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2014年02月06日

これぞ完璧なスクープ!


ひさしぶりに目にした完璧なスクープでした。

全聾で被爆二世の作曲家として
「現代のベートーベン」の異名をとった佐村河内守氏の作品が、
ことごとくゴーストライターの手になるものだったという事実を暴いた
週刊文春の記事のことです。

ゴーストライターに対して、
時に事実の隠蔽を指示し、
時に真相の秘匿を懇願する佐村河内氏の数々のメールをはじめ、
偽装工作に使われた宅配便の伝票の控えといった物的証拠などなど、
見開き4ページにわたって示された根拠を見る限りでは、
「全聾の作曲家はペテン師だった!」と題されたこの記事は
遺漏のない完璧なスクープといってもいいのではないかと思いました。


それにしてもこれほどのスクープ記事だというのに、
大手新聞各社がことごとく週刊文春を黙殺していたのには呆れました。

週刊文春という名前を出さずに、
あたかも佐村河内さんの代理人である弁護士の発言で
事実が明らかになったかのような書き方をしています。

スクープを抜かれて悔しい気持ちはわかりますが、なんだかなぁ……。

もっともすべての新聞が
昔からこういう姿勢だったわけではなくて、
かつて月刊誌『噂の真相』が
時の東京高検の検事長の女性スキャンダルをスクープした際は、
あの天下の朝日新聞が、
一面トップで「噂の真相」のクレジット付きで後追い記事を載せたことがあります。
(1999年4月9日付朝刊)
このあたりの顛末は西岡研介さんの『スキャンダルを追え!「噂の真相」トップ屋家業』に詳しいので、
ぜひお読みいただきたいのですが、
あれは朝日新聞の英断だったと思います。
おそらく太っ腹な方が当時の上層部にはいたのでしょう。


さて、ぼくが物心ついてから、もっとも完璧なスクープと言えば、
毎日新聞が2000年11月5日付の朝刊で報じた大スクープでしょう。

当時、古い土器を次々に発見しては日本の考古学の歴史を塗り替え、
「神の手」の異名をとっていたF氏の自作自演の発掘劇の証拠写真を押さえ、
「旧石器発掘捏造事件」として報じた歴史的スクープのことです。

なにが凄いって、1面〜3面、25面〜27面のあわせて6頁を使った大きな記事で、
ニセ物の土器を埋めて、周囲を気にしながらあたかも自分が発見したかのように
掘り出すまでの一連の動きを押さえた連続写真をはじめとして、
事件の背景から今後の考古学への打撃にいたるまで、
隅から隅まで目の行き届いた内容は、
あの『田中金脈の研究』を書いた立花隆さんをして
「日本ジャーナリズム史に残るような完璧なスクープ」と言わしめたほどでした。

この大スクープが生まれるまでの経緯は、
毎日新聞旧石器遺跡取材班の『発掘捏造』『旧石器発掘捏造のすべて』で読むことができます。
ぜひお手にとって調査報道の持つ力を実感してください。

今回、佐村河内さんの事件があって、ひさしぶりに上記の本を読み返してみましたが、
当時もF氏が発掘した偽造石器の数々を「奇跡」と賞賛して、
「神の手の持ち主」などと持ち上げていたことに愕然としました。
自分自身も含め、いかに人間が過ちを繰り返す動物かということを痛感しました。

最後に補足を。
週刊文春のスクープの立役者となった神山典士さんは、
目の付け所が独特なノンフィクション作品を書く方です。
ぼくのおススメは、日本に本格フレンチを伝えたサリー・ワイル氏の生涯を追いながら、
日本のフレンチ業界やホテル業界を描いた『初代総料理長サリー・ワイル』(講談社)。
こちらも古書マーケットで探して読む価値有りです。


投稿者 yomehon : 2014年02月06日 19:19