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2011年01月30日

石井徹也の「落語番付2010」

大相撲の初場所は終わってしまいましたが、
石井徹也さんによる2010年、東京落語の「落語番付」をアップします。

ベスト10、ベスト50という形ではなく、昔の役者評判よろしく「極上々吉」「上々吉」
といった形式のお見立てです。
表記は日付順で、優劣ではありません。

これは石井さんの「番付」。さて、みなさんの「番付」は??

<落語の蔵 呼び出し四郎>

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2010年度 落語番付

(寄席173回 落語会327回を聞いた中より選択。聞いた月日順)

■極上々吉

02/07 上野鈴本演芸場夜席主任

桃月庵白酒師匠『寝床』

枝雀師以来の爆笑絶品。「やっと分かって戴けましたか」「白いワニが来る」「小沢
の息子」「かしらは両国」の可笑しさ。御簾内で語る原因になる肩衣の件もちゃんと
も入っている。


02/18 新宿末廣亭夜席

三遊亭栄馬師匠『夜回り』

ヒザ前で『二番煎じ』の夜回りだけを演じた。「風に声が震えるとこ」というと「江
戸の夜でございます」といって、サッと降りた。その粋なこと、呼吸の素晴らしさ!
こういう噺は寄席でなきゃ聞けない。


02/18 新宿末廣亭夜席主任

三笑亭茶楽師匠『品川心中(上)』

絶妙!白装束のお染に金蔵にみとれるシーンは、金蔵という「馬鹿な男」の魅力を最
大限に映し出したお手本。それに対して、心中を止められたお染の「出来たら死にゃ
あしないよ!」の痛切さが胸に響く。


03/25 浜松町かもめ亭(文化放送メディアプラスホール)

桃月庵白酒師匠『松曳き』

超ド級ナンセンス。今年何回がきいた中でベストの『松曳き』。三太夫が慌てると共
に、方向感覚まで歪んで行く可笑しさも絶妙だが、その立ち位置までもが目に浮かぶ
人物造形と描写力は凄い。


04/27 白酒ばなし(のげシャーレ)

桃月庵白酒師匠『抜け雀』

「観客の虚を衝く」志ん生⇒先代馬生系フックを新たに何ヵ所も仕掛け志ん朝師を抜
き、現代で最も可笑しい楽しい落語『抜け雀』。幸福感で一杯のルンルン帰宅である。


07/14 第18回白酒ひとり(内幸町ホール)

桃月庵白酒師匠『宗論』

猛暑とチケットぴあへの憤懣やるかたないマクラから入ったので、キレまくり。白酒
師匠より可笑しい『宗論』て、ありうるのかな。


10/15 池袋演芸場昼席主任

三遊亭金遊師匠『心眼』

重くなり過ぎず、20人程の客席なのに見事に受け、「この噺って、ちゃんと
落語になるんだ」と驚かせてくれた。「人無化十」の件で嫌みなく笑わせる「落語ら
しい良さ」が嬉しい。一方、噺の冒頭、女房お竹が梅喜の手をとる情愛と仕種の良さ
があり、会話のリアクションから梅喜の喜怒哀楽が伝わる。更に、石段を登る杖の音
の響きが表現する盲人の世界の孤独感も絶妙。最後の笑いで観客を陰気にさせないな
ど、お竹・小春の色気不足以外素晴らしく、私が過去に聞いた中で一番の『心眼』。


11/06 古今亭志ん朝トリビュート・三遊亭白鳥独演会(下北沢・劇小劇場)

三遊亭白鳥師匠『夢金』

主人公・熊のキャラクター、いや人生がこれ程出た『夢金』は初耳。桟橋で掌の地黒
を見た娘に「着物が汚れる」と言われて掌を見て、代わりに腕を差し出す熊の表情で
過去にどう人から見られ、それを熊がどう感じていたかが分かる。それでいて熊が陰
気にならず白鳥師の明るさに包まれている。侍がテリー伊藤氏みたいな顔なのも実に
分かり易く可笑しい。都々逸が滅茶苦茶なのは御愛嬌。熊が船内に入るとき「雪が一
緒にフワッと」という描写が見事に決まったのには吃驚。終盤、船が浅瀬に乗り上
げ、善心を起こした熊が娘を助けようと川に入り、船を必死で押す。侍が熊に迫る所
へ目を覚ました娘が棹を投げ『愛宕山』のように熊が剣先を逃れて船に戻る趣向は大
笑い。屋根船と屋形船を混同していたり、櫓を漕ぐのを直ぐ忘れる等のミスはあるが
其を補って余りある佳演。


12/03 新宿末廣亭夜席主任

柳亭市馬師匠『味噌蔵』

   何度か聞いている市馬師の『味噌蔵』だが、こんなに出来の良いのは初めて。
テンポが良くて、細かい会話に吝兵衛や番頭の人物が出て、しかも表現のアクが抜け
ていて可笑しく愉しい。私の聞いた市馬師としても屈指の出来。「あたしも我慢の限
界だ」「この歳まで豆腐屋を知らないのは峰吉の罪じゃない」「甚助は大洗の出だ
し」等の擽りには笑った笑った。目白の小さん師匠に聞かせたかった程の高座。


12/18 第11回三田落語会昼席(仏教伝道会館ホール)

春風亭一朝師匠『火事息子』

親旦那の「涙の小言」が実に印象的。徳に向かって涙を抑えながら小言を言う親父。
メッキリ小さくなった背中が目に浮かぶ。母親を呼ぶ「それよりな、倅が来たぞ」の
世間を憚る小声の切なさも素晴らしい。それに続いて、演じ過ぎず、言い過ぎず、芝
居にしない母親の佳さ。「やっと会えたよ」のひと言に彦六師匠の『旅の里扶持』に
繋がる林家の佳さが溢れている。そして、徳三郎の江戸大店の若旦那らしい品の佳
さ。母親に言う「お変わりがなく何よりでございます」は絶品。彦六師匠、先代馬生
師匠以来の『火事息子』の佳作であり東京の人情落語のお手本。

■極上々

01/14 日本橋夜のひとり噺第九夜

桂平治師匠『らくだ』

この噺で描き出す世界の迫力としては当代随一。死体の毛を毟る件から火屋まで、屑
屋・兄貴分・隠亡・願人坊主みんな大馬鹿な酒飲みであり、身の毛のよだつ可笑しさ
に満ち溢れている。序盤から中盤、わざと言葉を変化させない、単調に聞こえる会話
の繰り返しが、「カンカンノウ」の件や、立場が逆転する場面の面白さを実は倍加す
る効果になっている。


01/29 新宿末廣亭夜席

三遊亭とん馬師匠『猿の小噺』

何度聞いても、「猿が交通事故の証言をする小噺」は笑ってしまう。
食いつきの名人で、これも寄席でしか聞けない。


02/08 喜多八・琴柳・三三の会(にぎわい座)

柳家喜多八『二番煎じ』

こんなに面白い『二番煎じは出色。夜回りの件では寒さを明確に強調して、それが半
病人みたいな老人たちの酒宴の可笑しさに繋がる。「一箸じゃ止まらない」「もう回
りたくない」「箸はどうした!」の擽りは、全て素敵に可笑しく楽しい。侍が尻の下
から出てきた猪鍋に呆れて食べないのも可笑しいが、肴無しでグイグイ湯飲みを煽る
辺り、侍の酒の強さを表してもいるのも妙趣あり。

02/11 圓朝座第六次第三回(お江戸日本橋亭)

春風亭一朝師匠『文七元結』

30年ぶりくらいの口演だったとのこと。先代柳朝型で見事に落語。長兵衛と近江屋
のどちらもが素晴らしい庶民なのが魅力。「江戸前の『不千七元結』の典型であり、
世代トップクラスの出来。


02/11 悠々遊雀6(内幸町ホール)

三遊亭遊雀師匠『らくだ』

通し口演。時間が押して、やや急いだので短縮型ではあるが、手斧目の半次の言う
「返事!」をキーワードに、「困る人の逆転」が可笑しい。2008年暮に日本橋亭
で演じたときとは出来が大違い。

02/28 第18回特撰落語会(日本橋社会教育会館ホール)

柳家喬太郎師匠『文七元結』

寄席主任サイズの長さ。独自の「二年越し」版。全体に「落語」として演じられた
『文七元結』で、圓朝師匠以来の演出よりも「江戸っ子の噺」になっていた。「旦那
は江戸っ子だ」「親方こそ江戸っ子で」の味わいがまた実に落語らしい。お久を寝か
せ、親に恥をかかせない佐野槌女将の「大人の配慮」であり、声を荒げなかった事は
「客を脅かすな」という目白の小さん師匠の教えに適っている。それでいて、吾妻橋
を聞いていると、長兵衛が「矢っ張り、一寸非常識な人」である事が楽しい。近江屋
と番頭が吉原を知っている遣り取りも可笑しく、「佐野槌だろうね」の科白の小粋さ
は忘れがたい。最後の達磨横丁で長兵衛が言う「嫌味か」は娘を持つ親の辛さだが、
それも引っくるめて落語で、泣かせに用意された蛇足が見事に省かれた印象がある。
志ん生師匠や先代馬生師匠の文七が最後の場面で言った「阿父っつぁん!」も、これ
なら入る。

03/20 雲助蔵出し再び4(浅草見番二階稽古場)

五街道雲助師匠『電話の遊び』

親旦那の可笑しさは無類。川柳師匠のアドバイスを活かしたというオチの言い方の見
事なること。こういう馬鹿馬鹿しさは他に類を見ない。

03/20 池袋演芸場夜席主任

春風亭一朝師匠『妾馬』

この噺の理想型とは、この口座の事だろう。他に言葉を知らない。

03/29 新宿末廣亭夜席

春風亭一朝師匠『唖の釣り』

若い頃からの得意ネタだが、客席の酔っ払いを叱ってから入った噺の
リズムの心地よさ、与太郎の可笑しさ、唖の身振りの魅力と文句なし。

04/23 人形町市馬落語集(日本橋社会教育会館ホール)

柳亭市馬師匠『五月幟』

この噺をこれだけ明るく、面白く演じた人は、過去35年間、私は一度も聞いた事がない。

05/02 池袋演芸場夜席主任

桂平治師匠『佐野山』

松鯉先生型がベースか?佐野山が谷風をうっちって勝つが、そこまでは地噺として愉
しく、そこから後は人情噺として魅力的。「ひと粒で二度美味しい」というか。特
に、相撲取りを引退して料理屋を始めた佐野山が、後輩力士にご馳走をしては、「谷
風関のような、立派な関取になって下され」と言いながら祝儀を渡す件で、佐野山の
掌の温もりが感じられたんだよなァ。こんな『佐野山』、聞いた事がない。

 

09/19 関内・小満んの会第100回(関内小ホール)

 柳家小満ん師匠『三人無筆』

「私が代筆に・・」「それも仏の遺言にしておきます」で切れるなァと思ったけれ
ど、今までに東京で聞いたこの噺の中で一番面白かった。

11/04 新宿末廣亭昼席主任

昔昔亭桃太郎師匠『勘定板』

田舎者が便意を我慢するため、終始、尻を右手で抑えている姿が何とも可愛く、心の
底から可笑しかった。

11/09 第12回生志のにぎわい日和(にぎわい座)

 立川生志師匠『文七元結』

ズーッとチャント落語。冒頭と終景の夫婦の遣り取りの可笑しさ。甚兵衛サン風
の味がある気取りの無い長兵衛、だらしない亭主に突っ込み過ぎないカミサンの佳
さ。目白の落語の世界を感じさせてくれる『文七元結』は貴重だ。近江屋も大仰過ぎ
ない町の人。吾妻橋上から下を見た文七の表情と、それを見て近江屋の言う「分かれ
ばいいんだ」の素晴らしい遣り取りも忘れ難い。佐野槌女将の情の自然な落語らし
さ、突っ込み過ぎない良さは長兵衛のカミサン同様。「落語は演じ過ぎてはいけな
い」という目白の小さん師匠の教えが目の前にあった。目白の師匠に聞かせたかった
なァ。お久の「この御方に見受けされたの」を聞いて、声にならず泣き出す長兵衛に
泣く。「あの志ん生師匠でさえ親だったんでい、長兵衛だって親だい!」と誇らしく
言いたい長兵衛。

12/09 上野鈴本演芸場夜席

春風亭一朝師匠『尻餅』

11月下席、同じ上野鈴本演芸場で聞いた時より、更に丁寧で、また気組が実に良
い。サラサラと軽くて季節感があり、餅つきが更にリズミカルで愉しく、女房の呆れ
方や少し可哀想な可笑しさと亭主の能天気が好対照で面白く、東西を通じて随一の
『尻餅』であると断言したい。

■極上


01/11 新春恵比寿寄席 喬太郎・文左衛門二人会(EBIS303presentvol.1)

橘家文左衛門『のめる』

隠居と八五郎のコミュニケーシヨンの取れ方が絶妙で、この噺らしい面白さを堪能!

01/23 白酒・甚語楼二人会(お江戸日本橋亭)

桃月庵白酒師匠『新版三十石』

可笑しいのなんの。それだけで十分!

01/24新宿末廣亭夜席

桂平治師匠『鈴ケ森』

子分の大馬鹿者ぶりが抜群!

02/05 上野鈴本演芸場夜席

春風亭百栄師匠『疝気の虫』

或る意味、不気味なんだけど馬鹿馬鹿しく面白いのは個性だなァ。

02/05 上野鈴本演芸場夜席

五街道雲助師匠『強情灸』

朝湯のマクラから、馬鹿げてリアクションが大きく、ナンセンスの極地といった可笑しさだった。

02/08 池袋演芸場昼席

柳家喜多八師匠『小言念仏』

『鋳掛屋』の枕から方向転換。親父のキャラクターが抜群。小三治一門で唯一、
「師匠の世界」を脱して、自分の噺の世界を作ったと思う。

02/10 上野鈴本演芸場夜主任

桃月庵白酒師匠『宿屋の富』

前に聞いた時よりパワーアップして、少し簡略型だが前に聞いた時より枝雀師的オプ
ストラクトも増えて実に可笑しい。

02/16 瀧川鯉昇独演会(日本橋劇場)

瀧川鯉昇師匠『粗忽の釘』

「生きてます?」が滅っ茶苦茶に可笑しかった

02/20 第六回三田落語会夜席(仏教伝道会館ホール)

橘家圓太郎師匠『らくだ(上)』

面白い!柳家さん喬師匠が『立ち切り』を50分タップリ演じた高座を見事に力技で
押し返した。セリフにリアリティがあり、穿ちがあって可笑しく、兄貴分が妙マジな
のも可笑しい。


02/27 喜多八福音書(四季のことぶ季)

柳家喜多八師匠『ラブレター』

米国帰国子女版。爆笑。ナンセンスを理解してる師匠である。


03/26 上野鈴本演芸場夜席

春風亭百栄師匠師匠『浮世床』

講釈本の件だが、つっかえ方が馬鹿げて可笑しい。


05/04 池袋演芸場夜席

柳家蝠丸師匠『夢八』

こんなに首吊り死体の似合う噺家さんはいまい。死体を見ているだけで無闇矢鱈と
笑ってしまった。


05/10 第33回オリンパスモスビー寄席(内幸町ホール)

柳亭市馬師匠『茶の湯』

何という、「噺としての芸品」の高い無邪気さだろう・・・


05/25 「白酒むふふ」(国立演芸場)

桃月庵白酒師匠『船徳』

全然二枚目に見えない徳三郎が気取るのをはじめ、「馬鹿旦那ぶり」を際立たせる演
出か冴え渡った。また、「徳さんガンバッテ隊」の「ガンバッテェ」を客も真似する
が、「声が違う」と無視される件が新たに加わって益々爆笑。遊雀師匠と並ぶ「息苦
しくなるほど笑える『船徳』」であり、この夏を彩った傑作だが、この日の高座が一番だった。

05/27 皐月恒例市馬落語集三夜~第二夜~(日本橋劇場)

柳亭市馬師匠『お菊の皿』

珍しい演目で、しかもハメモノを入れた米朝師匠系演出。序盤、隠居の「車屋敷因
縁」には怪談噺の怖さがあり、道中も締めて怖さで笑いをグレードアップ。お菊の姿
も最初は怖い。終盤、玉置宏氏の亡霊が「お菊ショー」の司会者として登場。「第一
部お菊サン歌謡ショー」で『ああそれなのに』『憧れのハワイ航路』『千の風に乗っ
て』の替え歌で鐡山への怨みを歌うのが大笑い。『千の風に乗って』の声の伸びは素
晴らしい。大爆笑のまま、オチへ、又も「新境地開拓」の印象。誰も『お菊の皿』で
敵わなくなる。

06/23 第103回立川談笑月例独演会(国立演芸場)

立川談笑師匠『三味線栗毛』

この噺の理想的演出に初めて出会った。

06/28 先代金原亭馬生十八番一門会(日本橋社会教育会館ホール)

桃月庵白酒師匠『親子酒』

先代馬生型を取り入れ、15分程でサラッと演じたが、実に過不足なく、優れた愉し
さを発揮した。

07/19 白酒・甚語楼二人会(お江戸日本橋亭)

桃月庵白酒師匠『疝気の虫』

虫の視線と動き抜群!

桃月庵白酒師匠『お化け長屋(上)』

「それ、作り話だろ」というリアクションには驚いた。その他、あらゆるシーンで、
突っ込み所が抜群

08/04 白酒ばなし(にぎわい座)

桃月庵白酒師匠『だくだく』

主人公が隠居の隣に越してきて噺の空間を狭めた演出の妙。泥棒も、当たりをつけ
ず、いきなり忍び入るので時間的にも間が開かない。泥棒の「通信教育で覚えた超能
力のあるつもり」も可笑しい

08/17 第一回赤坂落語@レッドシアター2010夏・怪談噺

二日目夜の部(赤坂レッドシアター)

隅田川馬石『元犬』

会話のリアクションが素晴らしい!この噺を普通に演じて、これだけ愉しく可笑しい
のは、とれだけ自力・落語を演じる基礎力が鍛えられているかの証拠だね。雲助一門
の2010年の躍進振りは目覚しい。

08/26 池袋演芸場昼席

金原亭馬好師匠『小言念仏』

高座を聞いたの自体が30年ぶりくらいではなかったか。昔から巧さのある師匠だっ
たが、年齢に従い、志ん生師匠みたいになってきた。

09/10 第一回らくご・古金亭(湯島天神参集殿二階座敷)

 柳家小里ん師匠『黄金餅』

ネタ卸し。古今亭系や家元系と噺のタッチが全く違い、主人公・金兵衛が全く嫌な奴
じゃなく、噺全体が洒脱に愉しいのは柳家の芸の賜物。

10/03 さりゅうのじかん その参(お江戸日本橋亭)

柳亭左龍師匠『文七元結』師匠

さん喬師匠そのままの演出だが、長兵衛に江戸っ子・都会人のいいい加減さがあるの
で見事に落語になっている。文七の精神的な幼さも、昔の扇橋師匠以来の出来。

10/04 第12回ぎやまん寄席番外編「菊之丞・白酒ふたり会」(湯島天神参集
殿一階ホール)

桃月庵白酒師匠『火焔太鼓』

「中国人に責められる」など可笑しさがヒートアップ!“夫婦噺”としての愉しさも
含めて、志ん朝師匠を凌ぐ『火焔太鼓』だと思う。

10/07 池袋演芸場昼席

春風亭一朝師匠『七段目』

文句ありません。この噺はこういう風に演じると愉しい、という典型。

10/07 池袋演芸場昼席

桃月庵白酒師匠『短命』

文句・注文一切無しの愉しさ。

11/30 上野鈴本演芸場昼席

春風亭一朝師匠『短命』

軽妙で実に愉しい。隠居が終いに怒り出すのも無理がないと感じるほど、八五郎の鈍
さと変なリアクション、体のキレが抜群。八五郎のかみさんも、別に怪物じみないの
に遣り取りが可笑しい。かみさんの「隠居さんも死んだの?」には笑った。かみさん
の投げた茶碗を、背伸びして八五郎が取る仕種がまた素晴らしい!『短命』のお手本。

12/03 新宿末廣亭夜席

三遊亭歌武蔵師匠『黄金の大黒』

リズム感抜群。トントントンと運んで停滞なく爆笑の連続。漫談も可笑しいけど矢張
り落語が素敵な師匠だ!

12/03 新宿末廣亭夜席

三遊亭金馬師匠『掛取り』

『掛取り』のうち、薪屋の件だけだが、会話の間と強弱が抜群で、実に面白い。薪屋
相手の遣り取りで苦味を感じさせない高座を聞いたのは、生まれて初めてかも。

12/18 第11回三田落語会昼席(仏教伝道会館ホール)

春風亭一朝師匠『蛙茶番』

序盤から丁寧に演じた分、芝居の話はお客の食付きがやや弱かったが、半ちゃんの登
場以降は爆笑の連続。矢張り無敵のネタである。特に、「ミィちゃんがね」
「何ォー!」の素晴らしさ。東京の落語界で、矢っ張り一番優れた「半ちゃん芸」である。

12/24 第8回北沢落語名人会(北沢タウンホール)

 柳家さん喬師匠『柳田格之進』

さん喬師匠の優れた出来の高座に共通する、空間密度が高まって鼓膜を押される
ような口演だった。終盤、柳田が再仕官してからの娘光の見受けと、娘・光の哀れな
境遇は先代馬生師匠の演出に依っているが、序盤から終盤まで細かく配慮され、描写
はあるが多弁饒舌でなく、間は有るが間延びせず、しかも、山中貞雄の『人情紙風
船』のように四季の描かれた出来には感服する。萬屋善兵衛と柳田の友情、番頭長兵
衛が柳田に抱く嫉妬は明瞭に分かる。長兵衛が終景で自らの嫉妬を告白するのは、こ
うでなければ観客に理解しがたい面があるだろうから致し方ない。善兵衛の友情は見
事であり、終景で庇い合う善兵衛主従に柳田の告げる「黙れ、黙れ、黙ってくれい」
も熟考された見事な科白で、いまだかつて此を越える柳田の科白は記憶にない。柳田
が二人を許してしまうのが分かる。こういう表現を人情噺(広義の)で出来るのは今や
雲助師匠とさん喬師匠、一朝師匠しかいないだろう。柳田に残されたのは「侍心」を
捨てた自らの変心の理由を嘆き哀しむ娘・光に説く言葉だけである。それが続く、
「光に掛ける言葉を教えてくれ」という血吐の一言に繋がる。惜しむらくは柳田の人
柄が稍不明瞭。光に「お腹を召す事だけはお止まり下さい」と言われ、「光に嘘はつ
けん」と語るのは小満ん師匠に似ているが、小満ん師の柳田は「儂に嘘はつけん」に
ある自嘲が其処までの善兵衛との遣り取りの風趣に繋がるが、さん喬師の柳田は其処
までが妙に若々しく明るいので些か繋がり難い。湯島切通で頭巾を取るのでなく、傘
を横に外して長兵衛に顔を見せるのは駕籠から出た事を考えれば理に叶って優れた演
出だが、その後の立ち話の形が少し猫背なのは気になる。とはいえ、2010年に聞
いたさん喬師の高座で一、二の出来である事に間違いあるまい。

■2010年に聞いた珍しい噺


04/20 新宿末廣亭昼席

林家しん平師匠『笑い茸』

 
04/25 新宿末廣亭昼席

林家しん平師匠『宗漢』

 基本的に「落語を演じる天才」なので、愉しいんだよなァ。


06/23 池袋演芸場昼席

橘家蔵之助師匠『佃島』

 生で聞いたのは初めて。

07/08 池袋演芸場昼席

柳家蝠丸師匠『怪談虎の子』

元々は上方の『真田山』だが、東京の噺家さんでは、亡くなった夢楽師匠が東京落
語会て演じたのを聞いて以来、29年ぶりに聞いた。

07/27 新宿末廣亭夜

橘ノ圓師匠『神奈川宿』

生まれて初めて聞いた。『三人旅』の一部で、戦後は小金治さんが確か演じてい
て、亡くなった夢楽師匠も演られていた筈。旅の男たちが宿場女郎に「お見立てをさ
れる」という展開が妙に現代的。白鳥師匠に改作を作って貰えないかな。

09/08 上野鈴本演芸場昼席

鈴々舎馬桜『鰻の天上』

いわゆる『鰻屋』のオチで天に昇ってしまう展開になる。昔から演っていたけれ
ど、聞いたのは1982年以来。

10/10 新宿末廣亭夜席

橘家蔵之助師匠『ひょっとこそば』

過去には、志ん朝師匠がNHKテレビで演じたのを聞いた記憶しかない。

12/15 新宿末廣亭昼席

橘ノ圓師匠『悔み丁稚』

東京の『悔み』の上方版。先代圓馬師匠が演じていた筈だから、御弟子の
圓師匠が覚えていらしたのだろう。芸術協会は昔ながらの不思議な噺がまだまだ残って
いるのに驚く。

石井徹也(放送作家)

投稿者 落語 : 2011年01月30日 23:58