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2007年04月17日
柳家小満ん著『べけんや』
現在、新刊本として入手できる落語本のなかで特におすすめなのが柳家小満ん著
『べけんや 我が師、桂文楽』(河出文庫)。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309407562
タイトルにもあるとおり、柳家小満んが師匠である八代目桂文楽の思い出を綴っ
たもので、名人とうたわれた落語家の舞台裏がよくわかる一冊である。
(「べけんや」というのは文楽落語に出てくるフレーズで、「実にどうもべけん
やで」というような使われ方をするのだが、ニュアンスがむつかしい。自分で自分
をからかうような感じの言葉で文楽の造語)
わたしは桂文楽が没した頃に生まれた人間なので(1971年)、もちろん生の
高座は知らないが、録音を聴いたりビデオを見た範囲では(不思議なことに文楽に
関しては録音よりも映像で見た方がはるかに面白い。これはほかの落語家には無い
特徴である)「夢の酒」「つるつる」「心眼」「大仏餅」が特に良かった。巷間、
文楽の「大仏餅」は逃げネタだと言われているがそんなことは決してない。落語研
究会(国立劇場)でのビデオが残っているが短い中にもたいへんな奥行きを感じさ
せる。
文楽の噺の魅力は(すぐれた芸術作品がすべてそうであるように)現実世界を
舞台にしながらも、噺の構成要素すべてがフィクション(現実ではない世界)の
レベルに変換され、なおかつそれが強固な統一性をたもっているところにある。
台詞のやりとりもすべて噺の世界用に仕立てられたもので、現実世界の会話とは
違う。(現実の会話はもっとノイズが多い。文楽の噺は、だから、たとえば「よか
ちょろ」のような滑稽噺であっても静謐である)
『べけんや』によれば、桂文楽は日常の生活にあっても、普通の人間とは違う独自
のスタイル(形式)をつらぬいて<文楽の世界>をかたちづくっていたと言う。
朝は八時頃に起き出し、浣腸を使って厠へ、続いて入浴、湯からあがると全身にシ
ッカロールをはたき、仏壇でお念仏。それから卓袱台に向かい、お燗酒を飲む。肴は
たいてい刺身。そのあと食事になるが、御飯は茶碗に「ふわっと」よそったものがよ
し、さらに御飯にふりかける鰹節も「雪のように、ふわっとですよ」。
御飯の最後のひとくちに茶をかけ、さらいこむ。さらに果物、和菓子を食べてお茶。
キセルで煙草を飲むと、ミネラルウォーター(昭和30年代の話ですよ)で何種類か
丸薬を飲む・・・。
三日に一度通っていたお医者は女医さんで、床屋も女性の職人を好んだという逸話。
高座の着物は一年中、黒紋付きに袴。手拭いではなくハンカチを使うという好み。
ただし正月三ヶ日だけは小紋の羽織、着物で袴は着けないという趣向。
客から噺の注文があったときは、そしてそれに応えるときは、間髪を入れずに噺に
入るべしと言う教え。
就寝前にしていたという念入りな顔の手入れ。
正式なものだけでも五回したという結婚・・・。
ここに記されているのはすべて細部のエピソードである。そして、こうした逸話の
積み重ねが、結果として桂文楽の藝の秘密にせまっている。
言うまでもなく、文楽のもとで修行をしながら、こうした<細かいこと>を漏らさ
ず自分のものにした柳家小満んの視線が、まず素晴らしいのだ。
小満んは文楽の噺の切れ味を最もよく継いでいる。
この本は、桂文楽の横顔を描いたという形を取りながら、じつは小満んによる
落語論でもある。
文楽ファン、落語ファンに広く読んで欲しい一冊である。
松本尚久
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今週開催 第4回『浜松町かもめ亭』に柳家小満ん出演。
4月19日(木)18時30分開場 19時開演
場所 文化放送12Fメディアプラスホール
料金 2000円(税込み)
出演 柳家小満ん / 五街道雲助 / 桂雀喜 / 立川こはる
http://www.joqr.co.jp/kamome/lineup.html
問い合わせ チケットぽーと 03-5403-3330
当日券あり。ご来場お待ちしています。
投稿者 落語 : 2007年04月17日 12:41