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2013年07月15日
第149回直木賞直前予想!
梅雨が明けたらやってくるのが直木賞!
でも今年は連日の猛暑で、候補作を読むのもなんだか一苦労でした。
さっそく今回のラインナップを見てみましょう。
実力派がずらりと揃っていますね。
長編は恩田さんのみで、その他は短編集になります。
ジャンルでみると、時代小説は伊東さんのみ、SF小説は宮内さんのみで、
さらに本屋大賞受賞者が2人(恩田さんと湊さん)もいるのも目を引きます。
さぁ、では各候補作の検討に入る前に、
今回の直前予想のキーワードをあげておきましょう。
それは、「いつやるか?今でしょう!」。
言わずと知れた林修先生が生み出した流行語ですが、
今回の直木賞レースにはまさにこのキャッチフレーズがピッタリなのです。
なぜこのキーワードなのか説明する前に、
今回惜しくも受賞できない(と思われる)作品について触れておきましょう。
桜木紫乃さんの『ホテルローヤル』は、釧路湿原を背景に建つラブホテルを舞台に、
哀しくも滑稽な男女の性の営みが描かれた短編集。
まず冒頭に、廃墟となったホテルを舞台にした小説が置かれ、
そこから時間が遡っていくという凝った構成。
これまで北海道を舞台にした小説を書いてきた作者の
新境地ともいえる作品集ではありますが、
直木賞にはもう少しという感じがいたします。
ただ着実に直木賞に近づいている作家ですから今後も要注目です。
原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』は、
マティスやピカソ、ドガ、モネらの作品を
題材に紡ぎだされた美しい4編がおさめられた一冊。
前作『楽園のカンヴァス』で、
アートと小説を融合させた「読む美術館」とでも呼ぶべきジャンルを生み出した
作者らしい作品ではありますが、いかんせん前作のインパクトが大きすぎました。
ちょうど一年前の直木賞予想で『楽園のカンヴァス』を強く推した者としては、
本作での受賞はちょっとないんじゃないかなと思わざるを得ません。
でもこの美術小説の路線は作者が掘り当てた鉱脈だと思います。
これからもこの方向を突き詰めていただきたいですね。
宮内悠介さんの『ヨハネスブルグの天使たち』は、
なんと言ったらいいんだろう、直木賞はとらないだろうけど、
世界に通用する才能ということで言うならば、
この人の右に出る人はいないという感じでしょうか……。
いきなり直木賞候補となったデビュー作『盤上の夜』は、
囲碁や将棋といったボードゲームを題材に、
緻密な論理と奔放なイマジネーションが奇跡的に融合した傑作で、
「大変な才能が現れた」と興奮したものです。
(この作品で第33回日本SF大賞を受賞。そりゃ受賞するでしょうね)
2009年に早逝された伊藤計劃さんという作家がいます。
『虐殺器官』や『ハーモニー』といった世界レベルの傑作を世に送り出した後、
デビュー2年ほどであっという間にぼくたちの前から去っていった天才作家ですが、
宮内さんは間違いなく伊藤さんのような世界を唸らせる才能を持った作家です。
『ヨハネスブルグの天使たち』では、
民族紛争がいろいろな角度から描かれますが、
そこにいつも日本製の機械人形がモチーフとして出てきます。
この機械人形、どうやら初音ミクのようなボーカロイドが
実体化されたものといったイメージのようなんですが、
血と硝煙の臭いがする民族紛争というリアルな題材と、
作品ごとに現れる少女型機械人形の幻想的なイメージとが相まって、
宮内ワールドとでも形容するしかない唯一無二の作品世界をつくりあげています。
まったく恐れ入った腕前というしかありません。
それほどまでの才能なら、直木賞をとってもいいようなものですが、
なぜ受賞はないかといえば、それは選考委員がこの小説を理解できないから(笑)。
中には9・11を題材にした作品のように(「ロワーサイドの幽霊たち」)、
理屈のほうが勝ってしまい、内容がわかりづらくなってしまった作品もありますが、
そういう個々の作品の完成度の差を云々する以前に、SFは直木賞では不利なんです。
さて、以上3作品は残念ながら外すとすると、残るは3作品。
それが今回のキーワード、
「いつやるか?今でしょう!」に関わってくるというわけです。
まず、伊東潤さん。
これまでもたびたび候補にあがってきた方です。
戦国時代を題材に選ぶことが多かったのですが、今回の『巨鯨の海』は、
古式捕鯨で栄えた和歌山の太地を舞台に、そこで雄雄しく生きる海の男たちの
江戸時代から明治までの姿を描いています。
「鬼気迫る」という言葉がありますが、
鯨と人間との命がけの戦いや、漁師たちの厳しい掟などを容赦なく描いていて、
まさに作品全体にただならぬ緊張感を漲らせた作者渾身の作に仕上がっています。
これまでさんざん候補にあげられていますし、
さすがに今回は「今でしょう!」と言えるタイミングなのではないか。
「今でしょう!」といえば、恩田陸さんもそう。
もはやエンターテイメント小説の世界に揺ぎ無い地位を築いている作家です。
『夜の底は柔らかな幻』は、
高知をモデルにしたと思しき架空の土地「途鎖県」を舞台に、
「在色者」と呼ばれる超能力者の戦いが描かれます。
恩田作品の特徴は、必ず先行作品へのオマージュがベースにあることですが、
今回も『闇の奥』とか『AKIRA』といった名作が下敷きになっているようです。
ラストなんかまさに『AKIRA』(超能力が暴走して世界が壊れる)なんですが、
そこに至るまでの伏線の回収や謎解きなどは一切なしで、
いわばなし崩し的に大団円がやってくる感じです。
この「宙ぶらりん」なところは、
選考委員からのツッコミが大いに予想される部分でしょうね。
さて、残るは、湊かなえさんです。
『望郷』は、瀬戸内に浮かぶ小さな島を舞台にした連作短編集。
描かれるのは、島という閉鎖空間に閉じ込められて煮詰まった人間関係です。
人のちょっとした悪意などを描かせたら天下一品の湊さんらしい作品集。
この人もいつ直木賞をとってもおかしくありません。
このいずれも「今でしょう!」というキーワードが
ぴったりな3人の中から、いったい誰が受賞するのでしょうか。
さらに踏み込んで考えるために、次は「直木賞のセオリー」を援用してみましょう。
「直木賞のセオリー」というのは、
これまで直木賞の予想をしてきた中で得た経験則のようなものです。
まずはこちら。
直木賞のセオリーその① 「時代小説はやっぱり強い!」
そうなんです。直木賞は時代小説が大好きなんですよね。
それで言うなら、今回は伊東潤さんが有力。
でも、もうひとつ無視できないセオリーがあります。
直木賞のセオリーその② 「文藝春秋の候補作はやっぱり強い!」
これもそうなんですね。
文学賞は興業の一種ですから、商売ベースで考えれば、
実質的な興業元の文藝春秋から出ている作品はやっぱり無視できない。
今回、恩田さんと湊さんという、
エンタメ界の2トップを候補に送り込んできているところに、
「絶対に受賞作を出す」という文春の並々ならぬ意気込みを感じてしまうのは
僕だけではないでしょう。
というわけで、以上2つのセオリーを考え合わせて、
当ブログが予想する受賞作は・・・・・・、まず伊東潤さんの『巨鯨の海』は当確!!
そしてもう一作は……やはり文藝春秋ものが入ると思うんですよね。
前回受賞はありませんでしたし、今回はそろそろ、という流れはあると思うんです。
となると、恩田さんか、それとも湊さんかですが、
ぼくは恩田さんがさすがにこのあたりでとるのではないかと思います。
選考委員だって、あれだけ綻びがありながらも最後までぐいぐい読ませる
恩田さんの筆力には脱帽しているはずなんです。
というわけで、第149回直木賞の当ブログの予想は、
伊東潤さん『巨鯨の海』と
恩田陸さん『夜の底は柔らかな幻』のダブル受賞です!!
投稿者 yomehon : 2013年07月15日 20:29