2007年10月13日
『渾身』読んで亀田を思う
正々堂々と勝負して負けることは
単に自分の実力が足りないだけで
決して恥ずべきことではないのになぁ、亀田大毅よ!
敗色濃厚の中で繰り出した苦し紛れのレスリング行為は
スポーツマンの風上にも置けません。
最近、そんなのばっかり。ちょっとウンザリ。
特に大相撲はヒドいですよ。
横綱・朝青龍は自業自得の出場停止処分を喰らったうえに
時津風部屋をはじめとした“けいこ中の行きすぎた指導”が
大きな社会問題となっています。
きっと全力で頑張っている力士や関係者の方々もいるはずなのに
これだけマイナスの話題が続くと、大相撲の人気は
再び低迷期に入ってしまいかねません。
僕が小学校に通っていた頃は
ヒマさえあれば同級生と廊下で相撲を取り続けて
押し技・引き技・投げ技・掛け技、差し手争い・がぶり寄り
がっぷり四つから立ち合いの変化まで、全て身につけたものです。
東京の下町で暮らす男としては、ごく当たり前のことでした。
今「国技」である相撲が、危機に直面しています。
そんな折、このスポーツの魅力を存分に引き出した
素晴らしい小説を読み終えたので、紹介させて下さい。
川上健一・著【渾身】。
6年前に発表された『翼はいつまでも』
(中学生の少年を主人公に据えて、野球・初恋・ビートルズを絡めた
青春小説の傑作)のラスト10ページがまだ忘れられない僕にとって
川上さんの新作が出版された、というだけで文句なし、即買いです。
島根県の北に浮かぶ隠岐島は、昔から
お祝い事には必ずと言っていいほど「相撲大会」がついてくる土地柄。
中でも、島の人々が最も力を注ぐのが・・・
20年に一度しか行われない『隠岐古典相撲大会』なのです。
島根県の中でも出雲大社に次ぐ格式を誇る“水若洲神社”の境内で
社殿の屋根の葺き替え工事の完成を祝いながら
神様に真剣勝負を捧げるために
隠岐島の男性達による相撲の取組が、夜を徹して行われます。
ただし、トーナメントではありません。
日ごろの相撲大会の結果を元に番付を決めて
同じ位にある者同士を戦わせます。
言わば、水若洲神社のある地区の力士と
その他の地域からやってきた力士との対抗戦であり
夜も明けて昼過ぎに行われる結びの一番は
「隠岐島住民の最強力士決定戦」なのです。
隠岐古典相撲に“横綱”は存在しません。
昔ながらのスタイルにのっとって最高位は大関。
何せ20年に一度の開催なので、そのときの実力だけでなく
地域住民の推薦が得られたうえで、番付会議にかけられた末の大関は
もちろん、誰でもなれるものではありません。
だからこそ、『隠岐古典相撲大会』の大関対決は
「地区の誇りをかけた一世一代の大勝負」というわけです。
少年時代から相撲一筋・国体でも活躍した
大関・田中敏夫に挑む、坂本英明。
この英明を身守り続ける妻・多美子が【渾身】の主人公です。
そして、物語のキーパーソンは、5才の娘・琴世。
英明は、駆け落ちして親から勘当されてまで
麻里という女性と結ばれました。
古い習わしが残り、平凡であることが好まれる小さな島で
噂はあっという間に広がってしまい、2人は冷たい目で見られます。
それでも、英明と麻里は島を離れませんでした。
この隠岐島をこよなく愛していたからです。
英明は、自分達夫婦のことを少しでも皆に認めてもらおうと
一生懸命相撲を取り始めました。
しかし、娘の琴世が生まれてからすぐ
麻里は病に倒れ、天国へと旅立ちます。
多美子は、麻里の親友です。
何かと世話を焼いてくれる多美子に、琴世はすっかりなつきました。
英明と多美子は惹かれ合い、その後しばらくして、再婚します。
そして地区の住民は、英明の相撲の実力と誠実な人柄を認め
本人達が予想もしなかった“大関”に推薦するのです!
さぁ、その後は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
読んでいるだけで手に汗握る土俵上の攻防が、何と
140ページ以上も続きます( ̄◇ ̄;)
人間は、家族の愛情を背負って生きているものです。
その思いを全て受け止めて【渾身】の力を振り絞った末のストーリーは
まさに圧巻の一言に尽きました。
相撲は、スポーツは、真剣勝負は、こうでなきゃ!と
思わず本を抱きしめたくなる作品です。
亀田一家だって、本当は家族愛の塊ではないでしょうか。
あれだけの結束力を、この小説の世界のような
正しい方向へ向けて欲しい、と僕は心底願っています。
下手こいても開き直ってチャラになるのは、今、世界で小島よしおだけ。
まずは王者・内藤にしっかり謝ることが、出直しのスタートラインでしょ。
投稿者 斉藤一美 : 2007年10月13日 23:55