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2010年12月03日
11月の「落語聴いたまま」
石井徹也さん(放送作家)によります11月の「落語 聴いたまま」です。
”聴いたまま””感じたまま”のレポートをお楽しみください。
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◆11月1日白酒独演会
渡辺みさサン挨拶/朝呂久『大安売』/白酒『徳ちゃん』/白酒『突き落とし』//
~仲入り~//白酒『明烏』
★白酒師匠『徳ちゃん』・女郎が益々モンスターっぽくなってきたのが可笑しい
だけに、オチが『縮み上がり』の掴み込みなのはどうにかならないかな
★白酒師匠『突き落とし』・やや、自虐暴露的ではあるけれど、前座時代の女郎
買いを語ったマクラが可笑しい。噺自体は近年さのみ演じていないようで、余り
手が入ってない。扇遊師匠型か。棟梁役が与太郎みたいなのは一興。
★白酒師匠『明烏』・大きな変化はないけれど、噺に余裕が出て、赤蜻蛉の時次
郎の特に仕草に現れる駄々っ子ぶり、源兵衛太助の札付きオバカぶりのバランス
が良い。後は遣手のオバサンの「色町者らしさ」を濃くしたいな。
◆11月2日新宿末廣亭夜席
伸治『棒鱈』/コントD51/金太郎/『勘定板』/松鯉『屏風の蘇生』/真理/笑三
『交通安全』/遊三『高砂や』//~仲入り~//遊雀『夫婦喧嘩』/Wモアモア/小
圓右『初天神』/笑遊『蛙茶番』/北見伸&スティファニー/柳橋『ねずみ』
★柳橋師匠『ねずみ』・中抜き。聞くのは柳橋襲名初日以来となる噺だが、余裕
が出てきている。卯兵衛が稍メソつくのは感心しなかけれど、甚五郎は浪曲クサ
くない。但し、アピールポイントという程のポイントが無い。
★小圓右師匠『初天神』・上方型。飴だけだが、親子の遣取りで「(お父ッツァ
ンみたいに)なるの嫌だ」等初耳の擽りもあって楽しい。
★笑遊師匠『蛙茶番』・元は権太楼師匠かな。オチまで行かなかったがハチャメ
チャな可笑しさは得難い。
★遊雀師匠『夫婦喧嘩』・確実に爆笑
◆11月3日新宿末廣亭昼席
歌春『九官鳥』/花/桃太郎『カラオケ病院』
◆11月3日 新宿末廣亭夜席
昇々『子褒め』/べん橋『口入屋』/ぴろき/今輔『飽食の城』/遊之介『河豚鍋』
/コントD51/遊雀『浮世床・芸』/松鯉『石崗茶入れ』/真理/笑三『呼出し電
話』/遊三『親子酒』//~仲入り~//金太郎『茶の湯(上)』/Wモアモア/蝠丸
『天狗裁き』/笑遊『やかん』/北見伸&スティファニー/柳橋『お見立て』
★柳橋師匠『お見立て』・一寸輪郭が弛いけれども、サラッとした出来で楽しめ
る。杢兵衛大尽は柄がピッタリ。喜助が気楽でいて慌てると南京鼠みたいになる
のも可笑しい。喜瀬川にもう少しノンシャランとした所が欲しい。
★遊三師匠『親子酒』・親父が煙管を手に寝てしまう可笑しさ、息子の無言の膝
立ちの可笑しさ。落語らしさを堪能。
★笑三師匠『呼出し電話』・聞くのは何年ぶりかなァ。稍簡略型
★笑遊師匠『やかん』・ハチャメチャの典型だけど今夜一番可笑しかった
◆11月4日 新宿末廣亭昼席
米丸『寝台車風景』//~仲入り~//慎太郎『善哉公社』/陽昇/笑遊『ウチのカミ
サン・アンミツ篇』/歌春『短命』/花/遊三『火焔太鼓』
★遊三師匠『火焔太鼓』・「馬鹿が一回り大きくなったね」には大笑い。
★陽昇・・現在、東京の漫才で最高に可笑しい。特に陽のキレ方はコント55号
時代の萩本欽一を思わせる。
◆11月4日 新宿末廣亭夜席
くま八『他行』/朝夢『芋俵』/
◆11月4日志の輔独演会
志の春『動物園』/志の輔『異議ナシ』//~仲入り~//志の輔『帯久』
★志の輔師匠『異議ナシ』・志の輔師匠の新作の展開メソードは柳昇師匠色の濃
い、弛い愉しさだと再確認。新作には「質の芸」がある。
★志の輔師匠『帯久』・80分。気を入れて聞く所が無いのはテレビの時代劇同
様。「質の芸」の噺家さんを活かすための「量の芸」の典型というべきか。
◆11月5日 国立演芸場昼席~龍玉襲名真打昇進披露
扇『壽限無』/駒次『生徒の作文』/白酒『笊屋』/紫文/伯楽『親子酒』/金馬
『チリトテチン』//~仲入り~//口上/順子ひろし/雲助『初天神』/アサダ/龍玉
『鼠穴』
★雲助師匠『初天神』・先代馬生師匠型で後半の凧揚屋から凧げが聞きもの。親
父の能天気ぶりが楽しい。
★龍玉師匠『鼠穴』・まだ骨格段階。見た目の雰囲気は圓生師匠だが、ドラマ
ティックな話らしいメリハリに乏しい。
◆11月5日 新宿末廣亭夜席
伸治『棒鱈』/コントD51/笑三『呼び出し電話』/松鯉『利兵衛裁き益』/真理
/金太郎『河豚鍋』/遊三『権助芝居』//~仲入り~//遊雀『つる』/Wモアモア/
蝠丸『転宅』/栄馬『かつぎや』/北見伸&スティファニー/柳橋『禁酒番屋』
★遊三師匠『権助芝居』・稍簡略だが芝居の件は本格派。権助も骨太。
★蝠丸師匠『転宅』・情けない風貌の泥棒「赤坂炒飯」クンがおかしかなし。
★栄馬師匠『かつぎや』・「弔い!?」「トム・クルーズ来日」は笑った。
★柳橋師匠『禁酒番屋』・小僧や若い衆は軽くて似合うのだけれど、番屋の侍の
酔って変化する様子が月並み。
◆11月6日 白鳥独演会 志ん朝トリビュート
白鳥「プロジェクター紙芝居オオサンショウウオの恩返し」/白鳥『黄金餅』//
~仲入り~//白鳥『夢金』
★白鳥師匠『黄金餅』・貧乏噺家・池袋演芸場界隈・怪しい外国人といった設定
の基本は変わらないが、石焼窯到着以降が少しダレる、黄金を煬サンと山分けし
たシンドウサンはこの後、どうなったんだろう。
★白鳥師匠『夢金』・熊のキャラクター、いや人生がこれ程出た『夢金』は初
耳。桟橋で掌の地黒を見た娘に「着物が汚れる」と言われて掌を見て、代わりに
腕を差し出す熊の表情で過去にどう人から見られ、それを熊がどう感じていたか
が分かる。チャップリンの『街の灯』というより、西原理恵子の世界に近い「傷
つけられた記憶」の共感と詩情がある。しかし、熊は陰気にならず白鳥師の明る
さに包まれている。『戦メリ』ラストのたけしさんみたいだ。侍がテリー伊藤氏
的蛇面なのも分かり易く実に可笑しい。市馬師と三三師に教わったという棹使い
は的確。都々逸が滅茶苦茶なのは御愛嬌。熊が船内に入るとき、「雪が一緒にフ
ワッと」の描写が見事に決まったのには吃驚した。古典派顔色無しの出来栄え。
終盤、船が浅瀬に座礁、熊が娘だけでも助けようと川に入って船を必死で押す。
侍が熊に迫る所へ目を覚ました娘が棹を投げ、その棹で『愛宕山』のように熊が
船に戻る趣向は大笑い。その後の熊と娘の遣り取り迄で終わると「良い噺」に堕
するが再び欲の熊蔵に戻して(「娘の懐にあったから50両包み二つが温か
い」ってのがまた可笑しい)キンオチの落語で終わる。屋根船と屋形船を混同し
てたり、櫓を漕ぐのを直ぐ忘れる等のミスはあるが其を補って余りある佳演。
◆11月8日 新宿末廣亭昼席
米丸『試着室』//~仲入り~//慎太郎『転失気』/東京ボーイズ/笑遊『悋気の独
楽』/歌春『越後屋』/花/桃太郎『勘定板』
★桃太郎師匠『勘定板』・田舎者が勘定を我慢して、左手で尻を押さえてる恰好
の可愛さ可笑しさは抜群。
◆11月8日 新宿末廣亭夜席
風子『金明竹』/朝夢『代書屋』
◆11月8日 にぎわい座 生志日和
生志『子褒め』/談奈『勘定板』/生志『茶の湯』『』//~仲入り~//ナイツ/生
志『文七元結』
★生志師匠『子褒め』・前座噺を腕の確かな真打が演るとこんなにも面白い、と
いうお手本。
★生志師匠『茶の湯』・宙を飛び交う泡を見て、定吉のいう「茶の湯ってファン
タジーですねェ」には笑った。手習の師匠と頭は『三軒長屋』を聞きたくなる出
来。
★生志師匠『文七元結』・ズーッと、ちゃんと落語。長兵衛夫婦の可笑しさ、甚
兵衛サンの風味のある長兵衛、「誰のせいでこうなったと思ってるんだい!」な
どとは言わず、亭主に対して突っ込み過ぎないカミサンの佳さは忘れ難い。近江
屋も大仰過ぎないのが人物を感じさせる。佐野槌女将の情の自然な落語らしさも
素晴らしい。お久の「見受けされたの」を聞き、もう声にならず泣く長兵衛に泣
いた。志ん生師匠だって、朝太時代の志ん朝師匠の放蕩ぶりを心配する親だった
んだ。長兵衛だって親でぃ!
◆11月9日 新宿末廣亭昼席
金遊『子褒め』/ボンボンブラザース/米丸『若返り』//~仲入り~//慎太郎『魚
問答』/一矢/笑遊『スシ屋は愉し』/平治『鈴ケ森』/花/桃太郎『金満家族』
★米丸師匠『若返り』(本題名不詳)・次第に受ける部分が増えてきた。85歳にし
て凄い。
◆11月9日新宿末廣亭夜席
松之丞『狼退治~宮本武蔵』/べん橋『垂乳根』
◆11月10日 新宿末廣亭夜席
ぴろき/今輔『自由研究』/南なん『鰻屋』/コントD51/金太郎『松山鏡』/松
鯉『扇の的』/真理/笑三『大師の杵(上)』/遊三『親子酒』//~仲入り~//遊雀
『幇間腹』/ボンボンブラザース/蝠丸『武助馬』/栄馬『茄子娘』/小泉ポロン/
柳橋『天災』
★遊雀師匠『幇間腹』・前半カットで一八の登場から。「ペルーの鉱山じゃある
まいし」には笑った。女将が一八の真っ赤なお腹を見て笑ってるドライさも愉し
い。
★松鯉先生『扇の的』・小人数(20人くらい)で冷めた客席を見事に温めた。前
半、豪傑たちがしり込みする可笑しさと、後半、那須与一を見事なまでにカッコ
良く描き出した巧さの妙に嘆息。今、一番巧い講釈師だろうな。
★栄馬師匠『茄子娘』・本当に巧い。聞き入ってしまう。
★柳橋師匠『天災』・名丸の座敷から始まった。何か急いた口調になり、名丸と
八五郎会話のリズム、特に名丸のリアクションのタイミングが変で笑いに繋がり
難い。
◆11月11日 圓朝座
はな平『道灌』/馬桜『真景累ケ淵~於累の自害』//~仲入り~//三三『文七元
結』
★馬桜師匠『於累の自害』・当人が元々残酷な場面が嫌いで、気が引けながら演
じてるのが丸分かりなんだから、怖さも一向に盛り上がらなけりゃ、人物も出な
い。面白くなる筈が無いよ。
★三三師匠『文七元結』・近江屋内で三三師自身が首の筋違いを起こしたり、吾
妻橋で手拭いが吹っ飛んだりとハプニングの多かった高座。全体にテンションが
高く、長兵衛がバクチ打ちになり過ぎず、笑いも今までになく多かった。半面、
稍クサめの高座でもある。佐野槌の女将が「他の女たちにはキツい事を言ってる
のに、貴方たちに言わないのは何だけど・・これも縁だから」と言い、長兵衛が
最後に近江屋と文七からの親類付き合いの申込みに「これも縁だから」と重ねる
が、まだ三三師の中での辻褄合わせめいて聞こえる「縁」を言わなくて出来な
きゃいけない噺の筈だよ。
◆11月12日 談春独演会
こはる『ひと目上り』/談春『二階素見』//~仲入り~//談春『お若伊之助』
★談春師匠『二階素見』・家元離れはしてきたが、肝心の若旦那に「吉原マニ
ア」らしさ、軟派な道楽者のニュアンスが乏しい。妓夫太郎も廓者のポッテリし
た厚みが無く、どうも意気がりになりたがるね。
★談春師匠『お若伊之助』・折角頭の粗忽や「葱鮪」と呼ばれる粗忽侍が抜群に
可笑しいのに、綺麗事の描写を入れて、折角の出来を間延びさせている。
特に、逢魔が刻故に狸が現れるのを「薄紅を流したような夕焼け」だとか、「雨
が降って」と言った後に「桜の花が舞い上がる」等、自ら辻褄の合わない事を足
ししているのはみっともない。狸が撃たれた瞬間、家中が震動雷電するってのは
怪異の終焉として分かるけどね。
◆11月13日 小三治独演会
朝呂久『ひと目上り』/喜多八『もぐら泥』/一朝『片棒』//~仲入り~//ロケッ
ト団/小三治『ゴキブリ退治~禁酒番屋』
★喜多八師匠『もぐら泥』・「師匠離れをしたなァ」と感心。酔っ払いのいい加
減さが似合って可笑しい。
★小三治師匠『禁酒番屋』・「随分型崩れしたなァ」と思う半面、御気楽な愉し
さは昔より強い。長々と世間話をしてなきゃもっと愉しめるのに。
◆11月13日 白酒むふふふ
扇『六文小僧』/白酒『禁酒番屋』/だるま食堂//~仲入り~//白酒『宿屋の仇
討』
★白酒『禁酒番屋』・演出は抜群に巧く可笑しいが、今日は稍硬さを感じた。も
う噺全体が少し暢気な運びでありたい。
★白酒『宿屋の仇討』・ギャグの可笑しさは安定したけれども、源兵衛と万事世
話九郎のキャラクターに面白味が乏しい。源兵衛が物足りないのは、市馬師匠同
様「人殺し場面を演じるのが嫌」に聞こえるためかもしれない。世話九郎は手の
打ち方が一定しないので、町人を畏怖させる緊迫感が出ない。
◆11月14日 遊雀霜月会
遊雀『御挨拶』/笑海『本膳』/遊雀『悋気の独楽』~仲入り~遊雀『心眼』
★遊雀師匠『悋気の独楽』・定吉のいう「犬と呼んで下さい」という台詞と、尾
行の密偵みたいな歩き方が矢鱈と可笑しい。
★遊雀師匠『心眼』・夢から醒めた梅喜の言う「金の事は言えねェなァ」は実に
優れた科白だと感心しちゃった。半面、お竹が梅喜に余り優しくない。貞女過ぎ
るのっても息苦しいが、これは少し手荒かないかね。
◆11月14日 甚語楼の会
朝呂久『牛褒め』/甚語楼『松竹梅』/右太楼『ぞろぞろ』/甚語楼『宿屋の富』
//~仲入り~//甚語楼『井戸の茶碗』
★甚語楼師匠『松竹梅』・この師匠の「男の三馬鹿トリオ物」は本当に可笑し
い。特に「あっしは常磐津を、三年やってますから」と指を出す竹サンの気取り
が抜群。「埋め合わせをここで待つたけ」とサゲた。
★甚語楼師匠『宿屋の富』・当たりを確認する際、泊まり客の見せる少しクサ目
の表情の変化が可笑しく、宿主人が客の法螺話を受け入れちゃい様子の自然さと
巧く噛み合っている。
★甚語楼師匠『井戸の茶碗』・屑屋の困り方パニックは十八番で可笑しい可笑し
い。卜斎のある種の暗さが笑いのアクセントになっているのも妙趣。着実にグ
レードアップしているね。
◆11月15日 成城寄席
こはる『芋俵』/談奈『町内の若い衆』/ヒロ『テンノーズアイランド計画』/談
笑『時そば』//~仲入り~//吉坊『河豚鍋』/小菊/談春『妾馬』
★談春師匠『妾馬』・人情噺としては優れているが落語とは言い難い。大家の家
で八が紋服を付けた所から始まり、「治武衛門と改めて大活躍をするとい
う・・」まで。オフクロと八の件がかなり長い。オフクロの意見に逆らいなが
ら、八が自分のダメさ加減を自覚しいてるのは或る意味リアルだけれども、ここ
までリアルに自覚されると、白鳥師匠の『夢金』の熊の自覚と違って、噺が人情
噺になってしまい、落語のベクトルに戻り難いように感じた。殿様の前で、鶴の
事をマジで色々頼むのはさん喬師匠の演出に近いが、生志師匠の『文七元結』の
「長兵衛だって親でい」と違うのは、八の言葉が八らしくなく改まってしまい、
お屋敷内での振舞い方をおつるに対して余りにも忠言として語り過ぎるためか。
肉親の情というより、先生の説教みたいだった。
★吉坊さん『河豚鍋』・三代目染丸型ほぼそのままだが軽快で愉しい。オチの言
い方が遅く、「ネタバレも早すぎる」と感じさせてしまうのは惜しい。
★小菊師匠・三千歳と七段目に歌詞を変え、アンコ入りにした『伊勢詣~お半
長』が聞き物。特に三千歳。『冬の夜に』が聞きたいなァ。
◆11月15日 小三治独演会
燕路『悋気の独楽』/小三治『付き馬』//~仲入り~//小三治『小言念仏』
★小三治師匠『付き馬』・棺桶のマクラから入った。妓夫の方から積極的に客を
誘う(普通の客相手なら当然だけれど)という、この噺としては不思議な入り
方。前半は思い出し思い出し演っているみたいで細部の抜けも多く、男も途中か
ら妓夫を巻こうと思いついた、という雰囲気に聞こえた。『禁酒番屋』同様、
「昔より遥かにいい加減だけど、可笑しい高座」というべきかな。早桶屋の親父
前半の頑固なニュアンスは抜群に愉しい。ただ、その親父のキャラクターが途中
から変わってしまう。妓夫のキャラクターも前夜と朝以降では変わっちゃうのは
「まだ、志ん生師匠や先代馬生師匠みたいに“いい加減慣れ”してねェな」とい
う印象。根が優等生だからね。因みに、二席目の『小言念仏』はマクラからで
たった11分と、マジで与太な高座。
◆11月16日 三三談洲楼三夜第一夜
三木男『新聞記事』/三三『佐原の喜三郎:一~お寅喜三郎』//~仲入り~//三三
『佐原の喜三郎:二~仁三郎殺し』
★三三師匠『佐原の喜三郎』・私の耳が聞いた範囲では白浪物でなく三尺物。義
侠系の噺だが人情噺でなく、また、琴柳先生の講釈口調なので噺の運びが硬くて
稍肩が凝る。序盤のお寅と母の悪口を菊蔵が聞いてしまう件は展開自体が面白く
作ってあるが、所々ギャグは入れたものの、侍を得意にしたという談洲楼の雰囲
気はこれで良いのか?という疑問を感じた。敵役の菊蔵や仁三郎は山形屋藤蔵の
エピゴーネン。切りつける際の「デイッ」は明らかに琴柳先生そのまんまで、剣
に優れた者の掛け声としては感心出来ない。なんか、鈍いんだね。また、お寅に
色気が無いため、喜三郎の美男が平板で、単なる二枚目にしか見えず、侠客らし
い凄みや華麗さに乏しい。梅の由兵衛や御所の五郎蔵を三三師匠は知らないと見
ゆる。その点では、八日市場の文吉のイケシャアシャアとしたニュアンスが一
番。
◆11月17日 三三談洲楼三夜第二夜
柳亭市楽『松山鏡』/三三『大阪屋花鳥:一~吉原火事』//~仲入り~//三三『大
阪屋花鳥:二~お兼殺し』
★三三師匠『大阪屋花鳥』・お寅の花鳥は吉原火事までは単に薄幸だが、牢内で
お鐡婆に磨かれ、「悪婆」に変わる。これは原作の流れだが、岡本綺堂版のレズ
ビアン花鳥程は脂っ濃くない。その割に「細面の柳腰」てェよりは精々が檀れい
の若い頃くらいの「定番美人」にしか見えてこない。おまけに二席目の牢内お兼
殺しは25分もなく、「手抜き?」と思えてしまうほどで甚だ物足りない。一番
似合うのは牢名主のお鐡婆。兎に角、大阪屋花鳥に色気や凄みがからっきし無
いってのはどうもねェ。
◆11月18日 新宿末廣亭昼席
一朝『幇間腹』/美登美智/志ん弥『権助魚』/種平『』/東京ガールズ/小満ん
『時そば』//~仲入り~//歌る多『悋気の火の玉』/にゃん子金魚/川柳『パ
フィ』/しん平『御血脈』/小菊/南喬『小言幸兵衛』
★南喬師匠『小言幸兵衛』・仕立屋の件だけだが、「待て、この人非人」「垂好
柿太左衛門」「イスラム教」「アッラーアクバール」には爆笑。
★小満ん師匠『時そば』・サラッと洒脱。
◆11月18日 新宿末廣亭夜席
朝呂久『間抜け泥』/馬治『六文小僧』/マギー隆司/左龍『豆屋(下)』/圓王『千
早振る』/笑組/志ん橋『居酒屋』
★圓王師匠・矢張り孫でしだネェ。圓生師匠に似てる。
◆11月18日 三三談洲楼三夜第三夜
市楽『道灌』/三三『三宅島』//~仲入り~//三三『島抜け』
★三三師匠『三宅島~島抜け』・前半は三宅島で出会ったうち、過去の件の省略
されている勝五郎・三日月小僧・玄若の人生と因縁の紹介だが、全体のイメージ
が殆ど把握出来ていないと思った。芝居好き、素人芝居好きの粋な人でもあった
初代談洲楼燕枝の作品だから、幕末の初代小團次黙用阿弥作品辺りがイメージの
ベースだろう。ならば、例えば喜三郎は小團次、お寅が八代目半四郎、勝五郎が
坂東亀蔵、若けりゃ大谷広次か河原崎権之助時代の九代目市川團十郎、三日月小
僧が田之助か弁天小僧を初演した十代の頃の五代目菊五郎、玄若は鶴蔵の仲蔵、
梅津長門は彦三郎で、三宅島島司壬生大輔が関三十郎辺り、といった「芝居の書
換え」「役柄の色分け」が必要だと思うが、そういうニュアンスが丸っきり演じ
られていない。だからストーリーだけの面白さしか残らない。面白く感じたの
は、後半、船幽霊を宝剣と金無垢の仏像で追い払う件の怪異味だけ(これも並木
正三作品などのパロディっぽいが)。本質的に三三師は怪談師なのかもしれな
い。エピローグとして「その後の嶋千鳥」を語ったが、役柄の変化を「おかしい
でしょう」と言ったのには驚いた。初代燕枝が『十六夜清心』や『御所五郎蔵』
などの小團次物・幕末世話狂言を巧みに掴み込んで場面場面を盛り上げ、「書換
え」の面白さを色濃く出しているのに、それを全く理解していないのが丸分か
り。これでは談洲楼燕枝に面目ない、と言うしかあるまい。
◆11月19日 池袋演芸場昼席
志ん橋『看板のピン』/和楽社中/志ん輔『試し酒』
★志ん輔師匠『試し酒』・旦那が大盃を持つ形に品と愛着があるなど、雰囲気が
アップ。権助の飲み方も重くなく全体が愉しかった。
◆11月19日池袋演芸場夜席
多ぼう『子褒め』/左吉『強情灸』/歌奴『カフカの虚無僧』/ダーク広和/柳朝
『荒茶の湯』/馬石『駒長』/ホームラン/小燕枝『意地競べ』//~仲入り~//甚
語楼『狸賽』/はん治『千早振る』/正楽/白酒/『お見立て』
★白酒師匠『お見立て』・掛け治外で聞き逃していた噺をやっと聞けた、のはい
いけれど、杢兵衛大尽が「怒りんぼの薩摩隼人」みたいでバワーがあり過ぎ、
却って空回りしちゃった印象。喜瀬川が滅茶苦茶策士で、大尽に冷淡なのもイマ
イチ笑いきれなかった。
★歌奴師匠『カフカの虚無僧』・丈二師匠作。女子中学生が目覚めると尺八を手
にした虚無僧になり、渋谷で待ち合わせていた同い年の彼は法螺貝を手にした山
伏になっていた、という超ナンセンスな設定だけで十分に可笑しい。『大発生』
等に近いシュールネタだね。
◆11月20日 遊三を聴く会
翼『転失気』/宮治『狸の札』/蘭『小松姫』/遊三『船徳』//~仲入り~//遊三
『文七元結』
★遊三師匠『文七元結』・吾妻橋の長兵衛の情と目白風の職人気質の佳さ。如何
にも円満な近江屋の品がまた結構。佐野槌女将がちと怖いのが玉に瑕。
◆11月20日 志ん輔扇遊の会
ぽっぽ『やかん』/扇遊『厩火事』/志ん輔『居残り佐平次』//~仲入り~//志ん
輔『高田馬場』/正楽/扇遊『鼠穴』
★志ん輔師匠『居残り』・詐欺師ってェよりは、プロのヨイショ師的な佐平次。
勝っつぁんを取り巻く件が長いが、此処の油の掛け方が可笑しくて、何度も紙入
れを出すハメになる勝っつぁんがオバカで凄く愉しい。この件までで終わっても
良いくらい。いっそ、最後に店の旦那も取り巻いちゃったら、新たなオチが着く
『居残り』かも。最後に佐平次が投げ節を歌うのは志ん朝師匠譲りの演出。
★扇遊師匠『鼠穴』・押していて、駆け足気味の高座であるため、序盤は聞き応
えが無かった。しかし、竹次郎が兄の告白に感謝する声と表情が良く、其処から
聞き込めた。火事場の迫力は乏しいが、竹次郎の「善」と「マジ」が似合い、そ
れだけに落ちぶれた場面での哀しみが深い。終景、「嫌な役だ」とボヤく兄もま
た「善」。夢の中の敵役から、終景で兄を「善」に戻せる『鼠穴』は珍しい。
★志ん輔師匠『高田馬場』・「仇討見物」に盛り上がる能天気な町衆のワイワイ
ガヤガヤぶりと、かなりクサいとはいえ、岩淵伝内の酔漢ぶりが可笑しい。蟇の
油売りの見世物的クサさも一興趣アリ。
◆11月21日 池袋演芸場昼席
歌る美『転失気』//駿菊『六文小僧』/左吉『家見舞』//左橋『短命』/にゃん子
金魚/燕路『だくだく』/正雀『紙屑屋』//~仲入り~//馬石『鮑熨斗』/はん治
『背中で老いてる唐獅子牡丹』/アサダ/世之介『三枚起請』
★世之介師匠『三枚起請』・マクラが長く、本題は端折り気味。志ん朝口調の残
る演出だけれど、喜瀬川の或る種の狡滑さに比べ、三馬鹿トリオの色合いが濃く
出ていない。
★はん治師匠『背中で老いてる唐獅子牡丹』・安定感抜群。「ヨレヨレ~」「シ
ワシワ~」の切ない可笑しさは新作では他に得難い。
◆11月21日 落語協会特選会 文左衛門のひとりでできるもん
朝呂久『道灌』/文左衛門『粗忽の釘』/文左衛門『馬のす』//仲入り//文左衛門
『竹の水仙』
★文左衛門師匠『粗忽の釘』・主人公が隣家で惚気噺をしている最中、高座を転
がったが、主人公のパニック型キャラと隣家主人の巻き込まれキャラが愉しいか
ら噺が崩れなかった。「女房が狸寝入りしていた」という件に色気があるのは偉
い。
★文左衛門師匠『馬のす』・「以前はよく釣をしていた」というだけあって、テ
グスの扱いが巧い。話をはぐらかすネタは「ロッテ優勝を蓮舫は予測していたの
か?」って捉え方と、「今の木久蔵師の尖閣列島問題の捉え方」がメインで、ど
ちらも矢鱈と可笑しい。黒門町のようなテクニックの噺でなく笑いのセンスの噺
にちゃんとしているのはお見事。
★文左衛門師匠『竹の水仙』・宿屋の主が養子の型。この詰まらない名人譚が
『火焔太鼓』のような可笑しさと人間味を帯びるのには感心した。甚五郎がヤク
ザッポイ程に職人気質丸出しなのも文左衛門師には適う。稍噺の運びは重く、わ
ざと荒っぽく、ギャグ沢山にしているが、宿屋主・細川越中守・家臣上田馬之
助、みんなが嫌らしくないから噺が「文左衛門マニア向け」に堕落していない。
ちょっとこれだけの『竹の水仙』は珍しい。
◆11月22日 月刊談笑12月号
談笑『小言清~社長のカラオケリサイタル』//~仲入り~//談笑『堀の内の釘』
★談笑師匠『小言清~カラオケリサイタル』・つまりは『小言幸兵衛』と『寝
床』の改訂版をくっつけた噺。社長に選ばれて秘書室長になった男が社長をヨイ
ショする科白、「まだアーティストの気持ちは分からない」にはウケた。この噺
のオーナーのリサイタルに対するテナント従業員や社員のリアクションを聞いて
いると、『寝床』と『らくだ』が似た内容にみえてくる。
★談笑師匠『堀の内の釘』・堀の内に粗忽の釘と粗忽長屋を混ぜた「粗忽チャン
チャカチャン」噺。当人が終盤、息切れしちゃってた。飽くまでもお遊び噺なん
じゃない。
◆11月23日 喬太郎三鷹勉強会昼の部
辰じん『金明竹額』/喬太郎『野晒し』//~仲入り~//小んぶ『短命』/喬太郎
『錦木』
★喬太郎師匠『野晒し』・稍硬いけれども、釣客のリアクション等、喬太郎師ら
しく愉しい。喬太郎師だと尾形清十郎が萩原新三郎のように若くても良いと思っ
た。
★喬太郎師匠『錦木』・暗いなァ。角三郎の張った調子が佳いだけに、何で結果
的に錦木を叩き殺すような、メソメソした人情噺もどきの展開を喬太郎師が採る
のか分からない。錦木をぶちのめした門番はお手討ちものじゃろ。
◆11月23日 喬太郎三鷹勉強会夜の部
辰じん『道具屋』/喬太郎『九州旅日記~時そば』//~仲入り~//たけ平『星野
屋』/喬太郎『按摩の炬燵』
★喬太郎師匠『九州旅日記~時そば』・喬太郎師自身が、北朝鮮の韓国領域内島
砲撃のニュースに結構動揺していた雰囲気の高座。本題は二番目の蕎麦屋の醒め
た感じが可笑しい。
★喬太郎師匠『按摩の炬燵』・「奉公に行く誰彼やばい(ベーゴマ)廻し」、久保
田万太郎の世界が番頭サンの「寒いな」の一言に出る佳さは「冬の宝物」。同様
に、これまた万太郎の「熱燗に嘘も真もなしという」に当たる米市の明るい酔い
方も、番頭との「読まん歳書かん歳」の雰囲気(米市の出入り者らしい気遣いは
流石)も好ましい。惜しむらくは奥にいる旦那への気配りが不足。また、さん喬
師匠のように、炬燵になった米市一人が起きている場面で、森閑とした雰囲気と
寒さが、体から滲み出ないのは今後の課題。
★たけ平サン『星野屋』・時間を端折るのは悪くないが、地の説明が多すぎる。
お花の髪切り等、重吉の科白で分からせないと。
◆11月25日 上野鈴本演芸場昼席
扇『金明竹』/喬の字『六文小僧』/アサダⅡ世/喬之助『寄合酒』/歌武蔵『漫
談』/元九郎/小満ん『時そば』/馬風『漫談』/遊平かほり/一朝『蛙茶番』//~
仲入り~//ニューマリオネット/玉の輔『マキシム・ド・呑兵衛』/雲助『子褒
め』/のいるこいる/左龍『悋気の独楽』
★一朝師匠『蛙茶番』・東京の落語界で矢っ張り一番優れた「半ちゃん芸」の名
人。リズミカルな愉しさは無類だ。田舎の団体中心の客席で他の出演者は結構苦
労していたが、一人だけ、平気の平左だった。
★左龍師匠『悋気の独楽』・定吉の可笑しさが愉しく、文朝師的な毒は無いとは
いえ、アクが抜けて昼主任に相応しいサイズになった。
◆11月25日 「お芽出亭! 白酒独演会」
昇吉『早口言葉殺人事件』(本当の題名は不明)/白酒『馬の田楽』//~仲入り
~//白酒『木乃伊取り』
★白酒師匠『馬の田楽』・マクラが長く本題は端折り気味。柄は噺にピッタリな
のだが、冒頭、馬を叱る馬方の科白が長すぎて、目白の小さん師匠のように、冒
頭のひと言で世界を作る事が出来ず、それを引きずったまま噺が中途半端で終
わった印象。三州屋のオンジイの可笑しさと、釣の天気を見に来た男の張った調
子に特色はあるが、男はまだ面白くはなっていない。子供の使い方も淡く、もっ
と野暮で良い。動きの可笑しさが乏しいのは不思議。
★白酒師匠『木乃伊取り』・『馬の田楽』同様、田舎者の感情表現がリアル過ぎ
て「落語」でなくなる。特に角海老前半で清蔵(名前は権助だったかな?)が若
旦那相手に怒り出す際の「怒り方」がどうもマンガになってない。清蔵や『馬の
田楽』の馬方はむどちらも白酒師の噺の世界に存在しているのではなく、鹿児島
県出身体育会系愛甲クンの世界に留まっているように思えた。結果、田舎者の登
場せぬ噺と比べて、全体的に噺が西欧型ドラマツルギーに堕して野暮である。一
度、「落語国の田舎者」にマンガ化しなきゃいかんのではあるまいか。若旦那た
ちも、そういう清蔵を面白がる人物でないとね。「馬の田楽」や「15歳」と
いった、アドリブギャグを入れて笑いを取ってはいたけれど、私には苦し紛れに
聞こえた。いつもの噺通り、キャラクターを作れば良いだけなのだ。清蔵を噺家
さんに喩えて言えば、古今亭志ん橋師匠みたいな「融通の利かない所が愉しい
人」だと私は思う。
◆11月26日 上野鈴本演芸場昼席
市助『小町~道灌』/喬の字『寄合酒』/さん喬『六文小僧』/アサダⅡ世/喬之助
『長短』/歌武蔵『漫談』/元九郎/馬風『漫談』/勝丸/一朝『尻餅』//~仲入り
~//ニューマリオネット/玉の輔『動物園』/雲助『新版三十石』/ペペ桜井/左龍
『蛙茶番』
★一朝師匠『尻餅』・二ツ目時代からの傑出した十八番物だけに、本日もまた田
舎の団体中心の客席を相手に、トントントンとリズミカルに運んで、見事に受け
た。丁寧だし下ネタギャグなどなく、飽くまで可愛く可笑しい夫婦噺になってい
るのが凄い。
★左龍師匠『蛙茶番』・半公でなく八五郎。キャラクターはピッタリだし、悪い
出来では無い。ただ、池袋なら兎も角、昼の上野で演るには跳ねっ返りの噺とし
てリズムが緩く、さらに無駄な言葉がかなり多い。結果、客を笑いの波に乗せき
れなかったのは、昨日の一朝師の『蛙茶番』と好対照。「昼席主任の経験不足」
というべきなのかなァ。
◆11月26日 桃太郎・壽輔犬猿二人会
よし好『無学者』/壽輔『自殺狂』/桃太郎『お見立て』//~仲入り~//桃太郎
『結婚相談所2010』/壽輔『文七元結』
★桃太郎師匠『お見立て』・可愛くブチャイクな喜瀬川がやけに可笑しい。特に
座った形。「木久扇の内弟子でした」も笑ったが、「あの人に抱かれるくらいな
ら私は歌武蔵の方がいい」は名台詞だなァ。
★壽輔師匠『文七元結』・いつも通り、吾妻橋から。矢張り長兵衛の庶民感覚、
人の親である情、落語の領域を離れぬ演出は得難い。台詞を発しない町内の頭の
使い方の巧さは様々な演者の『文七元結』の脇役中でも図抜けている。
◆11月27日 上野鈴本演芸場昼席
和楽社中/藤兵衛『時そば』//~仲入り~//ニューマリオネット/圓太郎『締込
み』/雲助『粗忽の釘』/のいるこいる/文左衛門『試し酒』
★文左衛門師匠『試し酒』・まだ稍線は細いが、落語の味わいを堪能した。久蔵
に朴訥さがまずあるから、「これだけの暮らしして、これだけの酒のんで、余程
の悪人だな・・冗談だよ」の科白が余計に愉しく聞こえてくる。酒に酔ってゆく
様子も、目白の小さん師匠に近く、クドくないのにコクがあるのは偉い。強いて
言えば、呑み上げの形がもう一つ派手でありたい。
◆11月27日 日本橋亭夜のひとり噺~入船亭扇辰の会
辰じん『道具屋』/扇辰『三方一両損』/扇辰瀧口雅仁//~仲入り~//扇辰『』
★扇辰師匠『三方一両損』・金太の大家の台詞「江戸っ子だな」は実に可笑しい
んだけれど、リズムが全体に緩いのでジレる。人物の言葉に現れる了見は江戸っ
子だが、テンポやリアクションが江戸っ子とはいえない。
★扇辰師匠『ねずみ』・三代目三木助師⇒扇橋師のテンポで話しているから噺の
脚が常より速いのはプラスポイント。扇橋師のクサ味のない反面、扇辰師の味、
ならではの人物像や視点はまだ浮かび上がってこない。「御礼はタップリ」の科
白で飯田丹下が出るのに、甚五郎の気質は今の所、恬淡とし過ぎて茶人俳人じみ
る。卯之吉や鼠が可愛くないのは声を絞るため。
◆11月28日 小燕枝正蔵の会
たこ平『南瓜屋』/正蔵『熊の皮』/小燕枝『富久』//~仲入り~//正蔵『火事息
子』
★正蔵師匠『熊の皮』・甚兵衛サンは似合い、無邪気に愉しい。一方、かみさん
は稍押しが足りない。先生のリアクションは単調で課題。
★小燕枝師匠『富久』・一時間あったのには驚いた。三代目小さん型で、当然、
酒乱ぶりは長目乍ら、決してクドくないから聞き易い。札を焼いて当たった富が
貰えないと分かってからの久蔵が、言葉も表情も「憔悴したヌラリヒョン」みた
いで酷く可笑しい。このマンガ味が特色だろう。
★正蔵師匠『火事息子』・時間が押したので超端折り型。結果、阿っ母さんが倅
の火事好きから勘当、臥煙になる経過を喋りまくる不思議な展開になったが親父
の怒りの表現は向上している。寄席の夜席主任で、マクラから30分掛けて聞き
たいよ。
◆11月28日 さん喬一門会~入場時の予約・当日のチケット確認がムチャクチャ
(笑)~
一門落語体操/小んぶ『短命』/コント『死神』/喬太郎『イナバさんの大冒険』/
/~仲入り~//寄席邦楽合唱団/さん喬『野晒し』/御挨拶~狸の着ぐるみ深川/
★喬太郎師匠『イナバさんの大冒険』・ハイテンションとローテンションが交互
したのが気になる。本来、新作でも旧作でも、ハイテンションである所に喬太郎
師匠の魅力があると私は思うんだけどね。
★さん喬師匠『野晒し』・久々なのか、噛んだり、言葉間違い多し。サイサイ節
も後半の調子が外れた。釣糸を頭上で張る仕種も「こんなだったっけ?」という
印象。ただ、大声・高声の件は若い頃の勢いを思わせた。
◆11月29日 上野鈴本演芸場昼席
歌武蔵『大安売』/元九郎/さん喬『天狗裁き』/馬風『漫談』/遊平かほり/一朝
『幇間腹』//~仲入り~//ニューマリオネット/圓太郎『壷算』/雲助『町内の若
い衆』/のいるこいる/左龍『百川』★一朝師匠『幇間腹』・丁寧で普段より長
目。その分、中だるみ仕掛けたが終盤でキッチリ持ち直した
★左龍師匠『百川』・総体がマンガになっているのが佳い。特に、百兵衛のキャ
ラクターが程よく派手目なのが愉しい。一方、河岸の若い衆たちの了見はよいの
だが、口調が稍遅い。百兵衛と河岸の若い衆たちの会話で、遅速の差がもう少し
出ると可笑しさ&落語らしさが増す筈である。
★圓太郎師匠『壷算』・主体は妙に貫禄のある状態からステップダウンしてパ
ニックに陥る瀬戸物屋の主人で、途中からのon⇔offのギャップがバカに可
笑しい。買い物に来る二人はどちらかと言えば添え物的存在。
★雲助師匠『町内の若い衆』・見た目に可愛らしい師匠だから、かみさんの凄ま
じさが言葉の段階に留まるのが惜しい。この噺と『短命』で先代圓楽師を凌ぐほ
ど愉しく可笑しい人は中々出ないね。
◆11月29日 道玄坂落語会 遊雀事始
昇々『子褒め』/遊雀『嚔講釈』/昇太『そば清』//~仲入り~//遊雀『御神酒徳
利』
★遊雀師匠『嚔講釈』・寄席サイズの簡略型。やや抑え気味かな。
★昇太師匠『そば清』・そばを食うねずみ男みたいな所が矢鱈と可笑しい。昇太
師のオバチャン芸な所が「そばの清さん」にはよく現れている。半面、紅い草を
知る件はテンションが下がる。本当に説明が嫌いなんだなァ(笑)。昇太師なら別
に「そばを矢鱈と食べる男がいましたとさ」で終わっちゃっても構わない噺だと
思う。
★遊雀『御神酒徳利』・いわば落語版『HowToSucceed』で、ストーリーを聞かせ
る、私などには聞くのが煩わしい噺になりがちな圓生・三木助型にも関わらず、
省略が巧く、無駄な説明なんて無く、トントンと運んで楽しませる。しかも終
盤、稲荷の託宣を受けて善六が芝居掛かりになる件では、形や科白廻しが世話物
の骨法にちゃんと適っているからお見事。キャラクター的には善六のかみさんの
イケシャアシャアとしてるのが一番面白い。善六はもっと困りキャラを強く出せ
ると更に面白くなると思うよ。
◆11月30日 上野鈴本演芸場昼席
アサダⅡ世/喬之助『六文銭』/百栄『トビの夫婦』/元九郎/小袁治『悋気の火の
玉』/馬風『漫談』/遊平かほり/一朝『短命』//~仲入り~//ニューマリオネッ
ト/玉の輔『宗論』/雲助『夏泥』/のいるこいる/左龍『甲府ぃ』
★左龍師匠『甲府ぃ』・淡彩だが、比較的脚の速い運びで聞き心地が良い。豆腐
屋主の江戸っ子ぶりもクサくなく、チョイ役の長屋の夫婦やかみさん連は相変わ
らず愉しい。善吉も息苦しいほど堅真面目な印象はなく、スッキリ仕上がってい
る。それだけにコクを感じないのが課題か。
★一朝師匠『短命』・サラッと軽妙で実に愉しい。隠居が怒り出すのも無理ない
八五郎の鈍さと変なリアクション、体のキレが抜群。かみさんも別に怪物じみな
いのに遣り取りが可笑しい。かみさんの「隠居さんも死んだの?」には笑った。
かみさんの投げた茶碗を背伸びして八五郎が取る仕種の素晴らしさ。『短命』の
お手本。
◆11月30日 圓馬招演会
小笑『子褒め』/圓馬『掛取尻餅』//~仲入り~//一矢/圓馬『宿屋の富』
★圓馬師匠『掛取尻餅』・掛取りで薪屋を撃退してから尻餅に掛かる展開。尻餅
に掛かってからは稍演出が粗っぽい。亭主は暢気で良い。この人、笑顔が良いん
だな。かみさんをもう少し可愛くしたい。全体の雰囲気に凍てつく大晦日の寒さ
の片鱗はある。
★圓馬師匠『宿屋の富』・富当日の境内で沢山富札を持ってる男が「富を当てて
家を建てたい」「どうして?」「これだけ富札を買うのに家売っちゃったから」
というのは馬鹿に可笑しかったが其処以外は上半身を揺らす癖のため、どうも慌
ただしく噺にメリハリが付き難いのは惜しい。
石井徹也(放送作家)
投稿者 落語 : 2010年12月03日 00:59