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2007年08月13日
傑作!! 『昭和落語家伝』
知り合いの大和書房の編集者さんから、仕事関係の用件で、 九月発売の本『昭和落語家伝』のゲラを見せて頂いた。
一読して衝撃を受けた。これは凄い本である。 昭和三十年代に落語家の写真を撮っていた田島謹之助氏 の写真二百数十枚に、談志さんが文章(芸人論)をつけた ものである。
撮影場所は人形町末廣と落語家の自宅。 志ん生、圓生、文楽、三木助というような大看板は もとより、今日では回顧されにくい小柳枝、小せん(先代)、 右女助、圓馬、百生といった面々まで網羅され、談志さんは 「これが当時の落語家ほとんどすべて」と言っている。 (ただし金馬は入っていない。金馬は東宝系で人形町に出ていなかったからである)
まず田島氏の写真が凄い。 田島氏は、仕事ではなく純粋に自分の興味から落語家の写真をとっていた。アングルは、客席上手前方からのものが殆どで、 奇をてらったような構図は全くない。 そのほかに、自宅でのポートレートがある。 高座の写真も、日常での写真も、被写体へのアプローチが 真っ直ぐで、しかも対等である。 突飛なアングルをねらったり、現像で画像をいじったりの小手先、技巧とは無縁の写真である。ムリに美化したようなショットもひとつもない。
落語そのものが好きで、よく理解しているからこそ、その芸人 のエッセンスが詰まった表情・仕草が見事に捉えられている(柳好の「野晒し」の釣り竿をかついだ仕草のキレ!)。 現代の落語写真家の仕事とはまるで質が違うと言わざるを得ない。
被写体の質が当時と今とではもう違うという面もあるだろう。こんなに立派な顔をした人たちそのものが、もういないのかも しれない。
談志さんの文章もいい。 談志さんは世相漫談の上手のように言われているが、いま現在に関してはそうでもない。 世相というものが、もう談志さんの興味の範疇にないのだろう。トークも文章も「芸」についてのものが一番鋭く、あたたかい。
田島氏のコアな写真に触発された部分もあったか、今回は 驚くほど正直な文章になっている。 談志さんの書いた本も多いが、九〇年代以降では 「談志百選」(講談社)に匹敵する仕事になった。 近年の仕事のうちでは最良の内容だと思う。 発売日が近づいたら、またお知らせします。
松本尚久(放送作家)
関連イベント http://www.kinokuniya.co.jp/01f/event/shinjukuseminar.htm#seminar_85
投稿者 落語 : 2007年08月13日 16:51