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2006年08月16日
永田町の名言
我が家はいちおう夫婦共働き。
でも、なぜか稼ぎはすべてヨメが管理しています。
「それはおかしい。財布は別にしよう」とたびたび提案しているのですが、
「あんたにお金の管理をまかせると全部遣ってしまうからダメ!」だといいます。
「ではせめて貯金の額を明らかにせよ」と迫っても、
「そんなものは知らなくていい!」とにべもありません。
そんなわけで、ぼくはいま我が家にいくらお金があるか知りません。
いいのだろうか、こんなことで。
いいわけがないだろう、こんなことでは。
そう考えて、「我が家のバランスシートを明らかにせよ!」と要求しているだけなのに
ヨメは頑として拒むのです。
どうもヨメには世間並みの常識というものがまったく通じないらしい。
世間の常識が通じないといえば、
ヨメ以外に思い浮かぶのが「永田町」。
たとえば永田町にはこんな言葉があるそうです。
「政治家の約束は紙に書いたら破れる」
すごいですねー。
世間ではふつう、紙に書いたら証拠になる、と考えます。
でも永田町ではそうではない。逆なのです。
ちなみにこの言葉は、先頃お亡くなりになった橋本龍太郎氏のもの。
ある人物を幹事長にすると一筆書いてくれと頼まれた橋本さん、
こう答えたそうです。
「政治家の約束は紙に書いたら破れるよ。口約束というのは破りようがないが、
紙はピーッと破いたらおしまいだからね」
『永田町の回転ずしはなぜ二度回らないのか』(小学館)は、
政治家の名言や永田町に伝わる格言をあつめた一冊。
著者は、90年代を通じてさまざまな新党の事務局長を務め
「新党請負人」の異名をとった、政治評論家の伊藤惇夫さんです。
内閣改造を目前に控えたある時、伊藤さんは知り合いの代議士と話をしていました。
ふだんは穏やかで、永田町人士には珍しく欲望とは無縁にみえた代議士が、
いつもと違いそわそわとしています。
「やっぱり大臣になりたいんですか」
幾分、皮肉をこめた伊藤さんの問いに、代議士は恥ずかしそうにこう呟いたそうです。
「昔からいうじゃないか、
『永田町の回転ずしは一度取り損なったら二度と回ってこない』って」
心のなかで「なるほど!」と膝を打った伊藤さんは、
それ以来、「永田町の名言・格言」の収集家となりました。
そのコレクションの一端をまとめたのがこの本、
『永田町の回転ずしはなぜ回らないのか』というわけです。
ぱらぱらと眺めていて思うのは、
いかにも名言然とした言葉が意外に面白くないことです。
たとえば、
「10年先を思う者は木を植える。100年先を思う者は人を植える」
後藤田正晴氏の言葉です。
なんか経営者あたりにウケそうな言葉ですが、
明らかにこれ、ご本人は名言っぽさを意識して口にしていると思います。
披露宴などで何日も前から準備された挨拶みたいな
練りに練った感じがあって、ぼくにはあまりグッときません。
むしろ深い味わいがあるのは政治家がふともらした言葉です。
「一瞬が意味あるときもあるが、10年が何の意味を持たないこともある」
この言葉の主は大平正芳氏。
1978年(昭和53年)、福田赳夫氏と自民党総裁選を争って勝利した直後に
側近にもらした言葉だそうです。
この時の総裁選は圧倒的に「福田有利」といわれていました。
しかし福田氏に怨念を抱いていた田中角栄氏の号令のもとに田中派が動き、
形勢が一気に逆転したのです。
政治は時として予測不可能なほどのダイナミズムをみせる。
そのダイナミズムの前では努力など意味をなさないこともある。
コツコツと努力するタイプだった大平氏の述懐だけに重みがあります。
このほかにも
「人間は間だよ」(田中角栄)
「政策に上下なし、酒席に上下あり」(渡辺美智雄)
「尻尾が犬を振る」(渡辺恒三)
などユニークな言葉がたくさん出てきますが、
実はこの本のなかでいちばん面白いのは
「詠み人知らず」の格言ではないかと思います。
たとえば・・・・
「受けた恩は仇で返せ。かけた恩は一生忘れるな」
政治家とだけは友達になれそうもありません。
投稿者 yomehon : 2006年08月16日 10:00