/歌武蔵(正蔵代演)『黄金の大黒』/和楽社中/小里ん『青菜』

★さん八師匠『元帳』

いつもより細かく可笑しい。この夫婦の感覚の魅力は、単にダメ親父顔の強みだけではない。

★歌武蔵師匠『黄金の大黒』

何度聞いても、一番愉しい『黄金の大黒』。長屋の衆其々のキャラクター立てが傑出している。荒っぽいようでホノボノしてるのも素晴らしい。

★小里ん師匠『青菜』

いきなり、蜀山人の「庭に水」を度忘れしたのには驚いたが、直ぐ本題に入って立て直した。植木屋の「おめえ、そりゃあねェじゃあねェか」に代表される動転ぶりと、何だか分からずシラッとしてる建具屋の対照が抜群に可笑しい。植木屋が帰り道で「鞍馬から~」を百人一首の調子で歌う浮かれ方が江戸前だねェ。

◆6月18日 文左衛門倉庫vol.11(四季のことぶ季亭)

正太郎『ぽんこん』/文左衛門『宿屋の富』//文左衛門・正太郎『アンケート読み』~仲入り~/文左衛門『ちりとてちん』

★文左衛門師匠『宿屋の富』

ほぼ目白型。当たったのが原因で田舎者が「当たった」と理解はしていないのに体が勝手に震えだす演出は可笑しい。ちゃんと客は下駄を履いて一階で寝る。序盤、宿屋主と田舎者の遣り取りで、宿屋主の「何でも受け入れちゃう」リアクションがまだ足りないのが課題か。

★文左衛門師匠『ちりててちん』

一見、相変わらず「オレはジャイアン」と言いながら登場する寅さんが暴れているようで、寅さんの方が味の分かるというリアクションは実に細かく、隠居もフケや鼻くそを入れたりしないので、穏健に(笑)楽しめる。

◆6月18日 浅草演芸ホール夜席

正楽/志ん橋『不精床』/文生『高砂や(御詠歌サゲ)』/ゆめじうたじ/圓窓『壽限無』
//~仲入り~//扇辰『茄子娘』/小菊/さん八『長短』/南喬『二人旅』/遊平かほり/
小せん『千早振る』/和楽社中/小里ん『一人酒盛』

★小里ん師匠『一人酒盛』

目白の小さん師匠型。前半、熊さん側にもう少し友情を示して、酒を勧める言葉があってもいいけれど、酒への執着が強いだけで、悪気は全く無く、圓生師匠型・松鶴師匠型の嫌らしさも皆無だから、聞き心地は真に愉しい。三杯目辺りから客席でもクスクスと笑いが高まり、「お燗番の癖に」でドッと来た。酒の飲み方、酔い加減、覚弥の食べ方と鮮やか。都々逸がもうひと息だが、目白の小さん師以降、十八番にしている人のいない演目だけに、このハイレベルは更に今後が楽しみ。

★さん八師匠『長短』

目白の小さん師型とも少し違い、長さんはセリフは割と早口である。仕種に間を取るのと、無駄口をよく叩く辺りが短七を焦らせる、という印象。長さんの煙管の扱いなどは先代助六師匠に似た所もある。

★圓窓師匠『壽限無』

色々手を入れて、分かりやすい可笑しさにしてある。杉田さんに子供の生まれた喜びがもっとあれば。

★南喬師匠『二人旅』

旅人の遣り取りはキビキビしてい乍ら、落語らしい長閑さがあり、お婆さんの可笑しさが独特。

★文生師匠『高砂や』

御詠歌を八五郎に歌わせ、カミサンに「巡礼に御報謝」とサゲる(理屈的に不思議な)演出は初めて聞いたんだったかな?

★小せん師匠『千早振る』

スラスラと演じる口調はいつもながらで、結果的にストーリーをお客に聞かせるのが上手い辺りは三三師匠に似ている。先生が色々と「嘘八百」を思い付くリアクションも上手いが、先生のキャラクター自体にもう少し胡散臭さが欲しい。

◆6月19日 第289回圓橘の会(深川東京モダン館)

橘也『佐野山』/圓橘『小言念仏』//~仲入り~//圓橘『髪結新三(下)』

★圓橘師匠『髪結新三(下)』

ほぼ圓生師匠譲りで、弥太五郎源七の凹まされから大家の片身貰いまで40分程。大家の片身貰いは芝居のように脂濃く繰り返さず、直ぐに新三が気が付く。大家のチクチクと因業なキャラクターが可笑しくも江戸前で結構。凹まされるとはいえ、弥太五郎源七の立派な侠客ぶりにも感心した。新三はサラッとしていて、弥太五郎源七を当惑させる啖呵は見事だが、もうちっと小悪党らしいチャチさ、お熊の体に対する執着や未練があればなお良いだろう。


◆6月19日 扇辰日和vol.41(なかの芸能小劇場)

辰じん『六銭小僧』/扇辰『お見立て』//~仲入り~//小圓朝『鰻屋』/扇辰『ねずみ』

★扇辰師匠『お見立て』

喜瀬川花魁に色気があって客あしらいが強かなのが良い。喜助は困りぶりが心理描写的でもう少し跳ねたい。杢兵衛大尽が何となく扇橋師匠みたいなのが愉しい。

★扇辰師匠『ねずみ』

卯兵衛の物語がトントン進んだので長さを感じずに楽しめた(実際の尺もいつもより短め)。卯兵衛のリアクションが最高の出来で各場面で感心。甚五郎はトボケ過ぎのクサ味が無いのは結構なんだけれど、どうも「芸術家」っぽい。卯之吉は明らかに作りすぎ。鼠のオチのひと言は目がまだ「獣の無邪気」じゃないのが惜しい。

★小圓朝師匠『鰻屋』

真に江戸っ子の了見、酒飲みの了見、お節介焼きの了見揃いで愉しい。鰻屋の亭主の軽いすっとこどっこいぶりも嬉しい愉しさ。

※全く名前は上がらないが、芸質・内容・系統から言えば、現在の三遊亭系の噺家さんでは、小圜朝師匠が一番「三遊亭圓生」(特に江戸育ちの四代目、五代目)に近くてもおかしくない存在なのではあるまいか。圓朝師匠から数えても、直系の五代目でかなり縁が近いしんだしね。

◆6月20日 池袋演芸場昼席

竹丸『石田三成』/遊三『火焔太鼓』今丸/助六(金太郎代演)『野晒し(上)』・操りかっぽれ

★助六師匠『野晒し(上)』

 古今亭型。稍仕種が小さいため派手さに乏しいのは惜しい。

◆6月20日 池袋演芸場夜席

くま八『芋俵』/小蝠『青菜』/スティファニーココア(伸休演)/昇吉『安さが自慢』/右團治『垂乳根』/まねき猫(章司代演)/笑遊『元帳』/蝠丸『汲立て』//~仲入り~//

★蝠丸師匠『汲立て』

夜席の中では「受けた」と言える唯一の存在。出来は悪くなく、「貴方は特別よ」と囁かれ、師匠の店賃を代わりに払ってる奴が馬鹿に嬉しい。

★笑遊師匠『元帳』

殆どヤケクソ気味の高座。『ウチのカミサン』を途中で諦めて噺に入った。

※昼席は普通の客席で聞くし、受ける観客だったのだけれど、昼席から残ったお客さんは兎も角、夜席から来た十人強のお客さんがほぼ全員、笑いに対して物凄く無反応で、夜席出演者は全員討死に状態になった。特に右團治師がシンとさせ、まねき猫さんの『枕草子』はお客さんも聞いてきいたが、笑いの殆ど無いネタなのが辛かったな。その後にいきなりハイテンションの笑遊師が来ちゃったもので、席が悪く固まってしまった。こういう日もたまにはある。

◆6月20日 浅草演芸ホール夜席

左龍『目薬』/小菊/さん八『小言念仏』/南喬『大安売』/ゆめじうたじ/正蔵『ハンカチ』/和楽社中/小里ん『笠碁』

★小里ん師匠『笠碁』

前回聞いた時と比べて、明らかに根幹が変わった。序盤の遣り取りから仲の良い同士が甘えあうように(男同士でもそういう感覚はある)「待って」「待たない」を繰り返しているうちに、不図喧嘩が始まってしまうのが分かる。その点では、「友情あっての食い違い」が目白の小さん師より明確。また、美濃屋が出て来た時、一方が碁石を手にしながら、「ウンッ」「オッ」と気合いを掛けて逸らされるのも、焦れる可笑しさが一層高まるし、友情の濃さも募ってよい演出。オチでは談志家元型を取り入れ、「待った!」「待ったにはまだ早い」「いや(お前さん)、まだ笠ァ取ってない」とサゲて、「“お前さん、まだ被り笠ァ取らない”では、もう一つ、サゲとしては納得出来ない」と仰っていたという目白の小さん師の悩みに解答方向を見出だしている。小里ん師から30年来聞いている十八番ネタだが、これだけ良い出来は初めて。


       石井徹也(放送作家)

投稿者 落語 : 2011年06月25日 23:00