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2017年01月17日
第156回直木賞直前予想(5) 『夜行』
最後の候補作、森見登美彦さんの『夜行』にまいりましょう。
これは現代の怪談ですね。
ホラーではなく、怪談。
学生時代に英会話スクールのメンバー6人で鞍馬の火祭を観にいった帰りに、
そのうちのひとりである長谷川さんという女性が行方不明になります。
十年後にメンバーが再会し、ひょんなことから5人全員が
旅先で岸田道生という銅版画家の手になる「夜行」という連作に出合っていたことが判明します。
尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡……それぞれが体験を打ち明けるうちに、
各人の体験はすべて「夜行」の作品世界と繋がっていることがわかってきます。
そして最後に「私」の物語が語られる中で、さらに不気味なことが起きるのです……。
それぞれの「夜行」との関わりが連作短編形式で語られていくわけですが、
実はこの作品、ストーリーがどうこうという作品ではありません。
というと伝わりづらいかもしれませんが……。
つまり長谷川さんが消えた謎の解明といったストーリはさして重要ではなくて、
それよりもむしろ作品に漂う不気味さ、不穏な雰囲気、その手触りを感じて欲しい作品なのです。
こうした雰囲気や手触りを味わう趣向は、やはり日本の怪談ならではという感じがします。
欧米のホラーなんかだと、「実は多重人格でこうなった」とか
「ひどい育ち方をした結果こうなった」とか、
わりと種明かしをしておしまい、というケースが多いんですが、
これが怪談だと、友だちが路地を曲がった途端、ふいにいなくなってしまうとか、
そういう暗がりにふっと姿が消えてそのままになってしまうような独特の怖さがあります。
本書もそういう怪談特有の論理的ではない怖さというか、
感覚に訴えかけてくる怖さみたいなものがよく描けていると思います。
そしてあまり詳しくは書けないのですが、
最後に「向こう側」(夜の世界)とこちら側をつなぐような仕掛けもあったりして、
不気味なトーンの中にもちょっとした希望や救いも描かれています。
森見さんはとても器用な作家ですが、
こういった怪談も書けるのだということを本書であらためて知らしめてくれました。
連作短編というのはわりと直木賞が好むパターンではありますが、
この手の感覚に訴えるような作品が果たしてどう評価されるでしょうか。
ということで、各候補作をみてまいりました。
受賞作品の予想は、1月19日(木)の『福井謙二グッモニ』
「グッモニ文化部 エンタメいまのうち」のコーナーで行います。
今回の受賞作は「あれ」しかありません!!
お楽しみに!!
投稿者 yomehon : 2017年01月17日 00:00