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2022年07月12日

直木賞候補作② 『夜に星を放つ』

次は窪美澄さんの『夜に星を放つ』です。
連作ではなく、独立した5つの短編がおさめられた一冊。
ただし作品には共通点があって、いずれも星をモチーフにしています。

星をモチーフにしているということは、そこに作者の意図があるはず。
では、その意図はなんでしょうか。

星は一見、光輝いて見えますが、
私たちから見えない側は暗かったりします。
明るい面と暗い面。まるでそれは人間の二面性のようでもあります。

あるいは大気の状態によっては、星がまたたいて見える時があります。
その光の強弱や一瞬のきらめきを、人生になぞらえているのでしょうか。

また、夜空に輝く星は、時に希望にもたとえられます。
傷ついた心に灯る希望の象徴として、星を選んだのでしょうか。

読んでみると、これらはすべて当てはまっていました。

たとえば「真夜中のアボカド」。主人公は30代の独身女性です。
彼女は一卵性双生児の妹を亡くしていて、
妹のかつての同棲相手と月命日ごとに会い、弔いがわりに食事をともにしています。
一方、婚活アプリで出会った男性との微妙な関係に悩んでもいます。
主人公の心の揺れがとても繊細に描かれたこの作品は、
人間の光と影を描いているといえるでしょう。

「真珠星スピカ」は、交通事故で母親を亡くした女子中学生が主人公。
彼女は学校でキツいいじめにあっています。彼女には秘密があります。
亡くなった母親の幽霊がみえるのです。母親の幽霊との奇妙な同居生活は
意外な結末を迎えますが、胸がじんわり温かくなるようなエンディングです。
ここでは星は希望の象徴です。

どの作品も読みやすく、読んでいるとはっとするような言葉に出会ったりもします。
さすがだなぁと思う一方で、直木賞候補作にしては、
いささかこじんまりとし過ぎのようにも感じます。
さて、このあたりを選考委員はどうみるでしょうか。

投稿者 yomehon : 2022年07月12日 09:00