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2007年12月30日

年間ベストテン~今時の流行りでいやァ、三つ星かね~

2007年に聞いた噺のベストテン。ミシュランでいえば三ツ星の出来(笑)
年度前半は、落語を聞いた数自体が少ないので申し訳ない。後半中心。敬称略。

■公式的ベストテン

1.柳家喬太郎 『怪談牡丹燈籠:カランコロン~お札剥がし』 7/10 にぎわい座独演会
ダントツの1位。長い続き物を休憩を挟んで上下に分けて、分かりやすく聞かせた構成の妙。緩急自在の話芸で人情噺なのに面白い。山本志丈のキャラクターの面白さなど、登場人物演技も秀逸。惜しむらくは於露・新三郎が美男美女に見えない。

2.快楽亭ブラック 『英国密航』 10/19 浜松町かもめ亭
東京落語ならではの洒落っ気ではベストワン。小佐田定雄氏の台本も実に優れたものだが、本格なのに馬鹿馬鹿しく、実に楽しかった。巷に氾濫する芸術気取りの芝居噺とは訳が違う。原典・廣澤瓢右衛門師のエッセンスを見事に表現したのにも大感心。

3.柳家喬太郎 『怪談牡丹燈籠:お峰殺し』 12/8黒門亭夜席主任
8月のにぎわい座では体調不良からか、余り良い出来ではなかったけれど、この弐地は絶好調。美男美女より、お峰伴蔵のような「市井の凡人」を描いた方が似会う。お峰の嫉妬も過剰でなく、切ない。口演も見事だが、高座ぶりに「大看板」の貫禄が漂うのに驚いた。

4.林家正蔵 『芝浜』 12/18 上野鈴本演芸場夜席主任
ネタ卸し以来ではベストの出来で、誰にも引けを取らない『芝浜』になった。特に、神さんが可愛らしく、魚勝夫婦を通じて、「夫婦ってェのは、結局、釣り合いが大切なんだなァ」と感じさせられた点、近年聞いた複数演者の『芝浜』中のベスト。8/24に池袋演芸場昼席で演じた『鼓ケ瀧』も、これまでの『鼓ケ瀧』という噺の印象を帰るほどの出来栄えだった。

5.柳家小満ん 『宮戸川:お花半七』 8/24 池袋演芸場昼席
この噺をこれだけ軽妙洒脱に語れる人は今まで知らない。お花半七と老夫婦の対比も楽しいけれど、無理に笑わせず楽しませる腕の冴え!特に切れ場の見事さには唸った。
今年は4/19 浜松町かもめ亭の『あちたりこちたり』をはじめ、寄席でも『幽女買い』『目黒の秋刀魚』など、助演で他に類を見ない軽妙さを発揮、ベテラン健在をアピールした。

6.柳家三三 『五貫裁き』 8/22 池袋演芸場昼席主任
40代以下の東京の噺家さんとして、話術の面では傑出している。特にストーリーを聞かせて楽しませる噺が抜群に巧く、全体の作りドライでテンポが良く楽しい。この『五貫裁き』を聞くと、家元の『五貫裁き』はウェットで鬱陶しく映る。圓生師匠の『一文惜しみ』を含め、私の知るこの噺の演者としてはベスト。圓生師の噺が一番似会うみたいで、7/28に池袋演芸場で聞いた『不幸者』も、あんまり巧いので舌を巻いた。 

7.柳家喬太郎 『にゅう』 7/25 ボクらの圓朝祭
   喬太郎師匠ばかりで気が引けるけれど、こんな古臭い、黴の生えた噺を大爆笑編に仕立て上げた力量には感服せざるをえない。超与太郎的馬鹿者が、丸で東京湾に上陸したゴジラのように暴れまくり、嫌味な奴が自慢の庭をメチャクチャにぶち壊す辺りの快感とおかしさは、今まで聞いた落語で感じた事がない。さすがウルトラマンマニア、褒めおく!

8.三遊亭歌之介 『子は鎹』 12/26 池袋演芸場昼席主任
   原作『自虐の詩』みたいな『子は鎹』で、泣いてしまった。熊さんはトラックの運ちゃんか 、工事場の作業員みたいだし、嫁さんも元は大衆食堂の店員みたい。でも、物凄く切ない家族噺になっている。亀ちゃんの台詞も定番型なのに、あの台詞のイヤラシさを全然感じない。クサいという人もいるだろうけれど、歌之介師匠の熱さがクサさを忘れさせる!

9.柳亭市馬 『二番煎じ』 11/25 池袋演芸場昼席主任(代バネ)
   夜廻りの「火の用心、さっしゃりあしょう~」が余りにもカッコよく惚れちゃうそうな出来栄え。鈴本演芸場独演会の時より良かった。兎に角、声がいいから、「お祭りマンボ」の入る『片棒』とか、相撲甚句でサゲる『掛取り』も一寸真似手がない。11/27に池袋演芸場昼席で聞いた『七段目』も楽しかった。目白系本格芸なのに遊びが嬉しいってのが素晴らしい。

10.柳家小三治 『お茶汲み』 10/2 上野鈴本演芸場主任
このネタ、今まで誰が演じても面白いと思った事がない。小三治師のも面白いとは思わなかった。それがこの日は、廃業した上野のそば屋さんについてのシミジミとしたマクラとは裏腹に、何処か軽快な高座で、うらぶれた三流女郎屋での男と女の化かしあいが非常に面白かった。相変わらず長い口演だったけれど、草臥れなかったくらいであります。

■その他、二ツ星~二ツ星半レベルの高座
 
五街道雲助 『二番煎じ』 12/7 池袋演芸場夜席主任~独特の演出多数で古風)
柳亭市馬 『夢の酒』 9/26 池袋演芸場~小品の魅力十分。
柳家小三治 『転宅』 8/2 池袋演芸場昼席主任~なんと客席からのリクエスト。
三遊亭圓橘 『二番煎じ』 10/19 浜松町かもめ亭~滋味溢れる出来栄え。
春風亭一朝 『蛙茶番』8/30 池袋演芸場昼席~途中からの短縮版ながら実に江戸前
橘ノ圓 『酉の市』 11/10 池袋演芸場昼席~「酉の市解説情報落語」として妙味アリ。
林家錦平 『宿屋の仇討』 12/8 黒門亭夜席~音曲がダメだったが出来は見事。
柳家喜多八 『死神』8/25 池袋演芸場昼席代理主任~実に怖かった。
柳家三三 『王子の狐』 9/17 上野鈴本演芸場夜席~人を食った出来というべし。
橘家文左衛門 『夏泥』 10/9 上野鈴本演芸場夜席~嫌いな噺なのにおかしい!
古今亭菊志ん 『芝居の喧嘩』 11/27池袋演芸場昼席~切れ味が良かった。
古今亭志ん輔 『夕立勘五郎』 12/5 池袋演芸場夜席~馬鹿馬鹿しくて大好き。
三遊亭遊雀 『紺屋高尾』 12/19 池袋演芸場昼席主任~独得の演出で切ない。

■別格三ツ星

三遊亭圓丈 『文七元結』 11/4 圓朝座
   スケジュールミスで、口演ではなく、台本朗読になっちゃったけど、その演出の面白さ、長兵衛と圓丈師匠の重なる人物像の楽しさ、大晦日に集約させた世界の心地よさからいったら、第1位の喬太郎師匠に匹敵する高座。色々な人の『文七元結』を聞いたけれど、これが一番好き。「圓生を継いで欲しい!」と真剣に思っちゃったくらい良かった。

長々と妄言多謝


石井徹也 (放送作家)

投稿者 落語 : 2007年12月30日 10:08