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2009年06月05日

朗読紙片第5回「氷の舟の行くところ」

朗読紙片第5回「氷の舟の行くところ」

を掲載致します

目で見ながら、もう一度、松井五郎さんの世界を感じてみては

いかがでしょうか・・・


氷の舟の行くところ

空が解く帯のように
オーロラが揺らめくと
あっけなくさらされた
天鵞絨の海

水の記憶を継いで
生まれたことさえ忘れ
いずれ溶ける氷の舟を
沖へ漕ぐ

波に削れる舵の重さは
たぶん命のそれと同じ
海図を開いたところで
どこも海原

なのに羅針盤が示すのは
逸れることのできない航路
大地の匂いを探しながら
北の星に鋲を打つ

何処へ行けと言うのでしょう
何処かはここと変わりないのに
いま来たところへまた向かう
ねじれた旅のくりかえし

いつまで行けと言うのでしょう
いつかは昨日と変わりないのに
果たされぬ運命のその先で
誰もが櫂から手を離す

水面に垂れる
希望の糸を
魚影は巧みに
嘲笑う

飢えた子供の
泣く声に
海鳥がまた
螺旋を描く

何処へ行けと言うのでしょう
何処かはここと変りないのに
いま来たところへまた向かう
ねじれた旅のくりかえし

いつまで行けと言うのでしょう
いつかは昨日と変わりないのに
果たされぬ運命のその先で
誰もが櫂から手を離す

何処へ行けと言うのでしょう
何処かはここと変わりないのに
氷の舟はゆらゆらと
積み荷も持たずゆらゆらと

いつまで行けと言うのでしょう
いつかは昨日と変わりないのに
氷の舟はゆらゆらと
港も知らずゆらゆらと

何処へ行けと言うのでしょう
何処かはここと変わりないのに

いつまで行けと言うのでしょう
いつかは昨日と変わりないのに

何処へ行けと言うのでしょう

いつまで行けと言うのでしょう


投稿者 agqr : 2009年06月05日 11:30

 

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