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2017年07月05日

岩本勉 高校3年の失われた夏

■7月5日の放送は・・・①

 高3の夏、涙が枯れた 出場辞退
  そして・・・
    想いを託された“俺たちのドラフト”

 今年も高校野球の熱い夏が到来。
 甲子園出場をかけた全国高校野球選手権
 地方大会の戦いがスタートしています。

 この日の放送では、ガンちゃんがプロ入りする直前
 1989年、平成最初の夏に
 涙が枯れるまで泣いた出来事と
 それを乗り越えて切り開いたプロへの道――、
 失った夢と、掴みとった夢、
 その背景について
 『まいどスポーツ』で初めて告白――。

 放送では語りきれなかった
 ガンちゃんのメッセージも掲載します。

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  突然奪われた夏

 阪南大学高校 野球部3年 岩本 勉
 ドラフト指名候補にその名が挙がる
 本格右腕の高校生ピッチャー。

 全国高校野球選手権 大阪大会開幕を目前に控えた
 1989年7月7日
 その日もチームメイトと共に汗を流していたが
 彼らの夏は、突然、終わりを告げた――。

 「校長先生からお話があります」
 練習中にもかかわらず教室に集められる部員たち。

   大会に向けた訓示・激励か――?

 校長、野球部部長、監督、コーチらが
 顔を揃えた教室で、部長が絞り出すような声で
 「申し訳ない」と謝罪する。

 2年生部員が傷害事件を起こしたことを理由に
 阪南大学高校 野球部は
 大阪大会への出場を辞退
――。

 「冗談抜きでドッキリカメラかと思った」

 耳を疑うような言葉・・・
 その現実を受け入れることは

 「無理だった。
  頭が真っ白になるっていうけど、
  ホントになるからね。
  放心状態ってああいうことをいうんやね」


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 小・中・高と厳しい練習に耐えてきた。
 甲子園出場を目指して頑張ってきた。

 「最後(全国高校野球選手権大会の)
  舞台でそれを表現するのみ。
  勝っても、負けても、ぶちのめされても
  納得するんですよ」


 のちに「青春だった」と振り返り、
 高校卒業後の人生――次のステージで
 頑張るための糧となるはずの
 最後の夏を失った。

 「気がついたら、みんな涙止まらへんの。
  そこで感じたことが
  涙は枯れるんだ、と。
  枯れた。
  もう、涙を出し切った」


 校長先生はじめ学校関係者も
 そして3年生部員も、
 誰もがその場から動くことができないまま
 時間が過ぎていき、
 やがて、キャプテンが重い腰を上げる。

 「みんな帰ろう。
  帰って自分でこの先どうするか考えよう」


 「そこから、野球部の部員とは
  夏休みの間、会ってない。
  会われへんかった。
  みんな何してるかわからん。
  連絡取るのもこわい」


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  たった一人での練習

 岩本 勉の元には
 夏の大阪大会以前から
 プロ野球のスカウトが視察に訪れていたため
 勉の両親は、出場辞退となっても
 ドラフトで指名されることを想定し
 我が子を励ました。

(父)「何が起きるかわからん。
    できる限りの練習はしておけ」


(母)「つらいと思うけど頑張りや」

 たった一人での練習は、
 ひたすら走って、走って、走り込むだけ。

 「毎日走ることはやった。陸上部みたい。
  そうでもしないと――、
  汗かいて、体力を使わないと
  気が気でなかった」


  野球の話ができない

 2学期を迎え、野球部員とも再会を果たす。

 本来ならば真っ黒に日焼けしているはずの
 同級生の肌は真っ白で、
 部員の中には10キロ以上やせて
 まるで別人のような仲間もいた。

 「出場辞退」を告げられたその瞬間、
 突然、野球部としての活動に幕を下ろすことになり
 3年生部員の中には、
 野球を見ることも、考えることもやめ、
 野球をあきらめたメンバーもいた。

 一方で、大学や社会人で野球を続けるべく
 セレクション(スポーツ推薦)を受けた部員もいた。

 しかし、他校の選手のように
 「甲子園出場」「地方大会ベスト4」などの
 実績、大舞台に立った経験がない
 阪南大高の部員は
 技能で見劣りしなくても、皆、不合格――。

 部員同士で野球の話が出なくなった。

 「野球の話、ふれられへん。
  今後どうするか、よう話せえへん。
(※)
   怖い」


 (※)とてもじゃないが話はできない

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  ドラフト会議

 1989年11月26日 日曜日
 プロ野球 ドラフト会議 当日。

 学校側は、岩本が指名された場合に
 記者会見を行うため、登校するように指示。

 「プロ野球選手になることを目標に頑張ってた。
  でもドラフト会議の日がくるのがイヤだった。
  指名されたところで、同級生の手前、
  どういう顔をして野球を続けていいか
  わからなかった」

 「どの面さげて
  『指名されて光栄です』って言うんだ」


 自宅に登校を促す電話がかかってきても
 「行きません」と一度は断った。
 それでも、父の説得により
 “指名した球団や学校の顔をつぶさないため”に
 親に連れられて学校へ向かう。
 そして会見場となった視聴覚室へ・・・

 「廊下を歩くのがイヤでたまらんかった」

 普通の選手は
 指名されるかどうかの不安の中で
 その日を迎えるが・・・

 「どうせやったら、ドラフトかからん方が
  スッキリするくらい」


 視聴覚室の扉を開けると
 そこには3年生部員が勢揃いしていた。

(岩本)『どうしたん?』

(キャプテン)
 『お前のドラフト会議やけど、
  俺たちのドラフト会議なんだ。
  お前、絶対プロ野球選手になれ。
  プロ野球選手になって頑張ってくれ。
  俺たちの気持ちをお前の背中に預けるから
  持って行ってくれ』


(岩本)『ホンマにええんか?』

(キャプテン)『ええ!お前に託す』

 「涙止まらへんがな。ええ友達やろ」

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 野茂英雄に8球団の1位指名が競合し、
 ほかに1位指名でプロ入りした選手には
 佐々木主浩潮崎哲也小宮山悟佐々岡真司
 さらに2位以下でも古田敦也石井浩郎
 前田智徳新庄剛志――など
 のちに、球史に輝かしい実績を残す名選手が
 数多く指名を受けた
 史上屈指の大豊作といわれるこの年のドラフトで
 日本ハムファイターズ岩本 勉2位指名

 ドラフト会議の行方を見守り
 久々に「野球」に触れた部員たちに笑顔が戻り、
 エースの胴上げが始まった。

 「力ありあまってるから、天井あたるか思ったよ。
  でも、その手のひらの温かさは
  いまだに背中が覚えてる。
  たまらなかった」


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 前回、イップスの話したでしょ。
  なぜそこで
(イップスに苦しみながら)
  歯を食いしばって
  
(イップスを克服しようとする努力を)
  できたかというと
(※)
  彼らの気持ちがあったからですよ」


 (※)岩本投手はプロ入り後イップスのため
 (※)投げられない時期が長く続きましたが
 (※)地道な努力を続け、マウンドへの復帰を果たしました

 岩本 勉は20人の3年生部員に
 「一人1年プレゼントする」――という想いで
 20年間プロ野球人生を送りたい
 と考えていた。

 しかし、あと4年届かず16シーズンで現役を引退。

 ユニフォームを脱いだエースの元を労うために
 大阪・ミナミの居酒屋に、かつての仲間が集結した。

 『お前、よう頑張った。
  おかげで俺たち、16年間、野球楽しめた』


(岩本)『俺、20年頑張りたかったんやけど・・・』

 『もうええよ。もう背中のもん下ろせ。
  お前のおかげで、社会で強く生きれたんや。
  お前が“望み”やったんや。
  ありがとうな。
  もう一人で抱え込むなよ。
  みんな、乗り越えて強くなったんやぞ』


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 「ボロボロ泣きながら一杯飲んだよ。
  最高の仲間ですね」


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 ▲ガンちゃんの話に涙が止まらない菜緒ちゃん

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  番組ホームページ限定公開!

 放送で語りきれなかった
 ガンちゃんのメッセージと
 八木菜緒アナウンサーの感想をご紹介します。

 (今回)何が言いたいかと言いますと
  好きで始めた野球を、
  青春の間も、続けさせてくれている――、
  環境を整えてくれている両親、家族、
  周りの方々に感謝の気持ちを持って、
  全力で戦ってほしい。
  そして、野球ができる喜びと幸せを感じて
  青春を全うして、
  最後は納得してほしいんです――ということを
  球児のみんなに伝えたかった。
  時間がなくて、そこまで言えなかったけど
  そのメッセージを伝えたい」


八木 「高校野球で
     勝つこともできなければ
     負けることもできない球児も
     中にはいるんだ――、って思ったら
     中学校や高校での
     部活に取り組む姿勢だったり、
    
(野球でたとえるなら)
     一球一球の重さや責任を
     もっと感じながら
     青春時代を過ごせばよかったな
     と思いました」


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 (積み重ねた努力の集大成を披露する舞台があれば)
  良くも悪くも、納得できるやんか。
  その『結果』は受け入れることができるけど
  『結果』を残すことが叶わなかった
  僕らの同級生は結局、社会に出て
  それ
(出場辞退)を乗り越えた自分がいる
  ということをアイデンティティに変え
  すごくたくましくなってる。
  今、会って、
  ご飯とか食べたり、一杯飲んだりすると
  すごく勉強させられることばかり。
  社会の強者になってた。
  自慢できる、頼りになる同級生になってる。

  だから、球児たち!
  勝っても負けても、悔いの残らないように
  全力で、すべて出し切るんですよ。
  エールを送ります」


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 岩本勉投手と阪南大学高校3年生野球部員の
 失われた夏と、卒業後の人生、
 ドラフト指名をめぐる
 当時の日本ハム・スカウトの思惑、 
 プロ野球選手になる夢を支えた家族のことなどについて
 ノンフィクションライター・長谷川晶一氏の
 渾身の取材により、一冊の本にまとめられています。

 『夏を赦す』
  (廣済堂出版/1,600円+税/2013年発売)


 詳しくは廣済堂出版のウェブサイトをご覧ください。

投稿者 文化放送スポーツ部 : 2017年07月05日 18:30