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2010年11月05日

石井徹也落語レビュー 2010年10月分

放送作家・石井徹也さんによる寄席、落語会のレビューを掲載します。
10月1日から31日までの寸評です。
さて皆様のご意見は・・・?

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◆10月1日池袋演芸場昼席
ぽっぽ『牛褒め』/一之輔『初天神』/花いち『垂乳根』/柳朝『権助魚』/勢朝
『大師の杵』/白酒『つる』/一朝『壷算』//~仲入り~//玉の輔『お花半七』/
市馬『目黒の秋刀魚』/圓太郎『甲府ぃ』

★白酒師匠『つる』
・・・何度聞いても可笑しい。隠居のテレ方のせいかな。
★一朝師匠『壷算』
・・・25年ぶりくらいに一朝師匠から聞いた噺だが、非常に運びが丁寧で、
かつ軽妙に面白い。
★圓太郎師匠『甲府ぃ』
・・・やや簡略型だが、豆腐屋親父のキャラクターの面白さは不変。現在の『甲
府ぃ』ではピカイチだと思う。

◆10月1日第一回Women's落語会
ちよりん『プロレス少女伝説』/白鳥『新婚妄想曲』//仲入り//こみち『白鳥版明烏』

★ちよりんさん『プロレス少女伝説』
・・・女々してない楽しさあり。
★白鳥師匠『新婚妄想曲』
・ ・・モテない男が結婚する予定の、帰郷したかつての美人同級生の過去に
ついて苦悩する姿の可笑しさが切なくリアルで可笑しい。
★こみちさん『白鳥版明烏』
・ ・・実際には「女性視線」の構成になっていないので期待外れ。これは女
性噺家が演じるための噺でなく、白鳥師匠が自分で演じる噺である。

◆10月2日第九回東西笑いの喬演
三金『奥野君の選挙』/三喬『転宅』/喬太郎『野晒し』/~仲入り~/喬太郎『いし』/三喬『次の御用日』

★三金サン『奥野君の選挙』
・ ・・デブの主張と自虐なら、唐沢なをきの『旗本ダイエット侍』くらいの
可笑しさは欲しいところ。以前は 130瓩あり、洋食屋で7皿食べるのが普通で「5
F(ファッツの略だってんだから馬鹿にしてやがる)」の服を着ていた私はそう感
じた。
★喬太郎師匠『野晒し』
・ ・・ハチャメチャだから可笑しいのでなく、ハチャメチャで荒れてる雰囲
気だったから少し怖い。

◆10月3日さりゅうのじかん その参
おじさん『子褒め』/左龍『葱鮪の殿様』/~仲入り~/左龍『文七元結』

★左龍師匠『葱鮪の殿様』
・・・今まで聞いたこの噺では一番面白い。殿様が可愛いいし、無邪気。
★左龍師匠『文七元結』
・ ・・先日、池袋演芸場でさん喬師匠が演じたのとほぼ同じ演出だが、長兵
衛が、何だかいい加減な江戸っ子・都会人で、このキャラクター一つで見事に全
体が落語になっいる。佐野槌の女将も怖くなく情の人。文七もあくまで若く、精
神的に幼いのは扇橋師匠以来久しぶり。

◆10月4日池袋演芸場昼席
花いち『幇間腹』/柳朝『後生鰻』/勢朝『荒茶の湯』/白酒『転宅』/一朝『短
命』//~仲入り~//玉の輔『宗論』/市馬『欠伸指南』/圓太郎『試し酒』

★圓太郎師匠『試し酒』
・・・骨太で結構な出来だが、酒を飲む音を出しすぎ
るのと、最後に五升の酒を飲み上げた形に魅力のないのが惜しい。
◆10月4日ぎやまん寄席番外編『菊之丞白酒二人会』
歌る美『堀ノ内』/白酒『だくだく』/菊之丞『寝床』//~仲入り~//菊之丞『湯
屋番根』/白酒『火焔太鼓』
★白酒師匠『だくだく』
・・・更に構成が変化して、簡潔になりながら、最後の場面で泥棒と主人公
の戦いがグレードアップ。忍者風煙玉VS心眼になったのには大笑い。
★菊之丞師匠『寝床』
・・・珍しい圓蔵師匠型。漏斗で老婆のみみに義太夫わ吹き込んだりする。
旦那が癇癖な点は黒門町風たが。旦那から「お前は?」と言われた時
の茂蔵のリアクションが素晴らしい。

◆10月5日池袋演芸場昼席
一左『垂乳根』/花いち『桃太郎』/柳朝『悋気の独楽』/勢朝『池田屋(上)』/菊
志ん『湯屋番』/一朝『短命』//~仲入り~//歌奴『浮世床・将棋・夢~本オチ』/市馬『時そば』/圓太郎『西行・阿漕~鼓ケ滝』

★菊志ん師匠『湯屋番』
・・・軽快洒脱。
★柳朝師匠『悋気の独楽』
・・・定吉が可愛いい。
★歌奴師匠『浮世床』
・・・定番の噺だが、細部の気配りがあって、しかも明るく芸容が大きい。
★圓太郎師匠『西行』
・・・前半、阿漕が浦は馬鹿馬鹿しい色気地噺として可笑しいが、半面稍語り口
がクドめ。鼓ケ滝は骨太に聞かせて立派。西行が武士より世捨て人の歌詠みらし
く、硬くなり過ぎていないのも佳い。

◆10月5日池袋演芸場夜席
一力『子褒め』/右太楼『釜泥』/百栄『誘拐犯頼り』』/左龍『粗忽長屋』/三三『口入屋』/権太楼『厩火事』//~仲入り~//我太楼『千早振る』/さん生『きゃいのう』/甚語楼『宿屋の仇討』

★甚語楼師匠『宿屋の仇討』
・・・河岸の三馬鹿トリオの収まりのつかない跳ねっ返りぶりと宿屋の喜助
の困り方、世話九郎の一寸陰な恐さの組合わせが非常に可笑しい秀作。
★権太楼師匠『厩火事』
・・・人情噺的な雰囲気を強めながら、お崎さんの可愛さ、掃除好きな亭主の性
情が面白く対照してちゃんと落語になってる。
★さん生師匠『きゃいのう』
・・・抑えた語り口なのに終盤の盛り上げが巧い。
★百栄師匠『誘拐犯人頼り』(本題名不詳)
・・・誘拐犯を通してしか会話出来ない父娘が実に可笑しく、誘拐犯が変に
良い奴なのも楽しい。

◆10月6日池袋演芸場昼席
一力『垂乳根』/一之輔『手紙無筆』/花いち『転失気』/柳朝『真田小僧』/勢朝『財前五郎』/白酒『短命』/一朝『芝居の喧嘩』//~仲入り~//種平『お忘れ物承り所』/市馬『転宅』/圓太郎『竃幽霊』

★市馬師匠『転宅』・・・久しぶりに聞いたが、邪気の無いスッキリした出来
★圓太郎師匠『竃幽霊』・・・重い運びだが、独自の可笑しさがある。

◆10月6日月刊談笑10月号
談笑『居残り佐平次』/~仲入り~/談笑『品川心中』

★談笑師匠『居残り佐平次』
・・・佐平次による女郎屋の乗っ取りが、安いカリスマによる「情報に弱い
現代人煽動」になっているだけに、いっそ佐平次が「日本人てはない」
くらいのケレン味・現実感が欲しい。店の旦那が最後にホワイトナ
ト的な発言をするのは興醒めで、「テレビ的正義」にしか聞こえない。
★談笑師匠『品川心中』
・・・家元のロマンティストぶりを継承した展開だが陰気なラブロマンスに
するには、江戸時代的な制約が二人の背景に無いから、結局、もって
回った男の自己満足に聞こえる。特にお染の中にあるべき「女から嫌
われる女」の要素が構成から欠如しているので人物が立ち上がらない。
最後に佐平次を出すのも落語半端マニア向け場当たりを感じる。結果
として、二席とも後半は殆ど笑えず、落語と称するには致命的。
小三治師匠の噺にも言えるが、こういう、代理店のマーケットリサーチを参考に
したみたいな作り方を「お局好み」というのである。

◆10月7日池袋演芸場昼席
花いち『金明竹』/柳朝『黄金の大黒』/勢朝『紀州馬風』/玉の輔『財前五郎』/
一朝『七段目』//~仲入り~//白酒『替り目』/市馬『目黒の秋刀魚』/圓太郎『化物遣い』

★圓太郎師匠『化物遣い』
・・・声がデカイので隠居の口喧しさは出るが笑い難い。杢助の田舎者ぶり
は佳い。大きな目の一つ目小僧が可笑しい。
★白酒師匠『替り目』・・・可笑しさ無類。
★一朝師匠『七段目』・・・綺麗で巧くて定吉のリアクションが素晴らしい。

◆10月7日池袋演芸場夜席
木りん『初天神』/ほたる『強情灸』/我太楼『子褒め』』/志ん橋『酒粕~から抜け』/三三『高砂や』/権太楼『嚔講釈』//~仲入り~//丈二『権助魚』/左龍『お花半七』/文左衛門『笠碁』(代バネ)

★志ん橋師匠『酒粕~から抜け』
・・・運びはユッタリだが古今亭与太郎噺の典型の軽妙さに唸る。
★文左衛門師匠『笠碁』・・・二人が可愛くなった!
★左龍『お花半七』・・・叔父さんの濃さが面白い。
★権太楼師匠『嚔講釈』
・・・全体のテンションは年齢・体力的になのか、些か下降気味だが、「大
丈夫ですか?」のレアクションなどは相変わらず最高に可笑しい。

◆10月8日池袋演芸場昼席
花いち『狸の札』/柳朝『ひと目上がり』/勢朝『袈裟御前』/白酒『権助魚』/小里ん『碁泥』//~仲入り~//丈二『極道のバイト達』/市馬『高砂や』/圓太郎『らくだ(上)』

★圓太郎師匠『らくだ(上)』
・・・後半まで聞きたい演目。噺の運びがクドくなく、演劇にせずバカバカ
しい泥酔酒飲み噺になっている。腰の低い屑屋の酔いの深まり方もさ
りげなく巧い。兄貴分も妙に根がマジで結構な人格。カンカンノウで
動くらくだの死骸の可笑しさ、「脚が反対側に折れて汁がピッピピッ
ピ飛んで」のグロな楽しさ!

◆10月8日市馬喬太郎ふたりのビッグショー
市江『幇間腹』/市馬『付き馬』//~仲入り~市馬・はだか・えり『音曲茶番~転宅』/喬太郎『宮戸川』

★市馬『付き馬』
・・・サラッとした演じ方で、落語らしい洒脱さを感じる半面、詐欺師・騙
りの面白さや巧妙さには乏しい。
★喬太郎師匠『宮戸川』
・・・前半の「お花半七」の件から、人情噺っぽく笑いを抑えた口調で進め
た。人情噺に精彩を見せる喬太郎師だけに、「通し」の場合はこの語
り口の方が似合うように感じた。

◆10月9日第3回大手町落語会
『』/一之輔『鈴ケ森』/百栄『お血脈』/文左衛門『ちりとてちん』/桃太郎『金満家族』//~仲入り~//権太楼『文七元結』

★桃太郎師匠『金満家族』
・・・この噺は寄席より大手町などで聞いた方がバカバカさしが引き立つね。
★一之輔サン『鈴ケ森』・・・細かい改訂があって可笑しさup
★権太楼師匠『文七元結』
・・・悪い出来でなく落語らしさも十分にあるが、今日は長兵衛も文七も泣
きすぎの「センティメンタル江戸っ子」で稍感興を殺ぐ。

◆10月10日第一回正蔵・馬石・一之輔の会
たこ平『時うどん』/一之輔『明烏』/正蔵『蜆売り』//~仲入り~//馬石『妾馬』

★一之輔さん『明烏』
・・・いつもほどギャグ中心でなく、時次郎・源兵衛・太助・女将のキャラ
クターとリアクションで沸かせた。無理な背伸び感がなく結構な出来。
★正蔵師匠『蜆売り』・・・安定しながら、少しずつ笑いを増やしている印象。
★馬石師匠『妾馬』
・・・雲助師匠型。殿様に品があるし、三太夫さんも的確。笑いのポイント
も外していない。最後に八五郎がメソメソしないのは佳演出。強いて
言えば、柄違いだけに八五郎はもう少し荒っぽくても良い。

◆10月10日新宿末廣亭夜席弥助改め三代目蜃気楼龍玉襲名真打昇進披露興行
やえ馬『転失気』/才紫『他行』/小んぷ『野晒し』/蔵之助『ひょっとこそば』/小燕枝『権助提灯』/雲助『強情灸』/伯楽『家見舞』/馬風『二世噺家』//~仲入り~//口上~金馬・馬風・伯楽・雲助・正蔵/正蔵『味噌豆』/金馬『親子酒』圓窓『十徳』/仙三郎社中/龍玉『子は鎹』

★龍玉師匠『子は鎹』
・・・にぎわい座の一門会での口演より、全体の雰囲気が明るくなった。特
に亀坊。亀と放している時に垣間見せる熊さんの孤独感も出色。半面、
かみさんは余りに陰気過ぎる。いつも溜め息ばかりついて亀を絶望さ
せそう。
★金馬師匠『親子酒』・・・押していたので短めだが演出の巧さに舌を巻く。
★雲助師匠『強情灸』・・・真にバカバカしく楽しい。

◆10月11日特別展示隅田川記念『隅田川づくし~さん喬独演会』
小んぶ『子褒め』/さん喬『夢金』/『おせつ徳三郎』//~仲入り~//さん喬『船徳』

★さん喬師匠『夢金』
・・・侍が二枚目だし、熊も愛嬌がある。「船の後ろを雪が追いかけるよう
に」という言葉は実に巧い言い回しで、江戸の牡丹雪を感じさせる。
★さん喬師匠『おせつ徳三郎』
・・・全体を通して、笑いを意識して人情噺にしすぎていないのは良いが、
後半の「刀屋」からオチまでが妙に短く、刀屋主人の諫言が今一つ、
こちらに来ない。
★さん喬師匠『船徳』
・・・船を漕ぎ出してからの徳さんのテンションが高く、この噺でも笑いの
増量と「落語らしさ」への傾倒が感じられるが、どちらかというとメ
ロディの変化ばかりで、この噺らしい勢いやテンポが物足りない。

◆10月12日「立川談笑月例独演会スペシャル其の107回“銀座夜噺2Days”」
談笑『堀の内』/談笑『天災』//~仲入り~//談笑『豊志賀』

★談笑師匠『天災』
・・・八五郎が名丸を殴りつけるこの演出は、家元の落語理論が四代目・五代目
小さんの落語の創作力・非論理的落語造りに負けた事を解説をしているもの、と
いうべきだろう。反逆者は戦後する事がない、という意味で名丸の語る「お前は
負け犬」の指すのが「家元自身」だということが、弟子が語ることで却って良く
分かる。
★談笑師匠『豊志賀』
・・・豊志賀と新吉の年齢を五歳ずつ下げたのは、豊志賀の美貌と新吉の幼い身
勝手さを出す効果になっている。圓朝の野暮ったさが立川流に適するのか。それ
にしては新吉が豊志賀の回復に未練を持つのは年齢設定に反して、談笑師匠の了
見過ぎる。豊志賀の嫉妬が顔面の病の根になる辺りから、後半の怪談噺は病気悪
化の日時を四~五日に縮め、日寿司屋・駕籠を省くことで簡略化し、恐怖効果を
高めたが、それが深見家との因果から逃れる豊志賀の謀、という終幕は蛇足。妲
妃のお百でもあるめェし、家元の嫌いな「可愛くない女」になる。大体、新吉が
お久の面体に見た豊志賀の生霊は何だったのか?という謎が増えてしまう。豊志
賀・新吉が深見家と皆川家の因縁を知ってるってのも、この一席では?マーク。

◆10月13日「六代目圓生トリビュートの会」
兼好『八九升』/市馬・白鳥「圓生談義」/圓生(狂歌・喧嘩・義太夫)~市馬『掛取萬歳(芝居・美智也・萬歳)』//~仲入り~//圓生~白鳥『淀五郎~聖橋』

★市馬師匠『掛取美智也』
・・・後半だけだが可笑しく楽しく堪能。
★白鳥師匠『聖橋』
・・・噺が大分まとまって来ている。特にダンシ師匠の辺りにそれを感じる。反
面、主人公が山海塾みたいな白塗りになる演出はどうかなァ・・あと、聖橋で久
蔵に突き落とされたハクチョウ師匠は、どうなっちゃったんだろう?

◆10月13日「悠々遊雀7」小曲『牛褒め』/遊雀『宿屋の仇討』//~仲入り~//うめ吉/遊雀『庖丁』

★遊雀師匠『宿屋の仇討』
・・・声が小さく三馬鹿トリオの跳ねっ返りがパッとしない。万事世話九郎は二
枚目声で硬さもあるが稍陰気。手の打ち方が下手で効果的でない。喜助はシャー
シャーとしてるのが可笑しい。
★遊雀師匠『庖丁』
・・・言葉のギャグで笑いを増やしているけれど、寅が好色でなく、延安喜は科
白も仕草も色気不足。もっと遊雀師の好みの女を出さないと。久次の気弱さが妙
に似合う。「梅にも春」はマァマァ。

◆10月14日池袋演芸場昼席東京ボーイズ/傳枝『粗忽の釘』/夢花『居候』/京大ゆめ子/圓輔『夢の酒』/壽輔『生徒の作文』//~仲間入り~//マグナム小林/幸丸『漫談』/圓『殿様団子』/マジックジェミー/金遊『ねずみ』

★金遊師匠『ね
ずみ』・・錦平師匠的抑制だがオチの鼠のひと言は軽妙至極。甚五郎も二代目政
五郎も職人気質。中盤の展開が地味過ぎる。
★圓輔師匠『夢の酒』・・派手目で楽しく、嫌らしくない色気アリ。

◆10月14日「月例三三独演」
時松サン『河豚鍋』三三師匠『猫の皿』/三三師匠『宗論』//~仲入り~//三三師匠『甲府ぃ』

★三三師匠『猫の皿』
・・・馬桜師匠の型に近いが、サラッと演じているばかりで、嫌味は無い半面、
志ん朝師匠みたいには風景が浮かばない。
★三三師匠『宗論』
・・・小三治師匠原型。それだけに若旦那を演じるのにテレの無い詰まらなさが
目立つ。
★三三師匠『甲府ぃ』
・・・クスグリが抜けたり、母親とお花の遣り取りを端折ったりと、気力充実し
なかった印象的。結果、最後の「甲府ぃ、御詣り、願ほどき」にも、以前に聞い
た時のような、傳吉の喜びや安堵感がなく通り一遍の出来。『宗論』とこの噺を
続けたのも抹香臭くて感心しない。

◆10月15日池袋演芸場昼席扇鶴/傳枝『寄合酒』/夢花『代脈』/小天華/圓輔『船徳(中)』/壽輔『藪入り』//~仲間入り~//花/紫『熱湯風呂』かっぽれ/歌助『お花半七』/京大ゆめ子/金遊『心眼』

★金遊師匠『心眼』
・・・巧い!重くなり過ぎず、20人強のお客にもちゃんと受ける落語らしさ。お
竹が梅喜の手を取る仕草の情愛のクサくない良さ、会話のリアクションの確か
さ、杖のコトコトと響く音の実感。最後の笑いで客席を陰気にしない点など近年
聞いた中では一番の『心眼』。
★壽輔師匠『薮入り』
・・熊の父性、かみさんの母性(抱き抱える形の情愛)、子供の背伸び感など泣か
せ過ぎず良い所ある半面、シャワーとか入れ事の邪魔な面もある。

◆10月15日
「落語教育委員会in練馬」小んぶ『家見舞』/歌武蔵『鹿政談』//~仲入り~//喜多八『片棒』/喬太郎『笑い屋キャリー~キャリーVSモギリのお扇・寄席風雲録』

★歌武蔵師匠『鹿政談』
・・・地噺に時代劇のルティーンをプラスした、粗めの演出だが、これはこれで
可笑しい。
★喜多八師匠『片棒』
・・・次男を最初から祭気違いにした設定は可笑しいが、親旦那の吝嗇ぶりが柄
に無いので「バカーッ」が活きない
★喬太郎師匠『笑い屋キャリー』
・・・雲助師・圓丈師・さん喬師の物真似入り、カルト&マニアック噺だけど、
根っこが陰気なのは喬太郎師らしい。特に能登浜の場面。

◆10月16日
「秋の文左衛門大会」
いっぽん『桃太郎』/文左衛門『猫の災難』//~仲入り~//ストレート松浦/文左衛門『大仏餅』

★文左衛門師匠『猫の災難』
・・・馬風師匠・小三治師匠の目白型とは可愛さが違うし、目白より酒好きの度
が強いが決して卑しくはない。酔い方にまだブレはあるものの、酒を飲む楽し
さ、悪口を言いながらも香る友情と魅力横溢。「鯛が頭にコンコンッ」や「そう
じゃないもん」と手足をバタバタさせる幼児性も似合って楽しい。「しばらくだ
なァ」も、目白の声色的でないのが良い。十八番になる噺。
★文左衛門師匠『大仏餅』
・・・俄乞食を「木場の近江屋卯兵衛」にして演じた。乞食の世話を嫌がる丁
稚・番頭と和泉屋の件で笑いを増やしながら、「乞食」と蔑まれる哀れも感じさ
せた。和泉屋が一寸気遣い不足に感じられる点を解消すれば、好演出となるだろ
う。近卯の倅は黒門町のように「子役じみた泣きっ喋り」でなく、嫌らしくない
可愛らしさと哀れは特筆もの。和泉屋と番頭が雪降りを語る会話から入る演出も
佳い。

◆10月17日
第57回「扇辰喬太郎の会」辰じん『手紙無筆』/扇辰『紋三郎稲荷』喬太郎『湯屋番』//~仲入り~//喬太郎『故郷のフィルム』扇辰『味噌蔵』

★扇辰師匠『味噌蔵』
・・・赤螺屋の吝嗇ぶりや店の者のキャラクターなど可笑しい半面、余りにも長
い。押す口調だから集中して聞こうとすると凄く疲れる。
★扇辰師匠『紋三郎稲荷』
・・・この程度の尺が扇辰師を聞くには楽。オチがクサいが手に入った噺で平馬
のイケシャアシャアが良く、駕籠屋や本陣主の緊張ぶりも楽しい。
★喬太郎師匠『湯屋番』
・・・マクラを振り過ぎたせいか、本題は冒頭からイマイチ。若旦那のヘナヘナ
ぶりは柄にあるのに、飯の件から湯屋への道筋、番台の前半、目白演出通りの部
分が覇気無く詰まらない。特に湯屋の客たちに全くエネルギーを感じない。雷が
落ちる辺りから復活したがオチ際が再び詰まらなくなる。道筋から妄想の始まる
圓生型の方が似合うか。
★喬太郎師匠『故郷のフィルム』
・・・ハチャメチャ風ハーフホラーで中盤以降の展開は大林監督の『ハウス』や
伊丹監督の『スイートホーム』、舞台のホラー戯曲系の雰囲気がある。暗くて可
笑しい噺が似合うなァ。

◆10月18日(昼公演)
「SWAクリエイティウ゛ツアー“この噺があんな風に”」
白鳥『かわうそ島の花嫁さん』喬太郎『本当は怖い松竹梅』//~仲入り~//彦いち『厩大火事』昇太『本当は怖い愛宕山』

★彦いち師匠『厩大火事』
・・・単体で「良い人」の旦那が酷い目にあう噺で通用する。旦那が「良い人」
らしく我慢しようと震えるのが彦いち師匠の柄にピッタリ。オチは『後生鰻』と
かぶるから首くくったでも良いのでは。
★昇太師匠『本当は怖い愛宕山』
・・・『愛宕山』抜きで本題だけゆえサイズが丁度良く楽しめる。狼が一八のヨ
イショに乗せられる件が最高に可笑しい。
★白鳥師匠『かわうそ島の花嫁さん』
・・・なるほど、二ツ目時代の作らしく元ネタの『大工調べ』に縛られ発想が広
がっていない。今作ったら遥かに可笑しい構成になるだろう。
★喬太郎師匠『本当は怖い松竹梅』
・・・これも『松竹梅』抜きで『半七捕物帳』の「勘平の死」的展開の方が面白
いのでは?隠居の金田一耕助的存在感が勿体無い。聞いてて「『ロミオ&ジュリ
エット』は『ロミオ&ジュリアーノ』でも良いんだ」と考えていた。

◆10月19日
「立川生志独演会ひとりぶたThePREMIUM地獄八景東京初演スペシャル」
生志『地獄八景色亡者戯』

★生志師匠『地獄八景亡者戯』
・・・イントロのビデオやマクラが長く、笑いは取れたが、会場の大きさに対し
て盛り込み過ぎ。結果、本題序盤の地味な鯖男と隠居の遣り取りが沈んだのを引
き摺り、河豚で死んだ若旦那一行、幇間一八と茶屋娘の件までも受けきれず。言
い間違いも多くてリズムに乗り損ねた。
三途川の病船賃辺りから漸く受け始め、地獄に着いて「獄道一号線」から駅名の
時事ネタ入れもじりや念仏町のキツい洒落は可笑しい。半面、此処までに時間が
掛かり過ぎ、芸披露やにぎわい座初演で抜群だった亡者四人の件が急いた感じ
で、軽業師の針の山登りが初演のおおらかな楽しさに欠けたのは惜しい。

◆10月20日国立演芸場
半輔『ひと目上り』/馬吉『元犬』/圓太郎『六銭小僧』/笑組/左橋『紙屑屋』/〆治『阿武松』//~仲入り~//だるま食堂/丈二『』/ペペ桜井/馬生『お直し』

★馬生師匠『お直し』
・・・女扱いの巧い技扶太郎らしい亭主と、美人花魁上がりらしく気の強い女房
の高っ調子の遣り取りが噺を陰気にせず落語の可笑しさを保っているのは出色。
最後の仲直りも陰気にならない。好色(という楽屋噂)の長と言うべきか。

◆10月20日
「我らの時代 落語アルデンテⅡ」
ぽっぽ『金明竹』/一之輔『粗忽の釘』百栄『後日の譚』//~仲入り~//白酒『四段目』/兼好『猫の災難』

★一之輔サン『粗忽の釘』
・・・淡彩だが独特の大粗忽で可笑しい。夫婦噺としては稍淡白だが、尻が大き
くて脇の下のプヨプヨしたかみさん像は浮かんで楽しい。
★百栄師匠『後日の譚』
・・・『桃太郎』の犬猿雉が小悪党で「褒美が少ない」と村に居座り、大虐殺し
た桃太郎は閉じ籠りになってる、という設定は面白いが、後半尻すぼみ。
★兼好師匠『猫の災難』
・・・小三治師匠系で而もアッサリした展開。主人公は本当の酒好きではない。
聞いていて酒を呑む楽しさが感じられず、芸が小股掬いだなァ。そのため、序盤
の表情など圓生師匠風に小狡く見える。兄貴分との友情も曖昧。『一人酒盛』の
方が似合いそう。

◆10月21日池袋演芸場昼席やえ馬『転失気』/金兵衛『壽限無』/しん平『豆屋』/白酒『六銭小僧』/アサダ/雲助『鰻屋』/馬風『漫談』/ペペ/川柳『八九升』//~仲入り~//口上/勝丸/文楽『看板のピン』/歌る多『松山鏡』/権太楼『代書』/小菊/小せん『ガーコン』

★小せん師匠『ガーコン』
・・・声がクルーナータイプなので軍歌になると稍メリハリを欠くが「音楽地
噺」としての展開は可能性アリ。
★歌る多師匠『松山鏡』
・・・少し早口過ぎるがアニメ声を活かして可笑しい
★しん平師匠『豆屋』
・・・何を演っても可笑しいなァと感心しちゃった。
★権太楼師匠『代書』
・・・今日は中々パワフル。

◆10月21日芸術協会若手特撰会
『子褒め』/松之丞『桃井源左衛門』/花助『七度狐』/柳好『お見立て』/金遊『置き泥』//~仲入り//~南なん『幇間腹』/章司/柳好『茶の湯』

★金遊師匠『置き泥』
・・・丁寧で、一寸した表情に泥棒の気弱さがサッと出る。全体に枯淡剽逸な佳
品。
★南なん師匠『幇間腹』
・・・一八の躁鬱的リアクションと全然若旦那に見えない若旦那のギャップが珍
妙。
★柳好師匠『茶の湯』
・・・昇太師匠型。動きの可愛さは劣るが、珍妙でダイナミックでもある。

◆10月22日
桂平治独演会
市也『牛褒め』/朝也『幇間腹』/平治『肥瓶』//~仲入り~//市馬『トンコ節粗忽の釘』/平治『らくだ』

★平治師匠『肥瓶』・・タップリ40分。新聞紙が飯か
ら出てきて汚く聞こえないのは稀有。豆腐の猫の火傷跡や年増が脱衣場で転がる
『湯屋番』が聞きたい
★平治師匠『らくだ』
・・・頸骨鳴りはイマイチだが屑屋の酔って変化する迫力、くど過ぎない怒りと
悲しみ、髪毟りの凄さは不変。先代小染師匠が焼き場で願人坊主に言わせた「熱
い?!」を演らせたいなァ。
★市馬師匠『トンコ節粗忽の釘』
・・・いつもより稍饒舌で可笑し味も強い。粗忽亭主の無自覚さもグレードアッ
プ。トンコ節には驚いた。

◆10月23日正蔵、正蔵を語る
たけ平『紙入れ』/菊之丞『金明竹』/正蔵『穴泥』//~仲入り~//正楽/正蔵『山崎屋』

★正蔵師匠『山崎屋』
・・・かなり噛んではいたが、若旦那・親旦那・番頭・頭と持ち味で嫌な奴がい
ない楽しさ。ケチでスケベな親父が徳の変化を喜ぶ「金を取られても嫌な気持が
しない」のセリフも佳い。
★正蔵師匠『穴泥』
・・・序盤から稍重い。徳利を集め過ぎるが酔いから子供をあやす件は良い。後
半の横浜の平さんの跳ねっ返りぶりがまだ足りない。
★菊之丞師匠『金明竹』
・・・師には珍しいネタだが、使いの男が面倒臭くなり、余計早口になるのが可
笑しい

◆10月23日三田落語会夜の部
さん市『金明竹』/さん喬『長短』/喜多八『宿屋の仇討』//~仲入り~//喜多八『目黒の秋刀魚』/さん喬『文七元結』

★さん喬師匠『文七元結』
・・・今年聞くのは四回目の噺だが、長兵衛の「忘れたのかァ…良かったなァ」
に今回は感激。益々落語化中。
★さん喬師匠『長短』
・・・短七の袂に火玉を放り込む動きの鋭さと、長サンのホワホワ感の相反する
落語性高さが魅力。
★喜多八師匠『宿屋の仇討』
・・・奥方は義弟に謝って斬られる演出。金も盗まず、寄席で聞いた講釈の筋と
いう設定。江戸三バカトリオの騒ぎも可笑しいが稍作りものめく。一方、武士の
二枚目声と刀に手をやった怖さは先立つ。
★喜多八師匠『目黒の秋刀魚』
・・・屋敷の二階から目黒の方を見て涙ぐむ殿様の可笑しさ。長くて黒いものが
秋刀魚に見えて鞘にかじりつくとは爆笑。

◆10月24日甚語楼白酒二人会
朝呂久『導灌』/甚語楼『犬の目』/白酒『風呂敷』//~仲入り~//白酒『だくだく』/甚語楼『抜け雀』

★甚語楼師匠『犬の目』・・圓十郎型。もっとクドくし
た方が可笑しい。シャボン先生が下らない事を言った後を豪傑笑いとかでファ
ローしないと。圓十郎師匠のフワフワした可笑しさは出ないから
★白酒師匠『風呂敷』
・・・兄貴分の珍言解釈を「一つでも人参」などに総取っ替えで爆笑。その分、
後半は面白さが稍尻すぼみ。「国技館の警備員みたいな」という形容詞は可笑し
いけれどね。
★甚語楼師匠『抜け雀』
・・・倅絵師が父の絵に対した時の緊迫感と敬意が第一の出来で人情噺的。全体
的には調子の強弱に難があり、日本橋亭では大声過ぎて噺が平坦に聞こえる。宿
屋のかみさんも大声で煩い。絵師親子が持ち味で偉そう、というか稍嫌味な分、
宿屋主のリアクションで笑いに変えた方が得では。宿屋の主は持ち味で困り方が
あう。父絵師に宿屋の主人が言う「貴方、もしかして一文無し?」には笑った。

◆10月25日よってたかって秋落語21世紀スペシャル寄席OneDay
辰じん『道灌』/三三『締込み』白鳥『聖橋』//~仲入り~//百栄『甲子園の魔物』/喬太郎『すみれ荘201号』

★喬太郎師匠『すみれ荘201号』
・・・銀座福家書店本日閉店記念。「持ち上げておいて叩くって何だよ」「も
う、何とかナンバーワンなんていいんだよ」など、痛切な言葉あり。
★百栄師匠『甲子園の魔物』(今輔師匠作)
・・・悪魔の口調がすでに今輔師匠なのが妙に可笑しい。オチが弱いので印象が
薄くなるのは惜しい。相手チームを宗教系学校にしたら?悪魔にも「魔力」を競
う甲子園があってスカウトがいるとかね。
★白鳥師匠『聖橋』
・・・「話して(離して)下さい」ってオチは噺の中で演るべきだと思うが・・
★三三師匠『締込み』
・・・流暢なだけで典型的な「そこそこ」。マクラで桃太郎師匠みたいなダジャ
レを連発したのは自己破壊衝動?。

◆10月26日
※宝塚歌劇団月組東京公演しかみなかった日。

◆10月27日東京マンスリー33
菊志ん『道灌』/菊志ん『幇間腹』//~仲入り~//菊志ん『カメラマン長短』/菊
志ん『城木屋』/菊志ん『百川』
★菊志ん師匠『幇間腹』
・・・一八のリアクション前に無駄なひと言が入りリズムが作りきれず、肝心の
「ヨーッ!」が可笑しさも死んでしまう。
★菊志ん師匠『城木屋』
・・・丈八が二枚目ぶる様子が可笑しい。奉行が小声で呟く「バァカ」の醒めた
トーンも独特。
★菊志ん師匠『百川』
・・・百兵衛の笑顔や河岸の若い衆の跳ね上がりっぷり、特に「そうかなァ」は
楽しいのだが、時々噺に隙間風が吹くのは何故?

◆10月28日池袋演芸場昼席小せん襲名真打昇進披露
辰じん『狸の札』/駒次『生徒の作文』/しん平『豆屋』/歌る多『つる』/アサダ
/雲助『笊屋』/小三治『二人旅』/馬風『漫談』/ゆめじうたじ゜/圓蔵『火焔太
鼓』//~仲入り~//口上/勝丸/文楽『看板のピン』/白酒『新版三十石』/川柳
『ガーコン』/小菊/小せん『盃の殿様』
★小せん師匠『盃の殿様』
・・・スイスイと地噺っぽく、笑いの出入れは巧い。人物もマンガになってい
る。小満ん師匠の持つポンチ絵系統のフックラした味わい・色気は今後の課題。
★白酒師匠『新版三十石』
・・・携帯に邪魔されたが稍抑え目でも十分可笑しい。
★歌る多師匠『つる』
・・こういう軽快な早口の可笑しさが最近の落語には少ない。貴重。
★圓蔵師匠『火焔太鼓』
・・・声は小さくなったが軽い楽しさで仲入りには適切。何ケ所か抜けたけど流
石の出来。


◆10月29日池袋演芸場昼席龍玉襲名真打昇進披露
辰じん『子褒め』/駒次『ん廻し』/圓太郎『締込み』/歌る多『つる』/勝丸/雲助『粗忽の釘』/伯楽『味噌豆~学校慰問』/ゆめじうたじ゜/権太楼『代書』//~仲入り~//口上/アサダ/川柳『ガーコン』/白酒『元帳』/正蔵『悋気の独楽』/小菊/龍玉『景清』

★龍玉師匠『景清』
・・・人情噺過ぎる。定次郎のキャラクターに職人気質やそれに伴う暢気さが欠
けている。疳所で声を低めるのも「名人ぶる」というか「落語離れ」して感心出
来ない上に、折角の芸容を小さくする。人情噺性の強い割にお経の文句をちゃん
と言っていない、なんてのは不心得で、定次郎の信心まで嘘臭くなる。石田の旦
那に腕を引っ張られる動きはキレがありダイナミックだが、「覚えてろ!」の前
に小声で「畜生」と言ったりするのは明らかに蛇足。
★圓太郎師匠『締込み』
・・・オチまで行かなかったが非常に面白い構成で感心。「そこです!」も独特
のシナッとした可笑しさで楽しい。

◆10月29日春風亭一之輔独演会真一文字三夜~十八番作り~二日目
朝呂久『一之輔への手紙』/一之輔『欠伸指南』/一之輔『提燈屋』//~仲入り~//一之輔『五人廻し』

★一之輔サン『提燈屋』
・・・若い連中のキャラクターに緩急を付け、テンポよりキャラクターで面白く
した。後半の動かせなさによる尻すぼみ感は致し方ないか。
★一之輔サン『五人廻し』
・・・稲荷町型の進化型。啖呵より喜助のリアクションなどに重きを置いた演出
で、職人の啖呵にクドさがないのは結構。職人・通人・官員・田舎者・相撲取り
の順だが、通人を聞いていて稲葉サンって官員とか「代書屋」の梅原サン、「女
形」の美濃部サン、「僧侶」の吉河サン、「教員」の郡山サン、講釈師の先生が
客にいても良いと思った

◆10月29日文左衛門倉庫vol.7
司『干物箱』/文左衛門『笠碁』/アンケート読み//~仲入り~//文左衛門『芝浜』

★文左衛門師匠『笠碁』
・・・序盤の喧嘩で旦那二人の幼児性がさらに強まり、それを美濃屋(笠を被る
方)の老妻が淡々と呆れている様子がまた面白い。
★文左衛門師匠『芝浜』
・・・談志家元型がベースだが「よそ、夢ンなる」のオチのように勝の性格が
アッサリしているので野暮ったくならない。かみさんもひたすら「怖かった」と
いうだけで、一種の幼ささえ感じさせる。全体的には明確に良化中。これだけの
出来なのだから、三代目三木助~家元伝承の芝の浜での日の出の描写が必要だと
は思わない。

◆10月30日春風亭一之輔独演会真一文字三夜~十八番作り~三日目
一力『一之輔への手紙』/一之輔『初天神』//~仲入り~//一之輔『らくだ』

★一之輔サン『初天神』
・・・凧揚げまで。団子の後の「親子だな」「再確認」が抜群。似た者親子の可
笑しさを堪能。欲を言えば神社周辺の雰囲気が欲しい。
★一之輔サン『らくだ』
・・・マクラ殆ど無しで約一時間。「ヒヤでもいいからもう一杯」オチまで。家
元型がベースだが、屑屋のフワフワしたキャラクター、飽くまでも静かな口調で
怖い手斧目の半次、矢鱈と疑り深い長屋の連中と人物の描き方が全く違い、可笑
し味が優先する。酒を飲み出す際になって、半次が大声で威嚇したのは蛇足だ
が、屑屋の酔い方も精神錯乱等でなく只管酔ってらくだに対する鬱憤が出るだ
け。半次に「兄弟ェ」と言われても「オレは一匹狼」と反発した屑屋が、焼き場
の隠亡とは「心の友」と言い合ったのにはは爆笑。惜しむらくは、担ぎ出しから
地が増えて噺が少し走った。また、周辺の空間表現が無いので、飲んでいる間が
室内劇過ぎる。怖々覗く長屋の衆がいても良いのでは?

◆10月31日池袋演芸場余一会「白酒寄席」昼の部
白酒『挨拶』/まめ緑『壽限無』/菊之丞『片棒』/白酒『新版三十石』/甚語楼『猫と金魚』/白酒『笊屋』/ペー『歳そば』//~仲入り~//左吉『ボヤキ酒屋』/白酒『付き馬』

★甚語楼師匠『猫と金魚』
・・・番頭の「一つ~」の形が馬鹿に可笑しく収まってる旦那と好対照。
★白酒師匠『付き馬』
・・・騙りの男の一人喋りに磨きが掛かってきた。矢張り大門外は、これくらい
あちこち案内してくれないと楽しくない。
★白酒師匠『新版三十石』
・・・オチが弱い意外は絶妙に馬鹿馬鹿しい。

◆10月31日新宿末廣亭余一会「柳家小満ん独演会」
琴調『徂徠豆腐』/小満ん『道具屋』/馬の助『位牌屋』/小満ん『縮み上り』//~仲入り~//小菊/小満ん『愛宕山』

★小満ん師匠『道具屋』
・・・神田のオジサンの家からタップリ。毛抜きのオヤジ、木魚を叩くバアサン
が軽妙爆笑。
★小満ん師匠『縮み上り』
・・・こういう、御祖師詣中断からの展開なら、粋でオバカで実に楽しい。一
寸、真似の出来ない高座ぶり。
★小満ん師匠『愛宕山』
・・・僅か22分という、聞きやすい尺。無駄なくサラッとした運びで全くモタれ
ない。旦那の土器投げ以降の展開の速いこと。溜めずにサラサラ運びながら、竹
引きの件だけは力を入れ、竹の戻りは描かない。それでいて軽妙爆笑。一八の
「本能寺は何処です?」が軽くてまた結構。

石井徹也(放送作家)

投稿者 落語 : 2010年11月05日 23:05