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2007年10月24日

第十回「浜松町かもめ亭」、『英国密航』舞台裏。

第十回『浜松町かもめ亭』が10月19日(金)文化放送メディアプラスホールで開かれました。

当夜は、

『転失気』    立川らく里 
『羽織の遊び』  三遊亭司 
『まめた』    桂吉坊 
『英国密航』   快楽亭ブラック 
     中入り
『二番煎じ』   三遊亭圓橘 

という番組でお楽しみ頂きましたが、なかでもメインディッシュ(圓橘師匠の比喩を借りれば「ステーキ」)となったのが快楽亭ブラック師匠の一時間近い長講『英国密航』でありました。

もともと、40分ほどの大ネタですが、今回は特に「下座入り・完全版」と称し、芝居噺の形式で口演をいたしました。
以下、『英国密航』演出メモを記録として記します。

そもそも。『英国密航』は長寿の浪曲師で、その晩年に脚光をあびた広沢瓢右衛門の持ちネタで、伊藤俊介(伊藤博文)以下、幕末の志士たちが禁制を破り、英国密航を果たすという物語。浪花節としても珍しいスケールの大きさと、英語混じりの道中付けが面白い異色作です。それを現・国本武春が継承、さらにブラック師匠が落語化したという経緯があります。(落語台本執筆は小佐田定雄氏)

現在の武春師の口演を聴いても(タイミングの良いことに10月22日の午後、NHK総合で放送されました)大詰めの盛り上がりは「横浜港~遠州灘~上海~大西洋~ドーバー海峡~ロンドン」へと至る「道中付け」にあり、キロセッキ号がロンドンに到着したところで「まずこれまで」と幕を切ります。

小佐田本のすぐれた点は、落語には置き換えにくい(音楽性の高い)「道中付け」をオミットし、代わりに「テムズ川河畔の場」を増補。白浪五人男の「稲瀬川勢揃い」そのままに名乗りのツラネを大詰めに持ってきたところにあります。

この「横浜港出港」から「テムズ川河畔の場」までを下座入りで口演したらさぞ面白いだろうという案が私にあり、今回、ブラック師匠との二度の打ち合わせ(または飲み会)を経て、上演にいたりました。(平成12年、芸術祭参加公演でも下座入りで上演をしていますが、今回はまた違った形です)

下座入り部分について記します。
ガール夫妻の導きで横浜港のキロセッキ号に乗り込んだ五人男。
地の文で「別れの銅鑼が鳴り」で銅鑼の音を打ち、「静かに横浜埠頭を離れます」で、波音をぶつけ、そのまま「千鳥」の相方。この部分、平成12年版では洋楽(曲名失念)を三味線演奏して下座にしたと記録にあります。

「千鳥」と波音をどこでおさめるかについては、ブラック師匠の希望で稽古ではあえて決めず、本番で見計らうことに。「船のシルエットが小さくなります・・・」まででは短すぎるので、今回は物語の後、五人男がどんな運命をたどったかの地の文までそのまま入れました。この部分、台本を多少増補して、「船上の五人男の会話」や「船員の会話」にかぶせ、なにかのギャグ(きっかけ)でおさめるという方法もありかと思います。

続いて、テムズ川河畔の場。五人男がロンドンブリッジの上にたったところを「スコットランドヤードが取り囲んだ」で三ツ太鼓。
「フリーズ!」
「こりゃ、わいらをなんとするのだ?」
「ホワット、ユア、ネーム?」
の台詞で白浪五人男と全く同様、「雁と燕」の相方になり、当り鉦も使用。
五人男の見得にツケ入り。
全員の「ならば手柄に捕らえてみよ」で、再び三つ太鼓を打ち、ツケで立ち回り模様。仕草ひとしきりあってツケを打ち上げキマり、拍子木をチョンチョン、ブラック師匠はふたたび地に戻り「英国密航まずこれまで」という幕切れにしました。

最後の捕り物も、一応の稽古はしたのですが、ブラック師匠の「立ち回りはツケ主導であげてくれ」という要望で、その長さは本番での見計らいということになりました。(ツケは桂吉坊さん、よくやってくれました)

私の感想としては、三つ太鼓に続いての立ち回りはもうちょっとだけ長くてもよく、最後は見得できまったところに拍子木を大きく入れ、タップリとした感じで地に戻るというイメージでも良かったかとも思います。(今回は私が拍子木を入れましたが、ブラック師匠がすぐ地に戻ったため、会話とかぶっています)

しかし、大の芝居好きながら、噺家が「マジで芝居する」ことにテレてしまう(だから、あえて稽古で段取りを決めすぎずに見計らいでブッツケることを選択する)ブラック師匠のセンスは面白く、だからこそ、大仕掛けながらスピーディーで軽やかな『英国密航』になったのではないかと思います。

また三味線の笹木美きえ師匠、鳴り物の立川こはるさん、らく里さん、吉坊さんには大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

「完全版」とは銘打ったものの、まだまだ改訂がされる余地はあり、それでこそ芸能は面白い!

今回の口演は、近日「落語の蔵」サイトで配信予定です。どうぞご期待ください。

                                   松本尚久(放送作家)


◇第十回「浜松町かもめ亭」全体のレポートはこちらをどうぞ

写真1 ブラック師匠・吉坊さん・松本尚久(その間)・石井徹也(放送作家・二列目)の勢揃い。ひとりだけ無垢な雰囲気の吉坊タン・・・。若いねぇ。
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投稿者 落語 : 2007年10月24日 00:36