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2014年01月30日

「第3の万能細胞」の衝撃!


いやー驚きました!!

理化学研究所とハーバード大などの国際研究チームが、
まったく新しい手法で「万能細胞」を作成することに成功したというニュースです。

ここ数年、科学の世界では大発見が相次いでいますね。

山中伸弥教授がiPS細胞を生み出した時にも、
「生きているうちにこんな世紀の大発見に出会えるとは」と感動したものですが、
その後、ヒッグス粒子発見の報に接してふたたび腰を抜かし、
さすがにもうしばらく驚くことはないだろうとタカをくくっていたら、今回の慶事です。


しかも研究チームの代表が、まだ30歳の女性だと知って二度びっくり!

ふと気がついたのですが、
このところ個人的に注目している人物を思い浮かべてみると、
ミュージシャンでは大森靖子さん、コラムニストではジェーン・スーさん、
アーティストではスプツニ子!・・・etc、というように、そのことごとくが女性です。
男はなにやってんだろう、ホントに。


ともあれ、いまもっとも面白いのは科学のジャンルかもしれませんね。


万能細胞というのは、さまざまな組織や臓器などに変化する細胞のこと。
その代表的なものは「受精卵」です。

ぼくたちのからだは受精卵が分かれてできたもの。
ヒトのからだは60兆個の細胞からできていますが、
そのおおもとはたったひとつの小さな小さな受精卵。
不思議なことに、あんな小さな卵から、
ぼくたちの目や足や髪の毛や爪などが生まれてくるのです。

ただ、ここでひとつ難問がありました。

受精卵からいったん何かになったものは、二度ともとに戻れなかったのです。

たとえば卵から親指になったものを、ふたたび卵の段階に戻すことはできない。

”もとに戻す”ことを「初期化」、
”もとに戻せませんよ”という性質を、「不可逆性」といいます。


もし体細胞を初期化し、不可逆性の壁を破ることができれば、
何らかの疾患を抱えた臓器を、新たにつくった健康な臓器と取り換えたりできるかもしれない。
しかもそれは自分の細胞をもとにつくられるものだから、拒否反応の心配もありません。

このような理由から、万能細胞の実用化に世界中の熱い視線が注がれてきたわけです。

人類が初めて万能細胞を手に入れたのは1981年のこと。
ただ「ES細胞」と呼ばれるこの万能細胞は、受精卵そのものをいじってつくるもので、
人間への応用は倫理的な問題をはらんでいました。


ここに颯爽と登場したのが、2006年にiPS細胞を発表した山中教授でした。
素人考えかもしれませんが、山中教授のオリジナリティーは、

「受精卵をつかわずに細胞の初期化ができないものか」

と考えたことにあるのではないかと思います。
問いの立て方が素晴らしかったというか。

iPS細胞は、受精卵ではなく体細胞を使うという点が画期的でしたが、
遺伝子をいじるなどのプロセスが必要で、効率的に作製ができないなどの難点がある他、
細胞が「がん化」する危険性なども指摘されていました。


今回、小保方晴子さんが発見した「STAP細胞」の作製方法はきわめて簡単です。

マウスから取り出したリンパ球(白血球の一種)を、
弱酸性溶液に25分間浸して、その後培養をするというもの。
すると数日後には、万能細胞ができあがるというのです。

酸性液に浸して、外から刺激を与えることで細胞を初期化するという、これまでにない発想。


小保方さんは記者会見で、
「なぜ細胞に外から刺激を刺激を与えてみようと思いついたのか」と問われて、

「からだの細胞から幹細胞を取り出す操作をしているときに、
これは幹細胞を『取り出している』のではなく、操作(刺激)することによって
幹細胞が『できている』のではないかと思うようになった」

といったようなことをおっしゃっていました。
彼女も山中教授と同様、問いの立て方が素晴らしかったのですね。


さて、今回の快挙が本としてまとまるまでには少し時間が必要でしょう。

それまではこんな本を読んで、予習につとめてみてはいかがでしょうか。

万能細胞の基本的なことについてわかりやすくコンパクトにまとまっているのは、
『生命の未来を変えた男』NHKスペシャル取材班編著(文藝春秋)でしょう。
書評はこちら

もっと手軽に知りたいという方は、
毎日新聞の名物科学記者・元村有希子さんの『気になる科学』(毎日新聞社)がおススメ。
山中教授のギャグセンスをネタにしつつ、
iPS細胞のキモの部分をさらりとまとめてみせたコラムはお見事。
書評はこちら


今回の大発見は、科学誌ネイチャーの巻頭論文として掲載されましたが、
ネイチャーやサイエンスといった超一流科学誌が
どのように論文審査しているかがわかるのが、 『論文捏造』村松秀(中公新書ラクレ)です。
(書評はこちら


一方、眩いばかりのスポットライトを浴びている小保方晴子さんに目を転じるとすれば、
科学者の大先輩・米沢富美子さんの自伝『二人で紡いだ物語』(中公文庫)はいかがでしょう。

三人の娘を育てながら、物理学者として世界的な業績(アモルファス研究)を打ち立てた
米沢さんの人生には、常に彼女を励ます夫の存在があったのですね。

愛する夫の死までが描かれた感動的な内容ですが、
家庭をもった女性が第一線で活躍するのがいかに大変かということもよくわかる一冊です。


また小保方さんをみて思わず、我が子の教育に思いを馳せてしまった方には、
『理系の子 高校生科学オリンピックの青春』ジュディ・ダットン(文藝春秋)を。

科学に魅せられた子どもたちを追いかけたすこぶる面白いノンフィクションです。

この本には、石炭ストーブが原因の喘息に苦しむ小さな妹のために、
太陽光エネルギーを使った暖房装置を開発した少年や、
自閉症を持ついとこのために、画期的な教育プログラムを開発した少女などが出てきます。

子どもって本当に純粋な想いから好きなことに没頭したりするものなんですね。
科学の分野で頭角を現した子どもたちの物語を読んでいると、
科学ってこんなにも面白いものなのか!と感動すること間違いなしです。


 

投稿者 yomehon : 2014年01月30日 12:22