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2022年07月20日
第167回直木賞 芥川賞受賞作決定!
直木賞と芥川賞の受賞作が発表されました。
いやはや今回の予想はかすりもしませんでしたねー。
直木賞は窪美澄さんの『夜に星を放つ』、
芥川賞は高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』が
それぞれ選ばれました。
窪さんの短編集『夜に星を放つ』は、
すべての作品で大切な人との別れが描かれています。
詳しくは各選考委員の選評を見てみないとわかりませんが、
もしかするとコロナ禍の世相も少なからず選考に影響したのかもしれません。
一方、高瀬隼子さんの『おいしいご飯が食べられますように』は、
ほんわかしたタイトルからはおよそ予想できないダークな小説です。
手間をかけておいしいご飯をつくること。
それはとても正しいことのように感じられます。
でも本当にそうでしょうか。
この小説は、「おいしいご飯を食べること」の背後に潜んだ
抑圧や人間の悪意を巧みに描いています。
ごく普通の職場を舞台に、
そして根っからの悪人が出てくるわけでもないのに、
読み心地はえらく不穏なのです。
そのあたりの上手さが評価されたのかもしれません。
どちらの作品も、誰が読んでも楽しめます。
そういうオーソドックスな作品だからこそ、
むしろ受賞はないと予想したのですが、
今回は見事に裏目に出てしまいました。
ともあれ、窪美澄さん、高瀬隼子さんにはお祝い申し上げます。
おめでとうございます!
投稿者 yomehon : 23:26
2022年07月19日
第167回直木賞 受賞作予想
直木賞の受賞作最終予想にまいりましょう。
今回は河﨑秋子さんの『絞め殺しの樹』と
深緑野分さんの『スタッフロール』の一騎打ちではないかと思います。
心を鷲掴みにされるインパクトでは河﨑さん。
創作に携わる人々の情熱に胸を熱くさせられるのは深緑さん。
どちらが受賞してもおかしくありません。
正直、物語の凄みみたいなところでは河﨑さんが一頭地を抜いています。
ただ、河﨑さんは初エントリー。初エントリーで受賞したケースも
過去にはありますが、やっぱり数は少ないです。
河﨑さんについては「次作も見てみたい」という判断に
落ち着くような気がしてなりません。
そんなわけで今回は深緑野分さんの『スタッフロール』を推すことにします。
芥川賞にも触れておきましょう。
今回は候補者がすべて女性ということで話題になりました。
ベテランの物語巧者が揃った直木賞に比べ、
芥川賞には新しい才能に出会える楽しみがあるのですが、
その中でも特に驚かされたのは年森瑛さんの『N/A』です。
主人公は高校2年の女の子。中高一貫の女子校に通っているのですが、
学校では王子様扱いされ、同性の憧れの的になっています。
彼女は体重が40キロほどしかなく、
母親や保健室の先生から拒食症ではないかと心配されています。
でも実は摂食障害などではなく、彼女は生理がくるのが嫌で
やせているのです。ところが周囲は拒食症ではないかと気遣い、
優しい言葉をかけてくる。本人の認識とは著しくギャップがあります。
主人公にしてみればやせているのは個人的な意志によるもの。
これに対して周囲は拒食症にカテゴライズしてくる。
この落差、ギャップが本作を貫くテーマになっています。
主人公には付き合って間もない「うみちゃん」という恋人がいます。
うみちゃんは女性です。これもはたから見ればLGBTQですが、
主人公は「かけがえのない他人」を探し求めているだけで、
相手の性別はどうでもいいのです。ここにもギャップがあります。
マイノリティを前にした時、私たちは相手を気遣い、
やさしく接しようとします。でも、この態度って正しいのでしょうか?
目の前の相手は世間一般からすれば「マイノリティ」という
カテゴリーにあてはまるのかもしれません。
でも「マジョリティ/マイノリティ」という区別をせず、
相手をただの「個人」として接することはできないのでしょうか。
社会的少数者というカテゴライズの是非や、
価値観が異なる相手とどう接していくかというのは、
社会のこれからを考える上で、最先端のテーマです。
優れたクリエイターは、
無意識に現代の最先端のテーマとシンクロするものです。
『N/A』はまさにそうした作品です。
著者が原稿用紙100枚以上の作品を書いたのはこの作品が初めてだとか。
おそるべき才能の登場というほかありません。
芥川賞はこの『N/A』が受賞すると予想します。
投稿者 yomehon : 09:00
2022年07月15日
直木賞候補作⑤ 『スタッフロール』
最後は深緑野分さんの『スタッフロール』です。
ハリウッド映画の制作現場を舞台にした女性の物語。
旧世代と新世代、ふたりの女性を主人公にした作品です。
まず前半は、旧世代のお話。
戦後すぐに生まれたマチルダ・セジウィックは、
幼い頃から映画に魅せられ、やがて特殊造形の世界へと飛び込みます。
特殊メイクをしたりクリーチャーを作ったりする仕事ですね。
マチルダは子供の頃に、父の友人の脚本家ロニーにみせられた
犬の影絵が心に焼き付いています(お馴染みの両手で犬をつくるやつです)。
幼いマチルダにはその影絵は怪物にみえたのです。
このエピソードは本作を貫く鍵となります。
マチルダは同僚と独立し、小さな会社をつくります。
1968年の『2001年宇宙の旅』、1977年の『スター・ウォーズ』、
1979年の『エイリアン』を経て、80年代は特殊造形や特殊効果の
黄金時代となりました。
ところが、時代はCGの時代へと向かっていきます。
ショックを受けたマチルダは、ある注文仕事のクリーチャーを、
自分の心のなかにあった怪物を投影したものにつくりかえ、
そのまま姿を消してしまうのです。
時代はここから2017年へと飛びます。
新世代の主人公は、1987年生まれのヴィヴィアン・メリル。
彼女はロンドンにあるVFXやCGを制作する会社で
アニメーターをしています。
彼女の会社にある日、大きな仕事が舞い込みます。
往年の子供向け映画『レジェンド・オブ・ストレンジャー』を
リメイクするという仕事です。
『レジェンド・オブ・ストレンジャー』には
「X」という名前の怪物が登場するのですが、
これが特殊造形のクリーチャーの傑作とされていて、
たくさんのファンがいました。ヴィヴィアンも子どもの頃に夢中になり、
Xのぬいぐるみを持っているほど。
実はこのXこそが、マチルダが姿を消す直前に手がけた最後の作品だったのです。
マチルダの名前はスタッフロールにものったことがありませんが、
オタクたちが彼女の名前を発掘し、「伝説の造形師」として世に知らしめたのです。
『レジェンド・オブ・ストレンジャー』に関わったのをきっかけに、
ヴィヴィアンは思いもよらないトラブルに巻き込まれます。
そして時を超えて、伝説の造形師マチルダとつながるのでした……。
マチルダとヴィヴィアンは、世代こそ違いますが、とても似ています。
自己評価が低く、職人気質。
自分の作るものに満足できず、いつも自信がない一方、飽くなき向上心を持っています。
読んでいると、この作品はまず、
「技術」についての物語であることがわかります。
ここでいう技術とはテクニックのこと。
映画でも小説でも、想像力をかたちにするためには、技術が必要です。
この「技術を高める」ことの難しさや大切さがしっかり描かれています。
一方で、技術にはテクノロジーの側面もあります。
アナログからデジタルへ。この数十年で世界は大きく転換しました。
本作においてマチルダはアナログを、ヴィヴィアンはデジタルを
代表した存在として描かれます。このふたつは対立するものなのか、
それとも……というのも読みどころのひとつ。
もうひとつ、この小説は、ものを創る人々の連帯も描いています。
情熱をもって創作すること。
その一点で、人は世代を超えて連帯することができる。
マチルダとヴィヴィアンの物語を通じて、
小説家である著者のそんな熱い想いが伝わってきます。
「ものを創ること」をめぐる素晴らしい人間賛歌です。
ひとつ気になったのは、マチルダのパートが
やや駆け足に感じられたことでしょうか。
マッカーシズムやベトナム戦争、各時代を彩った名作映画の数々。
そんなトピックスにあわせて、マチルダのエピソードが
描かれるせいかもしれません。歴史や映画史の知識がある人からすれば、
「ずいぶん時代が飛んだな」と思えるところがあるかもしれませんね。
長い時代を描いているという点では、『絞め殺しの樹』も同様ですが、
あちらは主人公の人生をそれほど歴史的トピックスと結びつけていないので、
時の経過があまり気になりません。
このあたりを選考委員がどうみるか気になります。
投稿者 yomehon : 09:00
2022年07月14日
直木賞候補作④ 『女人入眼』
次は永井紗耶子さんの『女人入眼』にまいりましょう。
タイトルは「にょにんじゅげん」と読みます。
「仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた
国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ」
東大寺の大仏を前に語るのは、天台座主の慈円。
話に耳を傾けているのは、源頼朝と北条政子、その娘の大姫。
そして、物語の主人公・周子です。周子は京の六条殿に仕える女房です。
慈円はここで、国造りの仕上げをするのは、女性ではないかと言っています。
物語の冒頭に置かれたこの慈円の言葉通り、
本作は政(まつりごと)に関わる女たちの物語です。
六条殿の主人は、亡き後白河法皇の皇女の宣陽門院。
その母親である丹後局は、政から宮中の人事に至るまで大きな影響力を持っています。
この丹後局から周子にミッションが下されます。
頼朝と政子の娘・大姫を入内させるという命を受け、鎌倉に下るのです。
入内というのは宮中に入るということ。
そこで帝に見初められ、男児を産めば、
丹後局はますます力を得ることができます。
ただし、そこには当然、カウンター勢力もいて、
帝の乳人を務めてきた卿局は、娘の重子を帝に近づけようとしています。
物語はこうした女性の権力闘争の趣で幕を開けます。
ところが周子が鎌倉に下ってからの話は、雰囲気ががらりと変わります。
大姫は明らかに心を病んでおり、コミュニケーションもままならない。
そもそも入内できるような状態ではなかったのです。にもかかわらず、
入内は大姫のためと信じて疑わない母親の政子は前のめりに事を進めます。
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観ている人はご存知だと思いますが、
大姫にはかつて想いを寄せた人がいました。木曽義仲の息子・義高です。
でも義高は人質の身。義仲を討ち取った後、頼朝は義高も殺してしまいます。
では大姫の病は、この想い人を殺されたショックによるものなのでしょうか。
読んでいくと、大姫の病の理由はそれだけではないことがわかってきます。
母親・政子との関係が大きく影を落としていることが見えてくるのです。
当初、女の権力闘争の物語かと思われたものが後景へと退き、
かわって母と娘の関係の物語が前面に出てきます。
政子は情が濃く、思い込みが強く、すべては娘のためと信じて疑いません。
でもそれは娘の大姫にとってはとてつもない負担なのです。
政子は今の言葉で言えば「毒親」かもしれません。
周子はいつしか自分のミッションも忘れたかのように、
大姫に寄り添うようになるのでした……。
大姫の入内は、「鎌倉幕府最大の失策」とも言われています。
この謎の多い事件を、著者は「わかりあえない母と娘」の物語として描きました。
候補作の中では唯一の時代小説。
独創的な視点で描かれた物語ですが、少し起伏に乏しい印象もあります。
投稿者 yomehon : 09:00
2022年07月13日
直木賞候補作③ 『爆弾』
次は呉勝浩さんの『爆弾』です。
おそらくこの作品は、年末の各種ミステリーランキングでも
1位、2位にランクインするでしょう。それくらい完成度の高いミステリーです。
些細な傷害事件で、ある酔っ払いが野方署に連れられてきます。
酔っ払いは、坊主頭で小太りの中年男。腰が低く、卑屈な笑みを浮かべています。
男は自らを「スズキ タゴサク」だと名乗ります。
いかにも偽名ですが、男は本名だと言い張ります。
見た目も冴えないし、たかが酔っ払いの戯言と見くびる警察ですが、
男は取調べの中で「十時に秋葉原で爆発がある」と言います。
直後に秋葉原で本当に爆発が起こります。
男は「次は一時間後に爆発します」と予告します。
警察は男を止めることができるのか。そもそも男は何者なのか。
限られた時間の中、男と警察との頭脳戦が始まります……。
本作の「スズキ タゴサク」なる人物は、
ミステリーにおける悪役キャラの歴史の中でも
「不気味さ」という点で際立っています。
ニコニコと愛想よくしゃべりながら、目の奥は笑っていない、みたいな。
それでいて、いつの間にか相手をとりこんでいる。実に恐ろしい人物です。
まずこの「スズキ タゴサク」という
類稀なる悪役キャラをつくりあげた点が評価できます。
「動機が不明」というのは、いかにも現代的なテーマでしょう。
ミステリーの歴史の中で、画期的な悪役といえば、
トマス・ハリス『羊たちの沈黙』のレクター博士でしょう。
でも、いかにもおそろしげなレクター博士と比べても、
にこやかに爆弾を起爆させる「スズキ タゴサク」のほうが
よっぽど恐ろしい。
また日本のミステリーで稀代の悪役と言えば、
貴志祐介さんの『悪の教典』の主人公、蓮見聖司が思い浮かびます。
有能な教師の仮面をかぶった大量殺人鬼です。
ただ、蓮見は共感性が欠如しているために
簡単に人を殺せるのだということが、作中でも明かされています。
理由がわかっていると、それほど怖さは感じません。
これと比べると、「スズキ タゴサク」の正体のわからなさは実に不気味。
ミステリー小説なので多くは明かせませんが、
事件について、ある程度読者が納得できる種明かしをしつつ、
しかも不気味さを引っ張るという本作の終わり方も見事だと思います。
選考委員の中でもし議論になるとすれば、
「スズキ タゴサク」の扱いを巡ってではないでしょうか。
ネタバラシを避けるためにもってまわった言い方しかできず
申し訳ないのですが、物語の中心にいた「スズキ タゴサク」が、
ある時点からそうではなくなるところがあります。
それまでの何とも言えない気味の悪さがちょっと薄まるんですね。
このあたりは本作の評価を巡って議論になるのではないでしょうか。
投稿者 yomehon : 09:00
2022年07月12日
直木賞候補作② 『夜に星を放つ』
次は窪美澄さんの『夜に星を放つ』です。
連作ではなく、独立した5つの短編がおさめられた一冊。
ただし作品には共通点があって、いずれも星をモチーフにしています。
星をモチーフにしているということは、そこに作者の意図があるはず。
では、その意図はなんでしょうか。
星は一見、光輝いて見えますが、
私たちから見えない側は暗かったりします。
明るい面と暗い面。まるでそれは人間の二面性のようでもあります。
あるいは大気の状態によっては、星がまたたいて見える時があります。
その光の強弱や一瞬のきらめきを、人生になぞらえているのでしょうか。
また、夜空に輝く星は、時に希望にもたとえられます。
傷ついた心に灯る希望の象徴として、星を選んだのでしょうか。
読んでみると、これらはすべて当てはまっていました。
たとえば「真夜中のアボカド」。主人公は30代の独身女性です。
彼女は一卵性双生児の妹を亡くしていて、
妹のかつての同棲相手と月命日ごとに会い、弔いがわりに食事をともにしています。
一方、婚活アプリで出会った男性との微妙な関係に悩んでもいます。
主人公の心の揺れがとても繊細に描かれたこの作品は、
人間の光と影を描いているといえるでしょう。
「真珠星スピカ」は、交通事故で母親を亡くした女子中学生が主人公。
彼女は学校でキツいいじめにあっています。彼女には秘密があります。
亡くなった母親の幽霊がみえるのです。母親の幽霊との奇妙な同居生活は
意外な結末を迎えますが、胸がじんわり温かくなるようなエンディングです。
ここでは星は希望の象徴です。
どの作品も読みやすく、読んでいるとはっとするような言葉に出会ったりもします。
さすがだなぁと思う一方で、直木賞候補作にしては、
いささかこじんまりとし過ぎのようにも感じます。
さて、このあたりを選考委員はどうみるでしょうか。
投稿者 yomehon : 09:00
2022年07月11日
直木賞候補作① 『絞め殺しの樹』
では河﨑秋子さんの『絞め殺しの樹』からまいりましょう。
いきなり本命候補の登場です。
河﨑さんは今回初ノミネートながら、デビュー以来、着実に力をつけてきた作家です。
もともと北海道のご実家が酪農を営んでいて、河﨑さんご自身もニュージーランドで
緬羊の飼育を学び、実家で羊飼いをしながら小説を書いていました(現在は執筆に専念)。
『颶風の王』で三浦綾子文学賞ほかを受賞し、
『肉弾』で大藪春彦賞、
『土に贖う』で新田次郎文学賞を受賞しています。
作品を発表するたびに大きな文学賞を受賞しています。
なぜ河﨑さんがこれほど評価されるのかといえば、
それは彼女にしか書けない物語を書いているからに他なりません。
では、河﨑さんにしか書けないものとは何か。
一言でいえば、「北の厳しい自然と向き合って生きる人々の物語」です。
今回の『絞め殺しの樹』も、舞台は北海道の根室です。
主人公のミサエは、両親の顔を知らず、根室の元屯田兵の吉岡家に引き取られ、
下働きとして奴隷のようにコキ使われます。昭和10年のお話でミサエは10歳。
現在なら児童労働は大問題になりますが、
この時代にはこうしたことは珍しくなかったのかもしれません。
このミサエが徹底的に苦しい目にあいます。それはもう、これでもかというくらい。
年配の読者の中には、ドラマ『おしん』を思い浮かべる人もいるかもしれません。
そう、まさにあれです。
やがてミサエは、吉岡家に出入りしていた富山の薬売りに助けられ、
札幌の薬問屋で奉公しながら看護を学んだのち、保健婦として根室に戻ることになります。
ようやく人生が明るい方向に開けたかと思いきや、
ミサエの身にまたとてつもない悲劇が降りかかります。ここまでが第一部。
第二部は、時代も現在に近くなり、ミサエの息子の視点で物語が進みます。
ある事情で息子はミサエのことを知りません。ですが、息子の目を通して、
ミサエという人物の本質が浮かび上がって来る仕掛けです。
とても読み応えのある大河小説です。
タイトルを見て「絞め殺しの樹」ってなんだろう、と思った人も多いはず。
実はこれ、シナノキのこと。菩提樹といったほうが日本では一般的かもしれません。
蔓性の植物というのは、なにか他の木に巻きつかないと生きていけません。
他の木にからみついて、養分を吸い、やがてその木を枯れさせてしまいます。
だから別名がシメゴロシノキ。
私たちがイメージする菩提樹には空洞がありますよね。
あれは、巻きつかれた木が枯れてしまったためです。
ミサエはいわばツルに巻きつかれる木でした。
いろんな人がミサエを利用し、騙し、痛めつけます。
でも見方を変えれば、巻きつかれる側の木は、真っ直ぐで強く伸びるからこそ、
ツルも巻きつくことができるわけです。
作中、ある人物がミサエに、
「あなたは、哀れでも可哀想でもないんですよ」と語りかける場面が出てきます。
またお釈迦様が悟りをひらいたのが菩提樹の前だったということも
象徴的なエピソードとして出てきます。人生について深く考えさせられる作品です。
唯一気になったのは、ある時点まで非常に重要な役どころとして出てきた
富山の薬売りの男性が、途中からまったく影が薄くなって、
あるところで亡くなったと説明されるところ。このあたりは、
やや登場人物が物語の駒っぽく扱われていると感じました。
投稿者 yomehon : 15:38
2022年07月09日
第167回 直木賞候補作
第167回直木賞の候補が発表されています。
芥川賞はすべて女性候補だったことが話題になっていますが、
こちらも男性はひとりだけ。女性作家の勢いを感じますね。
河﨑さん、永井さんは初ノミネート。
窪さん、呉さん、深緑さんは3回目となります。
次回から各候補作を詳しくみてきましょう。お楽しみに!
投稿者 yomehon : 07:00