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2010年01月26日
2009年度後半ベストテン
今回は放送作家、石井徹也さんによります2009年下半期の落語ベストテンを発表します。寄席・落語会を問わずに石井さんがセレクトしたものです。どうぞ!
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2009年度後半ベストテン
石井徹也(放送作家)
第一位 立川談春 『鼠穴』 10月1日「談春一門会・昼」
昭和49年に立川談志家元の『鼠穴』(東京落語会)を聞いて以来、この噺で初めて感心した。三つの蔵が燃え落ちる姿こそ目に浮かびにくかったが、序盤の兄弟の遣り取りは家元を凌ぐかもしれない。
第二位 桃月庵白酒 『宗論』 12月24日「上野鈴本・お笑い師走会」
放送では絶対流せぬ「邪教ヴァージョン」。無茶苦茶遊んでるとも言えるが、この噺で宣教師口調抜きにかくも可笑しいのは初めて。オチの「定吉、お勤めをするから生贄の兎を持ってきなさい」は凄まじい。
第三位 三遊亭遊雀 『船徳』 8月15日「遊雀葉月会」
前に『牡丹燈籠~お札はがし・栗橋宿』を演じた後、いわば終演後の幽霊払い用に演じた噺だが、徳三郎のだらしなくって、すぐ泣いて、直ぐに疲れて飽きるキャラクターが素晴らしく、呆れるほど笑った。
第四位 立川談笑 『富久』 11月2日「談笑月例独演会」
「座敷に出て芸がしたい!」という久蔵の芸人根性に徹した佳作。2009年後半から絶好調で、『紺屋高尾』『お直し』『大工調べ』、2010年に入っての『文七元結』『死神』と快進撃が続いている。
第五位 桃月庵白酒 『転宅』 10月28日「池袋演芸場昼席」
得意ネタでよく演じているが、この日の高座は絶妙というしかなかった。仕方と表情の工夫に優れ、間抜けな泥棒・中沢法円君のピュア(笑)な喜怒哀楽に落語国の楽しさが横溢していた。課題は妾の色気のみ。
第六位 桂平治 『らくだ』 12月26日「銀座山野亭落語会年忘れ落語会第二部」
先代金原亭馬生師が演じた『らくだ』以来の迫力。兄貴分がらくだの死体を抱えて歩く足音の迫力。屑屋が死体の髪を毟り取る物凄さと可笑しさ。今後、東京落語界を代表する『らくだ』になる可能性大。
第七位 橘家文左衛門 『文七元結』12月26日「銀座山野亭落語会年忘れ落語会第二部」
長兵衛には文左衛門師自身を、佐野槌の女将には先代小さん師夫人を感じた。「お天道様」など名台詞も多くお久が出来るのも得がたい魅力。この噺と『子は鎹』はこの世代のスタンダードになると私は思う。
第八位 三笑亭茶楽 『線香のたちぎれ』7月9日「池袋演芸場昼席主任」
僅か23分程で演じたのは噺の脚の速い先代可楽師匠門下らしい手際の良さ。それでいてダラダラ長い最近の『たちきり』より遥かに情は現され何の不足もない。20分の『子は鎹』同様、寄席落語のお手本。
第九位 隅田川馬石 『駒長』 10月8日「池袋演芸場昼席」
この噺に初めて納得出来た。上方者・丈八がお駒に寄せる情が絵がかけたからである。感情表現に加えて笑いも的確。長編人情噺よりも『松曳き』『安兵衛狐』『堀の内』などの落語で急成長を示している。
第十位 柳亭小燕枝 『不精床』 10月8日「池袋演芸場昼席」
小僧の未熟さを真似して親方が剃刀をグイと横に引いた瞬間、「痛い!」と思った。それは私だけの感覚でなく、客席もその怖さに以降爆笑。先代小さん師譲りの「落語のリアリティ」が輝きを増している。
優秀佳作
三遊亭遊三 『青菜』 7月6日「池袋演芸場夜席」
御屋敷の主人と内儀の位置が視線で分かる技の確かさ。
三遊亭遊雀 『十徳』 7月6日「池袋演芸場夜席」
こんな単純な前座噺で可笑しいという基礎の素晴らしさ。
桃月庵白酒 『お直し』 7月14日「白酒ひとり」
人情噺になりがちな噺を見事に落語で演じきった。
柳亭市馬 『船徳』 7月26日「プチ銀座落語祭山野亭落語会」
前半カットの省略型ながら歌入り徳三郎が絶妙。
桃月庵白酒 『付き馬』 7月26日「プチ銀座落語祭山野亭落語会」
大門~雷門間の、アドリブに近い街紹介が無茶に楽しい
五街道雲助 『唐茄子屋政談』 7月26日「プチ銀座落語祭山野亭落語会」
叔父さんが徳の帰りを待つ視線に江戸の夕焼けが見えた。
春風亭一朝 『植木のお化け』 7月26日「プチ銀座落語祭山野亭落語会」
こういう洒脱な芸が出来る人はちょっと他にいないね。
春風亭柳橋 『船徳』 7月30日 「八代目春風亭柳橋の会」
無闇矢鱈と動く演出で、それが爽快感と爆笑を生んだ。
立川生志 『地獄八景亡者戯』 8月7日「ひとりブタじゃん」
ギャグ抜群。曲芸や人呑鬼の件の面白さは米朝師以上。
桂南喬 『無筆の隠居』 8月27日「新宿末廣亭夜席」
兄貴分を隠居に変えただけなんだけど無闇と可笑しい!
立川生志 『紺屋高尾』 9月2日「ひとりブタじゃん」
高尾太夫の「久さん、元気?」の佳さが忘れられない(涙)。
立川談笑 『大工調べ』 9月7日「談笑月例独演会」
与太郎=実は大岡越前守の設定はズルいけど着眼力抜群。
三遊亭きつつき 『権助魚』 9月14日「浜松町かもめ亭」
怪物的権助に、余人にないきつつきさんの持ち味が弾けた。
橘家圓太郎 『粗忽の釘』9月19日「池袋演芸場夜席」
芸に色気と落着きがあるから惚気噺がとっても楽しい!
五街道雲助 『庚申待ち』9月22日「雲助蔵出し再び」
古風なホラの吹き合いが今でも馬鹿馬鹿しく楽しい!
柳家小里ん 『転宅』 9月22日「柳家小里んの会」
妾に色気があって、フンワリと可笑しい出色の高座。
三遊亭歌武蔵 『らくだ(上)』 9月26日「落語教育委員会」
屑屋の生活苦噺が「びんぼう自慢」並に可笑し哀し。
林家錦平 『松竹梅』10月10日「池袋演芸場昼席」
何の当込みもなく、サラリと粋な楽しさなのが嬉しい。
古今亭菊志ん 『湯屋番』 10月27日「池袋園芸滋養昼席」
この噺がこれほどウキウキと可笑しいのは珍しい。
桂南喬 『明烏』 11月13日「上野鈴本演芸場昼席主任」
「祝詞の準備」には笑った。源兵衛太助がピッタリ。
林家正蔵 『まめだ』 11月19日「冬の正蔵 其の四」
下座歌入り演出も冴え、秋の情話をひとつ増やした。
三遊亭とん馬 『猿の小噺』 11月21日「新宿末廣亭昼」
交通事故の原因を猿に聞く小噺だが、その猿が絶品!
古今亭菊志ん 『薮入り』 12月7日「日本橋夜のひとり噺」
「おとっつぁん、ただいま」の明るさに泣けたね。
柳家小里ん 『山崎屋』 9月22日「柳家小里んの会」
『山崎屋』はこう演じるべきものと言いたい粋な楽しさ。
柳家喜多八 『だくだく』 12月24日「上野鈴本お笑い師走会」
近眼乱視の泥棒の目つきの悪さが余りにも似合って(笑)
入船亭扇遊 『木乃伊取り』 12月29日「新宿末廣亭余一会」
権助に母親が財布を渡す件の情感が図抜けて優れていた。
投稿者 落語 : 2010年01月26日 23:42