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2022年01月18日

第166回直木賞 受賞作予想

これまで5つの候補作をみてきました。
それでは最終予想とまいりましょう。

今回は時代小説の戦いになると思うのです。
完成度の高い『黒牢城』か、それとも、血湧き肉躍る『塞王の楯』か。

時代小説どうしの同時受賞はおそらくないでしょう。
(同時受賞があるとすれば、玄人好みの『新しい星』ではないかと)
でも、ここは一作にしぼりましょう。

今回は今村翔吾さんの『塞王の楯』が受賞すると予想します。

『黒牢城』は巧緻な物語ですが、少し理が勝っているように思います。
とても面白いのですが、読んでいて感情が揺さぶられることは
『塞王の楯』に比べるとそれほどありませんでした。
本格推理小説の要素もあるため、密室の状況説明などにそれなりに
紙幅を割かねばならず、物語のダイナミクスが削がれるのは仕方ないのですが。

また時代小説として比較した時に、戦いの迫力が圧倒的に
『塞王の楯』のほうが優れています。
そもそも『黒牢城』は小競り合いや局地戦程度の戦いしかありませんし、
西軍の総攻撃を受ける『塞王の楯』とは比較にならないのですが、
『黒牢城』の有岡城も、『塞王の楯』の大津城も、
どちらも籠城しているというシチュエーションは同じです。

同じ籠城という設定でありながら、その視点のベクトルは対照的です。
『黒牢城』の視点は内側(城内で次々に起きる事件)へと向かい、
『塞王の楯』はひたすら外側(敵の攻撃からどう守るか)に向いています。

多少図式的になりますが、内向きの物語と外向きの物語という
わけかたもできるかと思います。
ここから先は個人の嗜好になりますが、ぼくは外向きの物語が好きです。
なぜなら、あまり小説を読み慣れていない読者にも、
ハードルが低いように思えるからです。もっと小説を読んでもらうには、
『塞王の楯』のほうがその力を持っているのではないかと思うのです。

そんなわけで、今回の直木賞の受賞作は『塞王の楯』と予想します。

さて、最後に芥川賞にもちょっと触れておきましょう。
今回は芥川賞のほうもとても面白い候補作が揃っていました。

今回、『Schoolgirl』で初めて名前を知った九段理江さんは
二作目、三作目も読んでみたいと思いましたし、
注目している島口大樹さんの『オン・ザ・プラネット』も良かった。

そんな中で、ぼくは乗代雄介さんの
『皆のあらばしり』が受賞すると予想します。

乗代さんは前回も『旅する練習』で候補になりました
(この時は宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』が受賞)。
受賞はかないませんでしたが、『旅する練習』は、
あらためて振り返っても、コロナ禍をテーマに書かれた
小説の中ではピカイチの傑作でした。
年末の新聞で年間ベストにあげている評者がいましたが、同意します。
乗代さんにはいま勢いがあります。
この波に乗って受賞するのではないでしょうか。

選考委員会は1月19日(水)に行われます。

投稿者 yomehon : 2022年01月18日 05:00