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2006年04月20日
いまこの雑誌が面白い!
月にどれくらい雑誌を読むかはわかりませんが、ともかく節操もなくあらゆる種類を読みます。
産経の『正論』を読めば岩波の『世界』だって読みますし、『婦人画報』も読めば『サイゾー』も読みます。
左右両陣営からハイカルチャーからサブカルチャーにいたるまで、
まったく脈絡もなく手当たり次第に読んでいるわけですが、
でもそのほとんどは単に読むことが習慣化している、つまり惰性で読んでいるものがほとんどです。
最新号が出るのをいまかいまかと待ち焦がれる雑誌というのはそうそうありません。
そんな貴重な雑誌の最新号が書店に並びました。
『酒とつまみ』という雑誌をご存知でしょうか?
これまで不定期に8号が発刊されています。
表紙をみると「心は季刊」と書いてありますから、季刊で出そうという意気込みだけはあるようですが、
なにしろ飲ん兵衛が作っている雑誌、だらしなく忘れた頃に新しい号が出るという案配です(表紙には
「のんべえだもの」とも書いてある。まったく・・・)。
というわけで最新号をみてみましょう。
巻頭特集は「立ち飲み」。
最近、立ち飲みが流行っていることは皆さんご存知のとおり(特に恵比寿なんてスゴイですよね。なんであんなに立ち飲み需要があるんだろう)。
『酒とつまみ』が立ち飲みを取り上げないわけがありません。
ところがみると、これがなんと「いろんな姿勢で立ち飲みしてみる」という企画!
片足立ち、両足つま先立ち、空気椅子などいろんな姿勢で立ち飲みしてみて、その時間を計るという
脱力企画です。いちおう4人の男女でデータをとっているのですが、特に傾向があるわけでもなく、
読んでも何の役にも立たない!
「もう少しマシな企画はないのか」とみるとありました!
3人の男が6軒の立ち飲み屋をはしごして最短タイムを競い合う「F1浅草橋・秋葉原グランプリ」。
これはまともそうだ。
でもよくみると、F1は「ふぇべれけ・ワン」という意味だし、
3人の出場者は「ミハエル・酎マッハ」「イカ・吐ッキネン」「アイル豚・センマイ」だし、
実況は「古舘いいちこ」だし、もう読む前からグズグズの企画だということが見え見え。
案の定、3人は文句をいい、酔っ払い、あげく気分が悪くなったりして、レースの態をなしていない。
このようにたいへんにくだらないことを毎回真剣にやってくれるのが『酒とつまみ』なのです。
特に秀逸だと思うのは「酒場盗み聞き」という連載。
飲み屋でえんえんと続く酔客の不毛な会話を誌上採録したもので、
最新号では「三鷹駅南口某居酒屋」で草野球の仲間らしい男性3人の会話を盗み聞きしています。
また編集部で著名人のもとに押しかけ、いっしょに酒を飲むというインタビュー企画も秀逸です。
今回は井筒和幸監督が被害にあっているのですが、若かりし頃の大阪での酒のみ話には
笑いと涙があって、監督の映画のテイストそのままです。
このほかにも、古本屋と居酒屋を切り口に町を取り上げる「古本屋発、居酒屋行き」、
バーテンダーが語る人間模様「バーテンダー・酒を語る」などなど、たいへん充実した内容です。
なぜこれほどまでに『酒とつまみ』の最新号が待ち遠しいのか考えてみたのですが、それはこの雑誌がユーモアにあふれているからだと思います。
読んでもほとんど役に立たない。
でも楽しい。
それはたぶん、くだらないことを真剣にやっているからです。
言葉を換えれば遊んでいるということ。
だいいち版元の名前からして「酒とつまみ社(仮)」です。
8号も出しておいて(仮)ですよ?
また酒のみの雑誌らしく、カウンターで肩寄せ合うような仲間意識が誌面に漂っていることも
見逃せません(共犯意識といってもいいかもしれない)。
発行人がエッセーを書いていて、その内容が「40歳を過ぎているのに酔ってションベンをもらしてしまう」という極めて情けないものであっても、この雑誌の読者はけっして眉をひそめたりしないでしょう。
肩を叩いて大笑いするか同情して涙ぐんであげるかどちらかです。
『酒とつまみ』はこんな素敵な雑誌です。
書店でみつけたらみなさんもぜひ手にとってみてください。
最後に、せっかくならうまい酒を飲もうということで、こんな本をご紹介しておきます。
『愛と情熱の日本酒 魂をゆさぶる造り酒屋たち』山同敦子(ダイヤモンド社)。
誰が言い出したのかわかりませんが、相も変わらず「酒は辛口がいい」などと言っている人は、
ぜひこの本で紹介されている日本酒を飲んでみて欲しい。
日本酒は米から造られます。
であるならば、米のうまみが感じられる酒こそいい酒ではないでしょうか。
根拠のない辛口信仰なんか捨てて、もっと「うま口」の酒を飲みましょう。
この本は現在の日本酒造りの最前線をレポートしたものであると同時に、
世界にも誇れるレベルの日本酒のガイドブックでもあります。
最近は焼酎よりも日本酒が面白くなってきています。
遠からずまた日本酒ブームがくるでしょう。
投稿者 yomehon : 2006年04月20日 11:09