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2014年11月24日

高倉健の肖像

高倉健さんがお亡くなりになったのには本当にびっくりしました。

その余波はいまもあちこちで目にすることができます。


『高倉健インタビューズ』野地秩嘉(プレジデント社)

投稿者 yomehon : 14:09

2014年11月13日

天職がうらやましい

ときどき「天職」ってなんだろうと考えます。
はたしていまの仕事は、自分にとって天職だろうか、とか。

投稿者 yomehon : 15:34

2014年11月07日

世界が待ち望んだ新作! 『鹿の王』


国際アンデルセン賞といえば、
子どもの本の分野における世界最高の文学賞で、
その選考水準の高さから「小さなノーベル賞」ともいわれています。

この国際アンデルセン賞の2014年の受賞者が上橋菜穂子さん。

『守り人シリーズ』『獣の奏者』のような
優れたファンタジーを生み出してきたことで知られる上橋さんは、
アボリジニの研究を専門とする文化人類学者でもあります。

ある民族の生活様式が
どのような文化的な背景のもとに成り立っているかを探究する学問が専門だけあって、
上橋さんは世界を構築する能力に秀でています。

彼女が作品の中でつくりあげる架空の世界は、
どれも見事なまでに現実社会と地続きのリアリティを感じさせます。

もしファンタジーなんて荒唐無稽なおとぎ話に過ぎないと思っているならば、
ぜひ上橋さんの作品を読んでみてください。

作品の中で、現実には存在しない国や民族の姿を借りて語られているのは、
まぎれもない今を生きるぼくたちの物語であることに気がつくはずですから。

さて、『鹿の王』は、栄えある国際アンデルセン賞受賞後、初めて発表された最新作。


物語はふたりの主人公を中心に展開します。

ひとりは、強大な帝国に抗い、故郷を守るために戦士団を率いて闘ったものの、
奴隷の身となって岩塩鉱に囚われている戦士のヴァン。

ある日、突如岩塩鉱に乱入してきた野犬の群れに襲われ、
奴隷や兵士たちが一夜にして死んでしまうという事件が起きます。

噛まれたもののなぜか回復して生き残ったヴァンは、
死体が累々と重なる中、
同じように生き残った幼女ユナを発見し、ともに脱出します。


もうひとりの主人公ホッサルは、
帝国に仕える医術師の家系に生まれた若き天才医術師。
彼もまた犬たちがもたらしたおそろしい病を目の当たりにし、
その治療法を探していました。


野犬を媒介にした病が拡がることをおそれるホッサルは、
生還者であるヴァンの存在を知り、その行方を追い始めます。

ヴァンはなぜ生き残ったのか。
そしてただの野犬と思われた犬たちの正体は何か。

帝国と周辺国とのあいだに生じる拭い難い憎しみ。
生きとし生けるもののあいだに存在するいのちの仕組み。

愛する者を亡くした人はどう生きていけばいいのか。
人間と自然はどのように共存していけばいいのか――。


主人公たちが病の謎を追うプロセスで読者をぐいぐいと引っ張りながら、
作者はこのような深いテーマを壮大なスケールで語ってみせます。

こんな芸当ができるのは、世界広しといえども上橋さんくらいではないでしょうか。

もちろん読んで絶対に損をしない作品であることは間違いないのですが、
ぼくはそれ以上に、今だからこそこの作品は広く読まれるべきだと声を大にして言いたい。

エボラ出血熱が猛威をふるい、
感染症の問題がにわかにクローズアップされる中、
この作品の主たるモチーフになっているのが、まさに「免疫」の問題だからです。

免疫というのは実に不思議なシステムです。

ひとことで言えば、それは「自己」と「非自己」を区別するシステムということになるでしょう。


故・多田富雄さんの名著『免疫の意味論』(青土社)を開くと、
黒い羽根を持つ奇妙なひよこの写真が目に飛び込んできます。 

この黒い部分は実はウズラのもの。
受精後、3日から4日のニワトリとウズラの卵を使って、
発生途上の胚の神経管の一部を入れ替えてしまうと、
ニワトリとウズラという異なった種の動物組織が
ひとつの個体に共存する「キメラ」がつくられるのです。

ギリシア神話に出てくる
顔と体がライオンで、胴体からヤギの頭や蛇の尾も生えた怪物キメラがこの呼称の由来。
学生時代にこの写真を初めて目にした時のインパクトはいまでも覚えています。


ニワトリとウズラのキメラは、
当初は正常に成長するものの、
やがて全身がマヒ状態になって死んでしまいます。

ニワトリの免疫系が、ウズラ由来の神経細胞を「非自己」の異物と認識し、拒絶したためです。

ところが、神経管を移植する際に、
やがて免疫の中枢をになう臓器「胸腺」になる部分に細工を加えると、
拒絶反応は起こらないのです。

この事実が提起しているのは、
「自己」と「非自己」の線引きは、
いったい何によって決められているのかという大変重要な問題です。

上橋さんもこの不可思議な免疫系に心をとらわれたようで、
あとがきの中で、『破壊する創造者』フランク・ライアン 夏目大・訳(文藝春秋)という本との出会いが、
執筆のきっかけになったことを明かしています。


ウイルスは生物の敵ではなく、
むしろヒトと共生し、その進化を助けてきたのだという、
ウイルスに対する認識が一変させられるきわめて面白い内容が書かれた本なのですが、
このような進化生物学の最先端の理論ですらも、
作者はヴァンの体の変化を通してわかりやすく描いてみせるのです。

いま人類が直面しているウイルスの問題を、
ページをめくる手が止まらなくなるほどの物語に落とし込んでみせる作者の技に脱帽。

ワールドクラスの作家の手になる新作を、この機会にぜひあなたも堪能してください。

投稿者 yomehon : 13:21

2014年11月03日

今年も秋のお楽しみがやってきた!


秋刀魚に松茸、銀杏、栗、新そば、ボジョレー・ヌーヴォー・・・・・・
秋の味覚を挙げていけばキリがありませんが、
本の世界でこの時季ならではの美味といえば、
それはもう、ジェフリー・ディーヴァ―の新作と相場は決まっています。


今年もJ・Dの新作『ゴースト・スナイパー』池田真紀子訳(文藝春秋)が届きました。

四肢麻痺で寝たきりであるにもかかわらず、
犯行現場で採取された微細証拠を手掛かりに
次々に難事件を解決する鑑識捜査の天才、
リンカーン・ライムを主人公としたこの作品、
ライム・シリーズとしては実に10作目にあたります。


物語は1発の凶弾によって幕を開けます。

反米主義を唱える活動家モレノが、バハマのホテルで射殺されました。
信じがたいのはその殺害方法。
モレノの命を奪った弾丸は、
ホテルの部屋から海を隔てて2000メートルも離れた砂嘴から放たれたようなのです。
まるでスティーヴン・ハンター描くところの天才スナイパー、
ボブ・リー・スワガーのような離れ業ではありませんか。


凄腕のスナイパーによる暗殺事件の直後、
ライムのもとを地方検事補ナンス・ローレルが訪れます。

彼女は、モレノの暗殺はアメリカの諜報機関の仕業であること。
またモレノはテロリストなどではなく無実だったという驚くべき情報をもたらすのです。

法廷で彼らを裁くために、ライムと相棒の刑事アメリア・サックスが捜査に乗り出します。

しかし肝心の現場は遠く離れたバハマにあり、証拠の採取もままなりません。

しかも捜査をすすめるうちに、証人たちが次々と消されていき、
やがて暗殺者の魔の手は、ライムやサックスにも及ぶのでした――。

手に汗握る展開、予測を次々に裏切っていく細かいツイストなど、
相変わらずのJ・D節は健在です。

とはいえ、シリーズも10作目。

このようなシリーズものは、読者にいかに飽きられないようにするかがとても難しい。
要するにいかにマンネリを阻止するかという課題が立ちはだかります。


それを打破するために、
本作で作者がとった手法は「あっ!」と驚くものでした。


なんと四肢不自由なライムを、証拠採取のためバハマへと向かわせたのです。

これだけ面白いシリーズであるにもかかわらず、
ライム・シリーズの中でこれまで映画化されたことがあるのは『ボーン・コレクター』のみ。

なぜか映像化とあまり縁がない理由を、ぼくは以前から、
主人公のライムがベッドに横たわりっぱなしだからではないかと考えてきました。
要するに映像に動きがでないからではないか。

からだは動かなくても、
実はライムの頭脳は目まぐるしく回転して推理をしている。

その面白さは、やはり小説でしか描けないのではないかと思っていました。

それがなんということでしょう。

証拠採取のためにカリブ海のリゾート地に出張したばかりか、
現地であわや命を・・・・・・いや、これ以上はやめておきましょう。


ともかく、これまでにないくらいストーリーに動きがあるのです。


もちろん映画化がどうしたこうしたなんて話は二の次で、
作品が小説として面白いかどうかがいちばん大事なことなのですが、
(もちろん面白いに決まっている!!)
本作でライムが自由に動き回るようになったことは、
今後のシリーズ自体の展開や、作品のひろがりに多大な影響をもたらすはずです。

『ソウル・コレクター』でデータ・マイニング社会を取り上げ、
『バーニング・ワイヤー』で電力システムを取り上げるなど、
J・Dはこのところホットな社会問題をテーマにすえるようになっています。

詳しくは書けませんが、
本作でやがて明らかになる真相も、
アメリカ政府が近年いろいろなところで活用している「あるもの」と関係しています。
(それはぼくらもニュースなどでよく見聞きしているものです)


シリーズの新作ごとに、アクチュアルな問題に取り組みつつ、
主人公の設定ですら、いまなお手を加えようとする。

大御所の地位に安住することのない
J・Dの攻めの姿勢にはほんとうに感心してしまいます。


最後に。
本作では「料理」も作品のスパイスのひとつとなっています。

日本製の包丁への並々ならぬ思い入れや
料理についてのかなりの知識をみるにつけ、
ジェフリー・ディーヴァ―は相当な料理上手のよう。

料理好きな方は、
本書を読み終えた後、
作中に登場する料理をJ・Dのレシピでつくってみるのも一興です。


投稿者 yomehon : 12:31