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2011年05月02日
石井徹也の「らくご聴いたまま」四月下席号!
いつの間にか五月です。皆様如何お過ごしでしょうか。
今回は石井徹也(放送作家)による私的落語レビュー「らくご聴いたまま」の四月下席号をお送りいたします。石井さん、下席に関しては、いま聴くべき実力者、人気者の会に足繁く通っています。落語耽溺者・石井徹也渾身のレポートをお楽しみください!
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◆4月21日 池袋演芸場昼席
たけ平『ラストソング』/窓輝『ぞろぞろ』/三三『看板のピン』/ホンキートンク/扇
遊『棒鱈』/木久扇『彦六伝』/~仲入り~///菊之丞『幇間腹』/市馬『粗忽の釘』/
正楽/萬窓『佐々木政談』
★萬窓師匠『佐々木政談』
悪い出来ではない。高田屋綱五郎のふとした口調に圓生師匠が浮かぶのは「ああ、
直系だなァ」と思う良さもある。半面、圓生師より手が入っている分、噺がクドく感
じる。演出で足された分に対して引き算の部分が必要では?また、四郎吉の突っ込み
に対する奉行佐々木信濃守のリアクションがいつも同じ高笑いではダレる。
※木久扇師匠の看板で入っていると思われるお客が多い。同時に木久扇師匠の高座
で、一度、そこまでの流れが変わった印象。仲入り後が仕切り直しの雰囲気になる。
木久扇師も何か口調が安定しなかった・・・今更、マクラで震災当日の話をされても
ね(それも娘さんに車で迎えに来て貰った結果、娘さんが往復6時間も車を運転し
た、という恵まれた話)。
◆4月21日 新宿末廣亭夜席
/圓王『金明竹』(オチが違う)/志ん彌(菊丸代演)『強情灸』/正楽/さん八『元帳』
/小燕枝『小言幸兵衛』//~仲入り~//左龍『つる』/にゃん子金魚/馬の助『動物
園』&百面相/小里ん『煮賣屋』(かなりの風邪声)/仙三郎社中/一朝『井戸の茶碗』
★一朝師匠『井戸の茶碗』
出来栄えは不変の一流。二度、客席で携帯が鳴ったが勿論リズムは狂わない。今夜
も中盤以降、ふと思ったのは、割と細かくカットしながらの高座だったが、一朝師匠
がノーカットでこの噺を演じるとどれくらいあるのだろう。先日、『抜け雀』はノー
カットだと45分掛かると伺ったが・・落語研究会辺りにノーカットの音源は無いのか
な?
★左龍師匠『つる』
物凄く簡略化した口演だったが、最後に思い出させなくて泣く件で、えらく間を
取ったのが凄く可笑しかった。
◆4月22日 池袋演芸場昼席
扇『六文小僧』/たけ平『紀州』/窓輝『釜泥』/三三『道灌』/ホンキートンク/扇遊
『厩火事』/木久扇『彦六伝』/~仲入り~///菊之丞『元帳』/市馬『南瓜屋』/正楽/
萬窓『百年目』
★萬窓師匠『百年目』
序盤から花見、番頭の煩悶までを端折りまくって、旦那の意見を聞かせたい、という
35分前後の高座(だと思う)。勿論、圓生師匠型だが、旦那の出来は年齢と声柄を
考えれば悪くない。刈り込んだ分、旦那がメソメソしないのも佳。良い人過ぎて昔は
遊んだ人には見えないのは刈り込んだ弱味。意見の前に旦那が縁側で煙草を喫い乍ら
考えている、という描写を入れた工夫も悪くない。半面、旦那の意見に「働き蟻の三
割は働かず無駄に過ごしている」という話の挿入は理の念押し染みて蛇足に思う。ま
た、花見もちょいとで番頭が旦那を怖がっている台詞もカットでは、如何にも情と理
ばかり。寺で法話でも聞いているようで些か味気ない。今の金馬師匠の40分で要素は
全部ある、という方向に練り込むのか、基本は一時間という圓生師匠を受継ぐのか。
★扇遊師匠『厩火事』
前半は普通だったが、中盤以降、細部のリアクションが丁寧でお崎さんの可愛さが良
く出ていた。亭主が如何にも二枚目なのは強味だなァ。
★市馬師匠『南瓜屋』
伯父さんが笑顔で与太郎を送り出す件に、この噺の良さが集約されている。全く押さ
ない堂々たる高座。
◆4月22日 第45回浜松町かもめ亭「映画『落語物語』公開記念」(文化放送メディ
アプラスホール)
こはる『つる』/わさび『湯屋番』/しん平『鬼の面』/~仲入り~/百栄『弟子の赤
飯』/馬石『柳田格之進』
★しん平師匠『鬼の面』
民話からの創作との事だが、上方で桂雀三郎師匠が30年弱前に復活した「女の子
版」に似ている。但し、登場する人物の設定やキャラクターは大分違う。しん平師匠
以外では難しい、とっちらかったようで可笑しく、噺としていつの間にかまとまる、
不思議な愉しさを感じた高座。
★百栄師匠『弟子の赤飯』
圓生師匠ソックリな話し方をする高校二年生を落語協会の師匠が噺家としてスカウト
に行く、という設定と圓生師匠風の口調が実に馬鹿馬鹿しい。高校二年生と分かるの
が割と後半になってから、というのは喬太郎師匠の『午後の保健室』系の可笑しさ。
★馬石師匠『柳田格之進』
雲助師匠との師弟合作に近い演出とマクラで語られた。娘は売らず、家伝来の頼圀俊
を売って五十両を作るという展開。萬屋が額の裏に金包みを置いたと気付き、膝を
打った時の気組が一番。言葉は全体に雲助師匠の用いる言葉に思える。柳田の人物造
型も良いが、湯島切通での傘を差した形がやや前に傾き過ぎまいか。柳田以上に娘の
絹、萬屋、番頭徳兵衛の造型が優れているのを感じる(元々が講釈ネタという事もあ
るが、侍の造型、侍心の心得は矢張り難しい)。娘より家伝来の刀を売る所に「侍
心」に対するスタンスの違いが現れているのだが、私としては納得しがたいものが澱
のように残る。
◆4月23日 第13回三田落語会昼席(仏教伝道会館ホール)
辰じん『道灌』/さん喬『浮世床・講釈本~夢』/扇辰『ねずみ』//~仲入り~//扇辰
『千早降る』/さん喬『心眼』
★さん喬師匠『浮世床・講釈本~夢』
さん喬師匠としては珍しい演目で、近年聞いた記憶がない。扇遊師匠の『浮世床』の
原型かな。講釈本の件はも短くアッサリ。全体に静かな語り口だが、夢の芝居見物か
らお茶屋での色事は半ちゃんの気取り方や「聞いてるか!」の指差しが効いて可笑し
い。
★さん喬師匠『心眼』
これまで聞いたさん喬師匠の『心眼』の中では一番テンションが高く、明るい。特に
冒頭の弟への怒りが陰にならないので噺のトーンが陰鬱にならない。これは時期を考
慮されての事か。芸の基本はTPOにあり。女房お竹は優しく、山の小春は侠という
より、寧ろ淑やかに近い。これは梅喜の女性観だろう。梅喜の笑いの後のオチも暗さ
でなく、諦めて吹っ切れた梅喜の強さを感じた。
★扇辰師匠『ねずみ』
扇辰師匠独特の奇矯だが面白い持ち味の登場人物が活躍する。卯兵衛も卯之吉も甚五
郎も何となくムズムズするキャラクターなのだが、そこに魅力や可愛らしさがある。
鼠だってかなり変。
★扇辰師匠『千早降る』
旦那の胡散臭さは小燕枝師匠に近く、浪花節の件など奇怪でかなり可笑しい。八五郎
側にもう少し「聞きたがり」の脂濃さがあると更に可笑しいと感じたのは終盤が稍淡
白ゆえ。
◆4月23日 第13回三田落語会夜席(仏教伝道会館ホール)
辰じん『狸の札』/権太楼『火焔太鼓』/正朝師匠『愛宕山』//~仲入り~//正朝『唖
の釣り』/権太楼『幽霊の辻』
★正朝師匠『愛宕山』
志ん朝師匠型に小朝師匠型をプラス。一八に色気は余り感じないが、欲に駆られた幇
間のリアリティがあり、それでいて間が抜けているから、谷に落ちてからが非常に可
笑しい。旦那が醒めてシニカルなのも独特。一八の言う「京都だけに、とばくちみ
(鳥羽伏見)の戦い」には笑った。
★正朝師匠『唖の釣り』
十八番。与太郎の可愛さは一朝師匠にかなわないが、初めて聞いた頃からパワフルな
馬鹿馬鹿しさと鯉の真似の可笑しさは変わらないなァ。
★権太楼師匠『火焔太鼓』
甚兵衛さんとカミサンのキャラクターに関して現在は他の追随を許さず。三百両へ
のリアクションでこの夫婦が似た者同士なのが分かる辺り、実に可笑しい。
★権太楼師匠『幽霊の辻』
オチを変えたのは初めて聞いた。婆さんのキャラクターだけで、中身が何にもない
のに可笑しいってとこが得難い(日没を拝むとこは『レモンハート』に出てきた坊さ
んみたい)。聞き乍ら、喬太郎師匠の『故郷のフィルム』を権太楼師匠が演るとどう
なるんだろう、なんて考えていた。
◆4月24日 第287回(289回ではないか?)圓橘の会(深川東京モダン館)
好吉『浮世床』/きつつき『疝気の虫』/圓橘『蟇の油』//~仲入り~//圓橘『居残り
佐平次』
★圓橘師匠『蟇の油』
本題は寄席サイズの稍ショートヴァージョン。口上は稍粗く、もう少し流麗でありた
い。野次馬が、酔って混乱する蟇の油売りに掛ける声の調子が圓生師匠。
★圓橘師匠『居残り佐平次』
圓生師匠型だがオチは「人を虚仮にしやがって」「旦那がコケ。それで毟られた」。
持ち味が硬質なので、佐平次は図々しく居続けを決めてる前半の件が良く、二階を稼
ぎ出してからはちと忙しい印象。旦那の貫禄が一番。割とグニャグニャになりがちな
紅梅さんとこの勝っつぁんの硬さも結構。
★きつつきサン『疝気の虫』
虫の動き方など、かなり手を入れている。大体、虫のキャラクターは似合うので全
体として可笑しい。もう少し細部を丁寧に演じて欲しい。惜しむらくはマクラで客を
いじり過ぎ。
◆4月24日 遊雀玉手箱「~ご陽気に遊びの巻~」(内幸町ホール)
白鳥・遊雀「御挨拶」/遊雀『明烏』/遊雀『電話の遊び』/白鳥『公園ラブストー
リー』//~仲入り~//遊雀『居残り佐平次』
★遊雀師匠『居残り佐平次』
前回、聞いた時より圓生師匠型に近い印象だが、軽い声と二枚目声の使い分けで、佐
平次や紅梅さんとこの勝っつぁんなど個々のキャラクターが遥かに愉しく、言えば落
語らしくヒラヒラしているのが佳い。旦那のみ、もう少し重みがあってズッコケた方
が佐平次との対比がより面白くなると思う。とはいえ、『幕末太陽伝』以降、その悪
影響を受けた辛気臭さ、重さが無いのは貴重。だから、佐平次が最後に「頭に馬鹿が
つく」と旦那を嘲っても嫌な気がしない。その点では菊志ん師匠の『居残り』と並ん
で近年の出色。
★遊雀師匠『明烏』
南喬師匠とお茶屋女将の「祝詞のお稽古をしないかい」が同じだれど、誰から稽古を
受けた演目なのだろう。小朝師匠の『明烏』と似た所も一寸ある。時次郎の雰囲気は
『船徳』の裏返しで「真面目我が儘」で物凄く端迷惑なのが可笑しい。
★遊雀師匠『電話の遊び』
大体、寄席で演っている通り。『せんほんかいな』の「昔昔、その昔」の使い方か
ら(お囃子の千秋さんのアドバイスがかなりあるとのこと)、因業そうなオチの「お話
中」まで可笑しさが安定して汎用性の高さを感じる。
★白鳥師匠『公園ラブストーリー』(『ひとつ家公園ラブストーリー』改作)
翌日の親子会のための試演。
※「遊雀玉手箱」は持ちネタの「寄席化落語会」の感じになってきたかな。
◆4月25日 池袋演芸場昼席
やえ馬『初天神・飴~団子』/たけ平『鷺取り』/窓輝『十徳』/三三『湯屋番』/ホン
キートンク/扇遊『天狗裁き』/木久扇『彦六伝』/~仲入り~///菊之丞『紙入れ』/
市馬『高砂や』/正楽/萬窓『百川』
★萬窓師匠『百川』
百兵衛の真面目な困惑は出せるのだが、河岸の連中の跳ねっ返り方が重く、能天気な
ワイワイガヤガヤの可笑しさが出なままに終始い。内容なんか無い、江戸前の暢気な
噺を演じるにしては、人物描写先行でキャラクター作りが出来てない。そうなるとス
トーリーの馬鹿馬鹿しい愉しさが浮かばないんだな。
★三三師匠『湯屋番』
若旦那は結構、野心家キャラクターなのだが、常と大きく異なり、最初から妙にテン
ションが高く、ドンドン野心家ぶった馬鹿になって行き可笑しい。それを見ている銭
湯の客たちの「みんな一例に並んで見ろ」「湯冷めするといけないから、湯に入って
見よう」も客観的で愉しい。
★柳亭市馬師匠『高砂や』
今回の池袋昼で聞いた高座は、どれも出来が悪くないのに、何故か魅かれないのは
何故だろう?
◆4月25日 「圓丈・白鳥親子会“圓丈の骨・白鳥の肉 よたび”」(国立演芸場)
圜丈・白鳥「御挨拶」/白鳥『公園ラブストーリー』/圓丈『バー・タクラマカン』/
~仲入り~/白鳥『真夜中の襲名・上野にパンダがやって来た篇』/圓丈『薮椿の蔭
で』
★圓丈師匠『バー・タクラマカン』(『砂漠のバー・とまり木』改作)
圜丈師匠らしいニュアンスはあるんだけれど、面白くない。
★圓丈師匠『薮椿の蔭で』
圓丈師は本質的に私小説的アーティストだなァ。汎用性は無いが、気持ちに響く。
前にも感じたが『ビバリーヒルズ・バム』の犬版みたいだ。
★白鳥師匠『公園ラブストーリー』(『ひとつ家公園ラブストーリー』改作)
昨夜とは終盤が違い、爺ナンパ師・山口亀蔵のナンパ歴を暴く爺さんは出てこない。
千代子婆さんが全てを知っていて、寸借詐欺師性のある山口亀蔵から、これまでに騙
されて婆さんたちの金を取り戻す。圓丈師より計算の立つ分、マクラの可笑しさにに
較べて、何だか作り過ぎている印象。
★白鳥師匠『真夜中の襲名・上野にパンダがやって来た篇』
細部は変わったが基本的に可笑しい。但し、「パンダ」の存在意義が余り語られない
ので、これまでの『真夜中の襲名』より終盤、尻すぼみ加減なのは残念。「自分には
動物の擬人化は出来ない」と圓丈師本人は断言はしてるけれど、 この噺を圓丈師匠
が演ったら、インパクトは凄いだろうな。
◆4月26日 桃月庵白酒独演会“白酒むふふふふ”(国立演芸場)
おじさん『狸の札』/白酒『寝床』/上野茂都「ライヴ」//~仲入り~//白酒『井戸の
茶碗』
★白酒師匠『井戸の茶碗』
ギャグ沢山にせず、シニカルさも抑えて、極く普通に演じて面白かったのは貴重。
清兵衛のちと気弱でお調子者っぽいキャラクターが立っている。千代田卜斎、高木作
左衛門のキャラクターは侍としては緩いが、善なる父親、テレる若者としての造型は
的確で愉しい。お絹が茶碗を高木に届けた事で、作左衛門とお絹が思いあっている、
という演出も心地好い。善人揃いの中で割と客観的なスタンスに見える良助の「三百
両の金がここにある、って事は屑屋ですね」が良きフックで馬鹿に可笑しかった。今
回の二席の陰テーマは「機嫌の直し方」かな。
★白酒師匠『寝床』
中盤まで抜群に可笑しいのは相変わらず。旦那の機嫌が直ってから尻すぼみになるの
も最近の傾向そのまま。
◆4月27日 3軒茶屋婦人会公演『紅姉妹』(紀伊國屋ホール)
NYソーホーにあるバーを舞台に、442部隊兵士に関わった3人の日系人女性(?)の人生
を20世紀最後の日から1945年、戦争直後のある日までフィードバックする、という展
開は面白いアイディア。出演者三人のキャラクターの違いや選曲も愉しめる。大谷亮
介氏出演もあって、80年代に斎藤憐氏がオンシアター自由劇場などに書いた戦後物を
一寸思い出させる面もある。会話
の遣り取りに稍緊密度を欠いたのが惜しい。
◆4月27日 真一文字の会(内幸町ホール)
朝呂久『笊屋』/一之輔『野晒し』/一之輔『蛙茶番』//~仲入り~//一之輔『三方一
両損』
★一之輔サン『野晒し』
先代圓遊師匠の鐘擬音の件が入っているけれど、全体の印象は花緑師匠に近い。尤
も、噺全体にリズムが殆ど無かったので(「サイサイ節」のメロディも変)遣り取りが
弾まない。
★一之輔サン『蛙茶番』
一之輔サンの噺が時々物凄く冷やかな空間になる理由が分かった感じがする。半ちゃ
んを持ち上げる遣り取りで、定吉のリアクションが凡そ感情を伴わないから、半ちゃ
んの馬鹿さ加減が立ち上がらない。東西を問わず、芝居の演技なら持ち役一人の感情
表現で良い場合が多いが、一人語りの落語は「受け手」のリアクションにも感情を伴
い必要のある場合が多い。半ちゃんの跳ねっかえりぶりを面白がるにせよ、馬鹿にす
るにせよ、感情の裏付けが無いから、遣り取りでの定吉の科白が上滑りしてる。
★一之輔サン『三方一両損』
ネタ卸し。ベースは圓太郎師匠かな。金太郎、吉五郎はどちらも感情を伴い易い科
白で遣り取りしているから悪くない。二人の大家も同様。奉行の科白に感情が乏し
い。ネタ卸しらしく、圓太郎師や喜多八師匠、米福師匠の『三方』に較べて、金太
郎、吉五郎の「江戸っ子がり」の人物造型がまだ浅いので(軽さが必要な分、造型は
深くないと)、面白味にコクが無いのが今後の課題だろう。
◆4月28日 新宿末廣亭夜席
圓王『蒟蒻問答』/菊丸『野晒し』/正楽/さん八『園遊会』/小燕枝『千早振る』//~
仲入り~//正朝(勢朝代演)/にゃん子金魚/馬の助『権助芝居(上)』/小里ん『手紙無
筆(上)』/仙三郎社中/一朝『大工調べ(上)』
★一朝師匠『大工調べ(上)』
走り喚く赤子を連れてきた馬鹿親の邪魔を物ともせず。次第に明らかになって来る大
家の因業(自慢するのが如何にも間抜けで可笑しい)、相手の反応を読みきれず自分
の面子に拘ってキレる棟梁、二人の間で半ば面白がり乍らオタオタする与太郎と三人
三様の人物造型が明確で、しかも傍目に滑稽だからステキに可笑しかった。『大工調
べ』も一朝師匠がスタンダードになるな。
★小里ん師匠『手紙無筆(上)』
兄貴分の困惑と次第に深まる弟分の疑念が交差する可笑しさ。「『手紙無筆』でひっ
くり返す」とはこういう事かと納得した。客席のリアクションの良さが出来の素晴ら
しさを物語っている。
★小燕枝師匠『千早振る』
隠居の胡散臭さは当代随一かも。知らない事を誤魔化そうとする部分と、答えよう
がなくて困っているのを八五郎に分からせまいとする可笑しさが二重構造の面白さを
生み出す。「龍田川ァ~・・・(小声で)負けるなァ~・・・(声が大きくなる)
アッ、お前な」と龍田川を相撲取りにする事を思い付く件から逃げ腰だった態度が裏
返って行く可笑しさは独特。
◆4月29日 池袋演芸場昼席
扇『金明竹』/三木男『悋気の独楽』/正楽/窓輝『一眼国』/歌奴(三三代演)『棒鱈』
/扇遊『浮世床・夢』/木久扇『彦六伝』/~仲入り~///菊之丞『町内の若い衆』/市
馬『狸賽』/正楽/萬窓『百年目』
★萬窓師匠『百年目』
この芝居で二度目。本題は32分。前回より遥かにまとまって聞こえる。花見の件は囃
子入り。「踊り地」と「元禄花見踊り」。声質で損はしているが、嫌な事はしない
し、変に泣かせや感動させにも走らないのは長所。落語の『百年目』としてはマズマ
ズ。
★歌奴師匠『棒鱈』
田舎侍の歌う唄は稍変だが闊達で陽気な『棒鱈』。特に田舎侍の明るさが良い。もう
少し言葉を整理して笑いが増えると良いな。
◆4月29日 「真一文字の会築地支店」(ブディストホール)
こはる『六銭小僧』/一之輔『五人廻し』//~仲入り~//志ん八『ニコチン』/一之輔
『抜け雀』
★一之輔サン『五人廻し』
前半が高田馬場型で途中から稲荷町型へシフトする。ギャグは可笑しいが最初の二人
に対して喜助が感情を伴うリアクションをしていないため、啖呵の江戸っ子と通人の
可笑しさが跳ねる所までは行かない。特に、江戸っ子の啖呵には古今亭系の『大工調
べ』の棟梁の啖呵のように、喜助の感心や混ぜっ返しが不可欠なのではあるまいか。
目白系『大工調べ』のように、混ぜっ返し無しで啖呵を成立させるには余程、観客を
陶酔させてしまうリズム、またはメロディが必要で、単に「単語のスピーディーな羅
列」では、ら小ーク語としての面白味に乏しい(向島の柳好師匠の『五人廻し』や
『大工調べ』はどういう啖呵だったのだろう)。妻の病体を泣きながら語るという、
八代目可楽師匠系の演出を採った官員相手の後半から、喜助に漸く感情が加わり、田
舎
者・関取と続く。官員の告白を聞いての「可哀想な人だ」には笑った。田舎者は稲荷
町型で痰を吐き、手鼻をかむ。この辺りを聞くと、矢張り、戦後の大看板の『五人廻
し』では稲荷町が傑出して面白いと実感する。
★一之輔サン『抜け雀』
こちらは会話に登場する主要人物四人が感情を常に伴うから会話に隙間風が吹かな
い。ギャグは色々と工夫され、新しくなっているが、宿主が猛妻の事を大好きだと分
かる「おみっちゃん」が抜群に可笑しい。感情を伴う「擽り」として愉しく、古今
亭・金原亭系統の根底にある「夫婦噺」にも自然とかなっている。以前から一之輔サ
ンが演っているギャグでは、若い絵師が立派になって現れた時、「お前のまみえの下
に!」と怒鳴るので宿主が若い絵師と分かるのが矢張り傑作だと感じた。
◆4月30日 宝塚歌劇団月組公演『バラの国の王子』『ONE』
◆4月30日 新宿末廣亭昼席
//~仲入り~//ロケット団/柳朝(昼夜替り)『宗論』/南喬『短命』/文生『漫談』/和
楽社中/しん平『御血脈』(川柳代演バネ
★しん平師匠『御血脈』
芝居掛かりになる辺りが異様にハイテンションでマンガの見開き頁大コマみたいなん
だけれど、馬っ鹿馬鹿しいなァ。滅茶苦茶と思う人もいるだろうけれど、こういう可
笑しさは他に類を見ない。
◆4月30日 新宿末廣亭夜席
市也『牛褒め』/一左『六銭小僧』/夢葉/窓輝(鉄平昼夜替り代演)『洒落番頭』/左龍
『棒鱈』/ゆめじうたじ/圓王『朝顔宿』/菊丸『幇間腹』/亀太郎(正楽代演)/さん八
『園遊会』/小燕枝『肥瓶』//~仲入り~//勢朝『紀州』/にゃん子金魚/馬の助『手
紙無筆(上)』/小里ん『垂乳根』/勝丸(仙三郎社中代演)/一朝『唐茄子屋政談
(上)』
★一朝師匠『唐茄子屋政談(上)』
今年のお初。『抜け雀』『妾馬』『大工調べ』『火事息子』『井戸の茶碗』『二番煎
じ』『淀五郎』等と並び、志ん朝師匠没後の「東京落語のスタンダード」と言ってし
かるべき高座。若旦那の初さ、青さ、可愛さ。叔父さんや唐茄子を売ってくれる「意
気がらない江戸っ子らしさ」の愉しさ。叔母さんの下町女らしい温かさ。花魁の意気
地と、「東京落語の人情噺」の魅力に溢れている。目白系・古今亭&金原亭系に匹敵
する彦六&柳朝系の愉しさを満喫した。先代馬生師、先代小さん師を聞けた幸せに近
いものが「今、寄席で一朝師匠が聞ける」という事には確実にある。一朝師、雲助
師、生志師の『唐茄子屋』があれば、志ん生師、先代馬生師、志ん朝師の『唐茄子
屋』が無くても私は寂しくは無い。
※聞きながら、一朝師匠の『明烏』を聞きたくなった。聞いた事が無いのである。
★小里ん師匠『垂乳根』
終盤、千代と葱屋の遣り取りが殊のほか良かった。「ね~ぎ~、岩槻ねぎ~」をユッ
クリ二度繰り返したが、長屋を流す葱売りの風景が浮かぶのに驚いた。一方、千代の
「のうのう、門前に市なす・・・」以降のメリハリの馬鹿馬鹿しい可笑しさがその風
景と見事に対照をなす。目白系の基本力の過ごさ。前座噺の奥行きの深さだなァ。
★圓王師匠『朝顔宿』(正式題名不詳)
『抜け雀』の雀を朝顔に置き換えた噺。初めて聞いた。親絵師が「朝顔が枯れる」と
植木鉢を描き、オチも「親に鉢(恥)をかかせた」と変わる。成る程、こういう手もあ
るね。
石井徹也(放送作家)
投稿者 落語 : 2011年05月02日 00:31