2010年09月13日
そこは笑うところじゃない
話題作【悪人】のとても気になるシーンが一つだけあります。
それは、柄本明さん演じる
“被害者の父親”がとった行動への反応です。
娘を亡き者にされた父が、その張本人の背後から忍び寄り
手に握り締めたスパナで殴りに行こうとするくだりで
クスクスと笑う観客が多く見られました。
僕は観ていてグッときた矢先の出来事です(/_;)
でも、きっとこれが芝居の面白いところなんですよね。
今から10年前、当時の文化放送アナウンサー全員が集まり
ご存知、四十七士の討入りを下敷きにしたコメディー
【忠臣ぐらっちぇ】という時代劇を上演した時のことを思い出しました。
主演・野村邦丸アナが、ヒロイン・藤木千穂アナから
ずっと探していた吉良邸の絵図面(見取り図)を渡される場面。
実は、もう討ち入りなんてどうでもよくなっていて
このまま気のいい酒屋のフリをしながら
安穏と暮らせればいいや・・と思っていた矢先
秘かに想いを寄せている大工の一人娘に
自分の正体がバレてしまいます。
彼女は仲間と力を合わせてついに絵図面を入手しました。
全ては、愛する彼のためです。
「あなたはお侍なんでしょ・・・。これ、持って行って」と
手渡されるシーンは、すなわち、二人の幸せな時間に
突然ピリオドが打たれることを意味します。
「う・・受け取れねぇ!こ・・これだけは受け取れねぇよ!」と狼狽する男。
「何言ってるの!持って行ってよ!」と涙ながらに叫ぶ女。
稽古で目にするたび、僕は胸が熱くなりました。
ところが、本番のこの場面ではあろうことか
ドッカ~ン!と大爆笑が起きたのです(☆▽☆ )
脚本・かわのをとや氏は、事前にこの可能性を指摘していました。
邦丸さんのキャラクターがあるから
こっちはマジメに台本を書いて、その通り演じてもらっても
笑いが起きるかもしれません。
だから戸惑うことなく、自分の思った通りに演って下さい。
そう。感じ方は人それぞれなのです。
柄本明さんも“面白い役者”というイメージが強いせいか
スパナを握って背後からにじり寄る様子が滑稽に見えたから
場内のあちこちで笑い声が聞こえたのでしょう。
そして、僕が全く笑わなかったのは
自分が柄本さんの立場ならおそらく同じようなことをするだろう、と
共感が持てたからだとも思います。
あの場面で仕返しに行く父は、やりすぎなのか、妥当なのか。
妥当と考える僕は、もしかして【悪人】なのでしょうか?
投稿者 斉藤一美 : 2010年09月13日 12:57