« 運は努力で支配できるか | メイン |  第137回直木賞直前予想!(後編) »

2007年07月12日

第137回直木賞直前予想!(前編)


文学賞というのは、主催する出版社にとっても読者にとっても一大イベントです。
それが伝統ある文学賞ともなればなおのこと。
受賞作が何かということに誰もが無関心ではいられず、
ああでもない、こうでもないと、選考会が開かれる前から受賞作予想に夢中になるのです。

楽しみ方はそれだけではありません。
イベント前の楽しみが受賞作を予想することだとすれば、イベント後、つまり受賞作が決定してからは
「選考委員の選評を読む」という大きな楽しみが待っています。

選考委員がその作品をどのように読み解き、どう評価したか。
素人には真似できない深い読み方を示してくれることもあれば、
その一方で素人にもわかるような誤った読み方をすることもあったりするので
選評のチェックはやめられません。


ところで、いまいちばん「読ませる選評」を書く人は誰かと問われたならば、
ぼくは真っ先に浅田次郎さんの名を挙げます。

先日発表された第20回山本周五郎賞の選評では、なんと候補作を建築物にたとえ、
建物探訪のかたちをとった選評を披露してくれました。(『小説新潮』7月号)

今回、山本周五郎賞に選ばれたのは、浅田氏の言葉を借りて紹介すると
関西出身の新進デザイナー・森見登美彦氏の設計による瀟洒な館『夜は短し歩けよ乙女』と、
今日最も悩ましい建築家、恩田陸氏が設計した鬱蒼たる森の中に佇む洋館『中庭の出来事』でした。

浅田さんはこのふたりの作品を、まさに建築物のごとく論じています。
でありながら、ちゃんと作品批評にもなっているのですから、その芸の腕前たるや相当なものです。

浅田さんのように芸で唸らせる選評を書く人もいれば、誠実に候補作を読み解き、高い見識でもって
作品を評価するオーソドックスな選評が持ち味の人もいます。

その代表が北村薫さんです。

北村さんの選評はそのまま、小説の読み方の教科書としても使えます。
まるで優秀な先生の授業を受けているように(事実、北村さんは長いこと埼玉県立春日部高等学校の
国語教諭だったわけですが)小説の読み方がわかる選評となっているのです。

ところで今回、北村さんの選評の冒頭はこんな書き出しになっています。

『夜は短し歩けよ乙女』を推す。
 これはもう、一段階、完全に抜けていて、どれかひとつとなったら論をまたない、という思いであった」

このように北村さんは『夜は短し歩けよ乙女』を絶賛しているのでした。


このとき誰が北村さんの運命を予想できたでしょうか。

山本周五郎賞というわが国を代表する文学賞の選考委員を務める北村薫さんが、
自らが絶賛した森見登美彦氏と並んで直木賞の一候補者となるだなんて!!


そうなのです。
第137回直木賞はなんだかわけのわからないことになっているのです!

ちなみに候補作は以下の通り。

北村薫   『玻璃の天』(文藝春秋)

桜庭一樹  『赤朽葉家の伝説』(東京創元社)

畠中恵   『まんまこと』(文藝春秋)

万城目学  『鹿男あをによし』(幻冬舎)

松井今朝子 『吉原手引草』(幻冬舎)

三田完   『俳風三麗花』(文藝春秋)

森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)


う~ん・・・・・・みればみるほどわけがわからない。
山本周五郎賞の選考委員とその受賞者が直木賞の候補に名を連ねているなんて。
なんだかエラそーだぞ直木賞!

というわけで、受賞作予想は次回。
迷走必至の(?)直木賞受賞レースを読み解きます!!

投稿者 yomehon : 2007年07月12日 10:00