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2007年08月01日
池袋から、“寄席の熱い夏”が始まった!
「正月か!?」と思った。7月21日、「顔ぶれも良いし、久しぶりに行ってみるか」と足を向けた池袋演芸場7月下席の初日。JR池袋の南口を出て、演芸場前の交差点に差しかかった時である。
演芸場1階のモギリから表のカラオケ店前までズラッと並んだ人数はおよそ百人。まだ開場1時間近く前だというのに!
その池袋の顔付けは、色物がすす風にゃん子・金魚、太田元九郎の2本で落語8本と、落語ファンに嬉しいバランス。その顔ぶれは、「主任・柳家喬太郎」「中入り・三遊亭白鳥」の2枚看板に、古今亭菊之丞、柳家三三、入船亭扇辰、柳亭左龍、柳家喬之助、柳家喬四郎・柳家さん彌交互出演と、落語協会の誇る中堅・若手が揃っている(落語協会の北村事務局長退職前の置き土産番組で、既に4月に決まっていたとか)。
インターネットで確認すれば、初日は菊之丞師の代演で林家正蔵師も入り、池袋の下席だから、2時開演で2000円均一は確かにお値打ちだ。にしても、この行列には驚いた。改築以前のボロボロの畳敷時代、川柳川柳師が高座から冗談に「池袋秘密倶楽部へようこそ」と言っていた寄席で、こんな事が起きるとは・・・。
慌てて列に並び、暑さ厳しき中を待つ事40分。予定時間を15分程早めての開場。「席はまだあるかしらん?」と不安に慄きつつ地下に潜ると、客席は既にほほ満員。何とか下手後ろの補助席端を確保して、ひと安心。1時45分、前座・三遊亭歌すみさんが上がった頃には客席はもはや立ち見も満員だった。
当日の主な出し物は喬之助師『寄合酒』、三三師『酢豆腐』、正蔵師『夏泥』、白鳥師『トキそば』、左龍師『お菊の皿』、扇辰師『茄子娘』、喬太郎師『題不明:定年団塊世代がスーツを白線流し風に流すネタ』で5時15分まで。各人競い合いともいえる密度の高い高座の連続で、久々に落語を堪能した。
7月上席の新宿夜、小三治師主任も唸る程客は入ってたが(新記録だったそうである)、楽しさでは今回が凌いだと私は思う。喬太郎・正蔵・白鳥三師の熱演もさりながら、喬之助師の『寄合酒』から続けて、『酢豆腐』の後半にサッと入った三三師匠の、如何にも寄席らしい機転の聞いた高座は、“寄席でなきゃ、こういう噺の流れは出来ねェ、楽しめねェ”ってGood Job!
独演会の類は、演者がひと色だから、どうしても聞き飽きやすい。たとえ、志ん朝師・談志家元でも、3席聞くと私は昔から飽きちゃってた(飽きないのはそれぞれの“信者の方”だけでは?)。先代小さん師の「“こいつでなきゃダメだ”、って熱狂的な客の多すぎる噺家は、その客に殺されてダメんなる」って名言にも、最近の私はつい頷いちまう。また、自分が50歳を過ぎてからきし意気地が無くなったせいもあるが、1席が長すぎる高座も苦手になった。一方、「大銀座落語祭」のようなイベントは、それはそれで結構だが、出し物・演者で、最近の小劇場系演劇みたいに「流れ」が読めちまうのが、どうもイマイチ味気ない。
そんな不満に駆られてた所を、池袋の初日で寄席の楽しさを満喫して、「こりゃ、裏を返さねば」と通い出すと、行列状態が初日の土曜日だけでなく、週をまたいで月曜日からの平日以降も続いたのだから驚いたね。
仕事に何とか暇を作って5日程、必死に行列へ並んで拝聴したが(前売り券なしだから、並ばなきゃ座れないんだもん)その5日間で、初日以外、印象に残った高座を挙げてみると、喬太郎師は『牡丹燈籠のお札剥がし』『竃幽霊』『華やかな憂鬱』『一日署長』(三三師が屋形船をジャックするという、典型的な寄席ファン向けネタ。際物っぽいけど、小三治師の物真似まで入ってバカげたオカシさ)、白鳥師は『勘当舟』『アジアそば』『シンデレラ伝説』、三三師『五目講釈』『不孝者』(話の運びが巧い!)、扇辰師は『藁人形』(シミジミ!)『夢の酒』、菊之丞師は『短命』『紙入れ』(女形芸だねェ)、喬之助師『堪忍袋』『堀の内』(柳家の基本に忠実で明るい)、左龍師『風呂敷』『初天神』(先代の痴楽師みたいなオカシさアリ)、白酒師(左龍師の代演で)『代脈』と、枚挙にいとまなき状態で、連日、はなかっからしまいまで、心底楽しませて戴きました。
このところ、寄席の活気を支える中堅・若手のレベルが、20年程前に比べてかなり底上げされ、それに中軸・ベテランが尻押しされているせいもあろうが、今回の池袋は「大銀座落語祭」に匹敵する、快挙に近い“事件”といってもよいのではあるまいか。出演者全員に感謝!
この後、8月上席の池袋昼は小三治師主任。これもまた、小三治マニアを中心に、唸るほど入りそうだなァ。1~10日の間、芝居見物のため、兵庫や博多に行くスケジュールを入れちゃったのが、ちょいと悔しいくらいである。さらに、8月下席の池袋昼は正蔵師・三三師の交互主任でこれも楽しみ。
上野鈴本演芸場中席夜は、さん喬師・権太楼師のネタ出し交互主任に、正蔵師・喬太郎師と、これは切磋琢磨の聞き応えがありそう。そして下席夜は、三三師・馬桜師・雲助師の怪談噺主任で、映画『怪談』に因む話題性と重厚さアリ。新宿末廣亭は下席夜が一朝師主任、さん喬師・権太楼師で、軽重中軸が地力発揮!浅草演芸ホールは中席の昼が住吉踊り、夜が正蔵師主任の三平師一門に、又もさん喬師・権太楼師、さらに川柳師が加わってお賑やかと、なんだか落語協会ばかりになってはなはだ恐縮だが、これはどうも目移りがしちゃうほどに「組み合わせの妙」が目白押しである。・・・・・「公私共にイベントは一夜の夢、寄席は連夜の興」。かくて、寄席が燃えてこその落語ブームではござんせぬかえ。
石井徹也 (放送作家)
投稿者 落語 : 2007年08月01日 01:22