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2007年02月05日
本のタイトル大賞決定!?
はやいもので、このあいだ年が明けたかと思えばもう2月。
同じくはやいもので、このあいだ年が明けたかと思ったらもう
2007年を通してもっとも秀逸なタイトルの一冊におくられる
「本のタイトル大賞」が決定したのであります!?
おめでとうございます、内田春菊さん!
あなたのお書きになった『作家は編集者と寝るべきか』(草思社)が、
(今年これから出版されるはずの)並みいる強豪をおさえて、
栄えある大賞に選ばれました。
もちろん年が明けて受章までの最短記録のオマケつき!
とかなんとか、思わずそんな賞でもさしあげたくなるくらい
この本のタイトルは書店で目につきました。
いいタイトルですよねー。
「作家は編集者と寝るべきか」
インパクトがあるのはもちろんですが、
なにより本の中にはいったいどんなことが書かれているのだろうと思わせます。
しかも作者は内田春菊、内容は彼女が語る創作現場の裏側だというのですから
書棚を素通りするわけがありません。
珍しくヨメに花束でも買って帰ろうかと(ウソ)握り締めていた1200円を
迷うことなく本代に投入したのでした。
さて、内田春菊さんといえば、みなさんはどんなイメージを持っているのでしょう?
内田さんはこれまで「体験を書いているだけ」と言われ続けてきたそうです。
「この件に関してはいい加減に言われ続けて世をすねてしまっている私だ。
いくらなんでもそんなねじまげ方までして体験と思いたいもんですか?
と思った経験が山のようにある。結局私にお話が書けるってのを認めたくないんだな」(15ページ)
たしかにそうだ。
育ての義父に性的虐待を受けた地獄のような日々を描いた
自伝的小説『ファザーファッカー』のイメージが強いせいでしょうか。
内田さんは世間からは体験をネタにして作品を書くと思われているふしがある。
しかもその体験というのはセックスがらみのことだと思われているふしがある。
何人もの男と寝てその体験をネタに漫画や小説を書く女、というふうに。
なかには内田さんに対してご丁寧に
「セックスシーンを書かないでやってみたらもっと認められますよ」
などと失礼極まりない忠告する人もいるらしい。
内田作品のなかでセックスがおおきな位置を占めていることは事実です。
けれど、作品をちゃんと読めば、彼女がセックスをものすごく冷静にみていることに
気がつくはず。セックスという営みのなかに見え隠れする男のずるさやセコさを
醒めた視線で描き出すのが内田春菊という作家なのです。
(ちなみにぼくが最高傑作だと思うのは『私たちは繁殖している』シリーズです)
さてさて、そんな優れた作家である内田春菊さんが書く「創作論」とは
いったいいかなるものなのでしょうか。
ところがこの本、創作論を期待して読み始めると肩すかしを喰らいます。
読めども読めども、出てくるのは内田さんがこれまでの作家生活のなかで
体験してきたことや日々感じている不満といったエピソードばかり。
それでもぐいぐいと読まされてしまうのは、
出てくるエピソードがどこまでも具体的で、個別的なものだからでしょう。
この本の面白さは、誰かのブログを読んで感じる面白さに近いかもしれません。
内田春菊その人に興味があるならば、とても楽しめる本となっています。
もしほんとうに創作に役立つ情報を得たいという人には、
同じ草思社から出ている『書きあぐねている人のための小説入門』がおすすめ。
保坂和志さんが書いたこの本は、
テクニックだけでは小説は書けないということを説いた小説論の大名著です。
一方、ひたすらテクニックの伝授に徹した小説指南本としては
『島田荘司のミステリー教室』(南雲堂 SSkノベルス)がおすすめ。
原稿用紙の正しい使い方から本格トリックの作り方まで、懇切丁寧に教えてくれる一冊です。
投稿者 yomehon : 2007年02月05日 10:00